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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
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『三国会談と落ちる騎士隊長』

「これを見てください。昔、私の祖先が宝物の一つとして残したものです」



ファルアナリアが戻って来るなり一枚の紙を彩輝に手渡した


古びたその紙は綺麗に折られており、それを破れないように慎重に開く


セレシアもその紙をのぞき込み、水鏡の向こうにいる彼等も見えないながらもアルデリアの宝物の一つと言われるその紙に興味を示しているようであった



「私たちには解くことができなかったその文、もしやあなた方の世界の文ではないかと思い持ってきたのですが何しろ古い物でして一切情報が残っていないのです」


『それって各地に残ってる精霊文字の事ですか?』



と聞いたのはアルフレアだった



「えぇ。恐らくそうだと思います」



この世界には精霊文字とよばれる文字があるらしい


いつの時代から存在しているのかは定かでは無いが、その文を解き明かすことは誰一人としてできなかったと言われる文字である


一説には精霊が使う文字ではないか?といわれ、精霊文字と呼ばれる名が付いたのである


各地に残るその精霊文字は石に刻まれた物、紙に書かれた物などが残っていると言われるが誰が、何のために書いたのか


またそこに刻まれた意味は何なのか


全てが謎に包まれた文字なのである



「驚いたな・・・・」



彩輝は紙を開いて中の文字を読む


見慣れた字ではあるが現代の文じゃない


たしかにそれは日本語ではある


が、おそらくは大昔に書かれた物であろう



「意味が分かるのですか!?」


「ごめん。昔すぎるし文字も滲んでる。紙も傷んで字が消えかかってるのが殆ど。解読は・・・無理・・・だね」


「そうですか。ですがこれで精霊文字があなた方の世界のものだということが分かりましたわ」


「こっちこそ、前例があった・・・とまでは行きませんけどどうやら向こうの世界と此方の世界はどこかで繋がっていると言うことが確かめられました。でなければこんな物があるはず無いですからね。もしかしたら帰る方法もあるかもしれない」


『ちょっとー、話がわかんないんですけどー』



蚊帳の外にされていた一条さんが話しかけてきたことで向こうにもこのことを知らせておくべきだと思い紙を見せる



『なぁに、これ?』



まぁ字も読めないし仕方ないか


一条さんは首をかしげて見せられた妙なその紙を眉をひそめて凝視する



「日本語で書かれた手紙。だけど字が殆ど見えない位に痛んでるから解読は不可能だね」


『え!?本当なの!?』


「嘘言ってどうするんですか。ただ結構昔の字体だからこの人物が今ここに居る訳じゃないと思うんですけど・・・。帰ったのか、それとも帰れなかったのかは分からない」


『そ、そっか・・・』


「ところでさ」



彩輝が話を変えようと水鏡に向かって話しかけた


その瞬間、もの凄い爆音が背後から聞こえた


爆風と土煙が同時に襲いかかってくるため、一瞬にして視界がふさがれてしまった


一体何が起こったのだろうか?



「波状の風よ、大地を流れ、我が身を駆けよ。ドリーゼヴォス!」


「払拭の羽よ、風を導き、上昇の風を、モーリンアベント!」



すぐさまその土煙の中、それもすぐ近くから発せられた声が精霊殿に響いた


ファルアナリアの声にセレシアの声が続く


ガラガラと地面に天井の残骸の欠片が落ちる中、気づけば周囲の土煙が一気に精霊殿の外に追い出されていた


精霊殿の周囲には風によって追い出された土煙が空中に舞い上がった



「げほっ・・・大丈夫ですか?」



最初に声を発したのはセレシアのようだった


近くにいるのは分かるが砂埃が目に入り目が開けられない


それは2人も同じようであった


こういうときは無理して目を掻かずに痛みで滲み出る涙で汚れを・・・なんて言ってられなかった


痛い


こう、まつげが目に入った感じ


とっさに目を掻く


涙も出る


だがすぐに涙も収まり、裾で涙をぬぐう


すると目の前には瓦礫の山


天井のなれの果てがそこにはあった


山のように詰まれた瓦礫に、穴の空いた天井から差し込む光がその山をスポットライトのように照らしている


ガラガラッ


未だに小さな欠片が上から落ちてくる


うしろの水鏡では唯が『何事ー!?』と、真後ろで起こった惨劇の一部始終を捕らえていたため慌てている


どうやらそれはアルフレアもアーマルジュンも同じのようである



『敵襲!?』


『そんな・・・え?敵?敵って何よ!?アーヤーーん!?』


『みてみて!爆発したよぉ!!』


『・・・・ですね』




彼等にはバッチリ後の天井が爆発するのが見えていた


水鏡を通していたため、彩輝やセレシア、ファルアナリアの後が見えていたのである


突如として爆発した天井が土煙を巻き上げ、一気に画面全体を覆い隠してしまう


だがすぐにセレシア、ファルアナリアの声が聞こえる


水鏡越しでもよく分かる


彼女たちを中心にして一気に土煙が晴れていくのを見ていた


セレシアを中心に風が吹き、その風が一気にファルアナリアの声の後で舞い上がる





アーマルジュンが自分のつまみ上げていた少女を大きな肩の上にのせると一条さんに向かって語りかける



『あなた方は魔術の無い世界から来たと聞きました。ですから少し解説をと思いましてね』



アーマルジュンは右手で赤いリボンのしてある髭をいじる



『魔術と言っておりますがそれは全体的にひとくくりにした言い方なのです』


『うーん。てことはこの世界における魔法やそれによって起きる現象全てを魔術と呼ぶのね』


『はい。魔術にはいくつか分類があり、大きく分けると人間などの生物が発現させる事象を魔法と呼び、それ以外による事象を魔天と呼びます。魔法にも通常魔法、上位魔法、精神術の3つに分けることができます』


『魔天ってのは聞いたこと無いな。あと精神術ってのも。一応こっちの世界では魔法ってものは架空上のものなんだけどそれでもみんなが知ってるわ。その魔天ってのは聞いたことが無いのよ。実際どういうことを魔天と呼ぶのかしら?』


『存在せずとも皆が知る、あなた方の世界では魔法は妙な位置に存在するようですね』


『そうね』


『魔天とは・・・いえ、後でまとめて話しましょう。今は彼等の様子が先決です』


『おおっと、そうだった!』





唯はすっかり先ほどの天井爆発事件を忘れていたようで未知なる魔法について聞いていたがアーマルジュンの一声により我に返る


そうだ。アーヤんは?



『げほっ・・・』



砂煙から解き放たれた彩輝は水鏡越しに目をこすっているようだった


そして奥の方にできた瓦礫の山、もとい元天井の慣れの果てができあがっているのを見つける



『ちょっ、大丈夫!?』


「あ、あぁ。目に砂が入っただけだ。それよりも・・・」



彩輝も目の前にできた瓦礫の山に目を配らせる



ガタン


突如瓦礫の一つが上空に飛んだ


天井に空いた穴から飛んでいった瓦礫がどこか遠くでゴトンと音をたてて落ちた


一同それを静観する



「ぶっはぁー!!」


「う゛ぇぇぇぇぇん!!」



そして残った瓦礫の表面の一部が最初にあがった声と同時に吹き飛んで壁にあたる


そしてもう一つの声が瓦礫の山から体と一緒に這い出てくる



「チル隊長!?」


「レ、レノアっ!?」


「うぉぉっ!?」



はい出してきたレノアはズルズルともの凄い勢いで地面をはって此方へ向かってくる


まるでどこかのホラー映画のようだ


尤どこぞの映画と違って髪は短めで、涙で顔をグチャグチャにした女性がセレシアの目の前までくる



「レ、レノアさーん・・・?」



セレシアが足下まで這いずってきたレノアをうかがう


ウルウルとした、というか涙で目が赤いのだがまるで助けを求めるように、懇願の眼差しでこんどはファルアナリアを見上げる



「ひっぐ・・・・うぇぇっ・・・・すみませぇぇん・・・」


「・・・貴方はよく頑張ったわ」


「うぇぇぇぇん!!」



よしよしと頭をなでて上げるファルアナリア



「すいませーん。吸収符と衝撃符間違えちゃいましたー」


「あなたはよくもまぁ・・・歴史ある精霊殿を何度壊せば気が済むのですか」



ファルアナリアはため息をついて現れた白い髪の女性に睨みをきかせる



「で、用件をうかがいましょうか」



彩輝は突然現れた2人の女性を見比べる


片やメイド服を庶民っぽくした感じの服を着た紫の髪の女性


片や白を地とした青のコートを纏い、腰に剣を提げた白髪の女性



「いっづも・・・あの方はああやってう゛ぁたしぅぉ虐めるんでずぅぅ・・・」


「なっ、何時私がお前を虐めたというのだ?」


「自覚なかったんですねぇぇぇぇ・・・」



小声で軽く項垂れる紫の髪の女性



『あんときのセレシアの侍女か。それにありゃーアクアサンタ騎士団の3番隊隊長か?』


「ん、ご無沙汰しておりますアルフレア王女」



遠くからだが一礼をするチル



「失礼ですが今では騎士団長を務めております」


『お、昇格したんか。おめでとう』


「もったいないお言葉です」


「チル隊長。挨拶も良いですがどういう事か説明してくれますか?」


「え、あー・・・悲しき事ですね。何という悲劇!不幸が重なりに重なって・・・」


「チル隊長」



身振り手振りで説明をしようとしたチルにファルアナリアはにっこりと笑う


それはもう不気味なくらいに笑っている


間近で見ていた彩輝はそんな大人な女性に恐怖した


女を怒らせると恐いとは良く聞くが、やはり間近で見ると流石に迫力が・・・


水鏡に視線を戻すとアーマルジュンが大きな指でちーちゃんの目を隠していた


いや、別に隠すような事でも・・・あ、殴った


ファルアナリアがガツンと音をたてて握り拳で白髪のチルの脳天に鉄拳を食らわせる


その一撃で地面に沈むチル


仮にも自分で団長っていってたから一番強い・・・はずだよな?


それとも、俺が彼女を隊長イコール超人か何かだと思っていたから俺は避けなかったことをがっかりしているのか?


どこかのアニメや漫画じゃ在るまいし・・・そんな事を・・・ね


まぁそうだとしても、避ける場面では無いけども



「失礼、お見苦しい場面をお見せしてしまいましたわね」



・・・・恐ぇよ王妃・・・・


あれ?拳から煙上がってね?



「さてと、これからどうします?」


「そうですね。現状帰る方法も分からない訳ですし俺達にとっちゃ別世界なわけですからいろいろ学んだ方が良いと思うんですよね」


『ん、それには私も同感だね。帰る方法が見つかるまではどうやって生きていくかが大事になってくるわけだしな』



一条さんの言う通りである


俺達には知らないことが多すぎる


帰る方法が分からない以上、長期間の滞在になる可能性もあり、最悪帰れないかもしれないのだ


そうなった場合、まずどうやって生活していくかを考えなくてはならない



「その辺は後々各国で話し合えばいいと思います。それよりもあの子の両親をどうやって捜しましょうか?」


『確かにそうね。早く両親に合わせたいのは山々なんだけどね』



セレシアがちーちゃんの事を気にかける。するとそれはどうやらアルフレアも同じように考えていたらしく考えるそぶりを見せた


たしかにそっちの方も大事だな


この3国に居ない以上、どこか他の国に居るということになりそうだがそれが近くなのか遠くなのかも分からない


水鏡を持っているのはこの3国ともう一つの国、ファンダーヌとしか交信はできない


セレシアがその訳を話してくれた


元々一つの大国が4つに分断されたうちの一つがこのアルデリアである


その4つの国を作り出したのがアルヴァス・アルデリア、フィーナ・グレアント、ガーヴァンド・リーナ、エルー・ファンダーヌである


この四人の将軍は一つだった頃のアダンという国に仕える将軍であった


まだ小さかった小国をどんどんとまとめ上げたその王は、大きくなりすぎた国に対し地方の自治を認めるために国を4つに区切り、彼等4人をそれぞれの地域の長として配属させた


4人はそれぞれのやり方で地方を活性化させていき、結果として国全体が発展していった


そんな中で起こった一つの事件


国王暗殺


これまでは4人の将軍が彼の身を守っていたのだが彼等が地方へ飛ばされた事をいいことに内部で誰かが国王を暗殺したのである


犯人は国王の弟


国王を殺して自分が王の座に着こうと考えていたらしい


だがその企ては中途半端に失敗した


結局、国王の弟は斬首刑にされた


4人は国王が死んだことを深く嘆き悲しんだ


彼等はその後王をたてることなくその国を4つの国に分け、それぞれが王となり国を守護した


国が4つになったとはいえ、その辺は国が一つだった頃の名残なのか互いに協力してこれまでやってきた


だが各国が分裂、規模が縮小したということで統率力が無くなり他国から目をつけられるのは仕方のない事だ


4国のしめる領土には鉱山や綺麗な水が湧き出る地など取り合いになるような場所がいくつも点在しており、他国はこの領土をほしがっていたのだが強大な力を持つ国だけに、これまではうかつに進入できなかった


そのために周囲の国々は静に息を潜め、力をためていたのだがそこで国の4国分断が起こった


そこで徐々に領地の拡大を続ける周辺国からの侵略を防ぐためにこの4国の結びつきを強め、それを周囲の国に知らしめるために同盟を結んだ


後にこの同盟に不備が合ったため、現在ではアセアル同盟となったのだが



「・・・といった感じですかね。ですからこの同盟は他国への牽制の意味を込めているのです」


「なるほどねー。他国とは今から友好的な立場はとれない、つまりあまり協力は得られないかもしれないということ・・・かぁ。下手したら取引に使われるかもしれないしね」


「すいません。ですが一応向こうも悪い国というわけではありません。昔と今は違いますし外交もそれなりに上手くいっています。私から文書を送りましょう」


「そのほうが・・・いいでしょうね」



ちらりと水鏡の中に見える千尋を見つめた


早くこの不安とかを取り除いてやりたいのは山々だが、あまりこのことで他国ともめて欲しくはない


聞く限りこの国は日本とは違い、戦争をする国のようだ


意識を切り替えないといけないかもしれない


むしろ人間は・・・・争うのが当たり前ってことなのだろうか


この世界でもこうやって争いがあるんだから



『私の方からもファンダーヌに連絡を取ってみます』


『このことはしかと主に伝えましょう』



アルフレアは連絡が取れなかったファンダーヌにこの話し合いの事を伝えてくれるようだ


アーマルジュンも不在の王女2人に伝えてくれると言ってくれた


彩輝はこくりと無言であまたを下げた



『さて、ちーちゃんの事は手紙を送って様子見るって事で決まりみたいね』


「あぁ。ちーちゃんも早くお父さんとお母さんが見つかるといいな」


『うん。ありがとうお兄ちゃんお姉ちゃん』



お兄ちゃん・・・か


少し照れつつも水鏡にうつる一条さんに目を向けると彼女も照れ隠しをするかのようにあははーと頭を掻く



「さて、そろそろ水鏡の魔力が尽きるころね。まだ定例通信から日がたってないから魔力が十分に溜まっていないことでしょうし」


「ん、これって魔力ってやつで交信してたのか?」


「というより魔力で幻視魔術を発動している状態に近いですかね。アーチには4つの水鏡全てに同じ触媒の魔力を溶かした銀をとけ込ませてありますので他の水鏡との交信が可能なのです」


「銀が水鏡のアンテナのような物で魔力が原動力ってところか。でこの水が画面で・・・声は何で届くんだ?この銀って声とかも送れるのか?」


「そうですね。なんだかよく分からない言葉がありましたけど、銀は水鏡と水鏡を繋ぐ糸のようなものです」



ふーん。水が映した俺等を魔力に変換して銀から銀へと飛ばしているってことだろうか


いろいろと応用が利きそうな装置のためもっと色々と面白い物があるかもしれないな



「では通信を切りますね。今のうちに話しておくこととかありますか?」



セレシアが俺、そして鏡に映る異世界から来た者達に問う


次に何時こうして話ができるか分からないからな



『じゃぁ一言いいっすかー?』


「どうぞイチジョウさん」



一条さんがバッと手を挙げる



『生きてまた会う!』


『うんっ、またねお姉ちゃんとお兄ちゃん』


「あぁ。生きて帰ろう」













「これから俺はどこに住めばいいですかね?あの、流石にお城に住むとなるとちょっと問題があるかと・・・」


「城には部屋が一杯余ってることですしね・・・え?」


「そうですね。その辺については至急確保を・・・え?」



ファルアナリアさんとセレシアが顔を見合わせた



「貴方はもう少しお勉強が必要のようですね」



あうあうと考え出したセレシアさんはなんだか少しかわいかった


確かに城で過ごせば何不自由なく過ごせるだろう。むしろ国の王様が住んでるお城だから衣食住は城下に比べて不自由はあまり無いだろう


だが流石に周りの目とかもあるだろう


常識的に考えて突如現れた異世界の人間を国家の中枢に住まわせるとかあり得ない


それにどうせ異世界に来てしまったのだ。こっちの世界をもっと楽しみたい


とりあえず庶民的に



「というわけで下の城下に住みたいんですがー」


「へぇ、楽しむ余裕があるんですね」


「んー・・・確かに不安はありますよ。今だってこれが夢か何かだと思ってますもん。だって異世界とかあり得ないし」


「そうですね。だけど新しく家を建てるのは簡単だけど貴方はどうするの?この世界の常識とかは貴方の住む世界とは異なると思うんだけど」


「あー、そっちの問題もあったかーって・・・家を建てる?」



俺的にはマンションや宿みたいなのを想像していたんだけど・・・



「あまりお気になさらず。そろそろ大工の方にも腕が鈍らないように古くなった屋敷を建て直させようと思っていたのでそこを使って貰うことになると思いますが、まぁそれまでの間はお城で保護という形をとらせてもらうかと」


「保護・・・えぇ、まぁそれで問題は無いと思いますけど」


「それと、何かと分からないことも多いと思うので召し使いを一人アヤキさんにつけましょう」



確かに知らないことが多いとはさっき自分でも言ったがすっかり忘れていた


そうだよなー俺まだここ来たばっかりで何も知らないんだよなー



「あれ?でも違う世界なのに何で会話が成立してるんだ?言葉は違って当たり前なのに」


「あれ?そう言えばそうですね」



セレシアが首をかしげる


確かに別々の世界だ


言語が違うのはあたりまえなのに何故俺は話ができているんだ?



「聞いてみましょうか」



は?


誰に?と俺が聞く前に彼女は俺の横を通り過ぎていき精霊台と呼ばれていた場所の前に立つ


俺が現れた場所でもあるその台座にある数段の階段を上る


ファルアナリアは両手を広げ目を瞑る



「母はこれから精霊を召喚致します。アヤキさんの世界に精霊は?」


「精霊・・・・か。いや、居ないぞ。架空上としてなら知られていますけど・・・」



これまでは空想上の物でしか無かった


だが先ほどは魔術という物を見せられ、今度は精霊


ゲーム染みた世界なのにどうして、どうしてこうも・・・


もしかしたら元の世界にも本当にあったのかもしれないな



「鳳声の名の下に誓う者、ファルアナリア・ユネレイア・キルト・アルデリア。我、貴殿と誓約を交わせしアヴァルス・アルデリアの子孫なり」



響き渡るファルアナリアの声


いわゆる召喚の呪文みたいなものか


彩輝はそう解釈して精霊を呼び出す儀式を見守る


するとゆっくりとだが、精霊台に溜まる水が光輝く



『我、アルヴァス・アルデリアと誓約を交わす者、貴殿、我に何を望む?』



・・・・!?


彩輝の脳内に響く声


その声は耳からではなく、直接脳に聞こえている


美しい、女性の声だった


初めての感覚に戸惑いながら、それが精霊と呼ばれる者の声だと気がつくのにさほど時間はかからなかった



「我、貴殿に問う。汝、異国より参りし者について知りたいと願う者」


『我、ソナタの問いに答えよう』



ゆっくりと精霊台の光が強くなった


それと同時にせり上がる水は渦を巻きながら垂直に伸び、そして一瞬のうちにその水は周囲にはじけ飛び、蒸発してしまった


渦の柱があった場所には一人の女性が立っていた


人型ではあるが、直感的にアレは人では無いことが分かった


うっすらと青い皮膚に多少破けている布を纏った青髪の女性


全体的に水色一色のように見える彼女は俺よりもちょっと背が高かったりする


神秘的な雰囲気のその女性はゆっくりと精霊台に降り立つ


さりげなく、ちょっと色っぽいなぁとか思った



「驚いたなこりゃ・・・」



俺は本当にこれが現実なのかどうかが分からなくなってきた



「さて、早速本題だが・・・ソナタ、まずは我と早急に契約を結べ」


「は、へ?」



先ほどまでの口調とは一変、姿を現した精霊は俺にそんなことを言ってきた



「聞こえなかったのか?我と契約を結べと申しているのだ」


「お久しぶりです。水の精霊様」


「おぉ、久しいのファルーよ。久々に此方の世界に来てみれば何とまぁ面倒くさい事になっているな」


「分かりますか?」


「それ故に我を呼んだのだろう?」


「はい。私にも、分からないことぐらいはあります」


「ほぅ・・・」


「あのー・・・」



俺は恐る恐るその会話に割ってはいる


正直どういう反応をすればいいのか分からない



「ふむ、混乱するのは分かるがちと落ち着くがいい。ほれ」



水の精霊は小さな水の球体を宙に出現させる


いや、出現というよりかは其処に水ができたといった方が正しいのだろうか



「飲め」



命令口調かよ・・・


とりあえず従わないと何されるか分からないしな


とはいえ未知の物体を口に入れるかのように恐ろしいのは恐らく普通の水じゃないという先入観からだろうか


水を飲むのに躊躇いなんてすることがこれまであっただろうか・・・


彩輝はその水の弾に触れてみる


以外とそれは水なのだが手で掴むことができた


口に入るくらいの大きさだったのでそれを一口でいただく



ゴクリ



セレシアとファルアナリアも真剣な眼差しで俺を見ている


なんなんだよいったい・・・


その水は大して味はしなかったがすんなりと喉を通っていった


体に変化は無いようだ



「まぁ儀礼的なものは完璧に短縮して吹っ飛ばしたがこれで契約は完了だ」


「えっと・・・なんで?」


「ん、理由?ま、その辺のことはゆっくりと話していこうや」



精霊はにっこり笑う



「精霊を召還している間は魔力を消費し続けるためあまり長い会話はできません。できるだけ早くお済ませくださいね」



ファルアナリアは息を少々荒げながら言う



「あ、はい。えっと、まず契約?とやらをしたことには何の意味が?」


「我を召還したことは正解であったぞファルアナリアよ。いつ出て行こうかと迷っていたところだ。一つはお主に加護を授けてやろうと思ってな」


「精霊の加護なんて凄いですっアヤキさん!」



ごめんセレシア。何が凄いのか全然わかんない



「それにお前に溜まっている魔力、一人で扱うには少々荷が重いであろう。全属性なんて一人で使おうとしても難しいからな。その補助にもこの契約は役に立つはずだ」



自分がついさっきやった事の質問をしてみるとどうもよくわからない回答が帰ってきた


わからないことが沢山あるがすぐさま次の質問に移ることにした


その辺のことはファルアナリアさんにでも聞けば良いだろうと思ったからだ。貴重な時間だ。有効に使わないといけない


そう。一番気になっている事を俺はこの精霊にきかなければならない



「えっとじゃぁ次いいですか?すぐに元の世界には戻れますか?」



精霊はその問いに、俺の期待した答えをかえしてはくれなかった




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