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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『宝玉を狙う者』




「おぉ、これはこれは・・・」



ローブの男が会場に足を踏み入れる


会場には客席へと繋がる通路が何本もあり、それらは裏手でぐるりと会場を一周する長い廊下と繋がっている


観客のおよそ半分ほどがすでに会場から姿を消しており、もう半分の観客も出入り口の階段に殺到している状態であった


ローブの男が予想していたほどの混乱は起こっていないようだったが、まぁいいだろうと判断する


今なら会場に忍び込んでもそれほど目立ちはしないだろう


わざわざ封印を解いて幻視の魔法という面倒くさい事をする価値は少しはあったようだと男はローブの下の口元に笑みを浮かべた



「さぁて、ちょっとした彼の不手際も、まーぁ許してぇあげましょーう。計画にズレはありませんからねぇ」



そう呟いた男はゆっくりと客席の階段を下る


カツンカツンと響く足音が階段の壁に反射して響き渡る






 男は今、誰もいない廊下で三人の仲間と別れた


昨夜仲間になったローブの男は手はず通り、五人の王女を眠らせた状態で誘拐してきた


一人でその五人を抱えてきたのかと思えば、現れた時男はその五人を魔法を使って宙に浮かせながら歩いてきたのを見たときは初期メンバーの男達は流石に驚いた


怪しげな男、大口を叩くからにはそれなりに力は持っているとは思っていたがまさか魔法を使えたとは誰一人聞いていなかった故に、驚いた


男はその後、「私は私の仕事をさせてもらうのでぇ、ここで手を切りましょーうかぁ」と言って会場の方へと戻っていった


しかしこうもあっさりと事が進めば誰しも多少の不安や戸惑いが見える同士も居た



「では、各自この王女達を隠して待機していろ。俺は要求を通しに会場へと向かう」



当初、あのローブの怪しい男が現れてから最初の予定とは別の行動をとっている


俺たちの狙いと男の目的は全く違うのだから最初に立てた案とは別の案を臨時で立てることになった


混乱はローブ男が起こしてその隙にローブの男は狙っている物を回収したいと言うのだ


ただ混乱を起こすだけならば当初の予定でも良かったのだがこの大会には幾人もの強者が集っている


それも他国の隊長格レベルが数人である


とてもじゃないが自分たちだけでは相手は無理で、さすがに余裕を思わせる態度をとっていた男もその点については一人では無理があると言っていた


故に王女の拉致という当初のメンバーの目的、そして男の任務遂行の為の案がこれである


まず男が何らかの方法で会場を混乱させるように仕向ける


その隙を狙って男が五人の王女を眠らせ、拉致しやすい状況を作る


目的である王女の拉致をそこで俺たちが引き継ぎ、男は混乱に乗じてその狙っている物とやらを回収するのだという


ただ、それだとそのローブの男が俺たちから何も助けていないということになるので俺たちはその男の手伝いのために一端拉致した王女達を隠してから先ほどまで五人の王女が居た来賓席まで戻ることになる


そこで男が動きやすいように王女を人質に隊長格の動きを制限するのが四人の仕事である


とはいえ何か不手際があって一網打尽になってはもともこうも無いので仕方なく自分一人が会場の来賓席へと戻ることに急遽決まった


残った三人は王女を隠し、眠りが覚めないように見張っているという配置になった


急いで事を進めねば、王女が起きたりあの得体の知れないローブの男が動きやすいように取りはからわないと、逆にこちらがあの男に何をされるか分かったものではない


俺個人ではもちろん、四人で襲いかかっても倒せるという気が全くしない


なんなのだろうかあの男は・・・


突如やって来て、仲間にしろと?


普通そんな訳の分からない男を仲間にする理由など無いのだが・・・


むしろ自分たちはあの男に使われているとしか思えない


王女を拉致したいという自分たちと、捜し物を回収したいというローブの男


一応利害は一致している・・・・が


だがあの男は俺たちを見限れる。逆に俺たちはあの男に逆らえない


これを共闘や協力と呼んでいいのだろうか?


だが、自分たちは王女の拉致にさえ成功すればそれでいいのだ


それだけで・・・願いは叶う


長年の恨みを晴らせるのだ


男は倒れた護衛二人を見下ろして思った


どうやら倒れている二人の護衛騎士はあのローブの男にやられたらしい


やはりあの男はただ者ではないとつくづく思う


こんな、護衛を任されるような騎士をあの軽々しい口調からは余裕で倒した口ぶりであった


そうでなければあんな振る舞いはできないはず


血は出ていないが、死んでいるのだろうか?


とりあえず考えるのは後にして、先へ進もうと男は来賓席への階段を駆け上がる


外に近づくにつれて少しずつ、観客達の小さな悲鳴が大きくなる


男が日の光を浴びてそこで目にした光景を見て、これを男が仕組んだのかと目を疑った


何せ目の前に居るのは七色に光る虹の巨鳥、フェリーだったのだから男もそれはそれは驚いた


フェリーは存在が知られているとはいえ、普段は人目につかないテルミアの森の奥深くに住んでいると聞いている


普通はこんな王都まで現れるはずもなく、そして大人しいはずのフェリーが自己防衛以外で人に襲いかかっているなんて信じられない


目の前で騎士達が少しずつ集まってきているのが見えたが、まだフェリーの方に目がいっているので男が来賓席に現れたことには気がついていない


全員がやられる、なんてことは無いと思うがこの状況で交渉するというのも無理がある


彼らがこの一見を片付けるのを待つとしよう




 彩輝は会場の控え室にいた


自分の試合が終わり、救護室から控え室へと戻ってきたのである


一条さんはもう少し休んだら良いと言ってくれたのだが、特に体に異変を感じないので何かあれば戻ればいいと言って控え室へとやって来た


だが、選手が居ない


うむ?


自分が試合に行くまでは結構な人数がこの控え室に居たはずだ


控え室は二カ所ある


クジを引いたときに順番と一緒にくみ分けもされたのだ


控え室は試合の会場を挟んだ両側にあり、そこを出て階段を降りてそこから会場へと移動する


もしもの時の為の移動できる通路は一つしかなく、二人の選手は別に小さな船に乗ってリングへと登るようになっている


選手を二つに分けるため、機能より数は半分半分で多少減ったりはしたのだが、なぜ誰もいないのだろう?


流石におかしいと思った彩輝は腰に携えた木製の双剣のうち一本を抜いた


室内は静だが、外の方では何か物音がしている


先ほど一本は水中へと落ちていったため、もう一本を控え室の後ろにある予備の武器が無数に並べられた棚から一本を引き抜く


その一本を腰に差し、会場へと続く扉から外を覗く


途端、俺は外へと続く扉へと手を伸ばし、そして会場へと走り出していた


迷いや躊躇いは全くなかったのがちょっと不思議だった


飛び出してすぐ、頭上を見上げた


青い空に影一つ


巨大な鳥が空で旋回をしていた



「なんだ・・・・あいつ・・・・」



俺が出会っている龍より若干小さいが、かなりの大きさはある


これまで見てきた鳥とは比べ物にならないほどに大きいその鳥は、ゆっくりと大空で円を描いていた


その真下の舞台には多くの騎士や大会の参加者が見受けられる


中には観戦をしていた先生やツキなどの姿も見えた


皆いったいどうしたというのだろうか?



「何、これ?」



そんな声が少し後ろの方から聞こえてきた


見れば観客席の出入り口の一つから一条さんが巨大な鳥を見上げていた


その巨大な鳥は色だけで言えば綺麗だ


だが、何かが違う


その色鮮やかな虹色とは違う何かが、あの鳥にはあるような気がしてならないのだ


まぁそれが恐怖や戸惑いから来ているものの錯覚なのかもしれないが



「一体俺が居ない間に何が?」


「おんやぁ?人が居ないところを通ってきてみれば、なーるほどぉ。控え室に繋がっていたんですねぇ」



突如、後ろで聞こえた声に反応した俺は後ろを振り向いた


声からして聞き覚えがあった


反射的にもう一本の剣を抜いて構える



「アーヤん?」



一条さんが振り返った俺の動きを捕捉して俺を見つけた


上から声をかけてきたが、それに答える気は無い


何せ目の前に居るのは過去に俺たちの目の前から黒玉を奪っていった男だ


前は突然現れたと思ったら空を飛んでいた為あまり身近で顔を合わせることは無かった


あのときは顔をローブで隠したうえ、夜であったために顔は全く見えなかった


今回もローブで顔を隠しているが真っ昼間の登場に少々驚いてしまう


しかし何故こんなところに奴が・・・?



「ふむ、また君ですか」


「なんだ、あんな距離で、しかも夜だってーのに覚えてたかよ」


「えぇ。大事な黒玉を回収に来たときに会ってますよね?」


「あー、そうだよ。てか返せ」


「やだ」


「んー・・・返してください」


「や」


「・・・・」


「・・・・」



両者にらみ合いが続く


え、ていうか何このやりとり?



「あの、本当に無理ですか?どうしても欲しいんだけど」


「奇遇ですね。こちらもどうしても欲しいのですよ」


「・・・・まぁそう簡単にはいそうですかーって返してくれるとは思ってないし・・・ね。かといって、はいそうですかーって諦められる代物でも無いし」



全く、なぜこうも欲しい物に手が届かないのだろう


帰る手がかりの一つとして集めたいのに


なんでこんな悪の秘密結社みたいな奴らも集めてるんだよ!?


取り合い必死じゃねーかちくしょーめ



「あーもーっ、なんでこんな事に巻き込まれなきゃなんないのかねぇ」


「聞かないでくださいよ。私たちの邪魔するからでしょう。ふむ、にしてもそちらも集めていらっしゃると?では、早い者勝ちですね」


「誰がやるか。あれが無いと困るんだよっ!」



そういって俺は問答無用!と言わんばかりの勢いでドアを閉めて横に置いてあった支え棒をはめる


踵を返して宝玉と賞金が置かれた来賓席の下にある台へと向かう


宝玉と賞金は大きく迫り出した来賓席の下にある大きな台に置かれている


観客席とその商品の台とは小さいながら柵で仕切られており、そこまでは結構距離がある


観客席を走る俺の後ろで大きな扉が吹き飛ぶのが見えた


飛んでいった扉が水の中へと吹き飛んで大きな音と水飛沫をあげた


それで何人かの騎士達が気がついたが、そんなことを気にすることもなく男は翼を広げて控え室から飛び出してきた


右手でローブが頭から外れないように押さえながら空中で急停止、方向転換して真っ直ぐ宝玉と賞金の方へと飛び始めた


確実に走っている俺より飛んでいる男の方が早いのが分かった


徐々に追いつかれている事に気がつきながらも、どうすることもできない


だが次の瞬間、男は急に進行方向を変えた


またもや直角に進路を逸れて観客席の方へと飛び込んで着地する



「クァアァァァアッ!!」



空に巨大な魔法陣が浮かび上がった


すぐに大きな衝撃が襲いかかってきた


巨大なフェリーが空中を旋回しており、その旋回した円にそって魔法陣は空に浮かび上がっている


そして下の方にも同じような魔法陣が浮かび上がっていた



「っつぁ!?」



そんな声と共に、何処にいたのか突然チルさんがものすごいスピードで落ちてきたのが微かに見えた


あの人は自らの剣の力で空中を自在に駆ける事ができるはずだ


それなのに、あんな一方的に落下していくなんて、怪我を負ったかあるいは―――


そして目の前で水中へと叩き込まれた



「チル・・・さん。くそ・・・なんだコレ・・・まるで先生と訓練をしていた時みたいに・・・」



――――――体が、動かない


あのとき、杖で地面へと縛り付けられていた時と同じだ


ものすごい重力で地面へと吸い寄せられているかのようだ


何とか倒れ込むのだけは防いだが、それでも片足が膝をついてしまっている



「ちっ、抜け出せるとはいえ巻き込まなくても良いじゃないですか。せっかく封印を解いてあげたというのに・・・恩知らずめ」



後ろで先ほどの男も地面への重力に抵抗していた


今が距離を開くチャンスであるのは分かっている。だが体が動かない


あれは恐らく重力系の魔法か何かだろう


そしてあの空中の巨鳥は男の手駒


つまりこの一連の騒動は仕組まれていたってことか。この男に


そう思って悔しがる素振りを見せるより早く、それは起こった


突如、急激な重力からの解放に戸惑う体


スッと軽くなった体で一体何が起こったのかと空中を見上げた


闘技場と水中の上にもう一つ新しい影が現れていた


空気を震わせるようなフェリーの甲高い鳴き声に対し、こちらの咆吼は空や大地を震わせる力強さを感じさせられた



「ドラゴン・・・・」



頭上に現れたのは昨日まで一緒にいたあの龍であった


もはや何がどうなってこうなっているのかよく分からない


展開が早すぎてついて行けないのだ


ローブの男、宝玉、フェリーの襲来、そして龍


突如現れた龍は躊躇うことなくフェリーに向かって突っ込んだ


大きな口を開けると其処にはぎらりと並んだ巨大で鋭い歯がズラリと並んでいるのが遠くからでも見えた


チラチラと炎も牙の隙間から漏れているのが確認できる


かと思うとその巨大な口はフェリーの喉へと噛みついた


バランスを崩したフェリーと絡み合うようにして回転しながら龍とフェリーは地上めがけて落ちていく


その先には大勢の騎士達が居た


が、全員落ちてくる二匹を見て水中へと飛び込んでいった


そして水中に浮かべられている闘技場をたたき割り、二匹は水中へと飛び込んだ


一つ目に襲ってきたのは闘技場が割れる音


それに続くようにして巨大な水飛沫がたった音


割れた闘技場の破片が飛び散り、いくつかの破片がこの周辺にまで飛んできたことからその威力が伺える



「驚きましたね。予想外のお客様ですねこれは」



そう言って目の前に飛んできた大きな破片を片手ではじき飛ばす


男はゆっくりとこちらを向いた


何とか見える口元がゆっくりと笑みを浮かべる


畳んでいた漆黒の翼を広げ、再び空中へと男は飛び立った


重力から解放されたのはありがたいが、男の拘束が解けるということを考えても居なかった


どうする?


走っても追いつけない


かといってあんな空飛ぶ人間やめてる奴を足止めする方法も思いつかない


どうした物かと悩む間にも男はどんどんと進んでいき、距離は離されていく


そう思った瞬間、何かが飛んできた


ものすごいスピードで飛んできたそれは、空中を飛ぶローブの男めがけて一直線に飛んでいく


我が目を疑う光景だった


人が、飛んでいた



「ああああああああああああ!?」



そんな悲鳴を上げて飛んでいく男の声が聞こえたのか、ローブの男も流石に振り向いた


まぁあの男が何を思ったかは知らないが、スッと男の軌道をあけた


男はバビュンと飛んでいきローブの男をスルーしてどんどんと飛んでいく


一体何があったのかと男が飛んできた方を振り返ると其処には見慣れた先生の姿があった


それも何かスッキリとした表情で物を投げた時の体勢でこちらを見つめていた


隣に立つ一回り小さなツキが目の上に手をかざして飛んでいった男の行方を見届ける


俺もその男が何処まで飛んでいくのかと思って飛んでいく先を見つめる


するとベチンと音を立てて壁に激突した


ちょうど其処は宝玉と賞金が置かれた台座の上であった


ずるずると落下した男はぐったりとして地面に倒れ伏して動く気配がない。ていうか死んでるんじゃないか?


やりすぎですよ先生


そんな場面ではないというのに、何故かため息をついている俺が居た




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