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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『聞いてません』




「奴は・・・」



カイが会場へと戻って真っ先に探したのはあの巨大怪鳥の姿であった


あの見かけからは想像もつかないが、確かに故郷の匂いがしたような気がしたのだ


もちろん故郷の北の地にあのような鳥は存在していないし、自分の思い違いかもしれないとも思った



「逃げた・・・?」



会場は突然現れたフェリーを保護したという雰囲気では無かった


それよりも奇妙な光景である


遠くに見えるグレアントの王女、そして黒髪の少年と女性


あの少年はこの地の新たな神子であるというのは聞いた


この地は龍の統べる地


故郷は一角天馬の統べる地であり、彼とは直接関係は無いが今その神子が奇妙な事に赤の他人になっている事が問題である


自らが一角天馬の神子だっただけに、すぐに一目見て分かった


あの女だと


自らの持つ力が奪われ、それが今あの少年の隣に立つ女性の中に宿っているのをカイは知っている


いや、感じている


カイは旅の途中で力を失い、次のマナの実りの季節までに何とかしないととは思っていたが、これも運命だろうかと仮面越しに女性を見つめた


大陸の反対側に位置するこのアルデリア王国でまさかそんなことになろうとは思っていなかった


だが、そんなことを今論じている場合ではない事も分かっていた


明らかに会場の様子がおかしいのである


自分が会場を出てから度々轟音が離れた場所まで届いてきた


カイが最後に会場を見たときから、戻ってくるまでに何が合ったのかは分からない


ただ、中央のメイン闘技場は二つに砕けその上には何人か人の姿が見受けられる


そしてずっと右に見えるのは横たわった女性とそれを介抱している男性


どちらも濡れている事から恐らく水中からあがってきたのだろうとカイは予想する


対岸にいる三人の目の前には何故か結界に閉じこめられた男が居た


あれが誰なのかは分からないが、もしかすると今回の騒動の原因かもしれない


遠くからでも男の異様な姿がよく見える



「翼・・・白の髪・・・まさかな・・・」



カイはそう呟いて風王奏を鞘から抜き放つ


彼が今しようとしているのは、会場を襲った犯人を探すことでも、殺すことでも無い


トルロインの貴族に言われた事を為し遂げる事だ


まずそれらを回収しなければならない


カイは会場をぐるりと見渡した


そして見つけた


宝玉のあった場所


そして人影



「あれを渡してはならない・・・か」



エフレルには事前にアルデリアとグレアントの両国から宝玉だけは絶対に厳重な警備の元に配置して欲しいと言われていた


というのも少し前、グレアント王国の方で宝玉の件でいろいろとあったらしいからだ


グレアント王国が所持するものでは無かったにせよ、宝玉が何者かの手によって実験、悪用されている可能性があるという事だったからである


その関係者だという少女との会談、わざわざその場に立ち会ったアルフレア王女の忠告もあって決して人の手では届かない場所に、また魔術防壁を符術で張った事で魔術による接近もできないようにした



だがそれを乗り越え、男は宝玉を手にした



「これが紅蓮の宝玉、紅玉・・・。フフフ、案外あっけない物だな」



自らの手に収まる深紅の宝玉を見つめて男の口元が僅かににやけた


その紅は、映るものすべてを紅蓮に染め上げ、球の中央に炎のように燃えたぎるマナの力が渦を巻き、それはまさしく心臓の鼓動のようなものを感じさせられた



「その宝玉、どうするつもりだ?」



カイはその男に向かって質問を投げかける


カイは今、水面から伸びた氷の柱に乗っている


男の立つ台座から数メートル離れており、そこが結界の最端であった場所からカイは男を見下ろしている


幾つか氷の柱が水面から伸びており、その上を飛んでここまで渡って来たのだと男は振り返りながら確信する



「できるかぎりこっそり来たつもりだったが・・・些か見つかるのが早かったかもしれん」


「もう少し早めに行動を起こしていれば、容易く手に入っただろうな」



会場の様子からして、少し前まで何かいろいろ起こっていたのは分かる


が、そのときに宝玉を奪わなかったことにカイは疑問を持った



「何、別の者の役目だったのだが、どうやらそうも言ってられない状況なんでな。あんなところで掴まるとは、予想外にも程があると思わないか?」



そう言って男はふっと微笑を浮かべる



「試合でも見た顔だが、君に止められるかな?」



男は手に持った宝玉をゆっくりと服の中へと隠す


内ポケットにでも入れたのだろう


とりあえず、彼らの仲間で宝玉を奪おうとしている以上、この男を止めないと行けない



「素直に見逃してはくれないのだ。言葉はいらない。剣を抜け」


「話は分からなくは無いが、お前、歳を考えろ歳を。いくら腕が立つ剣士でも老いには勝てないと思うけど?」


「若造がよく吠えるわ。そうとう自信があるか、この老いぼれ始めた奴の実力が分からないのか、どちらにせよ、哀れ」


「哀れ?」


「ああ。哀れ、哀れ、哀れ、哀れ、哀れ!歳とは経験、この体が朽ちる代償にこの頭脳が代わりを果たす。哀れ―――あぁ、哀れ」


「何がだよ、変な奴だなお前。気味が悪い」


「仮面に隠れて何を言おうとも何とも感じぬ。さぁ、剣を抜け。さもなくば斬るぞ」


「斬れないよ。俺の剣は。何があろうと、ね」



カイはこれ以上喋っても無駄だと判断して剣を抜く


日本刀のような風王奏を鞘から抜きは放ち、男もまた剣を抜く


両手でずっしりと構えた剣


老い始めたように見えるその体からも素早く動けるようには見えない


男の言動から見ても元騎士、あるいはその類の職に就いていただろうと推測できる


カイはゆっくりと足を滑らせる


経験だけは確かにあるだろう


こういった場合、相手は無闇に動かないであろう


早さで負け、体力でも劣る体で動き回るのは愚行であるのは分かり切っているだろう


俺の会場での試合を見ていた、という事はこちらの実力を見た上で勝算有りと男が確信したからにすぎない


そうでなければわざわざ剣をあわせるような事をするとは思えない


ということは培った力を瞬発的に出し、斬るつもりだろう


となれば・・・・・カウンターか


カイはカウンターに注意をしながら大地を蹴った


飛び出したカイは剣をしたから振り上げる形で斬りかかった


男はそのカイの動きをよく見ているようで一瞬で詰め寄った間合いから半歩ずらして剣を避ける


カイの横をとった男はすぐさま斬りかかろうとした。が


すぐに剣を止めて後ろへ引く


いつの間にかカイが左手を右の脇下へと滑らせており、冷気が吹き出た


とはいえ凍らせる対象が無い以上、冷気はそのまま周囲の温度をグンと下げただけで終わった


カイはこれを見て予想以上の手練れだと思った


あの一瞬でカイに斬りかかっていれば、男は全身雪まみれで凍っていただろう


それだけでなく、完全にその射程距離からも出ている


ただこちらが詠唱すればその隙に踏み込んでこられるだけの絶妙な位置に男は立っていた



「よく見ている」


「お前は見えていない」


「何・・・?」


「言っただろう。哀れだと」


「・・・・・」



完全に二人は動きを止めて見つめ合う



「何が哀れかと貴様は問うた。答えは―――無い。だが、あるとすれば、全てだ」


「全てが・・・・哀れ?」


「あぁそうだ!!」



男は突如口調を荒げて叫んだ



「老い逝く肉体、記憶が消えてゆく。そんな己が哀れだ。そしてこの哀れな世界にも私は絶望している。貴様の体が哀れだ。経験の無さも哀れ。あぁ哀れ哀れ哀れ」


「・・・なんなんだお前」


「私か?まぁいいか。私はアークス・ガランドーラ。ファンダーヌ王国第二王女、エリエル・シェルトール・ロフス・ファンダーヌが側近アークス・ガランドーラ!!つい先ほどをもって勝手に止めたので元がつくがな」


「・・・・なるほどね。誰かは分かった。恐らく裏切ったんだというのも分かった」



あの男達側に居るということは、もはや国の為に奉仕する人間では無いとカイは判断した


通りで身嗜み的に庶民じゃ無かった訳か


なるほど。先ほどまでは、ということはつまりそれまで王女達の側に居た訳か。内部に協力者が居たんだ。そりゃ簡単に王女達をさらえた訳だ



「一応その身柄は拘束させてもらうぞ」



カイはそう言ってファンダーヌ王国の裏切り者へと剣を構え直した





 「ちっ・・・何だよこりゃーよ!!」



爆音が響く


ビリビリと空気が振るえ、振動が足へと伝わってくる



「たぶん一応私の最高強度です。意志の強さがそのまま繁栄されているので脆いかもしれない。だけど、そんなものじゃぁびくともしませんよ」



そう自信たっぷりに男に言い放つのは一条唯



「一条さん、これを狙って・・・?」



彩輝はここにたどり着いたとき、周囲の四隅の地面に札を貼り付けていた


まさか結界用だったとは思わなかったが



「いや、本当の所は護身用の結界にするつもりだったんだよ。でもはじき飛ばされちゃってね」



そうこっそりと一条さんは俺に耳打ちした


なるほど。あの強度の符術なら確かに身を守る事はできるだろう



「っていうか勝手に戦闘態勢に入らないでよ~。結界発動させるかどうか迷ったんだから。フレアちゃんも捕まえろって、アーヤんにそんなのできる訳無いじゃないですか。無謀すぎますよ」


「む、すまぬ。が、まぁ捕まえたじゃないか」


「そうですけど・・・」



そこで彩輝は気になって一条に聞いた



「あの、これってどれぐらい持つんですか?」


「ん、この結界の強度?えーっとね、フレアちゃんの本気をギリギリ防げない程度かなぁ」


「わかんねぇ・・・」



まぁあの火柱が本気では無いのかも知れないけど、あの程度は耐えるだろうという本人の付け足しがあった



「とはいえ、一発だけならって事なんだよね。耐久力だと」


「あぁ、連続でやられるとまずいっていう・・・」


「え?」



三人同時に男を見た


男はすでに次弾装填が完了していた



「うおおおおっ!!!」



再び巨大な黒塊が結界へと衝突する


三発目をギリギリで耐えた結界だったが、これ以上は流石に無理そうであると誰が見ても分かった


アルフレアはもう魔石の予備は無く、一条さんも白紙の札と使えそうもない試作品の札ばかりを持っている


だが一条さんは任せなさいと言った顔で胸を叩いた


微かに胸が揺れたようにも見えたが気にしない気にしない



「無いなら書けばいいのよ」


「あぁ、って、そんな簡単なものなんですか?」


「ふっふっふ、美大生ともなると常時ペンと紙は持っているものだよ」


「ぜってー嘘だろそれ!普通持ち歩かないって!」


「じゃーん!かーみーとーぺーんー!」


「いや、そんな某未来型ロボット風に言わなくても良いんですって!」



この人本当に緊張感が無いのかと思えるような口調で何処からか紙とペンを取り出した



「ふふふ、見よアーヤん!」


「おおっ・・・!」



一条さんはそう言ってささっと書き上げた札を見せてくる



「・・・・・あの、本当にそれ効果あるんですか?」



彩輝は期待を持って見てしまったせいか、ある種の幻滅感を抱いた


自信満々に見せてきたその札には『めっちゃ強い結界!』と書かれていた


え、っていうかこんなので大丈夫なのだろうか?



「大丈夫よ。さっきのあの結界だって、かったーい防壁って書いたんだから」


「マジでか!?そんなんであの攻撃防げるのか!?」


「ようは言葉と魔力を込める札に書かれた文の意味が同じなら効果得られるみたいでね。まぁ本気で書かないと見合った効果は出ないと思うけど」


「なんか手抜き感が漂う仕上がりのようですが自信のほどは?」


「べりーぐっどよ!完璧パーペキ見てなさい!



えぇ~と脱力しかかった俺の肩をポンとアルフレアさんが叩いた



「大丈夫よ。なんて書かれているかは分からないけど、あの結界は私が見た符術の結界でも一番よ」



そういわれても・・・ねぇ


書かれている言葉に真面目さが全然感じられないんだもんなぁ


まぁ、信じるしかないか



「囲んで止めて!」



一条さんが自信を込めて言葉を発する


すると手に持っていた四枚の札がするりと手から離れ、風に乗るように綺麗に最初の四枚の上に重なる


その瞬間、男が結界を破った


ガラスが割れるような音と共に、割れた結界が光りに煌めく



「私なんでか結界のイメージがガラスに寄っちゃうんだよねぇ。先入観というかなんというか。ほら、透明で強度があるのものっていったらガラスが浮かんでこない?」


「んー、そうですねぇ。透明度は高いからプラスチックよりはイメージしやすいと思いますけど。っていうかそういうのでこれ決まるんですか?」


「そういうイメージをもって書いたからね。やっぱり透明なバリアってイメージがあるからね。そうしたらガラスみたいになっちゃって」



まぁ確かに、先ほどの札にはガラスとは書かれておらず、結界と書かれていた


ということは、恐らく本人のイメージ、想像、そういったものがあの結界を構成する元になっているのだろう


でも意識すれば変えられるという訳でもなさそうだと一条さんは呟いた


なんでもグレアント王国の方で試しては見たらしいのだが、強度的にも視覚的にも微妙なものができてしまったらしい


とはいえ便利だなぁと彩輝は思っているのだが



「無意識に、本人がイメージするものに近づく程度でしょうね。たぶん。強度は変わると思うけどね。普通のガラスはあんなの耐えられないから」



そう言って新しく札を書き始めた



「く、破っても破っても次から次へと書き足してくるか・・・・。妙だお前。マナを取り込まずどうやって術式を刻み込んでいる?」


「答えると、思う?」


「ない・・よなぁー。ちなみになんて書いてるんだよそれ」



男は結界を破るのを止めて一条さんと話し始めた


話の中でいろいろとこの術を抜けるヒントを探すつもりだろうか


とはいえ、それでも遅いのだが


俺は隣で術式を刻み込んだ札を見つめる



「これ?これはね、眠って気絶って書いてあるんだけど」


「・・・・・いくら符術にも限度があるだろう」


「魔術に限度なんて無いでしょう。なんともいろいろと理不尽なものばっかり。これがそうじゃないと言い切れる自信は貴方にあるかしら?」


「そんなもの効くはずがない」


「じゃぁ試してみましょうか。二人目の実験台としてね。気絶しちゃってぽっかーん!!」


「う・・・ぐぅっ・・・・」


「なんかもういろいろと台無しだよ!!!」



四枚の札がカッと光ったかと思うと、不思議な光りが男を包み込む


途端に男は膝をつきこちらを睨み付ける


そしてばたりと横へと倒れる


思わず叫んだ彩輝としてはもうキーワードがあまりにも酷い気がしたが、もう突っ込む気力も無いと首を振った



「ちなみに実験台第一号は私だ」



聞いてません


完全に緊張の糸が切れた彩輝は小さくため息をついた





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