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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『まやかしの鳥』




「それにしても、リリアはどう思う?」


「え、そーだなぁ。ホーっちは一番強いから勝つと思うよー」



んー、そんなことを聞いたのでは無いのだが、とアルフレアは思う


あの仮面の男が堅いホーカーにどうやって一撃喰らわせることができるかを聞いたつもりだったが、言葉が足りなかったな


もし自分が彼と対戦することになったらどうやって抜くだろうか。と考えてみる


後ろをとって攻撃、というのは先ほどの男の攻撃が止められた時点で無理だと思うのでその他の攻撃を考えなければならない


不動の大槍。その二つ名が示すのは、一対一の対戦において彼が殆ど動かないことを意味する


動かなくても、間合いに入る敵は全てその大槍が仕留め、相手の間合いの中にあればその巨大な盾が全ての攻撃を防いでしまう


攻守に優れた男では在るが、あの重い武器を使う故に機動性に優れているとは思えない



「私なら、あの盾ごと吹き飛ばして場外にするしか思い浮かばん」



最も、女である私の筋力があのホーカーという隊長に対抗できるほどあるとは到底思えなかったが


その辺は仕方がない


小さい頃から剣術は何度も習っているが、流石にあのレベルに到達するのは無理がある


そう思うと、彼ら実力者は一体どれほどの時間と努力を鍛錬へ積み込んだのか



「対する男は・・・カイ・ウルクァ・・・・聞いたことが無いな。一般参加者か」



そう言ってアルフレアは対戦表を開いた



「皆様、お茶はいかがですかな?」


「アーテス。そうね、頂こうかしら。みんなもどうぞ」



そんな時に5人の後ろの出入り口から男の声が聞こえてきた


間髪入れずにエリエルが返事を返した


アーテスはファンダーヌ王国のエリエル王女の側近で初老の男性だった


といっても中年太りしていたりはせず、ゴツゴツの筋肉質の体で身長はおよそ180ほどはある男だった


髪はやや白く染まりつつあり、男は若干皺の出てきた手で王女にカップを渡す


他の王女にもお茶を勧める


エリエルはアーテスの入れるお茶が昔から好きで幼少の頃よりずっとこれで育ってきたと言ってもいいくらいだ


それ故、彼が入れるお茶には絶対の自信を持っていた



「じゃぁ、もらおうかしら。喉も乾いてきたことですし。リリーとルアちゃんもいかが?」


「む、じゃぁいただくとするかのー」


「・・・どうも」



二人もカップを受け取る


中から香る良い臭いが鼻を刺激する


今すぐにでも飲んでしまいたいくらいにヨダレが出てきてしまいそうだ


だが此処は自粛した



「美味そうだが、私は遠慮しよう。トイレに行きたくなって試合を見逃したくないからな」



一人本気で試合を見ている女性だけはそれを断って試合を見続ける



「フレアらしいですね」



セレシアはクスリと笑ってカップを口につけた


ほほえましい光景を目の当たりにして、アーテスも目を細めてニッコリと笑った







 「うおおおおっ!」


「むっ」



ガキンと音を立てて弾かれるそれはもはや木と木のぶつかる音とは思えないような音をしていた


切り上げ、弾かれる


そのまま右足で盾を蹴り飛ばす


男は片足を後退させるも、すぐにその大きな槍を俺に向かって振るってきた


だが恐らく攻撃してくるだろうと思っていたので深追いせずに盾を蹴った反動で距離をとる



「ほぅ、まんざら予選を勝ち抜いただけはある、ということか?」


「上から目線かよ。気にくわねぇな」


「そういうな。隊長なんてやっていると自分より強い奴がいない、頂点に立っているわけだからな」



はっ、自然とそういう風になるものなのかね



「どうでもいいんだよ」



俺の足下に緑色の魔法陣が浮かび上がる


相手もそれを見て警戒したのか、大きな盾と槍を構える


緑色の魔法陣が広がる


大きく腕を後ろにそらして意識を集中させる




恵風けいふうよ、取り巻く旋風、その右腕に宿す。デメューレヴェント」


「ほほぅ、魔術も使えると」


「勉強不足なんじゃないか?ごっつい体とは裏腹に」


「言うじゃないか小僧。確かにお前のことは知らなかったが、生憎知らないというのならば名が知れ渡っていないということだろう。ならば所詮その力も大したことは無いのだろう」


「試してみるか?」


「試させてもらおう。その自信たっぷりな目、その意思で俺の盾を抜ける事ができるかな?」



仮面の奥にある俺の目を見られた


目があった


男の瞳は、それこそ自分の守りに絶対の自信を持っているようだった


ならばその幻想、打ち砕いてやる


右手にまとわりつく風が腕の周りをグルグルと回っているのを感じる



「できる。そう思わないとやってられねぇ」



シッ、と息を止め、大地を蹴ろうとした


その矢先、俺たち二人の姿を大きな影が太陽の光から覆い隠した


最初は雲かとも思ったが、違う


男も気がついたのか、二人で顔を見合わせた


影の形が・・・・


二人同時に空を見上げた






その様子を見ていた観客達も空を見上げた


王女達も、急に二人が空を見上げたのを見てその視線の先へと目を向けた


そこには何も無かった


雲一つ無い空が永遠と続いていた


影ができているという事に気がつけた者も多少はいただろうが、それを理解するよりも先にそれは吠えた



「クオオオオォォォォォォッ!!!!」



幻が揺らめき、姿を現した巨大な鳥が空を埋め尽くすかのような奇声を上げた





「な、なんだ!?」


「フェリー・・・だと?こんな場所で?」


「いや・・・・この魔力は・・・この試合一端中止だ。観客避難させとけ!」



カイは試合は中止だと言わんばかりの勢いで闘技場の端へと駆けていく


そして一気に跳躍して魔法を行使する



「上昇の風よ、地駆ける我が足に、一筋の追い風を。レベタミェントプルーマ」



カイが空中で呪文を唱える


空中に魔法陣が浮かび上がる


広がった魔法陣は一気に縮まり、カイの右足に集まり光りを放つ


光りが消えるとカイの右足には小さな翼が二つ生まれていた


その翼は風の抵抗を受けて小さな羽をまき散らす


そして一度カイがその右足を大きく空中に向かって振り下ろす


すると小さな翼が一度だけ、一見弱々しく見える、だが強く、力強く羽ばたいた


カイの右足は空中で何かの足場へと降り立ったかのように固定され、そして翼の羽ばたきと共に一気に前方へと飛ぶ


観客席の落下防止の手すりに着地する


目の前にいた観客達も何が起こったのか、よく分かっていない様子であった


突如現れた巨大な鳥、そして試合をしていた男が突然目の前に現れる


一応水の中に落ちてはいないとはいえ、流石にこれは場外だろうと思いつつもさっきの魔法を使った時点で俺の負けかと区切りをつけた




「姫様方、どうも危険な感じがします。控え室へ下がってください」



アーテスがそう言って護身用の短剣を取り出した


真剣な面持ちで言われれば仕方なく5人は控え室へと下がることにした



「妙だ・・・」



だがアルフレアはその途中で頭を悩ませていた


妙すぎる出来事に


まず最初は何もなかった空間から突如フェリーが現れた事


次に影が闘技場のフィールドを覆うまで誰も気がつかなかったこと


あの巨大な虹色の鳥が何の予兆もなく、それもあんな幻視の魔法を使ってこんな王都までやってくるなんてこと、ありえるのか?



「フレア、考え事?」


「え、あ、うん。ちょっと気がかりがね」



フェリーはこのアルデリアとグレアントの中間に位置する山岳地帯の森に住む鳥であり、人目に触れることは滅多に無い


それが、なんでこんな・・・


それに幻視の魔法なんて高度な技を使えるなんて聞いたことが・・・



「まさか・・・」



そんな自らの予測を口に出そうとした


すると、避難の為に闘技場の控え室へと戻ろうとしていたアルフレアの後ろでどさりと物音がした


何かが倒れるような、そんな音だった


足を止め、振り返るとそこには地面へと倒れたセレシアがいた



「大丈夫!?」


「え、えぇ、ちょっとめまいが・・・」


「立てる?」


「え、えぇ・・・・・あ・・・れっ?」



アルフレアに手を借りて立ち上がろうとするセレシアだったが、どうしても足に力が入らない


それに加えセレシアの全身の力がゆっくりと抜け始め、眠気まで襲ってきた



「う・・・」



どさり、と今度は心配して駆け寄ってきたエリエルが倒れた


振り向くと倒れたエリエルがゆっくりと目を閉じていった


微かに声を出そうとしているのが分かったが全然耳に聞こえる大きさでは無かった



「な、何がどうなって・・・」



混乱する頭で状況を整理しようとしたがこんな状況は初めてである


そうこうしているうちに残った二人の王女もばたりばたりと倒れていく


なんだこれはっ!?


アルフレアの周りには倒れ込む四人の王女



「おーやおや、まだ一人起きていましたかぁー。少し来るのが早かったですかねぇ」


「誰だ、お前」



アルフレアはどう見ても身方とは受け取れないような男に向かって剣を抜きはなつ


装飾用としてつけていた剣だが、中身は実際に人が斬れる本物である


まさか本当の意味で剣を抜くことになるとは思っていなかったが


男は真っ黒なローブを被っていて顔まで見ることができない


パッと見、武器は持っていないように見えるがローブの下に隠していることもあり得る



「いやだなーぁ。そんなにギーラギラした目でみーないでくださいよー。かわいーお顔がだーいなしですよぉ。そんな、ちょっと回収に来ただけなんですからぁ」


「回・・・収?」


「えぇ。手はず通りなーら、今頃貴方も倒れている・・・・予定だったのですがねぇー。耐性があるのか、それとも・・・」


「何がどうなってるかは知らないけどね、あのフェリーもお前の差し金か?」


「そうですが、何か?」


「目的を言え」


「目的・・・ですか。そうですね。私が・・・・」



男が急に言葉を切った


男が俯き



「教えるとお思いで?」


「なっ!?」



アルフレアは突如襲いかかってきた男に大きく動揺し、後退った


何せ一瞬の間に、瞬き一つする間に目の前まで詰め寄られてそんなことを言われれば多少は動揺する


男はローブの下から短いナイフを一本取り出した


それを見たアルフレアはすぐさま剣を斬り上げる


男はそれをワンステップ踏んで体を横に反らして避けた


斬り上げた状態でアルフレアは失態を悟った



「な・・・」



まさかこんなにも容易く避けられるとは思っていなかった


いくら相手が強くてもこの間合いで、死角からの切り上げをあんな・・・


簡単に・・・・


それにこんな体勢からでは、抵抗ができない


剣を振り下ろすより先に、男の手がアルフレアの喉をつかんだ



「ぐっ・・・」



足が宙に浮き、男に剣を突き立てようとするが、息ができずに体が自然と藻掻いてしまった


ナイフを床に落として、男のもう片方の腕がアルフレアの顔の前で広げられる



「お休みなさい」


「う・・・」



急激に意識が遠のき、視界が真っ暗になる


カラン、と乾いた剣の落ちた音が廊下に響いた





 「迎撃ではなく、捕獲の方向で行きましょうか」


「ですね。保護法があるので傷つけられませんから」



チルは異変を察知して闘技場へと着地する


すでに其処には試合をしていたホーカー、そしてグレアント王国の副騎士団長であるリリッド・アシェードががいた



「お久しぶりです。昇格おめでとうございます」


「えぇ久しぶり。で、結局捕まえるって事で良いの?」


「聞いてたんですか。えぇ。フェリーには保護法が在るので一応傷を付けられませんから」


「そうねー。でもどうするのよ?そっちの騎士団長はいないの?」


「えぇ。今日はお城でお留守番です」



そう言ってリリッドは剣を抜いた


今この三人で使える武器を持っているのはチルとリリッドだけである


試合に出場する選手は全員武器を預けているので他にも来ているであろう数人の隊長職の者も武器無しではきついものがあるはずだ



「そうだな。この下の水に落とすってのはどうです?傷つけずに飛べなくできますよ」


「翼を斬らないで良いからな。だがどうするんだ?」


「あ、じゃぁその辺は私が受け持つわ」



チルはそう言って蒼天駆をちらりと二人へ見せた


二人ともその剣が何であるかを知っているため無言でこくりと頷いた


自らがあの巨大な鳥を水中へと突き落とすと言っているのだ



「それで落とした後はどうするの?」


「そうだな。誰か実力のある魔術師がいれば催眠をかけるのも有効だが・・・」


「んー、拘束系の魔法も便利だけど、でもまぁとりあえずその辺は任せる。私はちょっと被害が出ないように引きつけるから」


「分かった」


「じゃぁ俺は魔術師を捜せるだけ探してくる。武器がこれじゃぁな。ろくに手伝いもできん」


「まぁ別に殺す訳じゃないから愛用の武器を使う必要は無いんだけど、まぁいいか。早く戻って来てくださいね」


「じゃないと死ぬよ。私」


「死ぬの!?」



突っ込んだのはリリッドだけかー、と思って少々がっかりするも、あの堅物ホーカーが突っ込みを返してくれるとは思えないし、仕方ないかとチルはため息をついた



「お前は一度死んだ方がいい。生まれ変わった方が絶対に良い」



挙げ句の果てに今のチルを否定するというおまけつきで



「ひでー。ホーカーに其処まで言われるのはちょっとむかつくなぁ・・・まぁいいか。んじゃたのんだわよ」


「承る」



チルはそう言って空中へと駆けていき、ホーカーは魔術師達と武器を集めに武器を置いて闘技場に唯一掛かっている橋を駆けていった



「さて、余った俺はどうしようかねぇ」



することも無いのでリリッドはその場で座り込んで周囲を見渡してみた


たいした混乱も無く、観客達を避難させている騎士団が見える


迅速、かつ安全に行われる避難作業に、この騎士団の日頃の行いがでているなぁと思う


そう言えばさっきホーカーと試合をしていた男は何処へ行ったのだろうと辺りを見回すが何処にもその姿は見えない


はて、どこへ行ったのやら?



「っと」


「ん?」



隣で聞こえた小さな声でリリッドは隣を見た


其処には二人の女性が立っていた


一人は頭にゴーグルをかけた少女


もう一人は長い髪を紅く細いリボンで結んだ女性



「お手伝いしましょうか?」



その年上っぽい方の女性が声をかけてきた


うん?とりあえず大会参加者では無いようだとリリッドは見抜く


普通の武器を持ち、わざわざこんな面倒事に参加しようという意思に乾杯



「あら、誰かと思ったらアシェード家のお坊ちゃんじゃない」


「・・・・・・げっ!?出た!?」



ピキっと彼女の額に血管が浮き出たのをリリッドの目が確認した瞬間、アーストレストゥルシア・ユディスの目にも留まらぬ俊足の蹴りがリリッドの脳天を直撃した


脳震盪を起こしたままリリッドは頭からズボンと水面へと突っ込んだ


ぷかーっと浮かびあがってきたリリッドを隣にいたツキが闘技場へと引き上げる



「初っ端から『げっ!?』は無いわよねー。一体私をなんだと思っているのかしら」



まぁ、こんな事されるぐらいだから無意識に『げっ!?』なんて言われても仕方ないんじゃないかなーと引き上げた青年を見て同情したツキであった






ふと、珍しく彩輝が出なかったなぁって思いました

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