『小学生高校生大学生』
「さて、一段落ついたところで話を戻しましょうか。貴方はいったいどこから来たのですか?」
「何処・・・といわれてもなぁ。日本から来たとしか言えないなぁ。あ、日本ってのは国名ね」
「ニホン・・・ですか。確かに知らない場所ですね」
「俺だってアルデリアなんて所知らないし。俺の世界にはさっき言ってた魔力?とか言うものは架空上の産物だしな。別世界とか異世界っていうのが一番しっくり来るかな」
「別世界ですか・・・。ちょっと待っていてください」
そう言い残してファルアナリアは突如どこかへと行ってしまった
その場に彩輝とセレシアが取り残された
・・・待っていろといわれてもすることないしなぁ
そんな風に思いながら彩輝は周囲を見渡す
そこで後にある精霊台とやらを見つめ、そして数段しかない小さい階段を上る
そして自分が現れた場所を見下ろす
台座の水が溜まっている穴はどうやらもの凄い深いようで底までを肉眼で見ることはできなかった
次に彩輝の目に止まったのは巨大なアーチ状の物体
そのアーチの中にはどういう構造なのか水が壁のように溜まっている
その前には先ほどの第一王女様が立っている
近寄ってみるとどうやらその水に向かって話しかけているようだ
のぞき込むように彼女の裏に回ってみるとなんとその水の中には人が2人立っていた
一人は美しい赤髪の女性
もう一人は何故か白く長い顎髭を赤いリボンで結ばれている太めの体型のハゲ
中年はとうに超えているような貫禄があり、存在感たっぷりである
それにしても、魔法・・・か
正直そんなもの人間の空想から生まれたものだと思っていた
けど、この世界にあって俺たちの世界になく、それでも魔法そのものは俺たちの世界で皆が知っている言葉なのに誰も使えないからと、だから使えないと思ってばかりいたんだ
「えぇ。こちらでも同様のようです。つい先ほど母が魔法で魔力を固定させたところです」
『流石だな。私も試したけど無理だった・・・。仕方なく取り巻いていた魔力の方は全て魔道具で吸い取ったが、まさかアレを全て押さえ込むとは・・・』
「実際母も苦しかったようです。固定のための鎖を15本も出してましたから。精霊の加護もありましたことですし」
『じゅっ、15・・・・たまげるわね。そっちはアーマルジュン大魔導師が押さえたのか?』
「なんとか17本で押さえ込みましたがここまで強力だとは思いませんでした』
『うひゃー・・・大魔導師とうのは飾りじゃないようで流石ですね。ん、セレシア。後の方は?』
アルフレアがセレシアの後を指さす
セレシアが振り向くとそこには水鏡をセレシアの後ろからのぞき込む彩輝がいた
「どうも、桜彩輝といいます」
手をピッと挙げて挨拶をする良宏にアルフレアがお辞儀をして挨拶をした
『私はグレアント王国の第一王女のアルフレア・シャレル・ヴィルラート・グレアント』
『ワタクシ、リーナ王国のゼリアル魔術師団長、アーマルジュン・デルタールと申します。以後お見知りおきを』
「あ、どうも」
2人に挨拶を交わすとまじまじと水鏡をのぞき込む
凄いなぁ・・・・テレビ電話みたいだなぁこれ
彩輝は物珍しそうにしてそれを見る
『んんんっ、その声はっ!?』
突如アルフレアの後からひょっこりと長い髪の女性が現れた
『ああっ!!君はっ!!』
「あ、貴方はバスの!!」
なんと出てきたのはバスの中で出会った女性であった
叫んで俺を指さす彼女は驚いて目を見開いた
何故彼女までこんな所に!?
というか俺以外にも来ていた人がいたのか・・・
「えっと・・・お知り合いですか?」
セレシアが問いかけてくる
まぁ確かに気になるよな
「えっと・・・んー。一緒にバスに乗ってた人です。名前はえっと・・・」
『おっと、自己紹介まだだったな!一条 唯だ。よろしくな少年!』
「少年じゃありません。桜彩輝です」
『そうかー。んー彩輝・・・彩ポン・・・彩ノスケ・・・彩ヤン・・・あーや?ちがうな、あーやん・・・うん、あーやん!おっけ、じゃぁ君はアーヤんだ!』
「・・・え?」
ぐっと親指をだしてグッドのサインをだされた
いや、ってか、アーヤんって・・・
『アーヤん。うん、しっくり来るね!』
「いや、来ませんって!彩輝で良いですって!」
『いや、アーヤんはアーヤん以外の何者でもない!というわけでよろしくアーヤん!』
どうやら彼女の俺の愛称はアーヤんとなったらしい
普通に桜とか彩輝で呼んでくれる方がいいんだけどなぁ・・・
そう呟くも彼女は完全無視を決め込んでくれた
『にしてもアーヤんもこっちに来ていたとはね』
「あの、バスって何ですか?」
セレシアが先ほどの発言の中で意味の分からなかった単語を聞いてくる
そうか。こっちにはバスないもんな
ということは別の馬車みたいな乗り物でもあるのだろうか?
「あー、まぁ沢山の人を乗せる乗り物です。こっちにも乗り物って有るんですか?」
「乗り物でしたか。そうですね・・・一般に使われるのはクェトルの籠台や水上ならダトルの水上籠とかが使われます」
「ふーん」
と、セレシアに説明をして貰うもあまりピンと来ない
クェトル?ダトル?なんぞそれ?
こんなゲームじみた世界だ。大方動物とか魔物とかそういう系が引っ張る乗り物だろうと彩輝は考える
こんな世界なら魔物とかそういうのが居ても不思議じゃないな
むしろ魔法があるくらいだ。全然あり得る
いや、でももしかしたら会社名みたいなものかもしれないなぁ
「ではそのバスってどのようなものなんですか?」
「ん、バスか?」
逆に質問されてしまった
まぁ確かに気になって質問したのは向こうも同じだ
とはいえバスをどう説明するかな
「んーあー・・・お金払って乗る乗り物なんだがえーっとガソリンって奴で動いて、あー、こっちにガソリン無いもんなーたぶん」
セレシアが頭にハテナを浮かべている
向こうじゃ常識でもこっちじゃ意味の分からない単語だよなぁ、と頭を掻く
確かに彩輝も先ほどのクェトル等という知らない言葉を聞いたばっかりだからな
『バスっていうのは大きな箱みたいな乗り物で人を運ぶ乗り物で原理は違うでしょうけど人を乗せて運ぶっていう目的でいえば此方の乗り物と大して変わらない解釈でいいと思う』
と、話を盗み聞きしていた唯がバスの説明をする
まぁ恐らくお金を払って人や物を乗せるといった点では同じだろうが
「あえていうなら生き物に引っ張って貰わなくても走る乗り物だ」
「そうなんですか?じゃぁどうやって走っているんですか?」
んー・・・どうやって・・・かぁ
「たぶんこっちの世界にはエンジンとかガソリンとか無いからわかんないと思う。暇があったら説明するよ」
「そうですか。ではその話はまた別の機会にでも。私も異世界の文明には興味がありますから」
「あぁ。で話の続きだな。そのバスっていう乗り物に乗っていたんだが突如バスが揺れて気がついたらここに出てた」
『そのバスに貴方も乗っていたのですかユイさん?』
アルフレアが隣に立つ唯に話しかける
唯はこくりと頷いて彼とは同じバスに乗っていたと言うことを話す
『バスには運転手を含めて9人。さっきアルフレアちゃん・・・長いな。フレアちゃんに聞いたところこの大陸に存在する精霊台の数も9あるそうよ』
「ってことはあとバスに乗っていた奴等もこっちに来ているってことか?」
俺、一条さん、親子の3人とメガネをかけた若い男と女性のカップルらしき2人、そしてもう一人ごつい男と運転手
彩輝はバスに残っていた人物を思い出す
彼等もここに来ている・・・という事か
『そう考えた方がいいと思う。現にここには3人もバスに乗っていた人間がいるわけだしね』
「3人?」
ということはもう一人、水鏡に映る老人のいる国にいる訳か
「えっと、あー・・・アーマルジェ、あ、アーマルジュンさん?のところにも誰か居るんですか?」
『えぇ、居ますよ。かわいい少女が一人』
そう言ってしゃがみ込むとその女の子を巨大な指でつまみ上げた
ひょいと現れたのは見覚えのあるポニーテール
水玉のワンピースに赤くて小さな靴
背負ったリュックをアーマルジュンにつままれてずいっと下から引っ張られる女の子が一名
あー、最後俺にぶつかってきた女の子か
彩輝は彼女の一撃により途中で気を失っていたので何となく覚えていた
顔まではちらりとバスの中で見ただけなので良くは覚えていないが意外にかわいい子だと思った
というより気絶したあの後、いったいどうなったのであろうか
「なぁ、俺途中から気を失ってたんだがあの後どうなったんだ?」
『え?あぁ、あの時アーヤん気を失ってたのか!んー、あの後か」
彼女は気を失った後の説明をしてくれた
どうやら俺が気を失った後、突如窓の外が真っ暗になり、バスは動きを止めた
揺れがおさまり、各々立ち上がって状況を確認する
その瞬間、まず若いカップルの男性が消えた
次に女の子、運転手といったふうにどんどんと消えていったのである
そして気がついて目が覚めたらここにいた、ということらしい
気になるのはその真っ暗な空間
バスが動きを止めた、というより止まったのはその空間に入ってしまったからだろう
揺れがないということは浮遊では無いのだろうか?
「なるほどね・・・その真っ暗な空間も気になるけど、ここが一体何処で俺達は帰れるのかが問題だよな」
『そうね。私たちが出てきた場所、精霊台だっけ?には出入り口みたいなのがあったけど・・・』
「あぁ。手を入れるどころか触れることもできなかったな」
『場所によって精霊台のに溜まってる魔力?の物質が違うらしいけどこっちなんか炎よ!?恐くて入れるわけ無いじゃない!まぁどちらにしても炎には指一本触れられなかったけどね。そしてそんな炎の中から出てきたらしい私スゲー。なんか神々しくね?』
「魔力の層があるらしい。こっちは水が溜まっているんだが無理だった」
『・・・・・』
「ん?」
視線を横に向ける
背負ったリュックをつままれている女の子が凛としたかわいい声を響かせる
「そういえば君の名前は?」
『ちーは千尋っていうの。湊千尋。小学一年生』
『じゃぁちーちゃんって読んでいい?』
一条さんは千尋ちゃんに向けて手を振っている
こくんと頷いていいよーと言ってくる
まだおさない小学生が一人で居るのか・・・
そういった事を考えるとちょっと可哀想にも思えた
実際両親とははぐれた訳だし親の方も慌てるだろうなぁ
というか現実を直視できてるか心配だよなぁ
現実逃避してなきゃいいけどなぁ
大人の脳はこんなファンタジーの世界にどう思ってるのかね
「で、どうするよ」
本題突入
今後どうしていくかを決めなければならない
『そうねー。一旦皆と合流するべきじゃないかと私は思うわ』
「でも集まって何をするんですか?現状元の世界に帰る方法は見つかっていませんし」
現状は・・・だ
「今は無理に集まらず情報を集めたらいいと思うんですよね、俺は」
隣の国までの距離は知らないがそれよりも今はこの世界の事を知るべきだと彩輝は考えていた
そうすればもしかしたら元の世界との接点が見つかるかもしれないと
各国に飛ばされたのならその国々にしかない情報を集めることができるかもしれない
帰るヒントみたいな物が見つかったとき、その時は集まって話し合いでもなんでもすればいいと思う
「俺はこういう風に考えています。どうですかね?」
『んー、確かに情報を集めれば帰る方法も見つかるかもしれないわね。もしかしたら前例とかがあるかもしれないしね。だけどちーちゃんはどうするの?』
俺は失念していた!と、あっと小さく声を上げてしまう
たしかに彼女を見知らぬ土地で一人にしておくのはまずいと思う
保護をしてくれるとしても彼女自身、両親に会いたいというのが本望だろう
その両親も離ればなれになっているし居場所もわからない
カップルの方も互いに会いたいと感じているかもしれない
運転手もお客の安全を確認したいと思っているかもしれない
「失念してた。気が利かなくてごめん・・・。まぁ皆で集まれば安心もできるしな」
『まぁまぁ、でも確かに情報を集めるってのも大切な事だしねー。ちーちゃんはどうしたい?パパとママにあいたいよね?』
『ちーは・・・会いたいっ・・・』
「そうか。んー・・・一応この水鏡って奴で他国と連絡を取れるんですか?」
彩輝は振り向いてセレシアに確認を取る
聞いたところによると3つまでなら他の国との交信に使えると言っていた
あと一国分、通信に使えるという事なのだろうが気になっているのはこの2国以外との交信ができるかどうかが知りたい
「同盟を結んでいる国とならできますが」
「他にも国があるんですよね?この2国と、あとどれくらいの国と交信できる?」
「この二国を覗いて交信できるのはあと1国だけです・・・あまりお役に立てずすいません」
「そうですか。いやいやそんなこと無いですよ」
「ですが私は、あなた方が無事に向こうの世界に帰ることができるように全面的に支援するつもりでいます!」
セレシアはグッと拳を握る
その様子は王女という風にはあまり見えなかった
「・・・ありがとう」
『私もあなた達にできる限り協力するわ』
『ワタクシは王子でも王女でもありません。ですがこの子を守るために、あなた方に協力したいとは考えております。主らが帰られたらワタクシの方から話をしておきましょう』
アルフレアも、アーマルジュンも、俺達が帰るために手伝ってくれていると言ってくれた
俺はとても嬉しくなった
思ったより、目の前の道は真っ暗ではないらしい
彩輝は見知らぬ土地で受けた優しさを噛みしめながら両国との対話を続けようとしたとき、精霊殿にファルアナリアが戻ってきた