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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『特訓の日々2』

俺はたてなかった


大地に突っ伏し、膝を上げることも、腕を上げることも


立ち上がることも出来ない


ただただひれ伏していた


目の前に立つその女の前に



「くそっ・・・!!」








時は数刻前に遡る


筋肉痛が治りかけてきたその日は天気も良く、清々しい一日の始まりを迎えた俺は城を出て俺はツキのもとを訪ねた


ツキは家の中で一人の女性と会話をしていた


長い髪を紅く長いリボンで結んだその女性は俺の姿を見てお辞儀をした


俺も慌ててお辞儀をした


そしてその人が誰なのかという事をツキに聞いてみた



「彼女はアーストレストゥルシア・ユディス」


「長いからユディスかレストル・・・・そうね、先生とかでもいいわよ」



名前がものすごく長かった


っていうか先生って?



「あ、あーすとれつぅっぁ?え?」


「アーストレストゥルシア・ユディス」


「あーすとれすとぅるあでぃす?」


「アーストレストゥルシア・ユディス。短くユディスで良いわよ。ツキはレストルって言うんだけどね」


「は、はい」


「じゃぁレストル。後は頼んだ」


「おっけー。任しときな」



そう言ってユディスは立ち上がる


凛とした目つきで俺を見ている


え、何?俺?



「初めまして。これから貴方の指導をするアーストレストゥルシアユディスよ。よろしく」



手が差し出される


え、指導?先生ってそう言うこと?


俺はとっさに手を差し出して握手をした


見た目は年上で背も高くて綺麗な人だ



「ッてことで今日からびしばし行くわよ」


「へ?」



そして突如連れ出されたと思ったら何故か俺は第四地区に連れて行かれ、とある店に放り込まれる


なんなんだ一体・・・



「この奥は修練場になってるの。さて、じゃぁ始めますか」


「え、えっとあの・・・何を?」



店の奥は大きな道場のようになっていた


地面の土はカラカラに乾いている



「ん?ツキから聞いてないの?」


「えっと・・・何のことでしょうか?」


「ふむ・・・。じゃぁ質問タイムを上げよう。一分よ」



一分!?早いぞ!



「此処は?」


「私の店ね。おみやげ物屋みたいな物よ」



確かに一目見たときにおみやげ物屋っぽい雰囲気が感じられた、っていうかおみやげ物屋なんだけどさ


「えっと、修練って大会に向けての特訓って意味で良いんですよね」


「それ意外に何が?」



うん。何となく分かった


ツキがこの人に俺の訓練につきあってくれる人を紹介してくれたって事でいいのかな


そしてどうやらこの女性は俺の先生になるってことになるらしい



「じゃぁ何で隣で職務放棄した女性が楽しみそーに座って居るんですか?」


「それはね、面白そうだから」



何処で聞いてきたのか、何がどうなってこの人が俺の横にいるのだろう


俺の思い過ごしでなければたしかこの人はこの国の騎士隊長だったはずで仕事とかあるはずなんだけどなぁ



「チル。見学は自由だけど今回はあたしのおもちゃなんだからね。邪魔するなよ」


「わーってるて!それを見に来たんだから」



呼び方からしてさほど上下関係という物が感じられない


二人は知り合いなのだろうか?



「えっと、お二人のご関係は?」


「あぁ、たんなる幼なじみよ」



幼なじみか


ナルホドどうりでフレンドリー



「チルさん仕事はどうしたんですか?」



一応聞いておいてやる



「部下に押しつけ」


「最悪だなおい」



この国本当に大丈夫かこんな人を隊長にして


そんな不安感を覚える彩輝はとりあえず突っ込むのをやめにした



「それでえっと・・・まずは何をすれば良いんですか?」


「ん?早速始めるか!意欲があるのは良いことだ!そうだな、時間も惜しいし始めるか。よし、まずは俯せになれ」


「俯せですか?」


「そうだ」



俺は言われるがままうつぶせになった


下はカラカラの土で多少床の土が服に付いたが、そのへんはあまり気にはならなかった



「それで?」


「ちょっとそのまま待っていろ」


「はぁ・・・」



そういってユディスは部屋の隅に置かれた杖を持ってきた


木で出来たその小さな杖を5本、俺の周囲の地面に突き刺した



「よし。では始める」


「よろしくお願いします」



と俺はうつぶせのまま言う


相変わらずチルさんはニヤニヤと笑っているしこれから一体何をするのだろうか・・・



「さて、この小さな杖には特殊な術式を刻んであってな。狭い範囲なら魔術を使わずとも十分な効力は得られる。さて問題だ。君は今から何をすればいいと思う?」


「え?」



何をすれば良いか?


そう問われてもこのうつぶせの状態で何をすればいいのだろうか


それにこの杖の効力って一体・・・



「う、腕立て伏せ・・・とかですか?」


「はずれ。それよりも簡単な事をしてもらうわ。時間が無いからそうね。立つ。それが今日の目安かしらね」


「立つ?立てばいいんですか?」



立つだけならばものすごく簡単な気がする


ただそんな簡単でないことは何となく予想は出来る


そして立つことが今日の目標だとするならば、この杖はもしかして・・・・


予想通りなら・・・魔法が在る世界だから十分にあり得るな



「そう。たてれば十分ね。ただそう簡単にはいかないと思うけどね」


「なんとなーく予想はつくんですよね。もうやってみて良いですか?」


「えぇ。もう体の異変に気がついているでしょ?」


「ま、まぁ・・・」



気のせいかとも思っていたが俺の予想が外れていなければ当たり前か


これは案外きついかもな・・・


俺はこの後の苦労を想像しつつ、両手に力を入れた



「うっおおおおおおっ!!!」



全力を出してみた


そして・・・



「無理だあああああっ!!!」



全力で否定した


全力で挑んで全力で否定。だって



「無理無理!!指の一本も動きやしねぇ!!」



体が全く動かないのだから



「まずは立つのが目標。じゃ、次合うときには体を浮かせるくらいまでは行っててよね」



そう言ってユディスは身を翻して部屋を退室した


次合うときっていつだ?一、二時間後くらいか?


それに体を浮かせるくらいまでは、ってことは最低限そのあたりまでは行かないと不味いって事だよな



「くそっ・・・!!」


「ちなみにあいつ、教え子には厳しいから本気でやらないと後悔するぞ」



ハハハハハーと笑いながら遠くを見つめるチルさん


なんだか遠い過去を見るような、そんな風に俺は見えた


過去に何が!?



「そんなに厳しいんですか?そうは見えませんでしたけど・・・」



確かにお淑やかとか大人しいとかそう言う雰囲気では無かったけれども、俺はチルさんがいう風な人には見えなかった


イメージ的には活発っぽい感じはしたけれども其処まで厳しいって風には感じられなかった



「いやね、私が・・・・いや、よそう。これは話したくない。という訳で頑張って立つところまで持って行ってくれよ」


「は!?ちょっと、其処まで言っておいて!?気になるんですけど」


「まーねぇいいじゃない私の事なんか。ねぇ?。それにちょっと見てみたい気もするし」


「なんなんっすか・・・。他人の不幸ほど面白い物はないって事ですか?」


「お、上手いこと言うね!!なんか私にピッタリの言葉だわ!」



そーですか。よーござんしたね


俺もそんな気がしていましたよ。あなたはそんな人なんだって


仕方ない、ここは頑張るしかないか


俺は両腕に力を込めて思いっきり大地を押してみる


が、体はびくともしない


まるで全身を上から押さえつけられているようだ



「これ・・・重力ですか?」


「まぁそんなものね。その杖は重力変換するための術式が刻まれた杖だからそれぐらいの、大体半径2メートルか3メートルくらいまでなら囲えるかな」



この小さい杖が俺を地面に押しつけているのか


くやしいかな、全く刃が立たない


いや、体が立たないか


あれ?俺うまいこといった?


いやいやいや、そんなことはどうでもいいんだ


妙な考えを頭の中から振り払って俺は再度挑戦してみる


だが全く動かない



「これ・・・無理だろ」


「?無理ってわけじゃ無いぞ?私は一日で膝立ちまでいったから」



この人が一日で膝立ち!?


いや、女性だからか?だがしかしこの人で一日・・・


絶望と希望が入り交じった妙な感じが俺の心をぐーるぐる


俺に出来るのか?いや、でもやらなきゃ何をされるか・・・



「ふんぬおおおおお!!」



俺はその瞬間、思いついた


足も使わないとだめだろう!


手と同時に足にも力を入れる


とりあえず膝が地面に立つくらいにまで動かせれば・・・


糞っ、どれだけ重力かかってるんだよこれ!?


その後も俺は努力をし続けた


そりゃもう全力で


そして、数時間後ユディスさんが戻ってきた


仕事の方をしていたのだろう


体にはエプロンのような物をつけていた



「どう?多少は進展合った?」


「あの・・・・トイレ行かせてくれませんか?」


「進展は?」


「えっと・・・・もう力尽きて無理なんですけど・・・」


「へぇ。で、ちょっとは体あがったのかしら?」


「えと・・・・ちょっとだけ・・・」


「1センチ弱だけどね〜」



ひぃ・・・・そんな付け足しはいりませんって!!


なんて心の中で俺はチルさんに怒鳴ったが本人は知らぬ顔


っていうかもうその辺が限度。これ以上は無理です。無理


口笛なんて吹いていやがるものだからとっとばかり怒りマークが頭に浮かんだ



「んー・・・・まぁちょっとは進展あったみたいだし努力もしてたみたいだから今日はここまで。流石に立つまでは行かなかったのは残念だけどね。時間が短いから出来れば明日か明後日までにはクリアしてもらわないと」


「無理」


「断言しない。ほら、もう立てるでしょ」



ユディスさんは杖の一本を地面から抜いた


それと同時に体の金縛りが解けたかのようにスッと体が軽くなる



「う、うおおおお!!!立てる!立てるぞおおおっ!!」


「当たり前だっつーの」



そして俺は何故か立てることに超感動していた


身動き取れない状態で何時間もいたもんだから体を早く動かしたかった


大きく背伸びをして、その後俺は修練場を走り回った


やばい・・・・動けるってこんなにも感動できるもんだったのか!!



「さ。終わったら店の手伝いしてね」



ぴたりと足が止まる


店?


お手伝い?


俺が?



「ほらさっさと来る!」



そう言って、近づいてきた俺にエプロンを投げつけた


そのエプロンを広げると其処にはこの世界の文字で何か書いてあったが読む気になれなかったので訳すのは後でにすることにした


それをかけて俺は店の方へと出た


店にはいろいろなお土産のような小物などが並べられてる


小さなストラップのような物から大きめの傘や置物なども置いて在るのが見える



「さて、じゃぁチルは其処に立ってて」


「私?」



意外そうな顔をして後ろからチルさんが修練場から出てきた



「どうせ暇なんだろ。店の前に立って宣伝でもしてろ」


「く・・・仕事をサボった罰かしら・・・」



チルさんは渋々店の前に立った



「さー見てって見てって〜!!」



声を上げて周囲の客引きを始めた


この人本当に騎士隊長なのだろうか。なぜ土産物屋の客引きをやっているんだろうあの人


「高い!汚い!バッタ物!!ぼったくりの――――」


「ぶっ殺すぞテメェ!!」



あ、素が出た


流石隊長!!人目もばっちり引いてます


頭から煙を出すかの如く、地面に突っ伏す彼女はばっちり通りすがりの人たちの視線を我が物としていた



「いてーよーいてーよぉー」


「お前、心は子供のまま育ってんのな」



ぶん殴ったチルさんを見下ろしてユディスさんがつぶやいた


同感です。なんかものすごく同感出来る気がします





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