表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
63/154

『相打ち』





彩輝は大きく一歩を踏み出した


勢いよく振るったソーレから二つの刃が空を斬り、天を駆ける



「行けっ!」


「当たれっ!」


「とどけっ!」



三人が同時に叫んだ


男に三人の叫びは聞こえなかったが、妙な魔力を感じ取った男は視線を眼下の騎士達からそらした


そこには先ほどの少年、そして王女と黒髪の女性が一人ずつ立っていた


三人はこちらを見つめて微動だにしていない


何をしている・・・?


男が不審に思った瞬間、男はとっさに剣を振るった


すぐ近くに魔力を感じ、そこに何かがあるのだと直感が体を動かした


短い剣は、何もない空間を切り裂いたように見えたが振るった右手は確かに何かを切り裂いた感覚を体へと伝えた


それで確信が持てた


これか!


先ほどこの刃に自分はやられたのだと気がついた男はとっさに体を半歩空中でずらした


舞い上がったローブの切れ端がはらりと風に乗って落ちていく


紛れもなく、先ほど立っていた空間を何かが通り抜けたのだ


あの小僧が出した技であるのは分かっている


だが、それにしては妙な感じがする


魔力を纏っているが、少年の周囲に魔法陣は浮かび上がっていない


特殊な能力者かと考えたところで男は接近する気配に感づいた



「うおおおおおおっ!!」



ものすごい勢いで水面がせり上がり、そこから飛び出してきたチル・リーヴェルトが剣を天へと構えて空を突き抜ける


どっぱぁん!と音がしたかと思うと目の前を何か人影が通り過ぎたのだと三人は理解するのに一瞬遅れる


水と共にチルが剣を引き、衰えそうになったスピードを再び上げるために足場を作り、近距離からまた加速した。だが


まるで槍のように鋭く、そして弾丸のように飛び出したチルはの攻撃はあっさりと男によけられた



「何なんだあの女は。我々とは違うくせに空を移動できるとは・・・」



飛び抜けていったチルを見上げた男は、とっさに己の失態を身をもって味わった


敵は一人ではないというのに、その敵から意識をそらしたのがまずかった


男の体を一本の雷の槍が直撃した


突き刺さった雷の槍は男へと一瞬吸い込まれたかのように見え、その一瞬後には背中から膨大な電気を空気中へと放出した


突き抜けた雷の槍は男のローブの一部を消し炭にして吹き飛ばす


遠くから見ていても男がその一撃に体を大きく震わせたのが見え、しっかりとその攻撃が命中していることが分かった



「よっしゃ!」



ガッツポーズをとって見せたのはセルディア・カルノンであった


いかに早い雷の一撃もこれまで男の意識がこちらに向いているあいだは一発も当たらなかった


だが今度はうまくいった


そう思ったのだが、男は落ちてこない



「何故だ!?」



自分で放った一撃の威力は十分に分かっているつもりである


即死レベルにはしなかったものの、意識を失うには十分、いやそれ以上に力を込めて放った一発だった


だというのにセルディアにはその一撃が耐えられたことに驚きを隠せなかった



「おいおい、マジかよ」



後ろでホーカーがつぶやいた



ローブの男も内心余裕では無かった


普通の人間なら感電死ギリギリの威力の魔術は男にとっても大きなダメージを負わせていた



「ちっ・・・」



油断しすぎたと男は思いながら翼を動かす


手傷を負ったこの体では体を宙に浮かせているだけで精一杯であった


体を貫いた雷光の一撃の余韻が覚めぬ間に、背後から声が聞こえた



「こっちだ!!」


「な・・・・」



故にその男は気がつかなかった。このやりとりの中で、誰が最も自分に対して危険であった人物の接近を


故に、男の反応は遅れ、振るわれた聖天下十剣の一振りが己の体めがけて振り下ろされていた事に対処が遅れた事


そしてそれらが脳裏を過ぎるより先に、新手の影が接近していた事にも気づけなかった


取った!


もはやチルの中には手加減という言葉が浮かばないほどに焦りが蔓延していた


相手が何者で、どういった経緯でこの事件に関与しているのか


本来なら捕縛することが望ましかったが男が予想以上の手練れである事に、その余裕が無い事も無意識に分かっていたのかもしれない


この剣の切れ味で斬りつければ、敵の胴体は真っ二つだろう


分かっては、いた


それ故に理解できなかった



「なーにやってんのよ。あんまり遅いから見に来てみれば・・・」


「なん・・・っ!?」



蒼天駆は止められた


あっけなく、一人の女の指に挟まれて


チルが騎士であり、毎日鍛錬を欠かさず、それでいて本気で振るった一撃があっさりと男の二本の指が止めてしまったのである


全てを否定された気がした



「さて、と・・・。助けに来たはいいんだけど・・・・思いっきり敵地のど真ん中・・・・本当何やってんだか、お前も私も」


「うーるせぇ」


「はん。その変な喋り方鬱陶しいから止めろってんだろ!ったく。あーもー、これで私も終わりだよ、お・わ・り!!畜生。責任とれよな!第一あいつはどうしたんだよ?折角北の遺跡から起こしてきたんだろう?姿が見えないようだけど?」



女はそう言って男を睨み付ける


女の特徴は男と同じように生えた黒い翼と黒い服であり、男のように体を隠しているようには見えない


金属のネックレスをしており、先には小さなメダルのようなものがぶら下がっている


両手首には青鉄の腕輪をしており、真っ赤な靴が艶々としているのが見えた


共通しているのは男も女も、髪が白い事であった



「重傷を負ったんでな。逃がした。後で使えるかもしれないからな」


「はぁ・・・まぁ潰されなかっただけマシか。で、あれも相当に強いはずなんだけど一体何にやられたっていうの?魔法障壁は?」


「物理的にやられた。あそこにいるデカブツに」


「って、なんでこんな所に龍が居るのよ!?」



女はそう言って、男が指さした場所に龍が佇んでいたのを見つけたらしく驚きに眼を大きく開いた


龍はあの後深追いすることなく、力無く去る者をただ目を細めて見つめていた


というよりまず最初に気がつけとチルは内心思ったりもしたが、緊張の糸は未だに切れていないのが自分でも分かる


警戒を解かずに二人の様子をうかがう



「これ本当にやばいわね。見捨てて回れ右すればよかった。助けようなんて思うんじゃなかった」


「何を今更。助けてよ~」


「怪我でもしてる?」


「いや、してないけど肩を担いでくれれば心が助かるっていうか安らぐっていうか」


「馬鹿?殺されたいの?私に」



チルは内心、どうしたものかと頭を悩ませた



「春雷の轟、天の顎と刹那の残光――――」



そんな言い合いもぴたりと止まる


二人が同時にセルディアを見下ろす


足下から浮き上がる魔法陣の大きさからして、とても大きな一撃が放たれるということがその場にいた誰もが予想できた


チルは咄嗟にその場を離れ、十分に距離をとる


セルディアはチルが離れたのを見て詠唱を続ける


咄嗟に動けないようならこちらに意識を向けさせチルを逃がす算段であったが、どうやらそれぐらいの体力は残っていたらしい


ホーカーは男にたたき落とされた勢いからして、骨の一本や二本にヒビや骨折があったとしても不思議ではなかったと思ったのだがどうやらそれは大丈夫のようであるとホッとした


この術が発動するにしろ、発動しないにしろ、チルが攻撃範囲内から出たのであればもう躊躇う必要もないとセルディアは詠唱を続けた


ローブの男と女に動きはなく、逃げる様子が無い


受けきれる・・・とでも思っているのだろうか?



「――――――鏤骨の咀嚼、汝を喰らおう!マスティカートボルト!!」



魔法陣が黄金に染まり、光りが溢れる


会場に居た全員が目を瞑るほどの強烈な光りが会場全体を覆う真っ直中、激震と爆音が会場を襲った


音で揺さぶられる会場に、水はさざ波をおこし、小石が小躍りする


強烈な光りが会場から消える


白い視界が徐々に開け、会場の様子が明らかとなった



「ど、どうなった・・・んだ?」



水中に沈んでいたリリッドが這い上がってきた


ずぶ濡れのリリッドの目の前には、依然と変わらぬ会場の光景があった


徐々に目を慣らしてきて目を開き始めた者も居れば目を押さえて膝をつく者も居た


水中からでも分かったが、会場を強烈な光りが襲ったのだろう


敵の技、あるいは身方の技か


どちらにせよ、この状況下では咄嗟に動ける者は少ないだろう



「ぐ・・・ぅっ・・・」



ドボンと背後で何かが水中へと落ちた音がした


這い上がったリリッドは後ろの水面を見つめた


広がる波紋の中心に、黒い影が揺れている



「くっ・・・・リリッドか?」


「え、あ、ホーカーさん!大丈夫ですか!?」



リリッドの背後から突如ホーカーが声をかけてきた


彼も先ほどの強烈な光りを浴びて完全に視界が回復していないようであった


目を閉じて手で押さえながら先ほどリリッドが呟いた方向へと声をかけたのだ



「まだ見えませんか?何があったんですか?」



リリッドが男に突き飛ばされ、一瞬気を失ったが溺れる前に気を取り戻したリリッドは咄嗟に携帯していた酸素石を取り出した


この石は地上では酸素を取り込み、水につけるとゆっくりと溜め込んだ酸素を放出する性質がある


口の中へと酸素石を放り込み、しばらく大人しく呼吸が整うのを待った


あがってきたときにはすでに謎の光りが終息した後であったため、何が会ったのかを聞き出そうとした


ホーカーはゆっくりと口を開いた


だが、彼はその事を説明するより先にある人物がどうなっているかを聞いてきた



「せ、セルディアはいるか?」


「セルディアさんですか?」



そう言われてリリッドは周囲を見渡した


だがセルディアの姿は無い



「い、居ません・・・けど」


「ちっ、では水中か・・・」



そうホーカーが呟いたところでリリッドはすぐさま上着を脱ぎ捨てた


愛剣のみを持って水中へと飛び込んだ


先ほど水中へ何かが落ちた音、あれはセルディアさんだったのだろうか?


もしそうだとすると急がなければいけない


あの閃光を浴びて水の中で自由に身動きが取れるとは到底思えない


そう思って飛び込んでみると、痛いように水の冷たさを感じる


目を開くと水のせいで視界がぼやけたが、透明性が高いこの国の水のおかげでハッキリと人影を捉えることができた


それも二つ


自分が気づかないうちに二人水中へと落ちていたらしい


一つはセルディアさん


もう一つは見たことのない女であった


先ほど波紋が広がった場所から丁度真下に居たのがその女であり、遠くの方に沈んでいくのがセルディアだと分かると一気に泳ぎ始めた


だが、気になることが一つあった。その沈んでいく女にも、


すぐにセルディアの体を支えて水上へと浮上する


だが、セルディアは別に光りによって水面へとあがれなかった訳ではないとすぐに分かった


目を閉じては居るが、意識が無い



「ぶはっ・・・はっ・・・」



水面へと顔を出し、息を大きく吸い込む


抱えたセルディアの体は、服が水を吸って重く感じる



「セルディアさんっ!」



リリッドはセルディアに呼びかけながら岸を目指した


緊急用のはしごがついており、意識のないセルディアを一端背負いなおし梯子を登る




 セルディアは魔術を放とうとしていた


取り込んだ膨大なマナを雷のマナに変え、詠唱も終わった


懇親の一撃であった


マスティカートボルトはセルディアの知る中でもかなり上位の雷魔術である


相手を上下から挟み込むようにして出現する無数の雷槍はまるで神の顎


更に一本一本が敵を追尾するように術式が組まれている


追尾する魔術はマナを普段より大量に消費し、また数を増やせばマナの消費は格段に上昇する


周囲の水と風のマナをかなり消費した一撃は相手二人を巻き込むはずだった


だが、咄嗟に不味いと見た女が体勢を変え、翼を大きく羽ばたかせた


マナの大量の消費から、これから行使される魔術は追尾式と見たのだろう


面倒なのは御免だと言わんばかりの形相でセルディアめがけて飛んできたのである


チルの剣を止めるのを見ているため、かなりのスピードがあるというのは予想できていたが、これほどまでとは予想していなかった


女がこちらへ向かってくる。そう意識した瞬間に、セルディアは咄嗟に術を放った


それも超至近距離でだ



「散らば諸共!」



周囲の身方にぶつけないように、という余裕は無かった


彼らも実両者であり、セルディアなんかよりずっと力は上である


それよりも、こんな女を野晒しにしておくことはセルディアにはできなかったのである


チルの剣を止め、空を飛ぶということはかなり攻撃を当てるのが難しい相手である


チルを覗けば剣士は全て空を飛ぶ彼女に手も足も出ず、魔術師が放つ技がそう容易く彼女を射止める事はできないだろう


少しでも手傷を、そう思い二人を上下から広範囲に広げていた雷槍を全てこちらへと向けた


そして行使した。その瞬間にセルディアの体は吹っ飛んだ


今日彩輝に突き飛ばされて、彼女は二度目の空を飛んだ


腹部に一瞬遅れた衝撃が来て、目の前に掌を突き出した女が見えた


意識は吹き飛びかけ、行使された魔術がキャンセルされそうになった


次々と雷光が弾け、膨大なエネルギーが光りとなって会場を埋め尽くす


だが、セルディアが途切れそうになる意識をつなぎ止め、まだキャンセルされなかった雷槍を女の背中へと後ろから突き刺した


女は雷槍を受け、気を失う


踏ん張る力もなく、だらりと水中へと落ちたのだった




 「あっら・・らぁ・・・」


自分もあれをくらっては意識を保てる自信はないなぁと男は内心思いつつ水中へと消えた同胞を見下ろした


広がる波紋は徐々に静けさを取り戻し、浮かんでこないのを見ると流石にやばいのではないかとも思ったりする


あの一瞬でよくあそこまで行動できたものだと拍手の一つもしてやりたかったが、今が好機とばかりに翼を羽ばたかせた


咄嗟に自身を両翼で遮ったおかげで男は目眩ましを起こさなかった


とはいえ、今水中へと消えていった彼女があの女の術を止めてくれなければ今頃どうなっていたかは想像もしたくなかったが


やはりこれだけの数、いずれも相当強い猛者達だ


二人でも無理があったということか


力があっても、血肉を求める獣と違って厄介であると男は思った


一発であの威力だ。数発続けて直撃した彼女は生きていたにせよ、意識は保てて居ないだろうなぁなんて考えながら男は客席に着地した


彩輝達がいる場所と対岸にあり、この辺には誰もいない


男もセルディアの魔法に一発被弾しており、複数直撃した女性よりは軽くとも、それでも大きな痛手になっていた


翼がいつものようにスムーズに動かない



「ちっ・・・神経回路が麻痺ったか・・・」



普通の人間が受ければ死んでもおかしくない電流だったが、それを受けてなお男が意識を保てていたのは彼が生まれ持ったその耐久力のおかげだろう


一族からしてみれば比較的高い位置にはないが、それでも常人よりは強力な体力を持っている自分ですらこの様か


男は息を荒げながら手すりに寄りかかる


息を整えている最中、突如横の手すりが切断された


振動もなく、すぱっと斬れた手すりの切り口が見えた


数十センチずれていれば、手すりに置いていた右腕が吹き飛んでいただろうとそれが飛んできた方向を見つめた



「また彼・・・か」



視線の先には一人の、黒髪の少年が立っていた


短な剣を構えた―――いや、振り切った体勢で立っている


その表情は対岸にいる男の肉眼で確認できていた


外したのを悔やむ顔だ



「いいでしょう。宝玉を持って帰る前に、まず邪魔な動ける者を潰しましょう」



目を眩ませていない者の数を数える


もちろん只の剣士は外して、だ


自分の逃走に危害が加えられそうな者を数えると



「いーちぃ、にーぃ」



黒い髪の男


白い髪の女


まずその二人を指さしでカウントする


少年が放つ攻撃は見えない分たちが悪い


魔法陣も出ていないようで、意識を集中していないと不味いかも知れない


まぁまだまだ命中精度が悪いだけマシか


他人に構っていて背中からやられるのだけは避けたい


そしてあの白髪の女


どうやって飛んでいるかは知らないが、まぁ若干目は眩んでいるようではある


とはいえ、万全の状態でない今、その白髪の女に大きな邪魔をされるとは考えにくい


魔法を使っていないのを見るとただの剣士のようでもあるので遠隔攻撃は無いだろうと予想する


黒髪の横にいる紅髪の女、それと黒髪の女もまだ何もしてこないところを見ると大したことはないのだろう


ただ少し気になるのはあの紅髪の女だ


グレアント王国の王女であるのは知っているが、実力があるのかどうかは知らない


ただ、唯一眠って折らず自分に攻撃してきたのを覚えている


あのとき魔法を使わなかったのを見ると、彼女も少し剣術に心得がある程度の実力だろう


隣の黒髪の女の実力も分からないが何もしてきていないので今は除外した


まぁ強いて言えば黒髪という所に興味がそそられる程度か


見たことのない黒髪の少年が不思議な魔術を使ったので少し気がかりではあった


他に動ける騎士は数人いたが、一人はセルディアを介抱しており、もう一人は槍を持っているが目を眩ませていないが魔術は使えなさそうだ


後ろに居る髪の長い女性はどうも完全に目を眩ませているようである


ふらふらっと歩き、割れた会場の欠片に躓いて水の中へと落ちていった


ただ気になるのは会場のそとで動いた大きな二つの魔力


間違っていなければ、炎と氷


会場にその使い手が戻ってきている可能性も考えなければならない


なぜならその二つの魔力を操る魔術師を未だこの目で見ていないからだ


もしかしたら今除外した中にも魔術師がいる可能性がある


だが、遠距離魔法なら避けられる


遠隔でも何とかして振り切ろう


命よりも、今はこの傷の復讐だけを考えていたい



「まずは黒髪」



キッと彩輝を見つめ、彩輝も男を睨み付ける


視線が重なり、開戦の火蓋が落とされた


先ほどより軽くなった翼を動かしローブの中から剣をとりだした


何の装飾もない、ただ人を殺すための剣だ


彩輝が剣を振るう


男はその軌道から体を反らす


何かが通り過ぎたかもしれないが、見えないので分からない


不思議な斬撃だ



「面白いな。だけど、あたらない」


「捕まえろ!」


「うおおっ!」



がんっ!と鈍く響く金属音


手元に伝わる衝撃で地面に立つ足が踏ん張っているがずるずると後退した



「轟炎よ、敵を穿ち、針を焦がし通す。ブラスエギーユっ!」



早口で短な詠唱を唱えるアルフレア


素早い詠唱で魔術そのものの威力は低いが、男を貫くには十分だ


それに近くに二人の人間が居るため巻き添えにしたくないのもあったが、手持ちの魔石が小さかった事もありあまり大きな魔術はうてない


彩輝は男のローブを掴み、逃がさないように引きつける


男も咄嗟に逃げようとしたが、それは叶わなかった



「ぬおおおおお!」



男が叫びながら無詠唱の魔術を発動させた


至近距離から放たれようとした炎の針が黒い靄を明るく照らす


いきなり立ちこめた黒い靄が、男を包み、そしてはじけ飛んだ


黒い輪が男を中心に波紋のように広がる


吹っ飛ぶ彩輝がゴロゴロと地面を転がる


余波を受けた一条も手で体をかばうようにしたが、やはり威力が強すぎたために大きく尻餅をつく形で一瞬宙に浮く


軽く悲鳴を漏らした一条の隣で魔力を失ったちいさな魔石が転がった


アルフレアも一条のようにそれが物理的な波動であるのを見極めて体を後ろへと後退させながら腕を交差させて黒の輪を受け流そうとした


だが力不足か彼女も一条のように少し距離をとって尻餅をついた



「っはぁ・・っ。焦らせるなよ・・・」



男はゆっくりと着地する


その瞬間、これまで動くことの無かった一条が口を開いた


男も全く予期せぬ出来事に一条を振り返った


倒れたまま一条は男めがけて声を発した



「――――囲め!!」



ぱしぃんっ!と男の周囲で音が鳴り響く



「なんだ・・・?」



男はそう呟き、足下の四隅に白い紙が地面に貼り付けられているのを見つけた


見慣れぬ文字であったが、これが何なのかはすぐに分かった



「符術かっ!?こーれしきぃのぉ符術でぇー止められるとおもうなあよぉ!!」



男はすぐさま符術の結界を破ろうと黒の魔術を発動させた


男の頭上に巨大な黒塊が形成される


靄が集ったその黒塊は見るからに堅そうで艶やかだ


漆黒が、次の瞬間見えない壁に阻まれる


普通の符術の結界は其処まで強度が有るわけではない


符術に込めた術の強さはすなわち魔力の量でもある


この程度の符術を破れぬ訳がないのだ


その常識が通用しなかった男は立ちすくむしか無かった


巨大な黒塊は壁にぶつかった瞬間、強制的に黒の靄へと逆転し、空気中へと霧散していった



「なん・・・・」


「成功・・・だね」



よろりと立ちあがった一条が痛めた腕をかばいながら立ちあがる


足も少し捻ったようですぐに会場の手すりにもたれかかった



「貴様・・・なんだこれは」


「予備で結界張ってたんだよ。結界っていってもこの世界のとは違うみたいね・・・。貴方の顔からしてみると。それとも私だけの特殊能力とかだったり・・・ってそんなわけないか」



はじき返すのではなく魔術を無効化したのは予想外だったが、どうやら男の行動を制限できたようで一応これで良いかと苦笑いを浮かべた



 そのとき、一つの影が会場へと戻ってきた


青い髪と白の仮面をつけたカイであった



 そしてもう一人、それはゆっくりと手を伸ばす


守る者など誰もいない、深紅の宝玉へと



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ