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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『紅蓮の王女』



アルフレアは小さな物置小屋のような場所に閉じこめられていた


気を失ってどれだけたっただろうか、彼女にもそれは分からない


目が覚めれば見知らぬ場所に閉じこめられていたのだから分かるはずもない


目を開いて思いつくのは、暗い、そして物置のような場所という事だけである


奥には埃を被ったような年代物の箒や壺がいくつも置かれているのが見えた



「目が覚めたか」



突如背後からした声にアルフレアは息を殺した


男が倒れたアルフレアの前方へと回り込んできた


視線を足下から上へと上げていく


暗い物置を照らすのは小さなランタン一つ


その壁に掛けられたランタンが男の顔をうっすらと照らし出す


両手両足を縄で縛られており、身動きは取れそうもない



「おはようお姫様」


「最悪の寝起きだ。お前、私にこんな真似をして只で済むと思うなよ」



照らし出された顔、それは恐らく自分を眠らせたローブの男では無いと判断する


理由でいえば最初に違和感を感じたのはその口元だ


男の表情を読み取れる唯一の場所だったからだろうか、ローブの男の口元の印象はしっかりと覚えていた


それにあのローブの男には髭は生えていなかったし、そもそも声も違う


身長も見上げているからだろうか、あの男より若干大きく感じられる


アルフレアはどうにかして縄を解こうと手足を動かしたが取れる気配は微塵もない



「つれないこと言うなよ。なぁ」


「何が目的だ。金か?宝玉か?」



王女を攫うほどの大がかりな計画、そもそもこんな簡単にいくはずがない


何故あんなにも簡単に忍び寄れた?それに自分以外の王女達は何故突然の睡魔に襲われたのか



「そんなものに興味があるのは一人だけ。まぁあいつもそれなりに恨みはあったようだが直接王女に仕返しをするつもりは無かっただけらしいがな」



ということは犯人は最低二人はいるわけだ


あのローブの男、そしてこの男


ただ二人以上居ると考えてまず間違いは無いだろう


二人でやるにしては男が他の四人を一人で連れて行けるはずがないとアルフレアは思った


実際には一人で五人を運んでいたのだが、二人ではないというところはあっていた



「他の王女は無事なのか?」


「まぁな。まだ・・・だけどな。さて、お前、俺が誰だか分かるか?分かるわけないよなぁ」


「知って居るとも。記憶力だけは多少自信はあるんだ。一年前、騎士の応募に来ていたオルドート・カルコだろう」



男がすんなり自分の名をあげた王女を見て目を丸くしていた


それもそうだろう


まさか一年前の騎士の応募に自分が混ざっていたことを覚えているはずが無いと思い切っていたからだ


普通ならばそうだっただろう


王女であるアルフレアが、騎士になってすらいない只の国民を覚えているはずが無い、と



「それで、私に恨みがあるのだろう?さっきの口振りから考えるに」


「・・・まぁな。でもまさかあんたに自分の名前を当てられるとは思っていなかったがな」


「私の記憶では、お前とは一言も話した覚えが無いのだが」



アルフレアはザッと記憶を遡ってみたが、この男と直に接した思い出は全くない


以前書類で見た事があるだけである



「そりゃぁそうだ。普通は王女が民の前に顔を出す事もないうえに干渉なんて以ての外だろうな」


「・・・・何が言いたい」


「別にたいした意味を込めた訳じゃねぇよ」



男はそう言ってしゃがみ込む


アルフレアの顔のすぐ近くに男の顔が迫る



「俺は恨んでるんだよ。俺を採用しなかったお前等をな」


「あ?」


「ふん。どうせ何も考えちゃいないんだ。お偉い様は。何時何処で俺たちが苦しもうと、お前達はのんきに毎日お城で宴ときたもんだ。やってらんねぇよなぁ」


「偏見だな。それに逆恨みか?」


「ふん。俺だってそこらじゃ名の知れた憲兵だったつもりさ。そんな俺も足を払って隠居してたところに騎士になりませんかとお前等のところからお誘いがあったんだよ」



アルフレアも男の言っている意味は分かった


グレアントでは新規の騎士を採用したいとき、二つの方法がある


一つは男の言った通り、国内にいる実力があると思われる者に騎士にならないかと書類を送るものだ


強制では無いのでその力を国のために役に立てないか、ということだ


だがこれで採用される者は少ないと言って言い


これは何も国内全員に配る訳ではなく、ある程度の実力を持った人間にのみ送られる書類である


国に住むにも住民届けやら過去の犯罪歴やらといろいろと情報を得る手段がある


その中から、憲兵やギルドをやっているものなどからごく一部を選び、書類を送るというものだ


もう一つは志願者を募る方法


実力が無くとも騎士になれる素質は有るかも知れない


騎士になりたいと思って来る者はこの道を通る事になる


志願してきた中から募集定員分を選ぶ


もし人数が少なくても全員を合格とする訳にも行かないので一応基準ぐらいは設けてある


それをクリアした中から選ばれるのだ


男が憲兵をやっていたというなら男の元にもそんな勧誘の書類が行っていてもおかしくはないとアルフレアは思った


いや、この言い方はおかしかったか


アルフレア自身が彼を選んだので、あぁそうかと思い出して思ったのが本音であった



「ふん。それで試験に落とされて逆恨みか?確かに私はお前を選んでおきながら不採用にした」


「俺としては腹が立つんだよ!要するに俺の力を認めなかったお前等にな!!」


「バカらしい。落としておいて正解だったよ。確かに書類上はお前の実力はそれなりのものだった。だが、落とされた理由が分からないようではお前はいつまでもうちでは採用しない」


「なんだとぉ・・・」


「力バカだな。ちょっと力があるからと威張りおって。ほら、ちょっと言われてすぐ怒る。そこが駄目なんだ」



アルフレアが使える魔法は火の魔法


だがここにはその火のマナは無い


その場に火のマナが無くとも、それを補う事ができる物がある


魔石である


魔石はマナの結晶のような物で土のマナが多くそのマナを吸い取った時に凝縮して生み出される物である


土のマナは他の属性のマナを吸収する性質があるのだが、もし山火事や火山地帯なんかだとそこには火のマナが多く溢れるのである


空気中や地中に溜まった火のマナがある一定箇所へと集中して吸収された場合、そこにマナの結晶、魔石ができあがるのである


土のマナもそこら中の土にあるわけではなく、養分の溜まった場所によくできる傾向がある


落ち葉が溜まった土の周辺などがそうである


その魔石には他のマナが混ざっていないほどの純粋なマナの結晶であり、それを持っていればそこからマナの補充ができるのである


アルフレアはその火のマナの結晶である火の魔石を常時持ち歩いている


水のマナは水そのものに宿っているため水の魔法使いの多くは魔石では無く水の入った瓶を持ち歩くと聞いている



「まぁ今のところは殺す気はねぇから安心しな。お前は大事な取引道具だからな」



男はそういって椅子にドサリと座った


「取引道具・・・か」


「ん、なんだ?今ので怒ったか?」


「・・・いや、決心がついただけだ」


「決心?」


「あぁ。お前が私を人として見ていないのならば、もはや容赦はしまい」



ドレスの中に入っていた火の魔石からマナを取り込み体内で変換させる


小さな魔法陣が広がり、それと同時に手足のロープに小さな火をつける


火はロープを焦がし、ぼとりと地面に落ちる



「な・・・バカな!?火のマナなどこんな場所にあるはずが・・・まさか魔石・・・」


「用心して持ち歩いていて助かった」



とはいっても持ち歩けるようなサイズの魔石では凝縮されたマナの量なんてたかがしれている


だが、小さな火をつけるぐらいなら問題は全然ない


それに加えてもう一発だけ普通の魔術を使うくらいなら問題ないくらいの量である



「あり得ない、とでも思っているのかその小さな脳みそは?」


「ちっ・・・」



男が腰に差した剣を抜いて襲いかかろうと前屈みになった



「遅いっ!!」



アルフレアは男が剣を抜くよりも早く魔術を行使した


魔法陣が再び広がり先ほどよりも大きな魔法陣の光が暗い倉庫を紅く染めた



「あふれ出す 灼熱纏う 竜の牙!ドラグラニスク!!」


「ぬ、おっ!?」



あふれ出す魔力の渦が魔法陣を通して魔術へと変換される


振りかぶった右腕から大きな牙のような物が一本突き出す


実際には腕からではなく、纏った炎から飛び出た炎の牙のように見えるそれは完全に室内を明るく照らし出す


男の驚愕する瞳めがけ、アルフレアはその右腕を振り下ろす


鎌のような炎の牙が、斬りかかってきた男の頭上から振り落とされた




 彩輝が小屋に小走りで駆け寄っていく


そして、吹き飛ぶ小屋の屋根



「ぬぁーーーーー!?」



尻餅をついて吹き飛んだのが屋根、そして吹き飛ばしたのが炎の柱だということに脳が解釈するまでにたっぷり十数秒かかった



「な、なな、何事!?」



吹き飛んだ屋根は消し炭になって風に舞い、突如現れた炎の柱も一本の糸のようになって空気中へと消えていった


彩輝が王女を捜して手始めに目の前の小屋から探そうとしたらこれだ


心構えもしていない状態であんな爆音と誰も予想できないような光景を目の当たりにして尻餅をつかない奴がいるだろうか


立ち上った柱を視界でとらえた瞬間に周囲に恐ろしいほどの熱の波が襲いかかった



「ふぅ、久しぶりにすっきりしたが、この男死んではないだろうな?」


「ア・・・・あああああアルフレアさん!?な、何がどうして・・・」


「お、おうアヤキ君。君とはよく会うね」



俺の前に現れたのは一部焦げた真っ赤なドレスを身に纏い、ずるずると男を引っ張ってきたグレアント王国王女アルフレアさんだった


普通初めてこの人の様子を見て王女だと思うような奴は居ないだろうというくらいに、顔にはススまでついているほど汚れていた



「いやね、誘拐されたから返り討ちにしたんだよ」


「あの、いやそれは・・・知ってますけど・・・」


「ん、どうした?いつもの元気無いじゃないか」


「いや、だってねぇ、あれ、アルフレアさんがやったんですか?」


「ん、そうだ・・・・が・・・」



アルフレアさんは俺が指さす小屋を振り向いて、言葉を発していた口がぴたりと止まった


そこには、屋根の吹き飛んだ小屋が一つ


窓は吹き飛び、至る所が焦げて黒ずんでいる



「・・・・うん。費用は後でだそう。うん。私金持ちだから」



いいのかそれで!?


いや、まぁ金持ちだとは知っているけど



「そうだ、私以外の王女もどうやらさらわれているんだ!」


「あ、知ってます。それで探していたんですよ」



なんというか、普通こういう捕まったお姫様って閉じこめられたりしてて、それを守るようなボスがいたりしてっていうのが普通だったと思うんだけど・・・なぁ


だよね。普通。さらわれたお姫様が普通さらった男を倒して来るとか普通じゃ無いよね



「たたきのめす前に場所を聞き出しておけばよかったな」


「っていっても、それ人なんですか本当に?炭化してません?」



アルフレアが引きずっている男はもはや人の形をしてなければ人だと分からないくらいに真っ黒になっている



「多少かっとなりはしたが寸前で手加減した・・・はず」


「断言はしないんですね」


「ま、まぁ、そこは・・・ね。それより、あとのみんなは・・・」


「あ、リーナの二人は見つかったらしいです。他にも何人か探しに出てくれてる見たいですけど」


「そう。じゃぁ後は」


「セレシアさんとえっと、エリエルさんですね」



一瞬名前が出てこなかったが何とか思い出して恥ずかしい思いをしなくて済んだ


アルフレアもこくりと頷いてドレスから小さな石ころを取り出して後ろに放り投げた



「今のは?」


「あぁ。使い終わった魔石。マナ吸い取っちゃったからね」



どうやら魔石というものはマナを吸い取ると普通の石へと戻ってしまうらしい



「でも一体何があったんですか?」



あんな物騒な魔法を放つこともできるようなこの人があっさり誘拐されるとは思わない


というか誘拐した本人を倒せる実力がありながらなんで誘拐なんて



「さぁ、ね。避難していたら突然四人がばたりと倒れてね。私だけは何でか大丈夫だったけど、その後現れた男に眠らされたのよ」



拳をグッと握り締め、悔しさを露わにしている



「あのローブの男・・・次会ったら只じゃ―――」


「ローブの男?」



その先を、彩輝の声が遮った






 「もう、あれ、つぶしていいんですよね?」


「あぁ、もちろん」


「何よ、じゃぁわざわざ捕まえる必要ないんじゃない・・・」



一方会場ではツキ、グレアント王国序列三位のセルディアが割れた闘技場の上に立っていた


各々、足下には大きな魔法陣が広がっている



「これじゃぁ仕事、なさそうですね」


「だな」


「あの二人で大丈夫よね」



その後ろでドッサリとびしょぬれで座っているのはグレアント序列一位、シレンシス・ルーとリーナの近衛隊長であるラミア・シェークスであった


そしてその後ろには這い上がってきたユディスとチルが居た


折れた翼を広げ、龍の攻撃によって痛手を受けた魔獣は敗走を始めていた


幻視でフェリーに見せていたがそれすら解けてしまい、もはや手加減は必要ないとの判断が集まった騎士や魔術師でされた


誰も見たことの無い魔獣であり、殺してしまうのは些か躊躇われたがここまでされておいて逃げるのを待つ気は誰の心の中にも無かった



「静かなる立花よ―――」


「万雷よ―――」



ツキ、そしてセルディアが魔術を行使しようとした



「静かに忍び―――」


「幾万の槍となりて―――」



ツキが大きく手に持った杖を振りかぶる


セルディアは右手を振りかぶる


杖にもまた魔法陣が浮かび上がり、セルディアの右手の先にもまた魔法陣が現れる


手の先にいくつもの槍が生まれる



「静に吹雪け」


「敵を貫け!」



二人が同時に杖と腕を振るった



「ユミリス!」


「イラディアント!」



杖の先の魔法陣からはあふれ出してくる粉雪


腕を振るって飛んでいく雷の槍


二つの魔術が逃げようとする魔獣めがけて飛んでいく


魔獣は飛んで逃げようとしているが、翼が折れているためスピードを出せていない



「逃がすかぁっ!」



セルディアが吠えた


後ろががら空きなうえ、逃げるスピードよりも魔術が魔獣へ到達するスピードの方が早い


誰もがそう思った


だが



パシュンッ!!



「な!?」


「え・・・」



二人の声が漏れる


襲いかかる吹雪と雷の槍は魔獣へと到達する寸前、見えない何かに弾かれたのだ


空気中へと四散する魔術


しかし魔獣が攻撃を防御する様子は全くない



「防がれた、か。物理的な攻撃しか受け付けないのか・・・?」


「あ、じゃぁ次私ね」



チルが蒼天駆を鞘から抜く


さっきの仕返しと言わんばかりにチルが空中へと飛び出していった


先ほどチルが放った攻撃が当たって重力の魔法が解けたのを思い出して誰もチルが飛び出していくのを止める者は居なかった


そこにホーカーが到着する



「皆・・・」


「ホーカー・・・さん?」



ラミア・シェークスとシレンシス・ルーが振り返るとそこにはいくつか武器を担いだホーカーが居た



「どうしたんですかそんな汗だくになって・・・それにその武器って」


「あぁ、お前等のだ。それよりも耳に通して欲しい大事な話がある」



そう言って総重量とてつもない武器の束を床へと降ろす


息を整える様子を見てどうやらかなり走ったらしい


顔を上げたホーカーの顔を見て、ラミアとシレンシスが顔を見合わせた




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