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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
三章 ~虹の波紋~
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『まずは西へ』





この湖には神が住んでいる


虹の鱗を纏い、天女のように美しいその姿は人間は神と崇めた


その神と呼ばれた生き物は羽衣を水に靡かせる

 

その息はあらゆる生物に活気を与え、泳いだ後には浄化された水が道のように水面に浮き上がるという


その生き物は虹魚と呼ばれ、この世界に存在する9つの神獣の一つとなる



あぁ、暗い


暗い


暗い


暗い


出られない


時間が無い


閉じこめられた


気泡がユラユラと真っ暗な空間に現れては消える


ゴボゴボと音を立てる


まるで焦るかのようにその気泡が現れては消える


神は囚われた






第三章  虹の波紋





「ほぉ、それでその剣をお前が持っていると・・・」


「えぇ、まぁそんな感じの成り行きで。まぁ片手でも扱えるくらい軽いってのには驚きましたけどね。流石風の剣」


「にしても、剣が人を選ぶか・・・。聞いたこと無いな。私の蒼天駆でさえそんなことは起こらなかったからな」



俺は職務の休憩時間に休憩していたチルを偶然見かけた


城の庭に生えている木に凭れて昼寝を取っていたチルに声をかけられ、そのまま返事をすると昼寝よりも暇つぶしになりそうだと寝起きの彼女は言って来た


そこで俺が携えていた剣に気がついたらしい



「そして不適切な人間が振るえば振るった者を傷つける・・・・恐ろしいな。私もこの剣に見放されないように日々精進せねばな」



そう言いながら剣の鞘に手を触れた


愛剣に裏切られるのは辛いだろう。とてつもなく


これまで共に戦ってきた自分の体のような物だ。そう簡単に手放すことを決断できるはずも無い


そんな事を考えながら蒼天駆に並べるようにして俺は風王奏を置く


聖天下十剣、この世に10本だけの異常なる名剣が二つ此処にある


その異常さはこれまで何度か見た


同じ剣という類の物を一方的に切り裂く鋭き刃


剣ごとに備わる異質な能力


ある剣は空を飛べるようになった


ある剣は風を操れるようになった


残りの8本の剣と今後出会うことがあるのかどうかは分からないが、その能力とやらは見てみたいものだ。そう思うことはやはり普通の感情なのだろうか


男故にこういった物に興味が湧くのは仕方ない


小さい頃、人形で遊ぶような年代の頃にはロボットと人間の人形にいろんな力や設定を与えて楽しんでいたあの空間が今現実にある


流石にロボットは居ないけれど、魔法という空想上の物が存在する時点で小さな子供を思い浮かべてしまう事がある



「そっちの剣の調子はどうだ?」


「ソーレの方ですか?一応数日に一回、簡単な手入れはしていますよ」



日本と違い、こちらの世界では観賞用の日本刀を丁寧に扱うような人間は殆ど居ないに等しい


居るとすれば剣のコレクターぐらいだろうか


それに専用の道具も何一つ無いこの世界で剣に手入れといえば剣を研ぐぐらいである


日本刀は鉄でできているため雑に扱っていれば錆びてしまう


だがこの剣には錆止めの魔法がかけられているらしい


現代の魔法でも解読できないくらいに複雑で難解な術式なのだとチルが話していた


とはいえ何もしない訳にもいかない


あまり複雑なことをして傷つけてしまったりなんてしたくない


それがソーレなら尚更である



「見せてみろ」



腰に携えた短刀の下緒を外してチルに手渡す


それを受け取り、ゆっくりと鞘を抜く


普通の日本刀に比べて短いその短刀の刀身を様々な角度から見るチルはくるっと逆手に持って目の前で何度か振るう


ヒュンヒュンと音をたてたかと思うと次の瞬間には剣が水を纏った


これまでは炎を纏うことと風の刃を生み出すことにしかできなかったために少し驚いた


見たこともない自分の剣の形態が其処にあった


水はピッタリと刀身に張り付いているようで刃の形を形成している



「私は魔術は使えないが、それでもこうしてこの剣に水を纏わせられるということは恐らく魔剣に似ているんだろうな。ただ魔剣は術式が刻まれているがこの剣にはそれがない。魔剣なら刻まれた種類の魔術しか使えないが、これはどうやら違うらしい」


「え?どう違うんですか?」


「いいか、魔剣は見たことがあるか?」



そう言われて真っ先に思い出したのは二つの魔剣


まずレイル・ルニセンダが使っていた魔剣。あれは確か火を纏っていた


そしてアルレスト・ビロディンの持つ水と炎の魔剣。二本の魔剣はそれぞれ火と水を纏っていた


剣ごとに扱える属性が決まっているというのは聞いたが自分の剣はそうではない、ということだろうか?


龍の魂がこの剣に宿り、魔剣のような短刀になった


それ以前から魔剣だったという話は聞いていないので恐らく普通の短刀だったのだろう



「魔剣は魔力を持たない人間でも使える剣。なぜなら剣が周囲のマナを吸い取って魔術を発動させるから」



あくまで剣がマナを吸い取るのであって、剣の持ち主はただキースイッチを叫んで振るえば良いだけである


大抵キースイッチには技の名前が使われるらしいので技の数だけキースイッチがある



「同じようにこの短刀は魔力を持たない人間でも使える。だが術式によって発動しているわけでは無いので魔術を自由に行使できる。属性の縛りも無い自由な剣だ。それに加え、ちょっと持て」



チルから短刀を渡される



「剣に炎を纏わせられるか?」


「できるかソーレ?」



そう訪ねると剣は紅蓮に包まれる


いつものように熱は感じない


真っ赤な刀身が炎の揺らめきを映している



「こんな風にこの場には炎のマナなんて物は全く無いが、こうしてこの短刀は炎を纏っている。そのマナは何処から来たのかと言われてお前は答えられるか?」


「え・・・何処って・・・もしかして俺の?」



周りに無いとすれば剣に元々魔力が詰め込まれているか、俺自身が火の魔力を蓄えているかのどちらかだ


前者は魔剣であるが、この剣に宿っているのは炎の魔力では無く、ただの龍の魂


魂だけでは炎を具現する事はできない


もしかしたら龍の炎という性質を持った火になっているかもしれないな



「あぁ。恐らくそうだろう。あるいはこの剣に元々炎の魔力が詰まっているかのどちらかだが・・・」


「あー、どうでしょうね。ソーレの・・・龍の魂が入っているとはいえ魔力も一緒に移し替えた訳でゃ無いと思うんですけど」


「うーむ、前にその話しも聞いたし分からなくは無いが、それにしては変な感じがする。龍、ドラゴンは昔から風と力の象徴と呼ばれているんだ」


「え、そうなんですか?炎とか吐くしてっきり火の象徴とか思ってた・・・」


「火の象徴は不死鳥。そうだな。ほら、紅炎騎士団やグレアントの王家の紋章にも使われている」



あー、そういえばそうだったような気がするようなしないような


確かに紅っぽいイメージとかは感じたなぁ



「まてーっ!」


「―――ぇへへーっ!やっほーお兄ちゃ――――」



ビュンッ



え、何今の?


今視界に何かがうつったような・・・・


何かが右から左へと・・・


それに何か言われたような気がしたが最後まで聞こえなかった


その何かは角を曲がって城に隠れてしまって見えなくなった



「ま、まてぇぇ・・・」


「一条さん。どうしたんですかそんなに息を荒げて?」



遠くから黒髪を靡かせて駆け寄ってきたのは一条唯であった


俺とチルさんの前で足を止めて息を荒げる一条さんに声をかけた


まぁさっき目の前を通り過ぎた謎の物体に関係しているのだろう


そして彼女はそれを追っていたと



「え・・・あぁ・・・うん。あれ・・・千尋ちゃんなの」


「・・・はい?ごめん、理解が追いつかないんだけど?」



今の高速の物体が千尋ちゃん?


そういえば俺の事をお兄ちゃんと呼んでいたような気が・・・いや気のせいか?風の音で全然聞こえなかった



「えっと、ね。ちょっと目を離した隙に遊びで作った加速の符を発動させちゃって」


「加速の符?」


「うん。結構この能力っていうのかな?いろいろできるんだよ。それでね、いろいろ試しに作ってた符を千尋ちゃんが使っちゃって・・・。しかも鬼ごっこのつもりなのか私のポーチまで取られちゃって」


「ははぁ、それで追いかけていたと。便利なのか不便なのか分かんない能力ですね」


「うん。紙とペンは全部あのポーチの中だし・・・ちょっと割れ物も入ってるから・・・ね」



なるほど。それで早く取り返したいわけだ


にしても、初めて使うにしては妙に慣れているような気がするな



「以前その加速の符って使ったことあるんですか?」


「え、私?」


「あ、いやいや、千尋ちゃんがです。なんだか妙に慣れたように見えたものですから」



実際には視覚で捉えたのは一瞬だが、あのスピードで急カーブを曲がっていけるのはちょっと異常性を感じた



「こっそり抜いて使っていなければたぶん初めてなんじゃないかなぁ。コツ掴むの早すぎるよ。しかもあそこまで速度が出るとは思ってなかったわ。誤算だったー」


「ふむ。捕まえればいいんだな?」


「え?できるんですか!?」



一条さんが千尋ちゃんを捕まえようかという申し出を快く了承していた


正直俺には正気とは思えないな


だってあの速度だぞ?


普通に車ぐらいにスピードが出ていて、市道で走るようなスピードじゃないことから恐らく50から70は軽く出ている気がする


よくそんなスピードで飛び回れるものだ



「あれ、そう言えば浮いてませんでした?」


「・・・・え?」



後から考えれば浮いていたような気がする


飛んでいたのかあれ!?


聞いてみるとキョトンとした顔で一条さんが俺の瞳をのぞき込んだ



「いや、だから飛んでませんでした千尋ちゃん?」


「え、あ、いや、私は突然部屋を飛び出していった千尋ちゃんを追いかけたけど視界では一回も捉えていないんだ」



逃走する千尋ちゃんの姿を一条さんは見ていない・・・と



「お、来たぞ」



チルさんがそう言って立ちあがる


そして見た


まるでミサイルのように真っ直ぐ飛んでくる少女が一人



「って、何してるんですかチルさん?」


「うけとめんだよ。おいでーチヒロちゃん~」


「いや、正気ですか?」



そう聞いている瞬間にはもう、少女の頭がチルさんの体にめり込んでいた


がっしりと腹部を掴み、その衝撃を受け止めようとするが流石に衝撃が強すぎる


というより千尋ちゃんの首の方が耐えられるといいのだが



「チルさん!」


「うぐ!」



土が二つの溝を作り、それが数メートル続いてようやく止まった


そっと千尋ちゃんの足が地面におろされ、ピッと手に持っていた符を取り上げられた



「こ、これは預かるね。彼女がもっと面白い符を作ってくれるからって。それとこいつも」



そう言って腰に巻いたポーチもするりとはがされる


千尋ちゃんの方はよっぽど楽しかったのか、また貸してねなんて言っている


こんな物騒なもの流石にもう貸さないだろうとは思いつつも「また今度ね」と冷や汗を流しながらチルさんにポーチを受け取る一条さん


ポーチの中身を見てホッとしていたようである


そういえば割れ物があるとか言っていたなぁ



「にしても、短刀に加えてそれも普通の符術じゃないわね。うん」



そういって取り上げた符を太陽に透かして見ている


そんなことをして何が分かるんだと思いつつも符を見つめるチルさんの目はマジだ


そういえばこの人も本業じゃ無いけれど符を使う事もあるんだっけ



「なんと複雑怪奇。この文字はあなた達の世界の?」


「え、あー、そうですよ」



符を見ているチルさんに近づき俺も符に顔を近づけた


其処には―――めっちゃ早くなる!―――と書かれていた


なんとも曖昧な表現だ!!



「ちなみにこの世界の符ってどんな物なんですか?」


「ん、そうだな。こんな感じだ」



チルさんは持ち歩いているであろう符を懐から取り出した


おお、これぞ符術って感じだ!!


この世界の文字で書かれているが如何にもという雰囲気が感じられる


対してなんだこれ!?いいのかこんな適当なので!?


それであのスピードが出るのかと思うと正直驚きと呆れが同時に襲ってきた



「ちなみにこれ、どのくらい早くなったままなんですか?」


「たぶん自分で止める以外なら符に込めた魔力が切れるまでじゃないかなぁ・・・。試したこと無いから予想つかないけど」



本人にも加減が分からない能力なんだ


まぁその辺は手探りで地道に探っていくしか無いんだろうけど


そりゃ確かに元の世界での能力とは全く違う異形の能力である


絵が得意、勉強が得意、スポーツが得意


そんなのとは全く関係ない未知の才能がこの世界で目覚めているのだ、無理もないか


俺だって魔法がまだ上手く使えるという訳でもないのだから彼女の力に対しては何も言えない



「にしても早々どこか行ってしまうんだな」



チルさんが呟いた


確かにそうだなぁ


今度の目的地は北のシーグリシアという場所である


カイさんの故郷であり、また以前耳にした太古の魔獣の封印とやらをするのが俺の仕事らしい


だがその道中、遠回りであるが西のイレータ湖を目指すらしい


何も連絡が来ていないが、そろそろ虹水の月


ということはもう虹魚の管理する地域はそろそろマナの実りの時期なのである


そう教えてくれた一角天馬は自分の領地を飛び出してまで大陸の端の方まで来てくれたというのに、そちらを優先してくれて構わないと言うのだからまぁありがたい


本来なら龍に伝言を頼んで俺を呼ぶぐらいなのだ


切羽詰まっているのかもしれない



「なんだか嫌な予感がしたんでね」



一角天馬はそう言っていたがどうなのだろうか


次に向かうのは大陸西方に位置する三大霊湖と呼ばれる湖の一つ、イレータ湖


北のコルノ湖、東のギレストリア湖、西のイレータ湖と呼ばれる三大霊湖のうち、3つの国に属するほどの大きさであるイレータ湖は3つの湖の中で最も美しく巨大な湖であるそうだ


同行するのはシーグリシアが故郷であるというカイ


一角天馬の神子、一条さん


虹魚の神子である千尋ちゃん


そして太古の魔獣の封印を頼まれた俺、龍の神子である桜彩輝



「まぁ彼女の方は完全に僕のお節介なんだけどね。まぁ旧友だしね」



そう言って一角天馬は虹魚の神子の事を言った


千尋ちゃんの方は本来シーグリシアへ向かう為の目的とは何の関係も無いのだが、それぐらいの時間ならあるだろうと一角天馬が提案したものだった



「ほら、僕って大事なこととか先延ばしにしちゃう癖があるんだよね。夏休みの宿題とかそんなかんじだよ」


「あー、わかるわかるー」



この世界の人達はそれを聞いて首を傾げていたが俺たちにはバッチリ伝わった


ていうか何でそんな事を知っているんだと聞きたくなった


そして一条さん、あなたも同士か!?



「ま、そんな訳で一つ頼むよ。一応僕もついては行くんだけど大きな力は使えないんだ。他の領土では違反だからね」



なんて会話は会議のあった日の事


そう言って会議の次の日、カイさんと神獣と元神子の水入らずの楽しい会話となったらしい


そこには一条さんも同席したそうな


そしてあと付け足すことがあるとすれば会議の日、カイさんから貰ったあの大層な剣の事だろうか


何故剣を俺が受け取ったのか


それはあの剣がカイさんを正当なる持ち主でないと判断したからである


その理由はどうも俺にあるらしい


簡単に言えば俺の事を剣が持ち主だと認めてしまったからだという


その原因があの剣の前で魔術を行使した事にあるそうだ


ソーレと違って剣に意思があるとは思えないが確かに剣は俺を選んだらしく、今では元の持ち主であったカイさんが剣を振るおうとすると腕に痛みが走るようになっているらしい


それも振るえば振るうほど痛みは増していくと言っていた



「いいんだ。これで。俺には持つ資格なんてなかったんだ。気にする事はない」



なんだかその言葉の中に俺はカイさんの心にある何かが関係しているような気がした


あの夜、簡単に聞かせてくれた事の他にも、いやあるいは俺が思っている以上にその内容は彼を苦しめていたのかもしれない


受け取った風王奏の簡単な使用方法だけを聞いてその日は分かれたが本当に良かったのかと今でも思う


その答えはいずれ分かるだろう


そう、いずれきっと







 「こうして君を送り出すのは二度目だな」



早朝


太陽が朝を告げる頃合い


紅の女王はニッコリと逆光の中笑っていた


その笑みに俺もまた笑みを返す



「ですね」


「私の時はいつの間にやら居なくなっていましたしね」


「あー、攫われたもんな。俺」



セレシアさんがそう言うと俺はあのときの事を思い出す


別れを言う間も無く、気がつけば龍に隣の国の山奥に拉致されていたのだ


一緒にいたアルレストさんにも挨拶を言えなかったのは悔やまれたが今度はしっかりと言えそうだ



「まずは西だったかな?」


「えぇ。西のイレータ湖を目指す予定です。順調に行けば到着は10日もあれば大丈夫かと」



カイはエリエルさんと会話をしているのが見えた


カイの顔には再びお面がつけられていた


あの後ずっと外したままでいくのかとも思ったがどうやらこれからもあのお面は健在らしい



「あぁ、なんだか人目を引きそうな気がする」


「お前の黒髪も十分気を引くぞ」



あぁ、そうでしたね


どちらにせよ注目は浴びちゃう訳か


まぁ帽子でも被れば大丈夫だろうけどさ



「俺は留守番か・・・」



そんな中で佐竹さんは一人王女達側のグループ内に立っている


今回佐竹さんは留守番なのである



「仕方有りませんよ。貴方には無理して遠出する必要はありません。無理に危険事に関わる必要性がありませんでしょう?それに貴方にもいろいろと聞きたいことなども有りますしね」



そうファルアナリアさんは言った


今回佐竹さんが残るのは同行する必要性が無く、それと王女達が行うという精霊台保持国会議に参加してほしいとの事であった


恐らく其処には俺たち以外の異世界組のメンバーも集まってくるだろう


不参加の国もあるらしいが、一応その会議の中心ともなる俺たちにはできるだけ参加してほしいとの事だった


が、魔獣の封印や神子の件で俺と一条さん、千尋ちゃんは不参加となりそうだ


というわけでとりあえず四人の代表として唯一暇そうな佐竹さんに出て貰う事になったわけだ。感謝感謝



「とりあえずはこれでしばらくお別れとなるわけですが、何か言い残した事などはありますか?」



セレシアがそう俺たちと王女達に聞く


今話しておかないとしばらく会えないからね


後腐れ無くスッキリした気持ちで行きたい物だから忘れ物はしたくない



「俺は無い・・・かな」


「私も大丈夫」


「ちーも無い」


「俺も無い」



出発組に心残りは無い



「私も特には」


「私たちも無い」



アルフレアと双子の王女はそう言った


そしてセレシアとエリエルに視線が移る



「私はあります」


「私もあります」



二人はそう力強く言った


はて、何だろう?と思っていると二人がこちらへと向かって歩いてきた


その視線は共にカイさんに向けられている


お?お?



「カイ・ウルクァさん」


「む?」



自分に用件があるとは思いもしていなかったカイは必死にこの二人の王女に見つめられている訳を考える


そしてカイは記憶の片隅にあった事を思いだす



「・・・・あぁ」



カイの納得している様子を見ると恐らく心当たりがあるのだろうと隣で見ていた彩輝は思った


二人は同時に頭を下げた



「此度は私たちの事をお助けくださりありがとうございました」


「同じく礼を言います。ありがとうございます」



二人の王女は同時に頭を下げる


カイも王女二人に頭を下げられるとは思っていなかったのか多少は狼狽える様子を見せたがそれを見極められた人物は少なかっただろう


それほどに僅かな同様だった


傍目には分からないだろう


女性慣れしていないのだろうかね?


というかあー、助けて貰ったお礼って事か。そういえばあの二人はカイさんに助けて貰っていたって聞いたなぁ



「僅かばかりですが受け取ってください」


「私からもこれを」



カイは突如差し出された二つの袋を受け取った


その際に中にあるものが擦れあい、ジャラリという音が重量感のある重みとともに手と耳に伝わってきた


それだけでもう中身が何なのかだいたいの想像がついてしまった


手持ちで運べるだけの僅かな量ではあるが、中身を見たカイはそれが金色なのを見てその中から一枚を抜き取った


同様にもう一つの袋からも一枚の金貨を抜き取る



「失礼ですが、こんなに沢山は受け取れません・・・俺が貰うに値する事をした人間であっても、この量はさすがに」



とはいえ全部が全部金貨という訳でもないだろうと彩輝は思う


恐らく銀貨も混じってあの量なのだろう


そう言って袋を二つ二人の前へと戻した



「王女からの報償を返すとは、身の程知らずよねぇ」



誰にも聞こえない声でにやにや笑いながら遠くで様子を見ていたユディスが呟く


ていうか師匠も見送りするならもう少し近くでも良いと思うんだけどなぁと思いながらその姿を眺める


ユディスは今上の城のバルコニーの柵に座っている


今皆が立っている場所は城と城下を分けるための外壁の入り口である


巨大な水堀を兼ね備えた水路の外側にある唯一の陸路の門の前でこの見送りは行われていた


水路の音が止まることなく聞こえてきて、ここへ戻ってきたときの事を思い出す


戻ってきた時はダトルとぶつかり合ったまさかのチルさんの力を見せつけられた場所も、ここから見える


水路の門は閉じられているが水はその格子の間から絶えず流れ続け、流れが止まることは無い



「そう言わず、受け取ってください」


「いえ、お返しします。こんなに受け取れません」



頑なに拒否しようとするカイさんも引かず、またセレシアも珍しく引かない


控えめな正確なので思ったより積極的だなぁと思ったのは否定しないが


するとそっと彼女はカイの耳元で何かを囁いた


ここからでは聞こえないし、カイさんの表情は仮面のせいで読み取れない


それでもピタリと動きを止めたカイさん



「ですから、ね」


「・・・・・いいのか?こんな奴にこんな大金・・・」


「良いも何も、貴方が私を助けてくれたお礼としてこの金額が妥当だと判断したまでです。ただそれだけですよ。えぇ」



ニッコリと笑ったセレシアさんを見てカイは自らが押し返そうとしていた袋二つを見下ろした



「・・・・感謝します、セレシア王女、エリエル王女」



深々と膝をつきお辞儀するカイにお礼を渡せた二人は満足して後ろへと下がった




「さぁて、これで大体やることは終わったかな?アーヤんとかもう無い?」


「かなー」


「それではそろそろ出発?」


「あぁ。今回はそれなりに急ぐ旅だからな」


「一角天馬の同行ってのがなんだか心強い!」


「実質大した能力使えないんだけどね、僕。あんまり頼りにされても困るよー」


「発言からして頼りなさそう!」


「自分で言っておいて何だけど、へこむよ?仮にも神獣なんだからさ、もう少し敬ってほしいな~」


「態度からして敬えない。心から敬えないよ」


「そんなに僕威厳とか無い?」


「無い」


「無い」


「無いですね」


「そんなきっぱり言わなくても~・・・」


「ははは、まぁんな感じで、行くとするか」


「オッケー、ではそろそろ出たいと思います」


「あぁ、気をつけろよ」


「お気をつけて」


「お土産よろしく~」


「姉に同じく」


「お怪我をせぬように」


「ご心配ありがとうございます」


「お土産・・・?お土産って・・・え、お土産?」


「佐竹さんもしばしの別れですがお元気で!体調を崩さぬように~!」


「お前等も無事に帰ってこいよ!数減ってたら怒るぞ!」


「そりゃ恐い!気をつけねば」


「それじゃぁお元気で!」



彩輝は小さくなっていく人影に向かい、右腕・・を大きく振った


一行は西を目指し、夜明けの王都を歩き出す


それと太陽は北から昇っているのは気のせいか?流石異世界!






とりあえず三章スタート。先は長い・・・

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