『特訓の日々1』
会合の内容は今後行う精霊台所持国の会談のお話であった
場所がどうとか費用はどうとかいろいろと話題は合ったらしい
問題はそれを何処でやるか、ということらしい
場所の提案としてはアルデリア、エストレル、グレアントの三カ所から選ばれるらしいということがグレアント側からの書状に書かれていた
流石に精霊台の4つがこの周辺に位置していることからアルデリアとグレアントがあげられたらしい
そしてエストレルというのは中原、ほぼ大陸のど真ん中に位置する国であり、どの国からも集まりやすい場所ということになる
開催日程は決まってはいないものの、やるならばその三つの国から選ぶことになるらしい
その辺は各国から投票を取るという事らしい
まぁそれでもアルデリアは選ばれないだろうという事は予想済みである
北方から来る国もあるので山に挟まれ北には不毛の大地が広がっている
そこを抜けるというのは大変だ
ならば交通の便がよいグレアント、エストレルに表が集まるのは必死
ただ問題としては北から南、精霊台を所持する国どうしの距離がとてつもなく遠い事だ
場所として正式に決まるのならばエストレルだろうという事でこの件の中心となってくれているグレアントに書状を送ることになった
ただ一度、この周辺の4国で集まって会議をすることが必要だとファルアナリアさん、他数名は提唱した
俺たちの異世界訪問はどうやら予想以上に問題を起こすことになりそうだと彼女たちは言った
まずこの大陸には先の時代に侵攻してきた者達の存在があり、彼らもまた異世界人だという事があげられる
それだけで俺たちの地位はことごとく低いものとなってしまう
もし最悪帰ることが出来ないということになってしまった場合、そういった偏見でこの世界に住みづらくなるという事があった
考えたくはないが、この世界には黒髪黒眼の人種というのは存在していない
そして異世界人であること
後者は隠せても前者は隠すことが出来ない
まだ異世界人だと言うことが広まっていないから良いが、もし広まって暴動などになれば俺たちの居場所は何処にも無くなってしまうと考えられた
俺たちがどう思おうと、周囲の意見は変わらないだろう
一度暴動が起きれば止めるのは容易ではない事が想像できる
だから下手をすれば俺だけでなく、城の人たちにも迷惑が掛かってしまう恐れがある
俺が困るのは我慢できるが、自分のせいで他人に迷惑をかけることはしたくないと思った
その意志はきちんと彼らに伝えた
過去にたった一人の人間によって国が滅ぼされたという事例が残っている以上、一人だから、といった理由で見逃してくれるとは思わない
不満が在ればその不満が消えるまで周囲の人間は騒ぎ続けるはずだ
そしてその不満を消せる方法といえば、殺すほか無いのだという事も察しがつく
国外追放?そんな生優しいことを国民が望むはずもないだろう
国を滅ぼすほどの人間を野放しに出来るか?否。ならば殺してしまえ
民衆も悪い人たちでないことは重々承知しているつもりだ
ただ、それ故に自らの危機に対して過剰に恐怖するのだ
この会談の結果、まず周辺の4国で集まり会談をする
そして俺たち異邦者が元の世界に帰れるまで安心して過ごせるような体勢を作っていくこと
それも含めて、今後の事の意見もまとめておきたいとの事
場所は未定だが近いうちに各国で集まり、さぁ会談となっても、各々の通したい事柄を明確にしておくべきである
集まって出来ることといっても些細なことでしかない
だけどそのために皆が手伝ってくれているのだから、俺としては感謝の気持ちで一杯だった
なんというか難しすぎる話で終始頭がこんがらがっていたが俺が理解できたのはその程度であった
気がつけば皆は解散して部屋には俺とファルアナリアさんだけが残っていた
「うーん、なんか良くわかんなかった・・・」
「そうですか?まぁ指示はこちらで伝えるのでまぁそれほど気にしなくてもよろしいですよ」
それなら俺も気楽に過ごせる
適当に指示だけだしてそれに従っていれば良いのだから
よっぽどの事が無い限りそれを破る気は無い
「そう言えば家ってどうなったんですか?」
「あぁ、そうでしたね。もう入居は可能ですよ」
「えっと・・・ティリアさんも一緒なんでしたっけ?」
「そうですね。まだよく分からないことも多いと思いますしとりあえずしばらくはつけておきます」
それについては肯定も否定もするつもりはない
一人の方が気楽、というのもあるがそれでも話し相手とかぐらいは欲しい気もする
全部を全部一人でやるというのはまだ俺には不可能だし、今思えば不安なことも多い
一人でやっていける自信があるのかと聞かれればたぶん俺は自信なしと答えると思う
あのときは結構ノリで言っていた部分も多少合った気がするなぁ
「それと・・・気になることが在るんですけど」
「気になることですか?」
はっと思い出した俺は黒玉の一件を話した
始まりは龍にさらわれた後から始まり、終わりは黒龍、そして謎の男の話に終わる
最後まで静に聞いてくれたファルアナリアさんは顔をしかめていた
「それに関しては・・・・私は関与していないというのが事実です。ですがその黒玉という存在についても初耳です」
「やっぱりっすか・・・・。誰か独断で動いて居るんですかね?情報が入ってきていないってことは」
「かも知れません。これは少し裏を探る必要が在るかも知れませんね。あるいは私たちの名を騙った誰かの仕業、ということも考えられますね」
てことは。もしそういう奴らの犯行だった場合、宝玉が手に入ろうと無かろうと、どちらにしろ国の好感度はダウンってことに繋がる
恨みがある・・・?
「まぁその件はしばらく時間が必要かも知れませんね」
俺もそう思ってこの日は退室をした
だが思っても見ないことに、この件は近々とてつもない大事に繋がることとなるとはまだ二人は知るよしもなかった
そしてその翌日、突如トルロイン家が王都での武闘大会の開催を発表した事がその日一番の話題となっていた
「武闘大会・・・」
城の中でもすでに噂にはなっているらしい
何でも商品にはお金と共に、宝玉も出されていた
兵士達は参加不可能であるため宝玉を手に入れるには城に務める人たちはその武闘大会に出ることは出来ないらしい
年齢制限も出身国も気にせず、ただただ楽しくやろうということが配られたチラシに書いてあった
「近いうちに連絡を入れるってこういう事ですか・・・」
連絡というかもはや告知だ
今では王都中にこの知らせは行き届いているだろう
年齢、出身、武器魔法の使用自由という何ともフリーダムな内容ではある
武器はトルロイン家が提供する品を使うこと、魔法は上位魔法の使用禁止というルールだけはついていた
「武闘大会ねぇ・・・・」
また厄介なことになりそうだと彩輝は直感で悟った
恐らく俺たちが欲しがっているから商品に出したのだろう
どうしても欲しいものなら出場してくるとでも思ったのだろうか
いや、だが事実ここの人たちには頼めない
それに他人任せは良くないなぁと心のどこかで思うところもある
絶対に宝玉が必要という訳ではない
だが今後のことも考えておけば手にしておきたいのも事実
後から後悔したくは無い
宝玉自体なかなか手に入れる機会は無い上に、知らぬ誰かが優勝して持って行ってしまえば回収はかなり難しくなるだろう
こんな目の前に欲しい物が手に入るチャンスが転がっているのだ
多少は努力しても良いだろう。ならば自分が強くなるしか無いのだろうか
生き抜く力
武力という点で、俺はまだまだ未熟だ
人に対して攻撃することには抵抗がある
力をつける
それはきっと今後の自分にも生きてくる
無力な自分、足手纏いな自分、傍観するしかない自分
力不足なのは分かっている。これはそれを補ういい機会かも知れない
彩輝はとりあえずとある人のところに向かうことにした
自分の家にも行ってみたい気持ちは多少合ったが、それよりもまず聞いておきたいことがある
ティリアさんか誰かが見つけるだろうと俺はすぐ戻ります的な書き置きを残して城を出た
さて、申し出を受けてくれるか事を祈るか・・・
仕事の迷惑にはなりたくないからね
「いいわよ。別に」
「あ、ありがとう・・・」
その申し出はあっさり通った
俺は城を出て真っ先に第5地区へと向かった
そしてうろ覚えでツキの家を探り当てて修行をしてもらうことを決めてもらった
返答は了承
「どうせしばらくはゆっくりするつもりだったし」
そう言ってツキは見慣れた薙刀を手に取った
「って・・・本物使うんですか?」
「えぇ。これは訓練じゃない。殺しあいだと思わないと一ヶ月で上達なんか出来ないから」
猶予は一ヶ月
というのも武闘大会が行われるのが今日からちょうど一ヶ月後
その間に戦えるレベルまで持って行けるかどうか・・・
気がつけば俺は武闘大会に向けて戦う訓練をしていた
「ほら、早く獲物を抜いて」
俺はとっさにソーレに手を伸ばした
今にも彼女が斬りかかってきそうな様子を見たらとっさに手が動いたのだ
そして予想は的中
小さな広場に剣がぶつかり合う金属音が鳴り響く
住宅街の一部には円形の公園のような場所があって俺たちはそこを借りて訓練をしていた
いや、訓練ではない。訂正しよう
どちらかというと模擬戦のようなものだ
振り下ろされる軌道を読んで右に素早く交わす
完全に振り下ろされた時点で薙刀の持ち手をずらした
そして刃は平行にこちらへと向かってくる
この時点で俺は防御の態勢を取っている俺はしっかりとその動きを目で捕らえる
教訓その一。相手から目を離してはいけない
当たり前のようでなかなか難しい
真剣で鎧も何もつけていない俺には恐怖するには十分すぎる
だから、恐れない。立ち向かう。勝つ
澄んだ空気にキィンと金属音が響く
止めた
こちらは攻撃範囲が極端に狭いためにいろいろと頭を働かせて懐まで潜り込まないといけない
昔剣道をやっていた俺とはいっても武器も違えばこれは真剣でのやりとり
剣道という型にはまっていては相手を倒すことは出来ない
俺はそのまま一歩踏み込んですぐさま右手を伸ばす
そしてツキの薙刀をつかむ
止めた刃の反りは浅いのが至近距離から見えた
目のすぐ横には刃が在る
柄はどうやら木製の上に金属板を巻いたような物であった
思ったよりも軽い事に俺は驚いた
左手で刃を止め、右手で柄を握る
力では男の自分の方が多少は在るだろうと踏んで右手をしっかりと握って俺は刃からソーレを離す
右で止めていたその左手をそのまま振り下ろす
左手を右手の上から斜めに切り下ろす
だが感触は無かった
するりとツキは俺が薙刀を握っている力を利用してまるで滑り込むように反対側に移動していた
そしてそのまま柄を握ってひねる
右手で握っていたので捻られて薙刀の柄がこちらに向かって迫ってきた
とっさにソーレを縦にして峰を相手の方に向けた
ソーレをななめに剃らして勢いをそのまま上へと向ける
ぶつかった拍子に刃がこちらに向かって動いたがそれは何とか腕力で止める
上空にそれた薙刀の柄で合ったが捻られたその薙刀を俺は持っていられなくなった
これ以上持っていれば腕が捻られる
離した瞬間、まるで弧を描くように下から先ほどそらした柄が向かってきた
休む暇もない!
敵は待ってはくれないのだ
ちょうどその頃、それまで城でアヤキの部屋として使われていた部屋に一人の女性が入室した
ノックをしたのだが返事がないので在宅ではないのかと不審に思ってドアを開いた
そして侍女であるティリアは机の上に置かれた一枚の置き手紙を見つけた
その内容を一読した後、それを王妃の元へと持って行くことにした
「っせい!」
もはや知り合いに振り下ろす威力とは思えないほどの勢いで金属が打ち合う
その音で気がつけば周囲には何人かの観戦者がいた
だが当の本人達は全く気がつかないとでもいう風に何度も二つの影は交錯する
彩輝は歯ぎしりをたてた
一撃も有効打にならない
年も変わらぬ少女に自分が劣っている
当たり前といえば当たり前だ
帰宅部高校生とは違ってしっかり仕事をこなし、一時は騎士団に入っていたという少女の顔はいつものようにほぼ無表情に見える
余裕があるのか疲れが顔に出ていないだけなのか彩輝には判断しかねたが、相手は休む暇すら与えてくれない
なのにこちらはもう息が上がっていて、手加減するそぶりは微塵も感じられない
自分から頼み込んだこととはいえ、まずは自主トレで体力をつける方が先だったか、という考えが頭の中をよぎった
距離を詰めたいがきちんと相手も自らの攻撃の有効距離と相手の攻撃範囲の狭さを十分に分かった上で戦いを行っている
至近距離にさえ入れればこちらが有利なのだがどうも彼女には一撃も決まりそうな気がしないのは気のせいだろうか
気迫押しされているのか、それとも俺がつかれているだけなのか
とりあえず体力も限界に近かった
斬り合いを初めて一時間。休みを入れずに自分でも良くやったよと思える
一撃入れれば休憩をもらえるという約束だ
「はっ!!」
突き
まるで相手が避けるのが当たり前と言わんばかりの堂々の突きを俺は左に避けた
刺さったら本気で死ぬぞ
冷や汗が斬り合い当初から止まらない
相手が薙刀を突き出してくる
引っ込めて攻撃をするにも俺が踏み込む方が早い
横に振るうとしても俺のフリーの右手がそれを遮るだろう
「らぁっ!!」
ソーレを、短刀の峰でツキの胴を狙った
が、彼女はあろう事か両手を薙刀から手放したのだ
一瞬の出来事に動揺する俺の左手首を即座につかみ、捻る
ソーレが手から離れたのが分かったが、それ以上に一瞬の痛みでソーレを手放したことを後悔した
次の瞬間には、がら空きになった俺の胴をツキの掌底が捕らえた
下から突き上げるような感覚
次の瞬間には腕刀が俺の背後から襲いかかる
抗うすべもなく俺は大地に倒れ込む
掌底は綺麗に効いた
だが最後に放たれた腕刀の威力が押さえられていた事だけが唯一の救いだろう
強かった
少なくとも実力を見るつもりだけだったのだがこれはたぶん自分の手には負えない
教えられることは少ししかないだろう
まだ戦い慣れていないというのに此処までの反応速度とは思っていなかった
確かに彼はあの黒龍を目の前で打ち倒した
だけどそれは彼の本当の実力というわけではない
あんな膨大な魔力がぶつかれば、そりゃ龍ですら絶命するというものだ
彼自身の実力はまだまだ一般の兵と同等くらいでしかない
優れた点は反射神経
その反射したあと的確な行動をとっさに取れるかどうかはこういった模擬戦でこれから慣れていかないといけないが、これだけ動けるならばそれなりに大会でも善戦してくれるだろう
ただそれは常人が相手の場合であって、本当に強い人というのは自分とは比べることすら出来ないほどの高みにいる
もしもっと強くなりたいというのなら、もっと強い人に指導を当たってもらわないといけないかも知れないとツキは思った
わざわざ自分を訪ねてきてくれたのはうれしいが、自分では力不足だとツキは水を注いだコップに映る自分を見てつくづく思った
水が入ったコップを受け取った俺はその水でカラカラに乾ききった喉を潤した
潤いは渇いた喉に染み渡る
横腹が痛いしもう今日一日は何もする気が起きないくらいに消耗していたのが実感できた
いつの間にか観戦していた人たちは消えていた
なんだろう。グエラーかなにかかと思って見に来たのだろうか
とりあえず全身が悲鳴を上げていた
俺は地面に横になった
地面には無数の足で削られたくぼみが出来ていた
その範囲は気がつけば広場一杯にまで広い
そんなに走り回ったのだろうか・・・
「生きてる?」
「何とか・・・」
死なないようにするので精一杯だよ。いやマジで
ていうか何で真剣使わなきゃなんねぇんだよ!?
一歩間違えりゃ大怪我じゃ済まないぞ
「さて、もう一回やりますか」
絶望を感じた
「ちょ、ちょっと待って!!」
とっさに俺は両手を突き出して止めてくれという意思表示をする
じょ、冗談じゃない
それこそ死ぬわ!
先ほどまでは緊張の糸を保っていたから良かったものの、もうすでに緊張が解けて俺はもう無理だ
「何?」
「いや、何じゃなくて・・・・きついんっすけど・・・」
素直に言ってみる
「頼んできたのにそれ?」
「ぐ・・・・それを言われると・・・・」
俺は何も言い返せない
「だけど体力が限界なんですけど」
「・・・わかった。じゃぁ次は明々後日ね」
「え?あっ、わかった。何か用事でもあるの?」
明日や明後日では何故だめなのだろうと聞いてみる
ツキは地面に置いた薙刀を手にとってこちらを振り向いた
「明日になったら分かる」
そう言って家の中へと戻っていった
取り残された俺はすごすごと城へと戻ることにした
そして翌日になって理由が分かった
「なるほどね・・・・」
あれだけ派手な運動をしておいて、筋肉痛にならないはずが無かったのである
納得した彩輝は丸二日、ろくに動くことも出来なかったという
その時のチルさんが俺を笑う姿をきっと忘れないだろう
チルさんには忘れてもらいたいけどね