『いろいろと再会してみたり』
この城に入るのも何日ぶりだろうか
一ヶ月経つか立たないかというところだろう
そもそも日数なんて数えていないからあれからどれだけ立ったかなんて分からないのだが
俺はチルさんの後ろをついて歩いていく
シオンさんは先に自室に戻って中断していた執務をやることにしたらしく、あのあとはすぐに俺たちとは別れた
俺はとりあえずファルアナリアさんに渡す物を預かっていると言うことで王妃であるファルアナリアさんのところへ連れて行かれるらしい
しばらく城の待合室で待たされてようやく俺は謁見の間へと通された
「お久しぶりですアヤキさん。元気な顔を見られて何よりです」
「ど、どうも」
とりあえず俺も先に低頭したチルさんに習って膝をついて低頭した
「別に最初の方にも言ったと思いますけど其処まで畏まる必要はありませんよ。早速ですが預かっている物があるとか?」
「あ、はい」
そうは言われても流石にねぇ・・・
久しぶりにあって多少畏まった部分もあったけれど前がフレンドリーに接しすぎたような気もしなくはないのだが
俺は肩にかけていた袋をおろして中から白い紙筒を取り出す
綺麗なリボンでくくられて丸められたその書状を渡そうと思ったがどうやらそれは俺の役目では無いらしい
チルさんがスッと立ち上がり、その書状を渡すようにと無言で手を差し出した
俺はすぐにチルさんにその書状を渡した
チルさんはそれを受け取るとそのリボンを解いて紙をひろげた
それをファルアナリアさんのところまで行って手渡す
「おや、オリシアの娘からですか」
ファルアナリアさんはそうつぶやいて書状に目を通した
しばらく文字を眺めていたと思ったら次はチルさんに向かって話し始めた
「チル隊長、そうですね明日の正午より会議を行います。参加できる文官武官を会議室に集めてください」
「はっ。してその理由は何としましょう?」
「他国との、それも複数の国での会合が行われるのでまぁそれに関した内容といったところでしょうかね。これはアヤキさん。あなた達のための会議でもあります。明日は貴方も会議に出席するように」
「俺もっすか?」
アルフレアさんは手紙の内容は後々分かると言っていたがこれのことだったのか
会議
恐らく、精霊台を保持する国が集まって会議をするのだろう
あちらでアルフレアさんが他の国と手紙のやりとりをしていたのもこのため
一国は不参加という事だったが現状は五国の参加が決まっていることらしい
このために恐らくアルデリアとも事前に手紙が来ていて少しずつ話が進んでいたのだと思う
「明日の予定はあけておいてくださいね」
そうニッコリと言われて俺はうなずいた
「ところでチル隊長?」
「はっ!」
「どうやら先ほどまで城門付近で騒いでいたようですが」
耳が早いなぁこの人
まだそれほど時間も経っていないというのにすでに王妃の耳には城門での一件のことが・・・
「騒ぐのは自由ですが門まで壊すのは・・・」
「えっ・・・と・・・・・・・へっ?」
チルさんは何が起こっているのか理解できずに素っ頓狂な声を出してしまう
「あらましは魔術師団長から全て聞きました。貴方が暴走したダトルを止めてくれたことには感謝しますがそれで門を壊したのであればきちんと門の修理費は貴方に出して頂かないと」
「いや、あの、何をお聞きになったのかは知りませんがそれは―――」
「では、アヤキさん。そういうことで。詳しい話は追って伝えますので」
「あの、ちょっと、何。えっ?」
ファルアナリアさんの目はご退室お願いしますって目をしていた
俺はそんな彼女の瞳に見つめられ、後ずさるしかなかった
じりじりと気がつけば扉の前に立っていて、チルさんがせめて俺だけでも道連れにしようと襲いかかってきた
だがそんな彼女の襟首をガッとつかんだファルアナリアさんが俺の目の前に立っていた
俺まで後数センチというところでチルさんの指先はとまっている
「う・・・っぁ・・・」
「ひ、一人で逃げるなんて・・・証言に・・・っ」
彼女は俺に向かって手を伸ばすが首が絞まって進めないうえに声が出ない
「では、そういうことで」
気がつけば俺は部屋の外にいた
そして扉が閉まった
恐らくさっきの話から察するにはシオンさんが執務を邪魔されたことへの仕返しのつもりなのだろうと思われる発言がいくつか聞き取れた
「王妃には逆らえないしなぁ・・・」
数秒後には扉の内側から叫び声のようなものが聞こえてきたのだが、俺はとりあえず手を合わせてその場を後にした
ただそれはチルさんの安否を祈ることではなく、後でチルさんが俺に復讐に来ないことを祈るものであった
俺はとりあえず龍にさらわれる前まで自室として使っていた部屋を目指すことにした
他に行く当ても無く、俺が住む手はずになっている家の場所はまだ教えてもらっていない
ということでその部屋を目指しているのだが、途中ふと無意識にぽつりと言葉を漏らした
「静かなのっていいなぁ・・・」
これまで俺は何というか非常にあり得ない体験をしてきている
龍に魔獣に剣に魔法
さらわれ襲われ平穏とはしばらく遠ざかっている気がする
そんな時間を過ごしてきて、俺は静かな平穏を心のどこかで求めていたのかもしれない
望むなら、平穏の中で元の世界に帰る方法を見つけられればなぁと思っているのだろうか
そしてそんなぽつりと漏らした言葉を耳にした奴が俺の後ろにいた
「あーっ!」
「うぉ!?」
音もなく、突如背後から大声をあげられたらそりゃぁびっくりする
特に身構えていないときなどがそうだ
ゆっくりと振り返ると、そこには修練場で出会った少女が俺を見上げていた
年は十八
年上か・・・
信じられん
その一言に尽きるくらい小さい
敬語とか使った方が良いのだろうか?年上だし
「何処に行っていたんですか!?突然居なくなっちゃって不安だったんですよ」
聞いていないのか?
俺がこのミーナという年上の少女と関わり合いになっていることはチルさんとかが知っているはずである
それでも話していないのは何故だろうか
心配させたくなかったからか。それとも龍にさらわれたという事を広めたくなかったのか
「ちょっといろいろあってね」
「こっちもいろいろ合ったんですよ。あのとき分かれた後巨大な龍が王都を襲撃したんですけど大丈夫だったんですか。城下に行ったんですよね?」
「え、あ。うん。まぁなんとか」
知ってるよ
さらわれましたし
「そう言えばあのときが最後に合ったんですよね」
「そういやそうだな。あ、たしかお前こいつの名前のことしゃべってたよな」
彼女と話したとき、この刀に名前は無いのかと問われたことがあった
そのとき俺は無いと答えたはずだ
名前を付けるときは、恐らく何時か自然に訪れるだろうと思っていた
下手に変な名前を付けるよりもいろいろと旅をした中で決めていく方がしっくり来そうな名前に出会えると思ったからだ
そしてそれは見事的中して、今では腰に差した短剣には唯一無二の名前が付いた
「紹介するよ。ソーレだ」
すらりと抜いた刃は銀色をしていた
炎を纏った姿すら幻に思えるくらいにその白銀の刀身は光りを反射してミーナの顔を写し居ている
「ソーレ。うん。なんかそれっぽい剣だよね」
そう言ってミーナはソーレを彩輝に返した
ソーレを鞘に収め、俺はこんなところで何をしてるのかと問うた
「雑用。地位を向上するためには今のうちから媚びを売っておかないとと思ってね」
そう言って彼女は手に持っている書類を見せてクスリと笑った
「まだ見習いなのに大変なんだな」
「ま、本当はしなくても良いんだけどね。なかなか上手いこと申請の書類が通らないみたいでここ一年は停滞中なのよね・・・」
そういえばこっちでは17が成人とか言っていたはずだ
成人ならば普通はすでに職にありつけてもおかしくはないはず
書類が通らないからといって一年も騎士の見習いをやっているのか?
少しばかり疑問にも思ったがそれはそれで誰かの意図が絡んでいるのだろう
「そういう君はどうなのさ?」
「俺か?そうだなあ・・・前にいた部屋に戻るつもりだけど今後することは決まって―――」
そこで思い出した
たしかツキの家に居たときに聞いた話がスッと脳内に響く
「ないんだけどさ。探ってみたいな、と思うことは在るかな。さっきのうちにファルアナリアさんにも聞いておけば良かったかな」
「王妃にですか?」
「宝玉の件について」
「宝玉?純色宝玉のこと?」
「うん。まぁいろいろあってね。ここの城の人がそれを欲しがって催促してたみたいなんだけどさ。それにしてはそんなことをするような人たちが出会った中の人では居ないような気がしてね」
「初耳です。それ。一般の人が持ってたんですか?」
「そうなるね」
ちょっと驚くそぶりを見せてミーナは考えを巡らせてみた
宝玉はそれこそ国レベルが欲しがる謎の魔道具であり、各国に散らばっているという品物である
そんな大それた物がこの国に合ったなんて初耳だ
ただそれは国の所有物としてではなく、個人一般としての所有物とするならばそれを隠し続けて所持していたことになる
もし一般の人が持っているなんてばれたらそれこそその家にはいろいろと災難が降りかかるだろう
盗んで売れば大金にもなる
奪う方法ならいくらでもある
そんな心配を抱え込んで隠していたくらいだ。その秘密はほとんど誰にも知られては居なかったのだろう
だからこそ今まで無事でいられた
だけど城から催促が来ているとはどういう事だろうか?
そんな厳重な秘密が、何故城に知られているのかがミーナには分からなかった
もし宝玉を所持する本人が城の人間にその秘密を喋るくらいなら、城からは催促なんかしないはずだ
重圧に耐えきれないというのなら分からなくもないが、城の人に渡していないと言うことはこれはそれとは違うという事になる
「妙な・・・・話ですよね」
「だろ?」
「分かりました。父にも話していろいろと探らせてみます」
「父・・・・ってあの?」
彩輝は自分を鬼のような形相で跳び蹴りしてきた男を思い出した
あの凄まじい形相と印象の強さは忘れようにも忘れられない衝撃であった
ファーストインパクトが強すぎてあのときは一瞬何が起こったのか分からなくなったくらいだ
俺を蹴り飛ばして昏倒させたミーナの父親
気がつけば俺はベッドの上であったうえ、当の本人は逃亡してそれ以来合っていない
「でも、大丈夫なのかそんな事して?下手したらクビとかになるんじゃないか?」
だがそれなりの地位は持っているにせよ、何をしても言いということにはならない
それ以前に俺の頼みを聞いてくれるのかも心配だったが彼女は父は自分にご執着というのでまぁ何とかなるんじゃない。とか言ったりした
「んー、まぁ確かに書類を盗み見たりとかは出来ないけどそれでも部隊長だしある程度の権限は持ってると思うけど」
「・ ・ ・ 部隊長?」
「うん。えっとね、仕組み的には騎士隊長、副隊長、そしてその下に1番隊〜4番隊までの2000人部隊があってその部隊長の一人なの」
んーっと・・・それってかなりのお偉いさんじゃないか
「驚いた・・・そうは見えなかったから」
「そう?」
ていうかあんな人が隊長で大丈夫なのかとすら思えてしまった
でも人を見かけとかで判断しちゃいけないと言うことは分かっているつもりだったのでとりあえずはそれぐらい凄い人なんだなぁとだけ思っておくことにした
「んでもたぶん仕事で忙しいと思うけど何か分かったら教えるね」
「わかった」
「それじゃぁこれ届けてこないといけないから」
「うん。でもあんまり他言はしないで欲しいかな」
「わかった。それじゃぁ」
彼女は軽くお辞儀をして小さな体でトテトテと廊下を俺とは反対方向に走っていった
ちっちゃいなぁ
それが見送った彼女について最後に俺が思ったことだった
次の瞬間には後ろにアルレストさんが立っていたのだから意識は自然とそっちにいってしまったのであろう
「無事だったか」
「お久しぶりです。アルレストさんこそ体はもう?」
アルレストさんとも久しぶりの再会を交わした俺は自分より身長の高いアルレストさんを見上げた
あの時、俺を真っ先に探そうとしてくれたことや龍に向かって果敢に立ち向かったあの後ろ姿が俺の瞼の後ろにはしつこく残っていた
そして怪我をしたことも知っている
先ほど移動中に聞いた話だと、左腕の骨はまっぷたつだったと言う
だがどうやら自然回復以外にも、この世界には治癒魔法という凄いものがあり、アルレストさんの強靱的な回復力で一週間すればほぼ腕は元に戻っていたらしい
凄いなぁ魔法って
そう思わされた
万能という訳にはいかないだろうけど、それでもその力に俺は魅力を感じられずには居られなかった
もしかしたら自分の腕も治るんじゃないかとちょっとばかり淡い期待も込めてみた
機械は確かに凄い
何でも作れて何でもこなす
だけどそれは人間が作り出した物であって、直接何でも作れて何でもこなしたわけではないのだ
それとは違い、水を生み出し、炎を生み出し、そんなことを『自分の力』で出来るという事に俺は惹かれていたのだと思う
俺とアルレストさんは立ち話も何だという事でアルレストさんの自室に向かった
どうやら休憩中だったらしく、俺が戻ってきたという報告を受けて探していた真っ最中だったという事らしい
扉は全開のように血塗られてはおらず普通の扉であったことに俺はホッとしていた
恐らくあれはチルさんのいたずらか何かだったんだなぁと察しがつく
この人にあんな事が出来るのはあの人ぐらいだなぁと思うからだ
「と、此処まではそんな感じでしたかねぇ」
俺はそう言ってこれまでの道のりを語った
龍の事、渡商人と出会ったこと、グレアントに滞在していたこととまぁいろいろ話した
「大変だったな。いろいろと」
「えぇ。まぁ。それより街の方は大丈夫だったんですか?」
龍襲来事件の事は今では近隣諸国にまで知られるようにまで広まったらしい
さらわれた俺のことは飛び去った方向のグレアントにしか伝えてなかったそうだ
それよりも俺が気になったのは街のことだ
あの後どうなったのだろう
龍が降りてきたのは今日通ってきた場所とは別の場所であり、その様子はどうなっているのかは全く分からなかった
「お前の話を聞く限りでは龍は悪い奴では無いらしいと言うのはわかった。それなりに知識もあるらしいしな。だが、被害が帳消しになるわけではない。被害関係の書類は文官の方に回っているから詳しくは分からんが現場なら今も瓦礫のままだ。もう少ししたら瓦礫の撤去が始まるらしいがな」
そうか。あの場所はまだそのままなのか
確かにすぐに戻せるような壊れ方では無いと俺は思う
住民が頑張っても出来ることも限られるだろう
「壊れた家に住んでいた人たちは無事だったんですか?」
「あぁ。けが人は無し。皆外出していたようだ。今は国が経営する騎士の借り宿舎を貸している」
「へぇ・・・」
やっぱり仮設住宅とかでは無いのか
確かにすぐ作れと言うのも無理があるだろうしそっちの方が楽なのだろう
「あ、それとお前の家、準備出来たぞ」
「本当ですか?」
良かった。これで迷惑をかけずにすむ・・・
これまで正直此処まで飯やら寝床やらを勝手に使っていて負い目は感じていた
そう言えばメイドっぽい、たしかそう、ティリアといったはずだ
その人も俺と一緒に住むとか言っていた気がするが・・・・
「あ・・・・忘れてた」
うん。その事と宝玉の件も含めてもう一度ファルアナリアさんに聞いてみよう
アルレストさんは何をだ?と聞いてきたが何でもないですと俺は手を振った
「ところでその短剣、研いだりしてるか?欠けたりとかしてないよな」
自分が渡したその短剣がきちんと手入れされているかを聞いてきた
まぁ剣とか無い世界から来たからそう言った手入れのことで気になったらしい
「大丈夫ですよ。欠けてもないし、きちんと研いでます。むしろグレードアップしたぜ。みたいな?」
「ほう。それは頼もしいな。ソーレといったか」
「えぇ。本当に、頼りにしてます」
話を全部聞いていたアルレストさんは不思議な物を見る目で俺の腰に差した短剣を眺めた
こいつにこの声は聞こえているのだろうか
返事は聞こえないけど、なんだか耳の奥でまだソーレが鳴く声が聞こえてくるようで仕方がない
そう思うと無意識に引きずっているのか俺は?と思ってしまった
「頼りにしてます。何たって俺の守り刀ですからね」
ほのかに剣にに熱がこもった気がしたが、たぶん俺の膝にくっついていたからだろうと思い直した