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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『予選・正体・だーれだ』

「どう思うよ?」


「んー、あっちの金髪の方が強そうだよね。見た目じゃあっちの方が体格良いから」


「体格が全てではないとはいえ、まぁどう見てもあちらの方が有利に見えるのは仕方がないか」



貴賓席に座るアルフレアとセレシアは眼下で行われている野蛮人達の戦いを見ていた


見知った顔がいくつか見受けられたセレシアも、まさかあの黒髪の異邦人が参加しているとは思わなかった


アヤキはセレシアに参加の意を伝えてはいなかったので最初に彼の姿を見つけたときには何故こんな大会に参加しているのかと不思議がったがすぐにそれが商品目当てで在ることは見当がついた


彼からの報告にもあった宝玉


それが出品されている事を思い出してセレシアは席に着いた


隣に座るアルフレアも彼が出ていることには少し驚いていたが、クスリと笑って席に着く


そして意外と順番が早かった彼の試合が始まろうとしていた



「思ったより早かったんだな」


「らしいですね」



セレシアは成り行きでこんな武闘会を見ることになってしまった事につまらなさを感じていた


とはいえそう言えるはずもなく、ましてや在る意味公務みたいなもののため拒否することすら出来ない(拒否すること自体考えていない)


友人達と久しぶりに集うとと合って、此処まで来たが正直目当ては舞踏会の方ではなかった


が、彼が出ているとなると少し興味が沸いてきた


アルフレアはセレシアとは全く正反対で、元々こういった行事が大好きで最初からノリノリだったのだが見知った彼が出てきたことに顔のニヤニヤがなかなか戻らない状態になっていた



「あいつ、何処までやれるか見物だな」


「あいつって、サクラさんの事ですか?」


「あぁ。まぁ特に強いのかどうかは判断しかねる報告ではあったんだが、対人戦なら結構実力が出るからな。それにこの大会はハズレが少なそうだしな」



冷やかしで出る参加者が少ない中で、集った彼らの力量は恐らく全員が一般人の中の上以上なのは目に見えている


それなら彼の実力もはっきりするだろう


優勝は、まぁ無理だな。この大会には3つの国の騎士も出ている


それもグレアント側は本気で優勝商品と賞金を狙いに行くメンツで固めてある


他の国はどうだか知らないが、皆一騎当千の実力を持つ強者であるため負ける姿が想像できない


こういった機会も滅多にないことなので是非他国の強者との一騎打ちを見られる良い機会でもある


勝つにしろ負けるにしろ、大会に出した三人にも良い経験になるだろうと思っている



「にしても、そっちだけ騎士が出てないのってなんか不利じゃないか?少なくともこっちは全力で賞金とか賞品狙っていくのにそっちだけは個人参加みたいな感じでさ」


「んー。まぁそうなんですけどね。主催者は国とは別の貴族なんですが会場提供とか大会開催の後押しをしたのはこっちですから。主催側が参加するのは・・・ね」


「あー、まぁ・・・ね。ま、私はどっちでも良いんだけどね。これだけ大きなお祭りをみれればねー」



にひひと笑うアルフレアはそのまま頬杖をついて眼下を見下ろす


そんな彼女の視線の先にいるアヤキの姿を隣のセレシアも見下ろした


彼の戦いは見たことがない


是非この機会に彼の持つ力を見てみたいものだとセレシアは思った


彩輝の初戦の始まりの鐘が鳴り響く







「先に名前を聞くよ」


「・・・・ポリシーか何かで?」


「いやいや、そんなたいそうなものじゃ無いんだけどね。黒髪っていうのが珍しいものだから君のことが気になってね」


「貴方が先に答えてくださいよ」



俺は左の切っ先を相手に向ける



「おっと失礼。俺はゼルーダ・アシミニオン。アルデリアの辺境の村の出身で今は王都で店を開いてる」


「店?」


「しがない飯屋だよ。良かったら来てくれると嬉しいなぁ」


「気が向いたらね。俺は彩輝桜。本当は桜彩輝なんですけど姓名が逆なんでそっちのほうがいいかなぁと」


「ほぅ。ということはこの辺の人間じゃ無いんだね」


「黒髪、見たこと無いんでしょ?」


「そうだな。ではおしゃべりもそろそろ終わりにして始めようか」



やっと戦いらしい雰囲気になってきた


突然自己紹介が始まったので話の流れに少し乗ってしまったが、どうやら開戦となるらしい


俺は両手に持つ短刀を力強く握りしめた


キッと相手を睨み付ける


相手も俺をにらみ返し、そして飛びかかってきた


相手は太刀のような巨大な木刀を振りかぶった


この大会では全ての武器が支給品で、それらはすべて木で出来ている


故に其処までの重傷を負うことは無いと思う


まぁ其処までしたら流石に不味いらしいので俺が狙うのは場外である


相手に勝つ方法は三つある


一つは不戦勝


二つ目は相手に降参を言わせること


三つ目は場外である


一つ目はまず無いだろう


二つ目、これは相手に実力で上回る事が条件である


確実に相手を戦闘不能状態に、反撃できない状況に立たせることが出来るならばこれが有効になる


そして今俺が狙う三つ目は相手を場外にして勝利する方法


これをするためには普通相手を放り投げるなどして、相手を無理矢理場外へ押し込む方法しかない


戦いに夢中になってひかれたラインを越える、なんて事は望めない


かといって自力で押し出すなんて、俺には無理である


だから、此処は相手の力を利用する


相手には俺が確実に攻めてくると思わせるように、しっかりと両手を握る様を見せつけた


ぶつかり合いなら負けないと思ったのか、俺の予想通りに相手は接近戦を持ち込んできた


俺は相手の太刀を両手の短刀で受けながら徐々に後退する


相手に、自分の方が力が上だと完全に思わせる


そして俺はひかれたライン際すれすれまで追い込まれたように、見せる(・・・)



「終わりだな・・・・」



相手がぽつりとつぶやいた


完全に勝ちを確信している目、そして態度であった


相手は受け流しているばかりの俺にたいし、突きを放ってきた


切っ先がどんどんと俺へと向かってくる


まだだ


あと少し、後少し・・・今だっ!!


ガッ


俺は突きを受け流し、そのまま相手の右側へと大きく飛び込む


そしてそのまま無理矢理体勢を入れ替え、相手の背中に膝蹴りを見舞わせた


ただこれだけでは決定力不足


無理矢理な体勢のため、威力はほぼ無い


だがこれが目的。俺が周りから飛び膝蹴りをしたと思わせることが目的であり、今後の布石でもある


相手とラインの位置まではまだ少し距離がある


だからもう一押し


相手が突きをするため前へと状態を移動させた状態で俺の回転飛び膝蹴りで体勢の立て直しを出来ないようにする


そして、放つ一撃は誰にも悟られないように・・・・




あいてはごろんと転がり、地面に引かれた白い線を越えていた


何が起こったのかときょとんとした目が俺を見上げる



「ありがとうございました」



俺は一礼して控え室へと戻った


これで俺の予選は終了したので後は他の選手の情報収集をしなければならない


そのため、俺は客席の方へと移動した


控え室にいても気まずいだけだし


試合が終わって俺は観客席の方へと行った


きちんと落ち合う場所を決めていたのですぐに彼女とは出会えた



「お、お疲れ」


「お疲れ様」



俺を観客席で出迎えたのは先生とツキであった


二人は妙な串焼きのようなものを片手に俺を出迎えた


小さな湯気がその串焼きからあがっており、焼きたてなんだと俺は推測してみた



「おい、上手いこと行ったじゃないか!!」



席に座るなり、隣の先生が俺の背中をバンバン叩いてきた



「誰も、この距離からはお前が魔法を使った事なんて見えなかっただろうな。あんな真似、私でもできない。あれこそお前の能力だよ」



俺もあれほどまでうまくいくとは思っていなかっただけに今、拍子抜けして腰が抜けそうだ


うまくいかなかったときのことは、考えない



「ま、あれが本当に強者だったらまぁどうなっていたかは分からんが、まぁこの予選でふるいにかけたわけだから明日はこう上手くは行かないぞ」


「はい。だと思いますよ。正直実力で何処まで行けるのか心配ですけど」


「なに、このメンツで勝ち抜ける方がどうかしてる」


「そんなに絶望なんですか・・・?」



恐る恐る聞いてみると、先生はハハハと笑う。無表情で


えー・・・・勝率零っすか



「今大会の優勝候補を上げるとしようか。グレアントの騎士団長であるシレンシス・ルーだ。此奴に勝つのは今のお前じゃ無理だ」


「えー、じゃぁなんで俺この大会に出てるんっすか・・・」


「しらん。成り行きだろそんなもの。まぁ私との特訓で君の実力は上がったわけだし良いじゃないか」


「言いくるめられているような気がしないでもないな」


「それともう一人、ラミア・シェークス。リーナの近衛隊長だ。ファンダーヌはたいした騎士を出していないらしいから其処まで警戒はしなくて良いと思う。どれも聞いたことの無い名だからな」



そういって先生は対戦表を鞄にしまう


眼下では第5試合が始まろうとしていた


ちょうどそのシレンシス・ルーの戦いがみられるらしく、先生はあれがグレアント最強の男だと指さした


みるからには普通の男に見える


紅髪で右手には支給品の木刀が握られている


以前グレアント王国でみた騎士服では無いようで、普通の地味な服を着ている


木刀は俺と戦った相手が持っていた太刀ほど長くはないが、それでも彼が持つことで十分な威圧感を感じた



「よく見ておくと良い。彼も魔剣士だ。参考に・・・ってここで魔法を使うかどうかは分からんがな」



その強いらしい男と対峙するのはこれまた大きな男であった


大男と言う言葉がまさにピッタリ来るような体格で身長2メートルは確実にあり、それでいて体格が良い


きんにくもりもりって奴だね


その男はそれこそ自身と同じような巨大な剣を、開始の鐘の音と共に振りかざす


シレンシス・ルーも同時に動いた


俺は次の瞬間言葉を失った


片手


彼は片手で迫り来る巨大な剣を止めたのである


あの剣に込められた力は一体どこへいってしまったのだと言わんばかりに軽々と剣を止めた男はスッとジャンプして受け止めた刃の上へと着地する


木であるため靴がきれたりという事はないが、あんなところになんで立てるんだ!?


次の瞬間、シレンシス・ルーは男の背後に回り込んでまるでラリアットのように相手を地面へと押し倒す


そしてのど元に剣を突きつける


男が剣を手放し両手を上げて降参を告げるまでに、10秒とかからなかった


早い・・・


そして強い



「勝てないねこりゃ」



絶望的だ。勝ち進むのは


あんなのが居たのでは勝ち目がないじゃないか!



「こらこら、早々にあきらめてどうする」


「いや、先生も勝てないって言ってたし、もうこれ無理ゲーに等しいじゃん!!無理でしょ普通に考えて!!」



俺は眼下で勝利したそのシレンシス・ルーとかいうやつを指さした


あんな巨大な一振りを片手で止めるような奴とどう戦えというのだ!?



「ま、あんなもの見たらそうも思うか。ま、彼と当たらないことを祈るんだな」


「他人事みたいに・・・まぁ他人事ですけど。どちらにせよ勝ち進めたとしても彼と必ず当たりますよ」


「安心しろ。あんなレベルの奴らはあと何人か居るはずだからな。まぁあいつが一番強いだろうが」



いやいやいやいや、安心できねーって!あんなのがごろごろいてたまるか!


と、そこで俺の視界が真っ暗になる


誰かが俺の後ろから手で両目を隠しているのだ



「だーれだ?」



いやいやいや、なんか現実に在りそうでないような状況になってるんですけど俺


え、なにこれ?なにこの状況?


流石に漫画やアニメなどではこの状況におちいったとき、胸などが頭に当たる描写があるがそう言ったことは全くなかった


でもこれはこれでなんか新鮮である


そしてこの声にも聞き覚えがあり、その声の主が誰であるかも見当がつく


ここで間違えたら何を言われるか・・・


まぁ、皆アルデリアに集まっているのだから彼女がいる事に何の不思議もないのだが


俺は両手で俺の目を隠している人物の名を口にした



「えーと、一条さん?」


「ハズレだ」


「え!?」



パッと視界が明るくなった


急に目に光りが入って少しまぶしかったが、それ以上に俺は驚いて振り向いた


完全に一条さんだと思っていたのに、聞こえてきたのは先ほどと違う、これまた聞き覚えのある声


振り返った俺の後ろには、地味で茶色のローブを身に纏ったアルフレアさんがいた


そしてその後ろには黒髪のあの人も



「あ、アルフ―――」


「せっかくわざわざ正体を隠して来ているのだ。大声をだすな」



俺の口をとっさに塞いだアルフレアさんは俺の耳元でそう言った


え!?っていうかなんで此処にアルフレアさんが!?あっちの貴賓席に居たはずでは・・・



「それぐらい察しろ。まったく」


「いやいや、なんで此処に居るんですか!?」



俺は声を殺して問いかけた


アルフレアさんは俺の隣の開いていた席に座る


まぁ席というより長いベンチのようなものなのだが



「いや、何となく君と話がしたいと思ってな。と、隣に居るのは君の師匠か?親しげに話していたようだが」


「え、あ、まぁそんなところです」


「ふむ。お前が弟子をとるとはなぁ」


「げ!?」


「最初に『げ!?』は無いだろう『げ!?』は」


「いやいやいや、なんで、いや、そりゃ来てたのは知ってるけどなんで・・・ここに・・・まさかセレシアに言ったか?」


「いや、言ってない」




先生、慌ててるなぁ


そりゃぁ一国の王女だから分からなくはないけど。でもそれにしては驚き方がちょっと妙な気がするのは気のせいだろうか


もしかして知り合いだったりとか?


アルフレアはローブの下からにやりとした顔を覗かせた



「いやなに、こんなところに居たのかと思ってな」


「あのー・・・お二人って知り合いか何かなんですか?」


「ん?言ってないのか?お前の立場を」



アルフレアはきょとんとした顔で先生に聞いた


先生の方は、指で頭を掻いていた


なんというか、気まずそうな感じだ。聞かれたくないのか?



「え、あ、いや、ほらさ。私ってもう身を引いてるから言う必要は無いかなぁって」


「そんなことだろうと思ったよ。彼女はアルデリアの、先代国王の妹だ」



・・・わーお







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