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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『撃退、撤退という結果』


蝉の声が聞こえる


風に揺れる木々の音


その夏の匂いはとても懐かしい







「ねぇ!」



懐かしい声が聞こえた



「んー?なにー美也ちゃん?」


「あした、いっしょに夏祭りにいかない?」



懐かしい建物が見えた



「それって、しょうてんがいの?」


「そうっ!ね、いこっ!」



その誘いに、少年は手を取った






 「あ・・・・・あぁ・・・」



虚ろな目をした彩輝は地面に倒れたまま、彼のそれからの人生を大きく変えたその出来事を見ていた




 「これはこれは、凄い効果だな。打ち破る者が出たとしても逃走の時間稼ぎの時間ぐらいは稼げそうだ」


アークスはそう言って眼下に倒れた者達を見ていた


すると隣に二人の子供が現れた


二人は重そうに気を失っている女を持っている


まだ目覚めてはいないようであり、それはアークスが背負う男も同じようだ



「今のって記述にあった炎幻の光?」



少年の方が上を見上げて聞いてきた


以前イチと呼ばれるこの男から読んだ文献に書かれていたので試してみる価値は有るだろうと踏んだのだ


キースイッチとは別にある呪文


キースイッチはただ起動させる言葉であり、この呪文は宝玉に秘められた力を引き出すらしいのだ


まだまだ試していない言葉はいくつもあるが、ここであまり手数をばらす必要は無い


お荷物が二つある事だしと、アークスは帰還するのを優先した


彼らのアジトに行った事はないが、この少年二人が案内人になってくれると言ってくれたので飛翔する彼らの後を追う



「にしても凄かったね。全員光りを浴びただけで倒れちゃったよ」


「なんで私たちには効かなかったの?」



それはアークスにも分からない


実際これまで生きてきて宝玉に触れたことがこれが初めてなのだし分からなくても不思議ではない


宝玉自体残っている文献が少ないので、この世界に宝玉のことを詳しく知っている人間がどれだけいることだろうか



「さぁな。ただ、恐らく持ち主の意識に無意識に反応しているのではないか?お前達が身方だという無意識に認識していたせいかもな」


「へぇ、凄いや。やっぱり興味が湧いてくるねロク」


「そうねヨン。帰ってまた研究しようか」


「そうだね。にしても興味深いね宝玉の構造とかシステムとか。それが本当なら人の『心』とか『意思』っていう部分にもつながりがあると思うんだよね。脳への干渉も調べてみたいし」


「・・・・そういえばお前達二人は技術系担当だったな」


「そうだよー。ついでにその履き心地はどう?」



アークスが思い出したように二人の自己紹介を思い出した


二人は確か組織の中でも自己紹介の時に主に物を作ることが専門なのだと言っていた



「あ、そうそう。じゃぁこれも試してみて」と渡されたのが今足に履いている靴である



靴には風の魔術が刻まれており、空を飛べる靴なのだと言って渡されたものである


実際に履いてみると多少コツは必要だが、慣れれば便利な移動手段となりそうな物である



「いやー、苦労したんだよー。なかなか足の動きで操作させる所ところとかの術式がまた面倒くさくてさ」


「もうあんなチマチマした作業こりご――――」


「あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ っ !!」


「む?」



突如聞こえた叫び声に、視線を二人から眼下へと向けた



「チルか」



なんとも驚きである


体感したことは無いが、彼女も相当強い幻術をかけられていたはずだ


その宝玉のかけた幻術が解かれてしまったらしい


自力で幻術を破るとは恐ろしいほどの意思だ



「これは早く退散したほうが良いな」


「ですねー」



アークスはゆっくりと手に持っていた宝玉を懐へと仕舞い込もうとした


その瞬間、風が唸りを上げて頬を撫でる


いや、撫でると言うより撫でたのかと錯覚させる程の勢いがあったのだ


勢いが有りすぎてアークスですら一瞬何が起こったのか理解するのに数秒かかった


アークスは腕を見た


風が頬を撫でた左側の腕、その自らの左腕から吹き出す鮮血が勢いよく空を染める


アークスの鮮血と共に、主を失った左腕と赤の宝玉が落ちていく


血は赤の玉となって宝玉と交わりながら水中へと落ち、一、二秒遅れてアークスの左腕が落ちた


己の肘から先が無くなった腕を見つめていたアークスは次に視線をその風の刃を飛ばした少年へと向けた



 「取ったと・・・思ったときが・・・最大の・・・隙だ・・・。はぁっ・・・はっ・・・じーさんの受け売りだけど・・・っ、覚えとけっ・・・」



其処には会場の手すりに掴まりながらも、ソーレを振り切った状態の彩輝が立っていた


顔には僅かに笑みが浮かんでいるが、端から見れば苦しみながら笑っているようにしか見えない彩輝の顔は汗まみれであった


粒汗がいくつも頬を伝っている



「・・・嫌な物見せやがって・・・っ・・・・」


「貴様・・・」



両者の声はどちらも小さく、離れた互いの耳には入らない



「それ相応の覚悟はしてろよ・・・・」


「哀れな目をしている。悲しみか、いや、それとも憎しみか」



それでも両者は言葉を続ける


彩輝の目には後悔が、アークスの目には哀れみが映る



「今度は・・・はぁ・・・体を狙うぞ・・・はっ・・・」



彩輝は手すりに体重を預けてソーレを握る左手に力を込め、また同様に手すりを掴む右手にも力を入れた



「そのどちらでも無いか。哀れな目だ。にしても体は衰え、四肢すら満足に存在すらしてくれぬのか。神が居るとすれば私を見て嘲笑っているのだろうな。抵抗すら許さぬと言っているようだ」



鮮血は衰えることなく下の水面へと落ちていき、薄れながらも水を濁していく



「ねぇ、美味しそ・・・っと。痛そうなんだけど大丈夫?その体でその出血量はもう致死に相当すると思うんだけど。ねぇロク」


「そうねっ。とっても痛そうだし美味しそう。でも死んじゃうとこっちが怒られるんだ。先に治療しないとね。手短な施設ってあったっけ?」


「んー、近くに医療施設があったような無かったような・・・。輸血しないとやっぱり負担は大きいし、なんで大人二人とも寝てるんだよぉ。ほんとー使えないなぁ。いつも威張ってるくせに」


「だよねぇ。あ、そういえば本題の宝玉・・・落ちていったよね?あーぁ、どっちにしろ怒られるじゃん・・・。あんな所に取りに行けるわけ無いよぉ」



少年と少女はそう言ってアークスの腕の止血を始める


黒い魔法陣が現れ、腕の断面がみるみるうちに塞がっていく



「ほら、さっさと引き上げよう。意識があるうちにここを出ないと子供二人じゃ大人三人も運べないからね」


「む、それはごもっともだな。にしても、治癒担当でも無いのによくもまぁ此処まで綺麗に塞げるものだ。礼を言うぞ、ヨンとロク」



腕の傷が完全に塞がるもまだまだ油断はできないと早急にヨンは外へ出ることを進めた


腕を切られて相当痛みが酷いはずなのによくもまぁしれっとした顔で言える物だなぁと少年は感心もしたし少しばかり恐れも抱いた


もしかしてこの人体を真っ二つにされても意識を保てるんじゃないかとすら思ったほどである


涼しい顔をしてアークスもその意見に賛成した


二人が女を持ったまま先行して闘技場の外へ出るために漆黒の翼を羽ばたかせ上昇を始める


それを追うようにしてアークスもまだ慣れきっていない足の魔具を使って二人の後ろを上昇しはじめた


その後ろ姿を狙うようにして彩輝はソーレを振りかぶる


体内の魔力はまだまだ残っているのでこの程度で弾切れという訳にはいかないが、強力な宝玉の魔力によって幻術をかけられたせいで体力も意識もギリギリというところであった


先ほどの一撃もほぼ気力だけで放ったものであり、そう何度も連続して、それも集中して狙いを定めるのも難しくなっている


それでも当てきれるという自信が何故か彩輝の中にはあった


現に先ほどの風の刃も、霞む視界にうつる男めがけて放ったのだがまさか命中するとは予想以上の結果であった


闇雲に撃ったところで当たる確証もなく、逆に悟られればわざわざ撤退しようとしている相手を引き留める事になり、幻術から目覚めていない大勢の人達を巻き込んでいたかもしれない


だが彩輝はそんな考えにたどり着くことすらなく、ただ歪んだ心のままにソーレを振るった


まるで悲しみと苦しみと、自責の念に苦しむ心に体を乗っ取られたかのように


結果、アークスの左腕が吹き飛んだ


宝玉と共にその腕は水中へと沈んでいった


ソーレの剣が鈍く太陽の光を反射する



「だ・・・めっ・・・・」



彩輝は右足に何かが触れたのが分かった


ジーパンに触れているのが小さな人の手だと分かると振り上げたソーレをゆっくりと降ろす


振り返ってみれば一条さんが地面に倒れながら、必死に俺の足へと手を伸ばしている姿があった


それを見ると同時に、体を操る全ての感情が吹き飛んだ



「だめ・・・だよ、アーヤん・・・っ・・・・だめだ・・・よ」


「一条さん・・・・」



彼女もまた自力で幻術を破ってきたのだろうか


額に浮かぶ汗は彩輝と同じぐらいに酷いもので床にじんわりとその汗が染みこんだ跡が見えた


恐らく目に見える額だけでなく、体中汗でびしょ濡れなのだろう


彼女の吐息も目覚めたばかりの彩輝のように乱れている


それだというのに・・・



「人を・・・・殺しちゃ・・・・傷つけんの・・・だめや・・・がいね・・・」


「・・・・ほーやね」



止められなければ、たぶん躊躇いもなく剣を振っていただろう


俺は少し勘違いをしていたかも知れない


意識が回復して、幻術の性で少し心がどうかしていたようだ


向こうが例え悪だとしても、人が人の命をこんな簡単に奪って良い訳がないし、そもそも異世界の住民である自分にそんな権利も権限も無い


つい久しぶりに故郷の訛りを聞いて、自然と年上である彼女に対して普段の返答をしてしまった


が、別に違和感は湧かない


たぶん意識し始めればまた口調は戻るだろう


年齢だけでいえばこちらは見上げる側の人間なのだから


たとえそれが悪だとしても、殺すことは正当化されることは無い


すくなくとも、自分の中でも、自分たちが住んでいた世界でもそれは変わらない



「・・・・逃がした・・・・?」


「見逃して・・・あげるげん」


「大丈夫ですか?」


「うん・・・まぁ、なんとか―――っ」


「っと、大丈夫ですか?」


「うん、ありがと。こっちが負けた側に立つ必要は無いげんアーヤん」


「そう・・・ですね」



そう言い返した一条さんだったが立つのもままならない様子でふらりと体勢を崩した


足に力が入らなかったのか、膝がガクリとまがる


咄嗟に俺はその体を抱き留める


その隣に紅く乱れた長い髪と破れたドレスが見えた


アルフレアも幻術にかけられているためか息を荒げて苦しそうにしている


自分の体験といい、これは人の過去を見せているのかもしれない


それも最も辛い過去を


覚えているだけで本人を苦しませる過去は一つや二つあっても不思議ではない


自分もそうだったが故に――――


だから辛かった


その記憶を乗り越えるのはとても


あの頃に全てもう乗り越えたものとばかり思い込んでいた


それでも実感させられる


この記憶が自身にとって今までで最も苦痛となるべき記憶なことに


自分は情けないと思う



「あいつら・・・・宝玉を取り返す気はなさそう」


「ですね。なんとか撃退できたん・・・ですかね?」



それに答えたのは一条さんではなく、その横から聞こえてきた



「これを撃退と呼ぶか、相手がわざわざ撤退してくれたと呼ぶか」


「アルフレアさん」


「悪いな。幻術からは解けていたんだが気持ちの整理が落ち着かなくてな」



そう言って赤髪の王女はゆっくりと立ちあがった



「なんともまぁ酷い魔術だ。二度と味わいたくないものをまた味わうとは思っていなかったよ。苦痛の再現とでも言うべきか・・・。まぁ相手に余裕が無かったのもまた事実だろう。あちらも怪我人や意識不明がいたから無理に戦おうとはしないと思うが、まぁ宝玉が奪われず、死人も出ていないはずだ。よしとしよう」


「それがせめてもの救いですね」



ということは、アルフレアさんは俺が剣を振るったときにはすでに起きていたのだろう


ただこちらにも大きな損害が出たことは確かである


彩輝にはもう、剣を振るう気は微塵も無い




 戦いが終わりを告げようとしている頃合いになり、上昇を続ける少年がふと何かを思い出したような顔をした



「あ、そうそう。そこの賢い龍さん」



少年は翼を羽ばたかせてその場に滞空しながら彩輝達とは対岸に佇む一体の紅龍へと声をかけた



「別の種とはいえ同族を実験台にしちゃったのは謝るよ。ごめんね・・・って、意味通じてるといいんだけど」



そこでアークスはふと疑問が出てきた


なぜ龍はあれ程までに大人しいのだろうか?


こちらの身方ではもちろん無い


あのタイミングで乱入してきた事を考えるとあちら側の手駒なのだろう


それなのにこちらの争いには首を突っ込まなかったのが不可解である



「何で、って顔してるわね。アークスさん」


「いやね、もし刃向かってくるようなら遠慮無く魔龍にしてあげるんだけど、別にこっちも龍族と敵対関係になりたい訳じゃないからね。そっちもそうなんでしょ?・・・・・返事無しかぁ。一度くらい心話ってやつをしてみたかったんだけどまぁいいか」


「魔龍?」


「そ。魔龍、意思すら失った狂った龍さ。翼を持つ古き友、まぁ昔からの付き合いがあるんだよ、僕達はね。別に仲間って訳じゃないけれど、それでも古い約束をあちらは律儀に守ってくれてるんだよね。だから手出しされない限りこちらも手は出さないようにしてるんだ。こっちも全盛期に比べて数は殆ど居ないんだ。うっかり返り討ちにあって全滅なんてやだもん」


「とはいっても恨まないでね、紅の龍さん。あの黒の龍はあちらから仕掛けてきたんだもの。今回くらいは見逃してね。君たちの王を襲ったのもまぐれだよ。信じるかどうかは関係ないよ。だって証拠がないんだもの」


「あーあ、結界を破るときにカメラが壊れなければなぁ。面白い映像が撮れてたと思うんだけどなぁ。あのあとヘルダ平原まで行ってカメラの残骸を見つけたんだけどやっぱり修復は無理だったよ。ざーんねん。ま、今回いろいろと面白い物が見れたし気分は上々なんだよね、僕。此奴の出番が無かったのは残念だけどっ」



少年は懐からアークスだけに見えるように黒い球体を見せた


その艶やかな玉に男は見とれた


龍は何も喋らない


ただ鼻息が聞こえるだけで身動ぎ一つしない


なるほどな


先日起きたグレアント郊外、ヘルダ平原で確認された謎の黒煙と虹の雷光


かなりの距離がありながら、ファンダーヌからでも確認できる程の輝きだったという


夜の空に穴を開けるほどの巨大な黒煙が立ち上ったと聞く


二体の龍が争い、片方の亡骸が燃える時の黒煙だったとか


その事件の裏にも彼らがいたらしい


これは初耳である


後々彼らに聞く時間は山ほどある


その時にでも聞けばいいだろう



「それじゃ、バイバ――――」


「風王奏!」



少年が片手を女性から離して手を振ろうとした瞬間その腕をひょいと引っ込める


真顔で今度は青い髪の仮面剣士を見下ろした



「飛べるのが白髪だけだと思うなよ!!」



カイが手すりを蹴って聖天下十剣を振りかざした


その白髪というのはチルの事も入っているのだろう


グンとスピードを増すのかと思いきやすぐに勢いが落ちる


そしてそのまま水面へと落下した


ドボンと空しい音が会場に響いた





若干作者の地元の方言が入っていたりします。

もしかしたら気がつかないうちに入っていたりすることもあるかもww

聞き覚えのある人は作者と同じ県にいるかもですね~

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