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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
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『来訪者』

大陸の北方、一年中雪が積もる小さな村がありました


過去にこの村から旅立った一人の少年が英雄になったことから、其処は英雄が生まれる町と昔から言われるようになったのです


村を苦しめていた巨大な魔獣を打ち倒し、その村には英雄が使ったとされる剣が納められた


それからというもの、村では毎年魔獣を倒す英雄の演劇が行われるようになった


始まりは英雄を模した仮面と服、そして納められた英雄の剣を使って彼らは祭りを盛り上げた


そしていつしかその村では英雄を目指す者達は決まって仮面を付けるようになった


仮面はいつしか英雄から昔から村の守り神であると言われる氷鳥、グリシェという魔獣を模すようになった


ですが村はいつしか吹雪にのまれ、人の温もりは徐々に消えていきました


英雄を生み出すと言われた村を再建するために、一人の若者がその地を旅立ちました


英雄が振るったとされる剣を持ち、村を救う英雄になろうという思いを込めて氷鳥の仮面を被り各地を巡りました


そして気がつけばどこか遠く、雪が積もらぬ大陸の南の方までたどり着きました


お金を貯め、そして脚を止めたその場所で彼はまた一つ大きな儲け話に出会いました


それは水の国、アルデリア王国での出来事でした









いや・・・・まだここで結論は出せない。うん。


桜彩輝はお茶を一口飲み干した


これまでの話、何故か一つに繋がりそうな気がする


だけどそれを今ここで結論が出せるものではない


出せるものではないが心にはとめておく必要がある話だとは思っている


精霊がこちらの世界に来てしまい


騎士が空を切り裂いて、玉を使って道を造った


虹龍が騎士に力を貸してそこに膜を張った


そこが精霊台と呼ばれる場所


いやでも精霊台は空にはない


ちゃんと精霊台は地面に接していた


精霊台のある場所は城のすぐ横の精霊殿


精霊殿は一階しかないとはいえ高い丘の上に在るため城下を見渡すぐらいの高度にはある


地面に接しているその場所は空ではない


城もその大きな丘の上に建っている


考えても答えは出ないしすぐさまそれが帰るヒントに繋がるわけではない


ただこれはそのヒントになりうる情報でもある


今のところ考えられる方法としては無、レ・ミリレウの内側からあちらの世界への壁をこじ開けて其処に魔力を張って扉とする方法


これはあの虹色の龍がやったという方法と同じだろうと俺は思う


こちらの世界から無への扉を作った


ならば無からあちらの世界への扉を作れたとしても不思議ではないからだ


だがそんな魔力も術者も方法も全く分からない今、それに頼るよりかはもっと現実的な方法を探すのも一つ


とりあえずありとあらゆる方法を模索していく必要があり、その方法を探す上で材料として使えそうなものを俺は一つ見つけている


かつて黒騎士が作ったという宝玉


その宝玉の使い道は分からないがパズルのピースの一つとなってもおかしくは無いはず


それだけの力はあると思う



「だけどそうなったら全部集めないといけないしなぁ・・・。でも一つも手元にないしその数も不明だし・・・」



だから俺は心の中にとどめておくだけにしておいた


これを集めるとなったら途方もない話になるからで、しかも国や貴族がそう易々と渡してくれるとも思えない


小説とか漫画とか、あんまり貴族って良いイメージが無いんだよなぁ


大抵傲慢で私利私欲に走るようなお金持ちのイメージが俺の中では強かった


まぁ悪い人ばかりでは無いと思うんだけどなぁ・・・


所詮小説は想像であって事実ではない



「お話中失礼するよ」



と、突如木製の玄関の扉が開いた


外の光りと一緒に入ってきたのは一人の男であった


3人は一斉に扉の方を向いた


突然の来訪者にツキもおじいさんも驚いているようすだった



「すまない。本当は外で君を待っているつもりだったんだが」



そう言って男は俺を指さした


俺?


俺を待つと言うことは俺が誰かって事を知っている者の可能性が高い


そして帰ってきたばかりの俺の居場所を知っていること


それは俺たちを尾行したと言うことか?


俺にいったい何の用なのだろうか



「立ち聞きする気は無かったんだ。だが何というか聞こえるものは仕方ない。それになかなかおもしろそうな話をしていてね」



男はそう言って歩み寄ってきた


男は紅い髪をした男で身に纏ったボロボロの布きれを脱ぐと下からは高級そうな服があらわれた


それを見ただけでお金持ちなんだなぁと思ってしまう



「あの・・・・いったいどちら様で・・・?」



ツキが紅髪の男に問いかける


男はおっとすまないと言って軽く会釈する



「私は三大貴族の一人息子、ただいま修行のみであるエフレル・トルロインと申します」


「トルロイン!?三大貴族だとぉ!?」



おじいさんはガタンと椅子を引き勢いよく立ち上がる


三大貴族?貴族のお偉いさんなのだろうかこの人?



「えぇ。だけど今は僕の身分なんてどうでもいい。おもしろい話をしていたね」


「宝玉の事か?」


「えぇ。面白い。実に面白い。最初の方から聞いていたつもりだけどなかなか楽しそうな異世界ライフを送っているようだねアヤキ君は」



楽しくてたまるか!とは言えないので俺は相手を薄目で睨み付ける



「ゴメンゴメン。少々調子に乗りすぎたよ」


「俺に用があるなら外で待ってれば良いでしょう」


「んー、そうするつもりだったんだけどね」


「お主の目的は大抵己の商い関係だろう?」



おじいさんがそう言って椅子に座った


紅い髪のエフレルという男は口笛をヒュゥと鳴らして手を叩いた



「ご名答!よく分かったねー・・・ってそりゃそうか。こんな家系だもんな。さて、何故僕が外で待たずに中に入ってまでこの会話に参加したかったかってことなんだけど・・・本題は其処だよ」


「どういう事ですか?」


「直球で言うよ。僕は宝玉を一つ持っている」


「!!」



全員の目が見開かれた


持っている?宝玉を!?



「そう。情報公開はしてあるけど誰も近づけないようにちゃんと保管はしてある。商業関係で手に入れた品なんだけど正直こんな話を聞いちゃったらあげたくなるんだよね。こっちには使い道無いし」



エフレルが言うには持っていても仕方がないから譲ってあげてもいいよという言葉だった



「ただこちらも高価な品を只で渡せないよね。ねぇ、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」


「頼み事・・・ですか?」



俺に頼んで出来るようなことなんてほとんど無いとは思ったが男はどうも俺の腰のあたりを見ていた


俺もその目線を追ってみて腰に提げた短刀を視界に入れた



「その短刀。守り刀?ちょっと見せてくれないか?」



初対面の男にそう易々とソーレを渡せるわけがなかったが別に俺たちに危害を加える気はなさそうと見て俺は渋々鞘からソーレを抜き放つ



「ほぅ・・・なかなかの業物だ。いいね。実に良い」



受け取ったエフレルはそう言って数歩下がると右手でソーレを軽く振った


ヒュゥンといい音が響いた


男のその振り方からこの男もそれなりに剣を振るったことが在る人間だと確信した



「実に良い品物だ。一体どこで手に入れたのか・・・これなら軽く見積もっても銀貨、いや買い手にによれば金貨レベルまで引き上げて・・・・・・・おっと、まないね。商いばかりやっているとどうもこう物を商品として見てしまうよ。あまりに上物だったのでね」


「い、いえ・・・」



エフレルはそう言って剣をいろいろな角度から眺める



「誰の作だろうか・・・。良い職人だよ全く。譲って欲しいくら――――」


「だめですよ」


「・・・・・・・・あぁもちろん分かってるよ。分かっているともさ。さて!」



エフレルは手をパンと叩いた



「近々僕の方から君に連絡を入れるよ。それまで楽しみに待っていると良い」


「何を・・・ですか?」


「それはそれまでのお楽しみ。まぁ何をするかだけはすぐに君に教えるつもりだよ。君は城に居るのかい?」


「え・・・っとたぶん居ると思いま・・・あ、でも確か家があるとか・・・でもすぐに入れるとは限らないかもしれないし・・・。とりあえず城で」


「わかった。それじゃぁ僕は忙しいからこれで。突然おじゃましてすいませんねルベルさん」



エフレルはそう言って会釈をすると再びボロボロの布を身に纏ってその豪華な服を隠した



「じゃぁアヤキ君。また近いうちに合おう」


「え、あ、はい」



とっさに返事をしてしまったがエフレルは首を縦に振って身を翻した


ドアを開けて外に出るともう一度お辞儀をしてドアを閉めた



「・・・・・・なんだったの今の?」


「さぁ?」



結局彼は何をしたかったのだろう?


俺とツキとおじいさんは首をかしげて彼が出て行ったドアをしばらく眺めていた







「なかなかに良い業物だ。まるで心が宿っているかのように感じたよ。さて、船を出してくれ」



エフレルはそう言って船漕ぎの男に言った


家の前に止めてある船よりかはもう少し大きい自分専用船である


市民は普通に自分で船を漕ぐのだが、たまに貴族や王族がこれを使用する


金さえ在れば雇うことも出来るから便利で貴族達や王族には専属で一人や二人、船漕ぎと呼ばれる人がつくのである



「お家に帰られるので?」


「あぁ。頼む」



そう言ってエフレルは船に乗り込んだ


船が若干左右に揺れ、船漕ぎは止めてあったロープを杭からはずした


貴族達が乗る船は基本ダトルが引っ張る船である


ただダトルが通れるのは大きな水道だけであってこういった小さな水路にまでは入ってこれない


そういう時に船漕ぎ達が役に立つのである


彼らはダトルを操ることも出来るため非常にエフレルは重宝していた


何せこの水の国の王都アクリスはほとんどが水路


大きな道路も含めて水路も商品等の運搬に使うためこういった人たちは多めに雇っている


ただ彼は移動の時専用の人だけれど



「いやいや、帰る途中で思わぬ人に出くわしちゃったよ」


「あの少年がどうかしたんですかい?」



船漕ぎの男が船を漕ぎながら聞いていた


両手でオールを操りながら船を進める



「そうだね。強いて言えば宝箱ってところかな?」


「おや、貴方がそういうことを言うということはかなり凄い男だったんですか?」


「あぁ。文字通り、彼の頭の中は金銀財宝がザックザック詰まってるのさ。今後が楽しみだ」




エフレルはそう言って振り返ることなくボロきれにくるまって船に揺られていた





そして日がちょうど頂点にさしかかる頃


俺はツキの家の前に立っていた



「ありがとうございました」



あの後あの人がどんな人だとかいう話を聞いたりしていた


実は三大貴族と呼ばれる大金持ちだったりとか商人をしている人だったりしたらしい


どうりでおじいさんが驚いていた訳だ


まさか家の中に突然貴族が入ってきたわけだしね


でもあの人はあんまり嫌われてるって感じでは無かったなぁ


所詮俺の思い描いていた貴族は想像上の偏見だったわけだし


そして俺は今から王都の中央へ向かうことにした



「短い間でしたけど楽しかったです」


「えぇ。こっちもよ」



出会いもあれば別れもある。あのおじいさんに薬を渡すためにツキはこのアクリスの家へと戻ってきた


そして俺も戻ろうと思う場所が合ったからこそ、ここに戻ってきた


別れは辛いけど、また出会うことも在るかも知れない


その時に笑って再会できる年の近い友人を作ることが出来たのは良かった



「それじゃぁ」


「じゃ。また合おう」


「うん。また」



俺は待たせてあった船に乗り込んだ


どうやらタクシーみたいな物らしい


ツキの姿が見えなくなるまで俺は手を振った


ふぅ・・・。別れか


なんだかピンと来ないなぁ


何でだろう。心のどこかでまた合えると思っているからだろうか


何にせよ、俺は俺の行くべき場所に行くだけ


しばらく合ってないから忘れられてないといいなぁ


俺はこの世界に来た当初の頃を思い出した


いろんな人にお世話になったよなぁ・・・



「お兄ちゃん、さっきのは彼女かい?」


「ぶっ!?ち、ちげぇよ!?」



突然船漕ぎのおじさんに聞かれて俺は裏声を出してしまった


おじさんはクックックと笑っている


うぅ、畜生


なんなんだよこの後味の悪さ・・・・


俺はゆらゆらと船の上で揺れていた





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