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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『雨宿り』





「ねぇ、何この書簡?」



一人の少女が手渡された小さな紙をピラピラと揺らして男に聞く


男は祭壇に座っている少女の前で静かに立っている


正装で黒いスーツのようにも見える服を着ているその男は主である少女に今朝届いた手紙だと伝える



「今朝ねぇ・・・あれも暇なのかしらねぇ。話し合いがしたいなんて・・・年老いたらやっぱり人と話がしたくなったりするのかしら?」


「どうでしょう?そうかもしれませんね」



そんな事を聞かれても自分は別に年寄りでは無いので分かるはずもないが、主には無難に返しておく


主は足を組んでその手紙を床へと放る



「全く、あれも最年長だからって調子に乗ってるわね。経験は豊富でも、逆に言えばそれだけだものね。そのうち私たちを傘下に加えて自分の手駒にしようとしているのかもしれないわね」



確かに最近のあの方の動きが活発になっていると聞いている


なんでも宝玉を集めているのだとか


理由は分からないが、今更我々を集めて何をしようというのか?



「全く、老いすぎてご自慢の知識も忘れていってるんじゃないかしら。反吐が出るわ。下手に出てればどうなるか教えてあげようかしら?ねぇアクリア?」



そう言ってグラスに注がれたワインを飲む


真っ赤なワインは徐々にその小さな口へと吸い込まれていく



「失礼ですが我が主、どのようなご返答をするのかお聞かせして頂いてもよろしいでしょうか?」


「ぷは・・・やはり格別だなぁこの味は。返答か。そうだな、あえて誘いに乗ってみるか。偶には外へ出て羽を伸ばさねばな」



主はそう言って立ちあがる


恐らく返事を書くのだろう



「自慢の羽も衰えよう」



黒い翼が大きく二度羽ばたいた







 「ん、何か用?」



部屋の奥に籠もっている一人の男が居た


それに近づき、使いから受け取った書簡を渡す



「ん、何?これ?」


「手紙です」


「いや、それは分かるよ。差出人は?」


「ゼロ・・・だそうです」


「あー、あの老いぼれ爺か」



彼は興味が出たのかクルリと椅子を回転させてこちらへとその笑みを向ける


目を細めてニッコリと笑った彼は手紙を受け取る


奥の机の上にはなにやら不気味な装置がいつものように乱雑に置かれており、蒸気の音やカタカタと歯車が廻る音が聞こえてくる


この人が発明を中断してまで話を聞いてくれるとは思わなかった


いつもなら研究に没頭して話なんて全く聞いてくれないって言うのに



「へーぇ、珍しい事すると思ったら、そういう事」



主が不敵な笑みを浮かべながら書簡を読み進める


何が書いてあるのだろうか?



「あぁ、いや、なんだかあの老いぼれが会議をしたいっていうんだよ」


「会議、ですか?」


「そう。会議という名の下の吸鬼の王宣言でもする気なんだろうね」


「我々の王?」


「馬鹿馬鹿しいよねぇ、老いぼれのくせに何考えてるんだか」



そう言って書簡を手渡された


その内容を読んでみる事にした



「人間への宣戦布告?なんですかこの内容?」


「ね、馬鹿馬鹿しいでしょ?」



なんて事を書いてあるんだこれ・・・


仮にこんな事をしたとしても・・・



「馬鹿馬鹿しいですね」


「大凡そのために吸鬼を集めて軍隊でも作る気なんだよ。あの老いぼれは。んで自分がリーダーにでもなろうって魂胆なんだよ。今更こんな事して何になるってんだか。こっちは静かに過ごしてるって時に。場所を教えたのが不味かったなぁ。引っ越ししようかな。・・・・何その意外そうな顔?」



自分はそんな顔をしていただろうか


いや、まぁ確かに意外ではあったのだが



「あ、いえ。主なら実験材料が増える事ですし実戦で使ってみたいとか言うかと思いまして」


「あー、まぁ確かにそういう利点はあるのか。んでもさ、仲間を犠牲にしてまで戦争しようとは思わないんだよねぇ」


「ありがとうございます」



咄嗟にそう言ってお辞儀をする


やはり我らの主は只一人、あなた様だけである



「やだねー、当たり前じゃないかー。まぁ個人的にこの会議には参加してみようとは思うんだ。もちろん戦争には反対だよ?一応不参加の意とかは実際にあって伝えようと思うし、偶には息抜きで普段会わない彼らと話をしてみたいっていうのは有るんだよ。僕にこの書簡が届いているってことは恐らく十中八九レミニアにも届いてると思うしね」


「レミニア様ですか」



今では数を減らした吸鬼は人から身を隠して日々を過ごしている


大戦後に残った吸鬼は3つのグループに分かれ、それぞれ別の場所で生きている


その内の一つが此処であり、もう二つの長の一人がこの書簡を送ってきたゼロである


そして最後のグループの長がレミニアである


最年少ながら、吸鬼の中でもかなりの実力を持つ天才だという話を耳にしている


実際の実力を見たことは無いが、火のないところに噂はたたない


子供だろう、とゼロ様も大して警戒している様子がなく、先代の長の子であり、それを形だけで継いでいるだけでそんな実力は無いと思っているようである


そんなのは力関係のバランスで調和を保つだけのただの噂だと主張しているのだと言っているが本当の所はどうんおだろうか



「レミニアにも一度会ってみたいと思ってたんだ。ルシェナールの娘がどんな子か見てみたいっていうのもあるからね」


「日取りは・・・そう遠く無いですね」


「そうそう。楽しみだなぁ。やっぱりそっくりなのかなぁルシェナールに」



主はそう言ってクルリと椅子を回転させて机へと向き直る


背中から生えた黒い翼が嬉しそうにパタパタと羽ばたいているのを見て今日の主の機嫌はそれなりに良さそうだなと判断して部屋を出た









 「あーあ、こんなところで足止めか」


「雨とはついていない」



現在俺たちは小さな洞窟で雨宿りをしている


というのも出発から3日目、アルデリアの国境を越え現在地は巨大なルーア平原と呼ばれる巨大な平原の大きな丘にできた崖伝いの道を進んでいる


平原に何故崖が存在するのか少々分かりかねるが平原という名ではあるが大小の丘がそこかしこにあり、その割れ目や崩れた場所などが平原での道の代わりになっている


それって平原っていうのだろうか?


ただその方が方向感覚を失わずに進めるのである


その中でもいくつか有名でよく使われる場所の一つを通っている


するとあれよあれよという間に雲行きが怪しくなったということで偶然見つけた小さな横穴に入って雨宿りをすることにしたのである


横穴には全員が入る余裕があり、そこにまだ荷馬車なども入るほど大きなものであった


恐らく誰かが作った雨避けの横穴だというのがカイさんの見解である


自分たちのような旅人や商業者が通りかかったときに休めるスペースとして誰かが作ったのだろうと言っていた


確かに納得できるほどのスペースがあり、誰かが使った焚き火の後などが残っていることからそう遠くないうちに誰かが使ったのだと思った



「っちゃー、本降りになってきたねー」



大粒の雨が大きな音を立てて落ちる様を眺める一条さんは胡座をかいて地面に座っている


汚れるのを気にしない堂々とした座りっぷりだ



「もうしばらくはここに厄介になりそうですね~」



そう言って荷物を降ろす俺の横でカイさんは横穴の奥から少しばかり薪を拾ってきていた



「誰かの置きみやげだ。ありがたく使わせて貰おう」



なんでこんな所に薪が置いてあるのかとも思ったが、どうやら前に使った人達が残していってくれたようだ


カイさん曰く、こういう時は新しいものをこうしておいていくのが一種のマナーのようなものらしい


次に使う人の事も考えての事だろう



「とはいえ俺たちが新しく此処に足すことはできんだろうな。穴の外のは全部雨で湿気ってるからな。まぁそう長居することも無いだろうし奥にはまだまだ沢山ある。少しだけ使わせて貰うとしよう」



そう言って薪を並べ始めたカイさん


でも火はどうするんだろう?マッチとか無いよなぁこの世界


なんて思っているとカイさんが俺を手招きした



「火、つけてくれ」



あ、なるほどね


火のマナが無くとも此処には立派に魔力のタンクが居ました


といってもどうやってつけようか


火の玉とか出してみようか



「せいっ!うおぁ!?」



手のひらに炎を浮かべるようなイメージを浮かべた


グッとあふれ出した炎が天まで届こうかという火柱を作り出す



「バカ!火力を押さえろ!」


「あ、あぶねー・・・」



危うく髪を焦がすところだった。危ない危ない


火柱はすぐに小さくなり、小さな火の渦を作った


手の上で渦を作るその火にカイさんが薪を近づけ火をつける


ボッと火を消して冷や汗を拭き取る



「よし、これでしばらくは大丈夫か。ついでにそろそろ昼時だ。飯にでもするか」


「あ、賛成ー!」


「・・・いつの間に俺の後ろに立ってたんですか?」



突如現れた一条さんに驚きつつもカイは苦笑いをしながら鞄からいくつかの袋を取り出す



「あ、これってこの前の?」


「あぁ。ラルーの肉だ」



蔦の紐を解き、包んでいる大きな葉を広げると其処には乾燥しかけている肉が出てきた


これは旅に出た日の午後、小さな森でカイさんが仕留めた獲物である


お腹が一杯になることは無いが空腹はしのげる


思いの外肉が軟らかく美味であったのは意外であった


ラルーは小さな兎のような生き物であったのを覚えている


一条さんがウルウルとした目で解体していたのも覚えている


そのラルーの肉を割った薪の棒に刺して地面に突き刺し火で焼き始めるカイさん


その手際には熟練されたものを感じ、いつもこうやって毎日旅をしていたのだと思わされる



「うひゃぁー!」



その一言に全員が洞穴の入り口を見つめた


そこには一人の男が立っていた


と思うとその後から数人の男達と一台の荷馬車が入ってきた



「お・・っと、先着様か」



どうやら行商人のようで数人武装しているようにも見える


おそらく彼らはギルドなのだなぁと思う


真っ先にギルド『赤銅の剣』を思い出した


その後すぐに今回一緒に同行しなかったツキの顔を思い浮かべた


そういえばあのときに出会ったんだっけ、俺とツキ


今回はしばらく行商を中断して祖父と過ごすのだということでアルデリアに留まるらしかった



「悪いが俺等も雨宿りさせてくれ」


「あぁ。別に構わない。別に俺たちの横穴という訳でもないからな」



カイさんは行商人らしき人達のリーダーと何か話をしていた



「お、良い臭いするじゃねぇか」


「やらねーよ」



一条さんは自分の肉を男達から守るように遠ざけていた


っていうか初対面で年上に向かってその口調はいいのか?



「はっはっは、嬢ちゃん別に心配いらねーよ。俺たちは自分のがあるからさ」


「カビにくくて硬いだけのパンだけどなー」



そう良いながら男達も荷馬車から食料を積み出し始めた



「何処からだ?」


「あぁ、イリーユからファンダーヌへ向かう途中でね。いやはや雨宿りできて助かったよ。丁度昼時だしね」


「この先魔獣のほうはどうだった?」


「あぁ、聞いてたほどでは無いが、チラチラとワイバーンの痕跡があったのが気になった程度だ」


「そうか・・・では普段通りということか。まぁマナの実りもあった事だしその点ではピリピリしているわけではないのか」



カイさんはこの先の状況などを聞いているようで熱心だなぁと思う


まぁこの中ではリーダー的な存在でみんなの安否も彼にかかっているようなものだ


なにせこれまではまともな旅をしたことが無かったからな


大抵俺は荷馬車に乗ってたし・・・


と、そろそろ良い感じに火が通ったかな?


ラルーの肉が良い匂いを横穴一杯に充満させ始めた頃になるとカイさんも焚き火の近くへと戻ってきた


カイさんは肉を取って俺に耳打ちした



「気をつけておけ。刀をいつでも抜ける程度にな」


「―――!?」


「シッ、静かにしていろ。残りの二人には今から知らせる。もしもの時は二人を連れてここから離れろ」



え・・・、なに?どういうこと?


気をつけろって、この人達が怪しいということ?それとも魔獣に警戒しろってこと?


いや、それなら俺たちだけにこんな事を囁くはずがない


カイさんは一条さんにそれを伝える


千尋ちゃんへは一条さんが何とか誤魔化しつつ説明するつもりらしくカイさんは一条さんに説明すると立ちあがって肉を頬張った


俺も何かあってからでは遅いといつもより早く肉を飲み込んだ


だがしばらく警戒するも何事も起こらず食事をして眠くなったのか、千尋ちゃんは雨音を子守歌に眠りについてしまった


少し雨は収まってきたがもう少しは降り続きそうな気がした


そんな事を思った時だった



「さて、そろそろ芝居は止めるか」


「だな。ガキばっかりだし、もういいだろう」



カイさんの読み通り・・・と言ったところか


まさかとは思っていたが、本当にこの人達がと思うと信じられないという気になっていただろう


カイさんに忠告されるまでは、だが



「できそうな男が一人いるがまぁ問題無いだろう。魔術も使えないらしいし」


「もー我慢できねー」



一人が荷馬車から一本の剣を引き抜いた


最初に入ってきた男だ


残りの何人かは武装しており、ギルドだと思っていたのだがそれはどうやら違うようである


ギルドと思わせる。行商人だと思わせるためのカモフラージュでもあり、武器の帯刀をしていても不自然だと思われない為でもあったのだろう


なるほど。わざわざ隠す必要も無いと



「やっぱり、な」


「へぇ、気がついていたんだ仮面のお兄さん」



やはり最初に入ってきた男がリーダー格なのか、話を進めるのは彼の役目のようだ


剣を鞘から抜きながら男がニヤリと笑った



「何処から気がついていた?」


「不自然では無かった・・・が、人が立ち寄る場所というのは固定しづらいが固定されている場所ならばそこは格好の狩り場になる。そしてその獲物が罠に掛かったことを知らせるための、焚き火の煙」


「まさかそれだけで?」


「警戒するには十分と判断、がこの雨では休まざるを得ない。其処にお前達が通りかかった。珍しい事ではないが、警戒は必要だ。もう少し判断材料としてあげるとすればお前達の防具、あまりに綺麗すぎる。とてもイリーユから来たとは思えないほど綺麗すぎた」


「へー、凄い凄い、たったそれだけの情報でずっと警戒してたの?計画早めてもよかったなぁこりゃ。無駄な時間を過ごしちゃったよ」



男とカイが話を続ける間、俺は千尋ちゃんを抱える一条さんと男達との間に割ってはいる


目の前に立つカイさんは腰の剣に手を伸ばすがそれは今は只の剣


絶対なる切れ味を誇る聖天下十剣ではない


それを除いたとしてもかなりの実力者であることは分かっているのだが、人数があまりに違いすぎる


カイさん一人で十人もの賊を相手にできるのだろうか?



「ってーことで、悪いけど死んじゃって」


「悪いがそうもいかない」


「へぇ、一人で守ろうってーの?人数差と戦力差は見ての通りだよ?何処からその根拠が出るわけ?」


「なぜなら」


「なぜなら?」


「俺たちがお前達よりも強いからだ」


「は?っぐぁ!?」



男の脳天にカイさんの蹴りが決まっていた


リーダー格と思わしき男は一人だけ防具を身につけていない


雨のカーテンを抜けて男は泥の地面を転がっていった


あっけにとられていた男達が一斉に襲いかかってきた


とりあえずカイさん強いし俺は後ろの二人を守ることに集中しよう


とか思っている間に武装した男たち二人が壁にめり込んだ


すげぇカイさん



「こんなものか?」



そう良いながら振り下ろされた剣を右手で掴んだ


あんなに早いのを避けるでもなく、素手で受け止めるとは


その異常な行動に斬りかかってきた男が驚いて動きを止めた


カイは腕から冷気を放出して剣と手を氷で固めると思いっきり引っ張って男から剣を奪い取る


そして氷を腕力で砕くと落ちる剣を左手で掴んだと思うとクルリと逆手に持ち替え男の脳に強烈な打撃を与える


崩れ落ちた男は泡を吹いて倒れた


これでおよそ半分ほどが戦闘不能になった



「なかなかやる旅人じゃないか。これ程の相手には滅多にお目にかかれないぞ弟よ」


「そうだな兄よ。ここは我々のコンビネーションを見せてやろうではないか」



二人の男が剣を構える


どうやら兄弟のようで顔も両者どこか同じ面構えをしている


二対一だけどカイさんは大丈夫だろうか



「数は実力の次に優先されるものだ」



一筋の閃光が煌めいた















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