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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『9人の囚人』






「おら、早く外せ!」


「はっ、はい!!」



ガチャリと外れた手錠が床へと落ちる


同時に足枷の鍵も外され、それも同時に床へと落ちた


そんな音が周囲でいくつも聞こえてくる



「ククッ、錠無しってのも懐かしいようで不思議な気分だ」



男がそう笑うとズラリと並んだ鋭い歯がむき出しになる


これまでこの牢獄に入れられてからは一度も外されることの無かった手枷が外されるその開感じはこれまでに男が味わったことの無いような開放感であった


その開放感と高揚感を男はゆっくりと噛みしめる



「はっはははは!自由だ!!自由だ!!」


「大人しくしろ、ガイ」


「何だよ、うれしくねーのかよおっさん?俺は最高にハッピーだ!!」



そしてガイと呼ばれた男がクルクルと回り、その喜びを体全体で表現している


ガイ・キリクの周りでは続々と他の囚人の手錠、足枷が外されていく


端から見れば、ここが本当に刑務所なのかと目を疑うような光景だ


それも檻の外でだ


普通ならあり得ないことだ



「全く、世の中何が起こるか分からんものだな」



そんな光景を見て囚人の一人、レクティアス・アートが呟いた


若い青年で、囚人服があまり汚れていないことから刑務所暮らしがまだそんなに長くないことを表している


そしてガイにおっさんと呼ばれた中年の男は僅かに伸びた無精髭をゾリゾリと触っている


この男の囚人服は一番汚れており、男の体臭を吸った囚人服が僅かに異臭を放ち始めている



「自由、か。俺は自由を奪う人間だったからな。自由を奪う人間が自由にしようっていう此奴等の目的がこれまた異界の自由を奪う事・・・か」


「ジンよ、気を落とすな。それがお前の定めだ。誰にも変えられない、お前だけの運命だ。素直に受け止めることだ」



己の運命に僅かに暗い表情をみせたジン・バグラムントであったが突如横から声をかけられた


今この場に集められた囚人の中でも最も異彩を放つ男がいた


その顔には仮面がつけられ、半分は笑いを、半分は怒りの表情をした面であった


白と黒だけでつくられた面はピッタリと男の肌にくっついており、これまで誰もその仮面の下の素顔を見たことが無いという


此処にいる監守や囚人達も一度としてその素顔を見たことがないという不思議な男、それがクロノス・ルーベであった



「これより皆様武具、衣類をご返却致します。ですがもしこの部屋から脱獄しようとしても不可能ですのでご了承を」



監守の一人がそう言って他の看守達が持つ衣類や衣服を一人一人渡していく



「やっと帰ってきた・・・」



真っ先にそれ受け取ったゲッカは手渡された大鎌をぎゅっと抱きしめる


それぞれ捕縛された時に身につけていたものであり、通常ならば釈放された時に返されるものである


ただでさえ凶悪な囚人にわざわざ武器なんて持たせれば、脱獄なんて5分もあれば十分すぎる程だろう


それぞれが部屋に備え付けられていた個室で着替えを済ませ外へと出てくる



「やっぱりこの部屋は能力使えなくなっているらしい」



一人の女がつくった握り拳をジッと見つめている



「へぇ、“聖炎”ですらこの部屋じゃ無力化されるのか。これは面白い結果だ。術牢石がこれ程集まれば触れていなくても効果は増幅するのか。確かに僕の“分析”も使えないみたいだな」



クーフォロンドはクスクスと笑いながら部屋の構造に興味を持っていた


術牢石は全ての人間が持つ全ての特異能力を封じる力がある石である


この術牢石は囚人達の手枷や檻となりその能力を封じている


とはいえ希少なものであるため、石が本当に必要になるこの監獄に殆ど集められている


それでも建物全てを覆うほどの石は無いため、こういった限定的な拘束道具や一部の部屋などに使われている



「お前がそう呑気に研究しているのを見ていると、どうも研究のために牢獄ここに入ったように思えてくるよ」



“聖炎”、ベス・ルチルテシアスはそう呟いて隣で目を輝かせている男を見て呆れた物言いをするのを聞いてクーフォロンド・アルトカードは下がりかけた眼鏡をくいっとあげる



「そんな訳無いじゃないか。刑務所に入っちゃったら実験なんて殆ど出来ないだろう。まぁ、おかげで長時間の構想期間が出来た訳だ。これでは短い時間でしか発想しなかったからかな。いろいろなアイディアが泉のごとく湧き上がってきたよ。まるで脳が破裂してしまいそうだ。早く実験をしたいものだよ」


「あー、そうだな。・・・・・・こいつ釈放したらマジでやばいんじゃねぇの?」



ベスは面倒くさそうに相づちを打ちながら、隣にいたレクティアスにこっそりと話しかける


この男の探求心は後にこの世のすべてを解析してしまいそうで怖いとレクティアスは答えた


そう答えたレクティアスの後ろにはジン・バグラムントがいた


ジンは囚人の一人、最年少である少女に話しかけていた


その少女の歳はまだ6歳か7歳か


どちらにせよ場違いな歳である


手に返された、獣をかわいくした人形を持っている


所々継ぎ接ぎでクーフォロンドの肌を思い出させた


それでも一部から綿が飛び出しており、その生地もかなり汚れている


その少女はジンが身につけたマントの中にするりとはいると足にぴったりとくっついた


足の後ろに隠れ、顔だけをこちらへとのぞかせている


名は確かレム・チェルツだったか


ここに居るのはすべて第一級犯罪を起こした囚人である


自分の後にこの牢獄に入ってきた囚人で口数もほとんど無い少女である


何をしたのかは知らないが、よっぽどの事をしでかしたのだろう


子供だからといって許される範囲を超えた何かを


それを自分が詮索するのは何か違う気がする


まぁ何故こうも自分以外の同姓の囚人がここまで無口なのかとベスは思った


ゲッカ、レムは殆ど口を開くことがない


開いたとしてもほぼ単語や短文であり、まともな会話なんてしたことも無い



「ところでよぉ、ずっと気になってたんだけどさ、あいつ、何?」



突如ガイが口を開いた


その声は静かに部屋に響いた


皆口を閉ざしてガイの指さす先に立つ人物を見る


骨格からして男、だろうと思う


だが見たことも無い顔だ


前回集まったときには居なかったはずだ


それは全身を真っ黒な布で覆っている


布の隙間から覗く双眸は真っ赤に充血しているように見えるほどの深紅だ


その黒い布を凝視してベスは気がつく


―――違う、布が黒いんじゃない!


よくよく見ればその布は至る所が滲んでいる


血だ


あれは布に染みこんで変色した血だ



「あぁ、そうか。皆にはまだ説明していなかったね」



一人の男が部屋へと入ってきた


その男は前回八人の囚人を集めた張本人であり、この監獄のボス


男はポケットに両手を突っ込んだまま、猫背なのか僅かに背を丸めて話し始めた



「彼は“千里眼”だよ」


「“千里眼”だと!?」



レクティアス・アートが咄嗟に受け取った剣を鞘から抜こうとした


だがそれをグッと堪えると、鞘から半分ほど出ていた刀身を戻した


“千里眼”の事なら誰もが知っているであろう


だが誰も見たことがない謎の人物


すべてを謎に包んだ存在であり、名前も性別も年齢も、何もかもが分からない中で唯一分かっていることがその能力


“千里眼”


すべてを見通し、すべてを奪う魔眼



「まさか本当に居るとはな。それに投獄されてたとは驚きだな」



徐々に張りつめた空気が解けていく中、ジンが最初に口を開いた


確かにこの“千里眼”が投獄されていることを知っている囚人は居なかった


殆ど伝説のようなものだ


“千里眼”という能力の事だけを皆は知っている


だがその能力者本当に居るのか、どのような能力なのか。それすら分からない程謎な存在なのだ


能力者は現代に生きていて、さらには投獄されていたなどと知るものが果たしてどれほど居ただろうか


その“千里眼”はぴくりとも動かず、ただただ虚空を見つめている


その目に何かが見えているのか


ただただ不気味を感じさせる



「何故生きている・・・・“千里眼”・・・。貴様は・・・」



レクティアスは刀身を鞘に戻したがまだ警戒を解いていないようで、剣の柄をしっかりと握っていた


何かを知っているのだろうか?



「レクティアス・アート。少し黙れ」



レクティアスはキッとクーフォロンドを睨みつけた


目線をずらし、クーフォロンドを睨みつけるレクティアスであったがその上から目線な発言にも多少苛立ったかもしれない


何しろこんな牢獄にいれば精神を保つだけで精一杯な場所だ


ここでは刑期を終えて出る者より、狂った人間の数が多い


それですら第一級犯罪者はどいつもこいつも精神崩壊していないだけでその異常さが伺える


クーフォロンドはそんなことはどうでもいいという顔でここのボス、ゴーン・ゴゴーンの方へと向き直る


きらりと眼鏡に光が反射して彼が今どのような顔をしているのかベスからは見分けがつかなかった



「この“千里眼”、同行させろというおつもりですかなゴゴーン殿?」



そうだ、この場に居るということはつまりそういうことになる



「その通り。彼の同行も頼むよ。もっとも彼は減刑のために行く訳じゃ無いがね」


「・・・・ここにいる囚人は少なくとも人としてまともだ。人として扱うことが出来る。だが、こいつは違う。そうだろう」


「というと?」


「人でも、獣でも、魔物でも、悪魔でも無い存在だ。そうだろう。確かに人という体をしている。この世に生を受けている。だが、この世界には無い存在だ。そうだろう?たとえる言葉すらこの世には無い。そんな存在だ。強いて言うなら――――神」


「ふふん。面白いな科学者クーフォロンド。君の推理は半分ほど当たっているかもしれないな」


「理を超えている。こんな存在に名前をつけることが間違っている。そうだろう?だがこれまた強いて言うなら―――とでも読んでおこうか?」


「面白い見解だ。まぁあながち外れてはないんだがな。こいつは少々、いやかなり特殊な存在であるのは確かだ。見ての通り彼は人の形をかたどっている。だがそれはこの布のせいだ。布の中身がどうなっているのかは知りたくもないが、そこには確かに何かがある。心、精神、魂、意思。まぁそれが彼を人の形に留めている。それを無とするか無としないかは解釈の仕方によるな。物体であるかどうかはこの際関係ないんだが・・・」


「なるほど。他にもいろいろ聞きたいが、ともかくその核はどこから持ってきた。ゴゴーン」


「ふむ。確かに君は理解が早くて助かる。だが別に私が持ってきたわけじゃぁ無いからね。これが言うには彼は外れた存在らしい。全てから外れ、グチャグチャに混ざり合った・・・とね。まぁ詳しいことは私も知らないんだが、ここに投獄されているのは只単に危険だったからだ」


「危険、とは?」


「さぁね。説明を聞いてもさっぱりだと思うんだが、この世の全ての生物との干渉をできる限り控えないと不味いらしい。どうもこれの核は一つではないらしく、いや、一つだけどそれは複数の核の融合体・・・だったかな。私に意思を読み取ったカーン君もどう説明して良いか分からないらしくてな。ただ、できるだけ他人との接触は控えて欲しいとだけ言われている」


「ここのメンバーに関わらせていいのかよ?」



クーフォロンドとゴゴーンとの理解不能な会話にガイが割り込むようにして話しかけた



「まぁ、ね。その変のことは気にしなくていいんだよ君たちは。さて、続きで聞きたいことは?クーフォロンド君」


「・・・・・無い」


「そうか。他に何か聞きたいことがある者は?」



ゴゴーンがそう聞いて周囲を見渡す


無言でジン・バグラムントが手を挙げた



「どうやって帰ればいい」


「あぁ、それを言い忘れていたね。一ヶ月だ。一ヶ月後に再び扉を開かせよう。さて、あ、もう一つ言い忘れていたけど気づいているよね。今回レテスタにはチームから外れてもらっている。まぁどうでもいいんだけど」


「そういやいねぇな」


「ほっとけほっとけ」


「んじゃぁそろそろ扉を開いて貰うとしようか」


「まぁまて、有名所が揃っているとはいえ、とりあえず自己紹介ぐらいはしておいた方がいいんじゃないか?」


「・・・・それもそうか。では私から。“分析”、クーフォロンド・アルトカードだ。よろしく頼むよ」


「“聖炎”ベス・ルチルテシアス」


「レクティアス・アート。能力は“勇者”」


「想像つかないねぇ“勇者”なんて能力。肩書きの間違いじゃねーのか?ちなみに俺は“懐柔”ジン・バグラムントだ。暫しよろしくだな」


「レム・チェルツ・・・・“夢幻”」


「ゲッカ・シルクロード。“月殺”」


「綺麗所がつれない挨拶だねぇ・・・。おっと、俺はガイ・キリク。“鬼化”だ」


「クロノス・ルーベ。“時操”」


「最後が彼、とりあえず――――――」



最後にゴゴーンが“千里眼”の名を告げた










 「っはぁ・・・っはぁ、親方ー、この火薬は此処でいいんですか?」


「おう、それが運び終わったら休んで良いぞリク」


「うっす」



およそ15、6前後だろうか


一人の少年が大きな木箱を倉庫のような場所へと運んでいる


倉庫と言っても木組みの簡単な家のようなもので雨風をしのぐくらいにしかならないような場所だ


木箱を倉庫の奥へと置き、うっすらと額に浮かんださわやかな汗を腕で拭うというより振り払う



「っはー、休憩休憩」



少年は倉庫の外にどっしりとある平らな石に腰を下ろす


両肩から先の服は破れており、筋肉質な腕が見える


少年は石の裏に置かれていた自分で調合した火薬を入れた袋を慎重に持つ


そしてそれを石の上に置いた


もう一つ、、今度は服の中から布きれを取り出す


火薬を丁寧に布の上に振り掛ける



「まったお前はそんな遊びをしてんのか?」


「あ、親方。だから違うって言ってるじゃないですか。俺は新たな火薬の使い方を研究して―――」


「ふーん、まぁこの辺でそれをぶっ放すのだけは止めろよ。倉庫の火薬に引火したらこの辺全部吹っ飛ぶぞ。あ、そうそう、お国の魔術師は数日後に到着だそうだ。変な真似すんじゃねーぞ」


「あ、はい。もちろんです親方!確か倉庫に耐火と防水の魔術をかけてくださるとかでしたよね?」


「あぁ。去年は成り立ての小僧が来たせいで一年しか保たなんだ。今年はもう少しまともなのをよこしてくれるそうだ」


「良かったですね親方」


「・・・・そのはずなんだけどな――――」



なんだか妙な胸騒ぎがすんでぇ


親方はその言葉を飲み込んで目の前に広がる巨大な湖を見つめた


水面は風によって騒ぎ出す



「リク、その火薬のお遊びが終わったら戻ってきて調合手伝えよ」


「うっす親方!」



親方はゆっくりと倉庫の方へと戻っていった


危険な火薬を扱う火薬師の勘は遠からず当たってしまうのである







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