『特訓の日々3』
「むぅ・・・・時間が限られてるっていうのに、何でこうも重力に逆らえないのかしらね?」
「そんなあきられた顔されても知りませんよ。っていうかこんなもの普通の人が出来るはず無いでしょう」
二日酔いから復活したユディスさんは俺を見下ろしながらつぶやいた
俺を地面に縛り付ける杖はいっこうに立たせてくれずに、俺を縛り付けたまま
これまで頑張ってみたものの、結果はようやく腕立て伏せのような状態まで体を浮かせるところまで行ったくらいであり立つなんて以ての外な状態だった
こんなもの、本当に立てるものなのだろうか
「うーん・・・。これだけ続けてればたぶんいけるはずだと思うんだけどなぁ。これでどう?」
そういってユディスさんは杖の一本の刻まれた文字に小さく爪で傷を付けた
体がスッと軽くなるのが感じられたが、それだけだった
体は依然として重りのように重く、進展はない
「だめかぁ・・・。どれだけ筋力無いのよ」
「これ筋力とかの問題なんですか?」
「まぁね。魔術で身体能力を上げれば出来ないこともないけど魔術は使えないんでしょ?」
「え、えぇ」
「まぁ別にそんなことしなくてもたぶん君ならこれくらいいけるはずなんだけどなぁ」
「本当ですか?これどんな仕組みなんですか一体?体を重くするんですか?それともこの杖で囲まれた中だけ重力が変わってるんですか?」
「ん?これ?んー、重力変換には違いないんだけどね。囲った内部の魔力分の量を空間内で主さに変換するように作ってあるわ。聞いた話じゃあなた本人が魔力を持ってるって言うから特別に作ったんだけどね。本来なら魔石とか置いて代用するところだけどそんな高額で魔力の詰まった石なんてほとんど無いからちょうどいいと思ってね」
「ん、待ってください。それは別に魔力を消費するってわけじゃぁ無いですよね」
「そうよ。それならとっくに魔力が枯れて重力変換が終わっちゃうじゃない。変換と言うよりその魔力の量がそのまま重さになるって感じかしら。この術式は重力変換と魔力量の測定とを組み合わせた術式だからね」
「必要あるんですか?普通の重力変換で良いじゃないですか」
「そうすると重力設定するのが面倒なのよ。重力重くしたいけれどそんなに魔力詰めるの大変だし・・・・」
「もしかしてディアグノの木で出来てるんですかこの杖?」
「そうよ。よく分かったわね。媒体とするにはうってつけだからね」
・・・・・・
ふむ・・・・・
「えっとじゃぁ、ですよ。俺の魔力量どれだけあるかーなんって事は聞いたりしてます?」
彼女は少し考えて首を横に振った
「ツキから聞いたのは君が異世界人って事、それと魔力を体に溜める性質があるってこととかかな」
なるほど
よくもまぁ疑わずに信じてくれたよな事人もって、そんなことはどうでもいい
「たぶん、魔力量が半端じゃないんだと思います。魔力がどれくらいの量でどのくらいの重さになるか基準とかが俺には分からないんですけどね」
「うん」
「一応はかれるのかどうかは知りませんけど、恐らく生まれてからずっと全部の属性のマナとか魔力を吸収していたらたぶん凄い量になると思いません?」
「・・・・・全部の属性?」
「えぇ。どれだけ魔力の器が大きいのかは知りませんけどとりあえずずっと吸収している体質ですから」
「ちょっと、全部の属性ってどういうこと?」
「たぶん、そのままの意味ですはい。そーいう体質らしいです」
しばし無言が続いた
俺はマナや魔力や、その辺のものを吸収してしまう体質なのだ
マナや魔力がほとんど無いあちらの世界でこれだけ溜まったのだから、両者が満ちあふれているこの世界に来てからどんどんと吸収しているだろうと思う
限界は、未だ自分でも分からない
というか俺はマナやら魔力やらを無意識に取り込んでいるらしいのだがあんまり自覚というものが無い
ユディスさんは部屋から出て行き、戻ってきたときには小さな石のかけらを手に持っていた
小さな欠片は指でつまめる程度のものでそこら辺に落ちていそうなものであったことから恐らく店から出て道ばたに落ちていた石のかけらを持ってきたのだろう
それを杖が囲む中に入れてみた
小石は俺の顔のすぐ横をものすごいスピードで落ちていき、地面に小さく深い穴を開けた
汗だらだら
今目の前を通り過ぎていった小石
いったいどれだけのスピードと威力が合ったのだろう
一メートルもない場所から落ちた小石は地面にまるで雪へと落ちたかのようにスッと消えていった
「あんた・・・・何者なの?」
俺はその問いにどう返せばいいのか分からなかった
結局、俺は考えた末に「異世界人です」と答えてみた
「さて、じゃぁ気を取り直して、魔力分の重力変換ならば本人の力量が分かると思ったんだけどちょっと計算違いだったわ。ってことで魔術と剣術から先に行きましょうか。どっちからやりたい?」
「んー・・・どっちの方が良いと思いますか先生は?」
俺はユディスさんの事を先生と呼ぶようになっていた
やっぱり師の事は先生と呼ぶのが学生の俺にはしっくり来る
「そうね。今回はまぁ実際に戦場で戦う訳じゃなくて単なる試合だからね。とりあえずは剣術の上達をオススメするよ」
「剣術ですか・・・。なんっていうか、魔法のない世界から来たからかも知れないですけど魔法の方が強そうなイメージがあるんですけど?」
まぁ普通に真剣も強いと思うけれどもやはり魔法の方が遠距離攻撃とか出来るし強いんじゃないかなぁと思ったりもする事がある
けれども先生が進めたのは剣術であることにもやはり理由があるのだろう
「そんなことは無いわよ。確かに魔術が使える人と使えない人では魔術が使える人の方が有利ではあるわ。戦場に出る魔術師は大きく二つに分類できるんだけど分かる?」
「え?えーっと・・・攻撃か補助かの違いですか?」
俺にはそれぐらいしか思いつかなかった
でも何となく違うような気もした
「まぁそれもあるんだけどちょっと視点が違うわね。魔術特化型と魔剣士型の二つよ」
「あぁ、なるほど」
魔法が使えるからと言って必ず後衛というわけでも無いのか
でも魔法を使える人間はそれほど多くないはずだからどちらに割くにしても人数には限りが出てくるだろう
それにもちろん、後衛よりも前衛の方が危険度は高いだろう
「魔術師とやり合うならともかく、剣士に当たったら魔術じゃどうしようも無いのは分かるわよね?いくらマナを魔力に変換する事を短縮できる貴方でも、術を発動させるのには時間がかかるでしょうしね。まぁ其処が貴方の短所でもあり長所でもあるんだけどね」
「どういうことですか?」
「要するに、マナを魔力に変換しないでそのまま術の発動が出来ると言うことは、マナを取り込むロスとかが無いわけ。その分素早く術式を組み立てる時間にあてられるしもし本当に全属性の魔力を持っているなら相手は何が来るのか予想が出来ないわけでしょ」
「あぁ・・・なるほど・・・」
「とはいえマナを使わない貴方でも感じることは大事よ。マナを感じ、属性を見極め、対策を練る。相手がどのマナを集め、何を狙ってくるのかを考慮した上での戦闘になるわね。魔術を使う相手には頭を使わないといけないのよ。そうでないとすぐに戦場じゃぁ死に繋がるからね。今回は負けに繋がるわけだけど」
「死に繋がる・・・って言われてもなぁ・・・あんまり実感沸かないし本当の戦場に出るって訳でもないしなぁ」
「まぁ君はそれぐらいの覚悟で、相手を殺す覚悟くらいで挑むのがちょうど良いわね。良い意味で言えばあなたは優しそうだからね」
良い意味で・・・ねぇ
自分はそんなキャラだったか?と首をかしげるも実感は無い
まぁ日本人である以上平和を望むのは否定しないが
「じゃぁ何をすれば良いんですか俺は?」
「私に全力で挑んでみる。んで参ったと言わせてみる。まぁそれが出来ればもう恐いものは無しよ」
「いや、ひれ伏させるって・・・」
「あ、私強いから大丈夫。遠慮句無くどうぞ〜。まずは様子を見させてもらうからどんどん斬りかかってきて大丈夫よ」
いや、そういうことじゃなくてだなぁ
俺は仕方なく放り投げられた木の棒を手に取る
それなりに強度はありそうな棒で握りやすいように削ってある
両手で振るうことは出来ないがとりあえずやってみよう
左手のみでこの棒を支えるのは難しいがとりあえず遠心力で振り回せば何とかなるだろうか
とりあえずこの人がどれだけ強いのか、実力が分からないとはいえ自分に稽古をつけてくれる以上自分より強いのは確定だろう
それなのに参ったを言わせるなんて
まずは俺の力を見るらしい
「俺、右手使えないんですけど」
「あー・・・、まぁいいわそのままでやりなさい。筋力アップだと思うのよ!」
おぉ、なるほど。技術の上達と同時に筋力アップを図るのか
今は両手で握る木の棒がずしりと重く感じている
これを自在に振り回せるくらいの筋力が在れば、まぁ在るに越したことはない
実際同じ大きさの木の棒を目の前の女性はクルクルともてあそぶようにして振り回している
木の棒は持ち手だけが握りやすいように削られているだけでその他はそのまま小さな木の幹のような大きさだ
見たところ芯と棒が折れることはなさそうな強度なので存分に振り回せるだろう
「じゃぁ行きます!」
俺は大地を蹴った
両手で握りながら走るがそうスピードは出ない
射程に入ると俺は右から左へとその棒を薙ぎ払う
先生はクルクルと回していた棒を右手に持つと俺の放った一撃を難なく止めてしまう
遠心力を存分に使って、思いっきり振り切ったつもりだったが、弾かれたのは俺の方だった
相手の棒は勢いを受けきり、こちらの棒は衝撃で反対側に跳ね返る
女性、それも片手で受け止められたことに俺はこの人が自分で言った通り、本当にこの人は強いのだと思わされた
「くっ・・・・!!」
俺はとっさに跳ね返った反動を利用して左足に重心を寄せた
体を跳ね返った棒と同じ方向に回転させ、そして右足を振り上げて回し蹴りを放った
だがそこでもまた驚かされた
反対側から遅い来る踵を、バシンと手のひらだけで受けきったのだ
そしてそのままその手は俺の足をつかんでしまい身動きが取れなくなってしまう
「どうしたどうした?」
「ま、まだまだっ!!」
足を強引に引っ張り靴から足を抜いた
そして後ろに大きく振り上げた木の棒を振り子のようにして先生に向かって振り上げた
迫り来るその木の棒を、先生はスッと体をずらして避けてしまう
勢いを止めきれずに振り子の力で棒は上へ上へと振り上げられてしまう
がら空きになった左半身をカバーしようと右手を動かそうとしたが、今は自分だけが攻撃できる立場にあることを思い出し、その手を攻撃に転じさせた
防御の態勢をとっていて右半身を先生に向けていた俺はすぐさま右手で先生めがけて伸ばすが距離が足りない
それどころか振り上げていた左手の棒が頂点まで登り切ったのか、今度は来た道を変えるように下へと落ちてくる
一端距離を取るべくその振り子の反動を利用して後ろへと後退する
そして着地してすぐさま足の違和感に気がついた
そうだ。靴を取られていたのだった
右足はしっかりと大地を踏みしめている
日頃靴を履かずに外へ出ない俺にとってはそんな些細な事で大きな変化を捕らえていた
左右のバランスがおかしく感じてしまったのだ
靴のある分だけ、左足が僅かに上に上がっているため体が傾いているように感じてしまうのだ
さらに右足にはしっかりと大地の感触が伝わるためその辺にも意識が行ってしまった
「・・・・靴・・・・」
「ん?」
「靴返せっ!!」
「お、やる気出たみたいじゃないか!じゃぁ渡せないなぁ!!」
あの靴は、俺が高校生になったときに買ってもらった、大事な大事な靴なのだ
返してもらわないと困る
あの靴だけは・・・っ!
まぁ先生も靴をどうこうするわけでは無いと思うが履いていないとやはり、いやだ
「せやっ!!」
今度は遠心力ではなく、自らの筋力でたたき込む
振り下ろした棒は弾かれることなく、ぎしりと音を立てて二人の力が拮抗した
今更ながら気がついたが恐らく遠心力だけで振り回していただけだからあんなにも簡単に弾かれたのだろうか
とはいえこんな重たい棒をずっと振り回していられるとは思えないが
となれば短期決戦を挑むしかない
俺はもてる筋力をフル活用して先生に向かって棒をたたき込んでいった
全て止められているが、先ほどより断然に大降りでなくなったことと棒に力が入ることでコントロールがしやすくなっているのが分かった
「おおおおおっ!!」
ガッ ガガガッ ガンッ
木がぶつかり合う音とは思えないような響きがこの修練場を振るわせている
全ての攻撃は止められる
このままむやみやたらと棒を振り回し続けてもうまくいかないだろう
奇策を突くか?いや無理だろう
俺の攻撃全てが止められると言うことは、先生はきちんと俺の動きが見えているのだろう
ならばそんなことをしても無駄かもしれない
奇策をつけぬなら、正面突破あるのみ!
俺はしっかりと両手で棒をつかんだ
「右手は使えないんじゃ無かったっけ?」
「上に上がらないだけです」
「なるほど」
使えないと言った右手が棒に添えられた事で目を細めた先生で合ったがすぐに目をぱっちりとひらいて俺を見据える
何をする気だと言わんばかりに、先生が距離をとった
予想外だったがまぁいいや
先生が距離を取らなかったら俺が距離を取っていただろうしな
俺の心の中には剣道場が広がっていた
ゆっくりと先生の方へと歩み寄り、両者の距離を試合開始時の立ち位置へと持ってくる
二歩歩いて礼をした
また三歩歩いて蹲踞する
面は無い
胴も垂れも籠手も無い
だけど手に持つ棒が、かつて握っていた竹刀と重なる
これは剣道じゃないから剣道の考えは全て捨てる
だけど気迫だけはあのころのままで
技なんかもう体も頭も忘れてしまった
だけど不思議と剣道をしていた、あの頃を思い出す
幼い頃だけとはいえ剣道やら柔道やらをさせられて、俺は気がつけばに武の道を進んでいたのだと思う
とりあえず剣術でだめなら接近して技をかけてみるか
ひれ伏させろとは言ったが剣以外を使うなとは言ってないしね
スッと音もなく立ち上がった俺を見て、先生は棒を構えた
これまで構えずにだらりと棒を握っていた先生だったがどうやら今の俺を見て気が変わったようだった
まぁそれはそれでうれしいかな
本当ならソーレの方がやりやすいんだけどなぁ
でもまぁいいや
全力で行こう
息を止め、そして吐く
神経を注ぎ込む
何に?
斬ることに
「は!?」
弾いた棒はまるで生きているかのように再び迫ってきた
何が起こったのか?
ほぼ反射的に弾いた
それはつまり、その一撃が黙視できなかった
クルリと手の甲で一回転させ、握り直した相手側の棒が突きを放ってきた
先ほどまで感じられていた私に攻撃する事へのためらいが、消えている
ほぅ、面白いじゃない
左上から振り下ろされた棒を避ける
何と、追撃までしてくるのか?
もちろん見切れない早さでは無かった
初撃だけはあまりの反応速度に驚いたが筋力がスピードを生み出す力はまだまだひよっこレベル
事実目が追いつかないわけではない
ただ初撃の、あの初撃のスピードが在るならばそこら辺の騎士を一撃で倒しているであろう
もちろん急所に入っていればの話だが
スピードはもう少し頑張れば良い感じになるだろう
右から来る棒を受け止める
最初の方の棒の重さに任せた振りはもうしてこないようだった
それで良い
少しでも学んでくれればそれだけでも価値がある
本来は私が彼の力を見るためだけに行っているいわば見極めのような試合
これ自体が訓練というわけでは無かったのだがそうやってやって良いことと悪いことを感じ、見定めなおしていくのは良いことだ
私は彼にそれなりに弟子としては魅力を感じていた
「いいねいいね」
そう言いながら私は不意に伸びてきた右足の蹴りを左腕で受け止める
やはり筋力に難が多少あるかな
本来ならば先に重力特訓で軽く感じるようになった体を使って教えていきたかったのだが、まぁ良いか
筋トレはそのうち適当にやらせておくかな
回し蹴りを棒で受け止める
手に伝わる感触で私は歓喜している
この子本当に右手が使えないのだろうかとすら思えるような動き
左を使った攻撃が主体かと思えば右も左もほぼ同じ数ずつ攻撃を放っているのがすぐに分かった
意図してやっているのかどうかは分からないが、正直私ならこんな動きを計算できない
この動きはまるで見たことがないのだ
しなやかな、それでいて強引な、なんとも言えない攻撃が続く
いいね
そら、次は左か?いや右だった!
いいねいいね
よし、そのまま回し蹴り、そうそれが今の正解だ!
いいねいいねいいね
おっと、棒の方を忘れていた。危うく無挙動の状態から放たれるその一撃を脳天に食らうところだった
フフフフフ
棒が交差する
ガリガリと下方に突き出した二つの棒が擦れる感覚が手元まで伝わってくる
この楽しい時間が終わらなければいいのに
ちょっとだけそう思った
そしてその瞬間
棒が奇妙な動きをした
くるりと渦を巻くかのようにして
まるで巻き付けるかのようにして
手に収まっていたはずの私の棒は宙へと飛んでいった
全くの予想外の出来事に困惑する私に向かって、彼はのど元に棒を突き出していた
右手のひらで突き出していた棒を押しだし軌道をずらす
するりと軽い感触と共に棒は弾かれた
恐らく止める気満々だったのだろう
まぁ、のど元に突きなんて危ない真似をする以上止める気で合ったことは確かだが、もし彼が止めることを忘れていたら恐らく突き出していた棒は喉を掠めていただろう
この綺麗な白い肌に一滴の紅い血が流れていたであろう事は目に見えていた
やっぱり甘ちゃんだったわね
殺す気でやれと言ったのに
巻き上げられ、天高く飛ばされた棒が後ろの方へと落ちる音が聞こえた
「あ・・・・」
少し我を取り戻したであろう少年が私の目を見て眉をひそめた
不味いことをしてしまった!みたいな顔をした少年に向かって私は一言
「お見事」
突然持ちかけられた特訓の話で少々面倒くさいなぁと思っていたところもあったけどこれならば十分楽しめそうだ
サボる気満々だったが予定変更
私好みの武人に仕立て上げてみせるわ!!
あれだ。うん。言い訳させてください
俺としては・・・だ。これが訓練ということをちょっとばかり忘れていただけだったんだ
うん。そう。ちょっと、思考が働いていなかった
戦っている最中、自分は何を考えていたのだろう
体全てが全力で目の前の女性を殺そうとしていた事だけが分かった
それが分かった瞬間は俺が彼女の剣を巻き上げ、そして喉へと向かって突きを放っていた時だった
懇親の一撃を放っていた
放った瞬間までは最高の一撃だった
我に返った瞬間、もうこれが止められない攻撃だと知ってしまった
止まらないっ!!
この棒が、彼女の喉を捕らえる瞬間が脳裏を掠め、そして・・・・
一種の走馬燈に近いものだったのだろうか?
目の前に、血まみれで横たわる先生の姿が脳裏をよぎった
次の瞬間には込めた力だけが乗って飛んだ一撃が弾かれたところだった
我に返った俺はまずどうしよう!?と思ってしまい、次にやってしまったという言葉が思い浮かんだ
眉をしかめた俺に先生は「お見事」、そう言ってポンと頭に手を置いた
あ・・・・れ?
それにしても何だったのだろう
俺はあんなに動ける人間じゃないっていうのは自分でも分かっているつもりでいた
あんな人間離れしたような動き、俺が取れるはずがないのに
今思えば俺はどうしてしまったのだろうか
まるで自分が自分じゃなくなるような瞬間が前にも合った
あれは確かアルレストさんと手合わせしたとき
あのときのように俺はまた、自分じゃ考えられない動きをやってのけた
何なんだろう
この気持ち
不思議と悪い感じがしないのだ
それとは別に彼女に向かって本当に危ない一撃を放ってしまったことだけが未だに俺の心に残っている
「ごめんなさい」
「なにが?言ったじゃん。殺すつもりでやれって。まぁいいわ。ねぇ君、本当は右利きなの?」
「え?そうですけど一応両方使えますけど。一応右肩が上がらないってだけで日常生活には不自由ないですよ?」
俺は別に左利きというわけではない
そりゃ右手は上には上がらないけど今も昔も本来は右利き
ただ右手が多少不自由になり左手も使えるようになって今や両利き。凄いだろ
でもそれがどうしたのだろうか?
「ふぅん・・・。いや、思った以上に攻撃するタイミングとかのパターンが妙に読みづらかったから」
タイミング、パターンっすか?
戦っている最中はあんまりそう言うのは意識していなかったつもりだったけど、先生が言うからそうなのだろうか?
「とりあえず大体の力量は分かったわ。こればっかりはとりあえず実戦経験不足な君はとことん場数を踏まないとね。しばらくは戦闘しまくるのが特訓ね。じゃぁ午後からは魔術の方に言ってみましょうか」
午前中の特訓、これにて終了
俺はころんと床に転がった
次の一週間からテストなのでそれが終わり次第修正をしていく予定です。とりあえずちまちま書いてた続きを上げておきます