『炎幻の光』
アルフレアは一気に紡いだ
「熾る炎戈、照る天熱り――――」
「なん・・・その魔術は――――」
「狂い踊る!!ブライアベイロン!!」
途中何かを口走ったアークスの声ごとアルフレアの魔術は飲み込んだ
まるで火を噴くドラゴンの口ように、腕の砲台から吹き出した炎が至近距離から男を飲み込んだように見える
炎はまるで槍を突くようにして魔法陣から放たれた
彩輝も近くから感じるその炎の熱波で皮膚が焼けているように感じた
対して技を放っているアルフレア本人にもその熱は届いているようで、熱に耐えながら魔術を行使しているようだ
放たれた一撃は一瞬で、呆気なく終わりを告げた
腕に広がった魔法陣が順にはじけ飛び、肩に展開していた最後の魔法陣が消えるとアルフレアはがくっと膝をつく
彩輝でも一瞬で分かるほどに、周囲の火のマナは枯渇していた
その一撃は一瞬で周囲のマナを吸い取るほどの威力だったのだろう
それにしては先ほど見た炎の柱よりかは全然威力が無かったようにも見えるが・・・
「くそ・・・補助も無しでこれは割にあわん・・・」
そう言い放ってアルフレアは荒げた吐息と共に両手も地面へとついた
術者に負担が掛かる技なのだろうか。それとも只単に疲れるだけなのだろうか
どちらにせよアルフレアさんは疲労以前に、周囲に炎のマナが無いのでもう魔術は行使できない
「それに手応えも・・・・薄かった」
たしかに、腕で顔を覆って熱を避けていた自分だったが、そうは見えなかった
あの一瞬では男も逃げ切れなかったように見えた
だがアルフレアさんの言葉は正しかったようである
「危ない危ない。反射的にガードしていたら今頃消し炭でしたな。あの魔術を使うとなると、もはや手詰まりなのかな、アルフレア王女?噂には聞いていましたが、初めて見ましたね。これがかの有名な防御破り」
「・・・・どうやって防いだ?いや―――」
だが男は現れた。
グレアントの王族には代々受け継がれる魔力の属性がある
代々受け継がれる魔力は『破壊』の属性をもち、このブライアベイロンは最もその『破壊』の効果が出る魔術である
知っている人間は少ないが、このブライアベイロンはその属性の強さ故に、『破壊』に相反する『防御』の属性のみ(・・)を打ち崩すという特性を持っている
その『破壊』に使われるエネルギーが相手を襲うのだが、防御を取らねばその炎は何も焼くことは無い
故に
「防いでなどおりませんよ。ただ単に大事を取って避けただけですので。こういった所では勘が役に立ったと思えますね」
本当に避けたのかと彩輝は疑いたくなった
この技の特性を知らなかった彩輝であったが、それ以前にあの至近距離からあのスピードと幅のある一撃を、そう容易くあの老体が避けられるとは考えられなかった
だが実際男は完全に先ほどの魔術の射程から離れた場所に立っている
炎のせいで男の回避行動が見えなかったので、どのようにして距離を取ったのか知りたいところだが聞いたところで教えてはもらえないだろう
「まぁこちとらそこまで話す余裕も無いのでね。さっさと帰ることにしましょう。ヨン、ロク、行きますよ。回収は済みましたか?」
男はそう言って会場の方へと視線を戻す
「おっけーおっけー!回収したよー」
「いつでもいいよー」
二つの子供の声が聞こえた
会場に居た誰もがその二人に気がつけなかった
声がした場所はちょうど割れた闘技場に立っていた数名の騎士の後ろである
その全員が初めてそこに人の姿があることに気がつき、また同時に驚いた
声からして予想はついたのだが、その姿は全くと言って良いほどの子供なのである
背丈からしても10歳前後といったところだろう
そしてその二人の背中にもあの男と女と同じ翼が生えているのだ
水に濡れた服や翼、それに持っているものがが重いのか翼の羽ばたき方に力が感じられる
二人の容姿は殆ど同じでそれが彼らが双子だというのが分かる
そして二人が重そうに持っている大きな固まり、それはセルディアと相打ちになった女であった
意識が無いのか黒い翼はだらりと垂れ、服はセルディアの放った雷によって至る所が焦げてその肌を露わにしている
その二人がゆっくりと上昇を始める
「っ・・・逃がしてなるものかっ・・・」
「チル・・・」
ユディスはアルデリア王国の騎士隊長、チル・リーヴェルトを見つめた
ゆっくりと白けた視界が戻ってこちらの割れた闘技場へと戻ってきたらしい
先ほど雷光がはじけた時に目をくらませてしまったチルの視界も回復したようでしっかりと上昇し始める子供の二人組を見上げる
「できんの?」
「あんたも少しぐらい加勢・・・って出来ないのか。私が子供二人逃がすように見える?」
「違うわよ。体の事よ。あの男の一撃、響いてるんでしょ?動ける敵は三人。うち一人はなんでか宝玉のキースイッチを知っていて行使までできる。子供二人の力はまだわからない。魔術行使できるセルディアは相打ちで倒れてアシェードの坊ちゃんも介抱でいなくなってる。ホーカーは魔術使えないしあんたの体もボロボロ。私は言うまでもなく、戻ってきた王女がお一人居るみたいだけどもう打つ手はなさそう。動けるのは異世界人二人と仮面君ぐらいかな」
チルはゆっくりと鞘から蒼天駆を抜くが、剣をだらりと下げていてあまり俊敏に動き回れるようには見えない
そしてユディスは両手をあげて降参とでも言いたげな顔をしている
「あんたはここまでやられっぱなしで良いわけ?」
「いやいや。王女が攫われかけてここまで各国の騎士達に痛手を負わせられて、ただ黙ってみていられる方がどうかしているわ」
「あんたはどうなのよ」
「つまり、私もどうかしているわけね。まぁ国際問題に発展するのは間違いないかなぁとは読んでるわよ?その点では他人事では無いのだけど。けど、人数では五分でもこれはさすがに不利でしょう。こちらには決定打が無いもの。援軍でも来ない限りね」
チルは小さくため息をついた
しばらく会っていなかったので忘れかけていたが、そういえばこの人はこういう人だったなぁと思い出す
自分に出来ない事に関しては、ことごとく他人任せであるのだと
逆に自分に出来ることに関してはこれ以上ないほどの熱血っぷりを見せるのだが
「私は何も出来ないけど、あんたはどうなの?もう一回聞くけど、できんの?」
「・・・出来る」
「あっそ。じゃぁやればいいんじゃない?やるからにはがんばってね~」
チルは空を駆けた
それだけでも蹴られた部分のヒビか骨折かは確実だろうし、あれでそれなりに痛みもしているのだろう
それを下から見届けたユディスは一呼吸置いて上空で昔からの友誼が敵に挑む様を見つめる
「おおおおお!!」
チルは最後の一撃のつもりで天を駆け上る
次々に現れる空中の足場を縦に現れる階段をのぼるようにして彼らに一気に距離を詰めた
体の状態からして何度も打ち合う体力は残っていないのはチル本人でも分かっていた
だからこそ、決めねばならなかった
目的はあくまであの宝玉を取り返す事
アークスを殺すつもりは無かったが、それぐらいの勢いが無いとあの男には手も足も出ないだろう
少なくとも、ファンダーヌを裏切ったとはいえ、チルはその実力と経験は認めている
あの男も最盛期にはファンダーヌの騎士隊長だった時期があるのをチルは知っている
だからこそ、手負いの体でも本気でぶつかる必要があるのだ
このままやられっぱなしでは立つ瀬が無い
その一心で剣を振るった
「遅い。その剣が聖天下十剣だということも、その切れ味も知っている。だがその程度の実力で私の体に触れることができるとおもうてか?」
「否―――!!!」
そんなことは分かり切っている
アークスはチルの放った突きを交わし、逆にその剣を掴んだ
聖天下十剣は両刃の剣ではなく刀の形をしている
刃が男に触れる前に、その側面を掴まれているせいで動かすことが出来ない
「痛む体でよくやったとは思うがな。さて、邪魔もそこまでだチル・リーヴェルト。貴公が私に剣を向けるのは少し、早くもあり遅くもあった」
剣の早さか、それとも経験の浅さか、それとも実力の差か
チルは目を細めて皺の増えてきた老体の顔を睨み返す
そのアークスが再び宝玉を取り出した
チルが懐に隠していた短剣を取り出しアークスへと斬りかかる
接近した状態でその一撃を放った
短剣の煌めきを、その軌道をアークスは見定める
「アグニージュ」
が、一呼吸遅かった
その一言で、玉から発せられた赤の光りがチルを飲み込み、会場を包み込む
光りと共に、意識が途切れ、落ちていく
「いい夢を―――――皆さん」
燃えている
視界全てが真っ赤に染まる
燃えているのは世界?それとも自分の瞳?
揺れ歪んでいるのは人?それとも自分の影?
此処は何処だろう?
遠くに揺らめく一つの人影
・・・・あそこに見えるのは・・・俺・・・?
そうだ。あれは・・・自分だ
あのときの・・・今でも後悔し続ける、自分の姿だ
今回のお話、普段に比べるとかなり短いです。ごめんなさいorz