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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
74/154

『西の霊湖』




なんなんだ


なんなんだこいつは!?


たった、たった一人で俺達を全員倒しただと!?


あり得ないあり得ないあり得ない!!


これまでこんなに上手くいっていたんだ!!


今日も何も変わらないはずだったのに


いつものように旅人を襲い、金品や食料を略奪するだけだったのに


ジータ兄弟もやられた


みんなやられた


なんでこんな事に・・・っ!!



「うあああああ!!」


「相手に恐怖を与えぬ雄叫びなど意味がない。自身を奮い立たせるにしては少し俺への恐れが強いな。だからこうして単調に正面から突っ込んでくる」



剣を振り上げた


剣を振り下ろした



「恐れを抱く相手に勝てるものか」



一条さんがギュッと千尋ちゃんを抱きしめた






 「さてと、この丘を越えれば見えるはずだ」



そんな道中のハプニングがあったのも忘れるような光景が広がった


雨はあがり、今一行は西の霊湖イレータ湖へと到着しようとしていた



「おー、すごっ!まぁ琵琶湖ほどは無いけど、でかいわー」


「海?」


「ちがうよ千尋ちゃん。これは湖。まぁおっきな水たまりだよ」



丘の上から見下ろすそこには巨大な湖が広がっていた


一つの巨大な湖の周囲にはいくつかの町が点在してる



「ここがとりあえず最初の目的地、イレータ湖だ」



そう言ってカイさんも丘の上からその巨大な湖を見下ろした


ここで成すべき事はマナを溜めた神獣に会い、マナの実りを起こす事


その為にはまず神獣に会わないと行けない


それが終われば本来の目的地、北のシーグリシアへと向かわなければならい



「にしても疲れたー。足パンパンだよー」


「それもそうだな。慣れてない者には少し辛かったかもしれんな。下へ降りて少し町で休憩するか」


「賛成~」



トボトボと疲れたアピールをしながら一条さんは丘を下る


その後ろに千尋ちゃんがついていく


ちなみに千尋ちゃんはしばらく俺が背負って歩いていたためまだまだ元気である


その分俺の疲労はピークに達していたが



「カイさん、水取ってくれます?」


「ん?あぁ」



ぶっ倒れた俺の頭にカイさんは水袋を投げた


獣の皮で作られた袋に入った水をゴクゴクと飲む俺



「ついでに食料の調達とかもしないとな」


「あー、ですね」



食料もほぼ尽きかけている


というのも雨やら丘の崖崩れなどで迂回路を通った為に余分な時間と食料を使ってしまったせいである


余分に持ってきていなければここまでたどり着けなかったかも知れない



「ほら、もうひと踏ん張りだ。立て」


「へーい。っと、そういえば先に来てるんですよね、一角天馬は?」


「様をつけろ様を」


「・・・一角天馬様はもう来ているんですよね?」



カイさんは以前の一角天馬の神子だったせいもあってか様付けを強要してくる


というか神様みたいな存在で崇められているんだからまぁそれが当たり前なのかも知れないんだけどどうもそういう実感が湧かないな


見るからに普通の動物じゃないんだけれども目上の存在として動物を見れないんだろうか俺は?


元々飼っている動物をペットや家族といった表現をするのが元の世界だったが、其処までしか動物の地位は上がらなかった


すくなくとも日本ではだが


保護する動物だったとしても崇めるまでのことはしなかった


だからだろう。目上の存在として様付けをするのに若干の抵抗があるのは



「そのはずだが。先に虹魚に会いに行くと言ったっきりだからな」



ただその様付けも自分の神獣のみに適用されるようで虹魚の事は完全に呼び捨てである


まだ時間はあったと思うがどうも一角天馬が嫌な予感がすると言ってきたのである


神獣は別の神獣が納める地では能力の行使が十分に出来ないために何かあったときのために同じ神子である俺たちを呼んだそうな


カイさんは確かに元神子で十分強いけど俺たちはそうでも無いとおもうんだけどなぁと呟くと


「そろそろ自覚したほうが良いよ」なんて言われてしまった


そんな一角天馬は心配だからと俺たちよりも先にイレータ湖へと向かったのであるが


嫌な予感がすると言っていたがどうなんだろうか?


全然そんな予感は俺はしないんだが



「そのうち合流できるだろ」


「楽観的ですねぇ」


「それ以外にどうしろと?」


「まぁそうなんですけどさー」



とりあえず神獣すらどうやって見つけるかだよなぁ



「遅いぞ二人ともー」



遠くの方から一条さんの声が聞こえる


気がつけば遙か下方で手を振る一条さんと千尋ちゃんがいた



「今行きますよー」



そよ風が一条さんと千尋ちゃんの髪を撫でているように見える


とりあえず俺も腹が減って早く休みたいので二人に向かって走り出す


丘を駆け下りる俺をよそに、カイさんはゆっくりと後ろを歩いて下る


仮面の下の表情は曇っていた



「マナが・・・感じられない・・・」



カイがそう呟き丘を下る


俺も嫌な予感がしてきた





 イレータ湖をめぐって三つの国は最近まで争っていたようだが結果として三つの国に平等な国境がひかれた


これだけ巨大な湖は珍しく、内陸であるにも関わらず大がかりな漁業が出来るというためもあり町の様子は殆ど港町のような感じである


ただ磯の香りを感じないのはそれが海じゃないせいだろう


大通りには様々な店があり、市場のようになっていた


湖でとれた魚や貝が所狭しと並んでいる



「これがイレータ湖・・・」



少し道を外れ、裏通りに入るとすぐに湖へと出た


上から見るときよりも広く感じる


湖にはいくつもの船が出ており、その上で働く漁師さんの姿も遠目に見える



「・・・・・」


「どうかしたんですかカイさん?」



ふと横を見ると湖を眺めるカイさんがいた


眺めているだけでは別段不思議なことではないのだが、身じろぎ一つせずじっと一点を眺めているカイさんにどうしたのだろうと声をかけた



「いや・・・後で話す」


「はぁ・・・」



何だったのだろうと思うが具体的な返答は帰ってこなかった


後でとは恐らく一条さんたちと合流したらだろう


一条さんと千尋ちゃんは少し観光してから宿で合流すると言って別行動をしている


確かにここには魚介類だけではなく、いろいろなお土産などの店も沢山あった


おそらくアクセサリーとかそのへんのものを見て回っているんだろう


今日はとりあえず疲れたので宿で一休みし、次の日から湖の調査基神獣探しをする予定である


というわけで俺も適当に食べ物屋で簡単に魚巻きなる謎の料理と魚介類焼き飯を買って宿へと戻る


とりあえず夕食までの腹の足しにするつもりだったが結構美味しかったので魚巻きをもう一度買いに行った


見た目は魚に謎の肉を巻いて焼いてあるだけなのになんだこの旨さは!?と少し前まで感動していたのである


帽子と財布を片手に宿を飛び出した



「またお前さんか」


「あはは、予想以上に美味しかったんでおかわりをもらいに・・・」



店の店主はつるっとした頭にこれまたありがちな捻り鉢巻きをしており、網の上で焼く魚焼きをひっくり返した


名前だけならただの焼き魚なのに肉は何処に行ったのかと言いたくなる料理だ


焼き上がったものをいくつか手にとって店主はタレの入った壺にそれを入れる


あぁ、美味そう・・・



「あ、魚焼き四つお願いします」


「あいよ。四つな。持てるか兄ちゃん?」


「あー・・・うん、たぶん」



たぶん片手に二つ持てば持てるはずだ。たぶん


どうやって持とうか考えている間に魚焼きが二つできたようだった


それを網の横にずらし、残りの二つを仕上げに入る店主



「兄ちゃんも今度の試作火花大輪を見に来たのか?」


「へ?試作火花大輪?何ですかそれ?」



突如店主に話しかけられて目を丸くする


なんだそれは?試作火花大輪?



「知らねーのか。この町に火薬師が居るんだがそこの弟子がなんか面白いもんを作ったみたいでな。まだ未完成らしいんだがその実験を時々湖で行ってるんだ」


「へぇ。火薬師・・・ねぇ」



おっと、先にお金を出しておかないと両手が塞がってしまう


俺は慌てて財布を取り出し銅貨を探す



「それが何というかこれまた奇妙な実験でな。湖の上で何度も火薬を爆発させてんだよ」


「火薬を爆発?湖で?何でそんなことを?」


「さぁな。とりあえず完成したら絶対に名物になるってんで言うもんだから町長もそれを許可してな。十日に一度くらいの割合で実験を見られるんだが、最近その実験目当てに集まる奴らもいてな。兄ちゃんもそのくちかと思ってな」


「ははぁ。目的は違うんですけど、何しているのかは気になりますね」


「だろ?っと、ほら、できたぜ」


「あ、ありがとうございます。ちょっと旅の仲間にお土産をと思いましてね」


「だと思ったよ。美味かったと言っても一人で食うには多いと思ったぜ」



代金を渡し、その空いた手で受け取る


香ばしい匂いとタレの匂いが昼食を済ませたばかりの胃袋に隙間を作ろうとしているのがわかる



「ま、旅人さんにはよく分からないかもしれないが、興味があったら夜に湖を眺めている事を進めるぜ。予想じゃ今日か明日の夜だな」


「ありがとうございます。あ、とっても美味しかったですよこれ!」


「毎度あり、今後も御贔屓に~」



火薬師と夜の湖


火薬を爆発させる


それらをつなぎ合わせれば自然と一つの事を思い浮かべる


そして試作火花大輪という名前からして恐らくそれはあれだろう


花火だ


だが残念ながらその夜はその花火と思われる実験は行われなかった



 そして翌日、四人は宿を出て湖へと向かった


湖は相変わらず穏やかでこれなら調査もやりやすいとカイが呟いていた


そういえばなんだかこの湖を見たときからなんだか違和感がある


明らかに周りと違うような雰囲気を感じるのだがそれが何なのかはまだ分からない



「にしても綺麗な湖」


「それに大きいし」


「辺にはいくつも貴族の別荘が建ってる。私有地に入らないように気をつけろよ」



そう言われて湖を見渡してみた


所々別荘のような建物がいくつか見えた



「気をつけときますね」


「了解でっす!」



隣でカイさんの注意事項を聞く一条さんは何故か敬礼している



「テンション高くないですか?」


「そうー?」


「そうですよ」



間違いなくテンション高い



「まぁ気にしない気にしない!いつもの事だしね~。ほら、虹魚とやらを探そうかー」



気にしますって


特に自分が何かをしたわけでもないし、された訳でも無いんだけれども・・・


彩輝は前方を行く一条のテンションの高さにも疑問を抱いた



「・・・・・」



いや、確かにいつもテンションは高いけれどもこれ程目に見えるわざとらしいテンションの上げ方に不信感を抱く


心当たりは無い


いや、一つあるか。普段と違う事が少し前に・・・



「一条さん・・・」



俺もあまり思い出したいものじゃ無いが


頭に浮かんだそれを必死に掻き消すとすぐ横に広がる広大な湖を見つめた


ここにいる神獣は何処にいるんだろうか


それに一角天馬の言っていた嫌な予感というのも引っかかる


千尋ちゃんも何も感じていないようだし、気のせいだろうか



「む?」



ピタリと立ち止まったカイ


同じように残りの三人の足も止まる


カイは湖の上空を眺めていた


同じように残りの三人の目もそちらを向く



「あ、一角天馬だ」






彼らとは対岸にて



 「おぉ、来たぞ来たぞ。やっと姿を見せた」


「・・・反応は昨日もあった」


「おいコラ、分かってたなら言えってんだよ!。にしても本当に来たな・・・外れてくれた方が嬉しかったんだけどなぁ」



暗いなと思いつつも僅かな隙間から外を覗いていると警告通り別の神獣、一角天馬が現れた


一角天馬の守護する地では無いために力の殆どは制限されるがそれでも神獣を相手にするのは厳しいだろうと思っている


ゼロは少し前に南を攻めさせたようだったがその襲撃は失敗だったようだ


だが話しによればそれは後回しにするそうでこちらが本命なんだとか



「失敗したら怒るだろうなぁゼロの奴。別にそれはそれで面白そうだけど、まぁこっちも面白そうだしな」


「・・・降りる」


「ん、本当だ」



謎の機械を眺めるゴをよそに、自分の目でしっかりと一角天馬の降下を眺める


全てが純白に包まれている一角天馬の翼もまた白


ゆっくりと降下する一角天馬はそっと水面に降り立った



「水の上に立ってるのか?」



翼は使っていないように見える


どうやって水面に立っているのだろうかとテンが考えているとゴが手に持っていた機械を操作している音が聞こえてくる



「何やってんだお前?」


「・・・・・」


「チッ、お前のことはよくわかんねぇよ俺は」



髪をボサボサと掻きながらテンは一角天馬に向き直る


訳の分からない奴は無視だ


使いからは一角天馬が現れたら去るまで手出しを禁じられている


元々こちらからの手出しはしていないため攻撃は(・・・)できない


逆に言えば手を出してしまった相手が反撃できない状態にあればいいだけである


仲間にも気がつかれず衰弱していく様を想像するとテンは不思議と自然に笑みがこぼれた



「どうするよ?お前じゃこの結界を壊せねぇぜ」





 「んむむむ、応答無し返答無し・・・。益々怪しいなぁ。それに周囲のマナがこの湖に集まっているのも気になるんだよなぁ。一日たっても変化無しだし、これはどうしたものかな」



途方に暮れる一角天馬はため息をついて再び上昇した


何やってんのさ虹魚。このままじゃこの地が持たないよ。君の守護する場所だろう


湖は穏やかに一角天馬の影をうつしている



「久しぶりに会いに来たっていうのにさ」



スウッとその姿は空へと消えた



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