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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『月下の酒飲み達』

気が向くままに足を踏み入れた国


大地が少ないその王都の至る所で最近見かける張り紙


その内容を見て、俺はその張り紙をバックの中にしまい込んだ


この剣で・・・この剣に俺は・・・




「親父、今日も一杯頼む」


「あいよ。ここ数日通い詰めてますよねぇ?どうしたんですか?」



小さな船上屋台によった俺は小さな赤い暖簾をくぐって酒を頼む


月が綺麗な今日のような日には酒を飲んで寝るのが一番だ


それと滞在数日の間に、この国の酒が異常なくらいに美味いことも知った


水の綺麗な土地だからだろうか


これまでは作り方の行程や原料の種類の違いでしか酒の違いは感じなかったが、水でこれ程までに違うのかと驚きを隠せなかった



「ここの酒が美味いんだよ。まぁ此処だけじゃなくてこの国の酒って事だけどな。俺の国じゃ酒に此処まで水にこだわることがなかったからな」



自国の酒も不味いことは決してない


このはらわたに染みついたあの味はきっと忘れることが出来ないであろう


慣れ親しんだあの味は文字通り故郷の味でもある


あの地で取れた水と言えば森の湧き水くらいであまり水の品質というのは気にすることがなかったからこの地で出会った酒にはまさに驚かされる



「お褒め頂き光栄ですなぁ。仕入れ先の酒屋のじじぃにも聞かせてやりたいですね」


「お前も相当な歳だと思うが?」



すでに髪が抜け始め、皺も増えたその顔を見て俺は酒を飲み干した


慣れ親しんだ味も良いが、こういった酒を楽しむのもまた良い物だ


特にこの国の酒は他国と比べても群を抜いている



「ハッハッハ、そうでしたな!いや〜私も歳ですかねぇ」



親父はそう言って自らのおでこをぺちんと叩いた


コップを台の上に置くと中の氷がからんと涼しい音を立てた



「まだそんな口をきけるだけマシだろう」


「ちげぇねぇなぁ!!ほれ、ミンクスの肉煮込みだよ」


「あぁ。そうだ親父。これについてどう思う?」



俺はごそごそと小さな日用品だけが入るバックから一枚の紙を取り出す


それはこの国で開かれる大きな武闘大会の知らせだった


国籍や年齢を問わないという事で十分自分にも参加資格はある


しかも賞金が出るのであれば自分も出たいと思っていたところであった



「あぁ、これかい」



親父さんは紙を受け取って内容を一読する



「近々そいつが開かれるらしいが・・・こういう事は珍しいのか?」


「どうかな。上のお偉い様が軍隊の徴兵の時にやったりするぐらいかねぇ・・・」


「ほぅ。そんな兵の徴集をするのかこの国は?」



俺は初めて聞いたと驚きを見せた


そんな方法を取る国は珍しいだろう


基本戦争事になれば、女子供、それと老人以外。まぁ行ってしまえば健全な成人男性のほとんどが徴兵で戦争行きが決まっているようなものだ


この国のように篩を掛けるという事は恐らく、より優秀な人材を選び兵の質を上げる事だろう。だがそれはすなわち、兵の数が他国に比べて圧倒的に少なくなるのではないだろうか


兵の質、兵の数


両者とも欠けてはならない大事な物である


質が悪ければ数の理を行かせず、兵の質が良くても、千ならまだしも万の単位でその差が出てしまえば苦戦は必死


本来戦は数で押し切る物だった


だが魔術が確立してからはそれが徐々にそうとは言えなくなってきている


たった一人の魔術師の放つ魔法が、何千もの人を死に追いやることも不可能ではないからだ


とはいえまだまだ数の力というものの力は絶大だ


国力としては数がある方が断然有利、という見方をされてしまうため兵が少なければ其処は弱小国と他国に見られる


他国から下手に見られれば、他国との交易や駆け引きに置いても侮られて良いように動けないだろう


上に立つ者は下に立つ者を見下し、自らの都合の良いことを押し通そうとするからだ



「振るうにしても徴兵する兵の数が少なければ戦では不利になるのではないか?戦だけの話ではないが」


「さぁてねぇ。私は只の飲み屋の主人だからねぇ。ただ一つ言えるのは、今回のこの大会は徴兵が目的ではないらしいんだよ」


「ほぅ?」


「ほらだって、募集が貴族さんだ。護衛を選ぶにしては事が大きすぎるだろうし賞金が出るってのもおかしな話だ」


「確かにな」



俺もその点には同感だ


賞金なんか出せば、むしろ質の悪い者が集まることを覚悟しなければならない


とはいえ賞金無しでは人が集まるわけもない


騎士になりたいという募集の元で行う大会ならともかく、そうでないならば一体何のために開いたのだろうか


そこまでの大金まで出して大会を開く意味が分からない


護衛が欲しいのならギルドにでも行って頼めばいいのだから



「それならば、この武闘大会は何のために行うのだ?」


「さぁて。飲み屋の主人でも分かることと分からないことが在りますからねぇ」



そう言って笑う親父を見て俺はもう一口お酒を飲む


はらわたに染みる良い味だ



「ただ近頃、周辺の国で集まって会合をするっていう噂があがってましてね。開催日がその会議の予定の日と重なるんですよ。もしかしたら余興か何かのつもりなんでしょうかねぇ・・・」


「余興、か」



国のお偉い様は何を考えているのやら


会議の席を設けてそんなものを見る時間があるなら国のために働けと言ってやりたい


とはいえ自分もその余興には参加するつもりでいるのだがな



「ま、あくまで噂ですけどね」



そう言って親父はもう一杯お酒を俺のコップについでくれた


解けきっていない氷がカランとまた音を立てた


そのコップには自分の顔が映っている



「そういえばお客さんは何処の出なんですかい?」


「俺か?前来たときに言わなかったか?」


「そうでしたっけぇ?」


「まぁいい。シーグリア王国だ」



それを聞いた親父さんは驚いたように目を丸くした


まぁそれもそうだろう。あんな大陸の北からこの南のアルデリアまで来る者はあまり居ない


自分はそんな珍しい人間の一人なんだという自覚はあまり無かったが、親父さんの反応で自分が本当に珍しい人間なんだなぁと実感した



「開いた口が塞がらんか?」


「あ・・・いえ。あまりに遠い場所からお越しなのだなぁと思いましてね」


「まぁ確かにな。確かに遠い地まで来たものだ。未だにそんな距離を移動してきた自分が嘘のように思える」


「最近はあまり北の方では言い噂は聞きませんよね」


「あぁ」



最近北方の地域ではいざこざが続いている


故郷がどうなったのかは分からないが、そう言った情報はこの南にまで流れてくる


どうやらそうとうもめているらしいな



「心配にはなりませんか?」


「え?」


「故郷ですよ」



驚いた。心でも読めるのかこの親父は?


心の中でつぶやいたことをグサリとついてきた



「故郷か・・・。久しく戻っていないし気にはなるな」


「そう言えばお客さんは憲兵か何かなのですかな?」


「・・・・どうしてそう思う?」


「お腰に携えたご立派な剣が見えたものでして」


「なるほど。憲兵とは違うな。旅人と言うのが正しいだろうな。各地で金を稼いでは各地を股にかけている」


「ほう・・・それはそれは」


「主な仕事は指名手配犯を捕まえたり大会に出て賞金を稼いだりといったところか。だが最近は主に魔獣退治をやっている」


「魔獣退治ですか」


「あぁ。これは良い金になる。正規の商売人じゃない奴らの護衛をすることも在れば困った地方の農村に現れる魔獣を討ち取ったりな。討った魔獣の肉や毛皮も金になるしな」


「ほほぅ。でも一歩間違えたら危険ではないですかね?」


「まぁな。だがそうなる危険がある仕事は受けないようにはしている」


「大変ですなぁ」


「お互い様でしょう」


「私なんかは客に酒とつまみの提供を、代わりにお客様から愚痴とお金をもらうのが商売の男でさ。険なんか振ったことすら無いですよ。おっと」



親父さんはそう言って台の下からもう一本酒を取り出した



「そいつは?頼んだ覚えは無いが?」


「いえ、そろそろ常連様がご到着になる頃合いかと思いましてね」


「こんな店にも常連はいるのか」


「そりゃぁいますともいますとも。あなた様のような流れのお客様から毎日通い詰める方までそりゃぁ沢山」



この船の客が座る席はあと二つ


客は三人まで入れるということか



「ほう。ではこれから来るというそいつも毎日来るのか?」


「いえ、この方は毎週この曜日にいらっしゃるのですよ。お仕事の関係で他の日には来られないらしいのですが良い情報などを提供してくださいますよ。代わりに私はお酒とおつまみを提供するのですがね」


「面白い親父だな。流石俺が気に入った店だ。ここ何度か来るうちにちょっとした我が家のように感じられるよ」


「そいつはうれしいですが、近いうちにまた旅に出るのでしょう?」


「あぁ。だが、とりあえずは此奴に参加してからかな」



俺は武闘大会の紙を指で弾いた


軽い音を立ててその紙には小さな爪痕が残った



「言っただろう。金を集めてるってな」


「まぁ頑張ってくださいね」


「あぁ」


「やっほー親父ー!今日も来たぜー」



軽く止めてある屋台の船がぐらりと揺れる


俺は軽く後ろに体が傾くのを感じた


誰かが俺の後ろから船に乗ったのだ


その女の声がして俺は振り返ってみた


其処には一人の女性が立っていた


白く長い髪が月に照らされて輝いているかのような錯覚を見せられる


腰に帯剣をしているのだが服装は普通によく見る町民のようだ



「お待ちしておりましたよ」


「お、用意がいいねぇ!じゃぁ早速一杯もらおうか」



女性の顔は綺麗に整っている


美しい女性だ


その女性は俺の隣に腰掛けた



「今日は先客ありかい」


「えぇ。ここ数日通い詰めてらっしゃる旅人さんですよ」


「たびびと?此処であったのも何かの縁だ!一緒に飲まないか?」



俺は突然の申し出に頭が真っ白になっていた


突然見ず知らずの美女に酒に付き合えと言われても全く思考回路が追いつかなかった



「どうした?」


「・・・・あ、あぁいや。突然のことで驚いてな。まさか貴方のような綺麗な女性がお酒を飲まないかと誘ってくるとは思っていなかったからな」


「綺麗な女性・・・・そ、そうですわよオッホッホッホ。わたくしはとてもお淑やかで美しくお金持ちな淑女で名前は・・・」


「ぷっ・・・いや、止めといた方が良いですよ。慣れないことはするもんじゃない」



親父はそう言ってその女性を笑うのをこらえながら助言する


女性の方も取り繕うのをあきらめたのか歯ぎしりを立てながらお酒を一気に飲み干した



「やってられっか!笑われてまですることじゃなかったよ・・・・あー恥ずかしい恥ずかしい・・・・」



お酒のせいか恥ずかしかったせいか、女性の頬はうっすらと赤く染まっていた


顔を隠して突っ伏した女性を尻目に俺はその女性が帯剣している剣に興味を持った


一見何もないように見えるが柄をたどればちゃんと其処に真っ黒の鞘があることが分かる


一見綺麗な女性の素肌も、よくよく見ればしっかりとした筋肉が見える



「・・・・何じろじろ見てんのよ?」


「いや、良く鍛えているなと思ってな。お前は憲兵か何かか?」


「いや、国の騎士だよ」


「なるほど。・・・・・・・・・勤務中に酒を飲んで良いのか?」


「今は勤務時間外。何しようと私の自由よ」


「そりゃそうか」


「こう見えてもこのお方、なかなか強いんですよ」



親父に言われるまでもない


此奴が強くなかったら俺なんてカス以下の評価しかもらえないよ


隣に座るこの女性の力量は、手合わせしなくとも分かる


男だ女だ言う以前の問題だ


核の差は歴然だ



「強いのか?」


「強いよ」


「そうか・・・・・どうでもいいが、今夜は月が綺麗だな」



女性は酒瓶を持ちながら体を後ろに倒して暖簾の外に顔を出す



「おお、本当だ」


「今夜は雲一つ無く綺麗な星空だ」


「でしょー!」



満天の星空の中心で一際大きく光り輝く月を三人は見上げた





「綺麗だな・・・」


「前から思っていたんですけこっちの世界にも月って在るんですね」


「こっちの世界?」


「あぁ・・・えっと・・・うん。何でもないです」


「そうか?まぁ月が綺麗に出る夜は酒が美味くなると言う。どうだ、試すか?」



ユディスは酒瓶を俺に向けてくる


店の二階のバルコニーで椅子と机を出してのんびりと夕食を取っていた俺は遠慮しますと首を振った



「未成年ですから」


「ん?だってお前はもう17だろう?立派な成人じゃないか」


「あ〜・・・そうだったね。こっちじゃそうなんですけど俺の故郷は20歳からって決まってるんですよね」


「ふ、故郷がどうであれ、この国の法ならば全然問題はない」



とはいってもお酒にはなんというか、抵抗がある


昔親戚のおじさんに日本酒を飲まされた思い出がスッと脳裏をよぎった


あのときは確かお正月で実家に皆が戻っていたときのことだ


毎年お祖父ちゃんの家では正月に親戚一同が集まって唄って踊って大騒ぎするのが恒例となっていた


俺にとっては美味しいご飯が沢山出てくる日の一つで新年を祝うなんて事には全く興味はなかった


そんな時に親戚のおじさんが俺にいたずらで日本酒を飲ませたことがあった


その人も酔っ払っていたのか顔を真っ赤にしながら美味しいジュースだと嘘をついて俺はそのコップを受け取った


疑いもせずに一気に飲んだ俺は、その後の記憶がない


とはいえまだ小学生低学年頃の記憶が鮮明に残っているのはあのとき飲んだ日本酒の味を舌が覚えているからだろうか


あんなもの飲めるか!と言いたいが、今回俺に差し出されているのは日本酒ではない


何酒かは知らないが、飲める物で在ることを祈るよ


せめてチューハイぐらいの物を頼む!!



「そ、そうですね。じゃぁ一杯もらおう・・・かな」


「それでこそ男だ!」



グラスを手に取り、其処にユディスさんはお酒をついでいく


無色透明、臭かったりという強烈な臭いはないがそれでもこれがお酒だと分かるくらいに独特の香りが漂う


逆らえないし・・・ちょっと勇気がいるなこれは


落ち着けー俺。深呼吸深呼吸


数回深呼吸をする俺を見てユディスさんはにやっと笑う



「思いっきりいけ!思いっきり!」


「ど、努力します」



無色透明の液体にびびっている俺は引きつった笑顔で答える


こんな飲み物に恐れを抱くのはどうかとも思うが、正直嫌な物は嫌なのだ


しかも未成年の俺がまさかビールやチューハイならともかく、こんな酒を飲むことになるとは予想だにしていなかった


なんて言ったって俺は健全で法律を守る普通の高校生なのだから



「いきます・・・」



グラスに口をつけ、ゆっくりとお酒を喉に流し込んでいく


目をギュッと瞑って飲んでみる


そしてグラスに入った液体が全て喉を通り過ぎると俺はそのグラスを机の上に置いた


飲めないことは無く、予想以上に飲みやすかったというのが本音だ


しかし



「ゲフッ」


「プッ・・・・ッハハハ!!ゲフッってお前!!」


「うっ・・・・」



とてもとても恥ずかしい・・・・


この後気がつけば朝になるまで俺とユディスさんはバルコニーでひっくり返っていた


あの後の記憶は、無いに等しい


記憶にあるのはあの後二人で酒を飲みまくったことのみ


ただ俺は二日酔いをせずに帰還し、対するユディスさんはしっかりと二日酔いで酔いつぶれていた


ユディスさんは相当苦しそうに店番をして、俺は杖の効力で地面に縛り付けられたまま約半日放置された


進展としては体が少し慣れたのか昨日よりも更に数センチあがったことだ


ただそれを喜んで良いのかどうかは分からなかったが、そのときの俺の頭は昨日あの後何があったのかという、誰にも分からない謎の事でいっぱいだった


酔いつぶれたユディスさんもその答えは知らなかった





えー、恐らくですが21日には検定があり、その後にはテストが続いたりしてちょっと勉強に割く時間が多くなるため、今後、今月の更新頻度はかなり落ちると予想されますのでご了承ください。これからも烈風のアヤキをよろしくお願いします

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