表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風のアヤキ  作者: 夢闇
二章 ~アクリス武闘大会~
37/154

『ツキのおうち』

俺にも在るのだろうか


男は瞳を閉じる


ただ―――ただただこの一振りを求めるために全てを犠牲にした俺にもそんなものが


まだ―――間に合うのだろうか?


男は自らに問いつめる


全てを犠牲にしたその後でも


今の俺には見えていなかったものが、こいつには見えている


その瞳は、俺が何時か目指した眼差しで


その意志は、俺が失った何時かの自分にそっくりで


迷いのない彼の存在は、俺が思い描いた理想の自分で


そいつは、俺の目指した全てを持っていた


そしてそれを目指した俺は、目指したもの全てを失っていた


男は目の前に立つ、若き頃に目指した存在を見つめた



「大事なのは過去を引きずる事じゃない。心を入れ替えたならばそれはもう、あなたを問いつめる者は何処にもいないと言うことです」



心を締め付け、問いつめていたのは誰だったのだろう?


あぁ、そうか――――――自分だったのか・・・・


狂った自分は、空へと大きな笑いを響かせ、そして消えていった










第二章  アクリス武闘大会











本日は晴天なり


雲一つ無い澄みきった空が何処までも続いており


そんな空を飛ぶ鳥たちも、気持ちよさそうに風に乗っていました


少なくとも一人の高校生はそう思っているようでした



「あのおおぞらぁーにぃーつばさぁーをひろぉ〜げ〜ひしょう〜してぇ〜よぉ〜」



ゴトゴト揺れる荷馬車の上で空を見上げてへんな唄を唄う彩輝は大の字になって寝そべっていた


時たま小石に馬車が乗り上げてガタンと弾むときに頭が痛い思いをすること以外は最高な場所でした



「景色は良いし、風も気持ちいいな〜。広大だ・・・・なぁソーレ」



隣に置いてある一本の守り刀に向かってそんな事を語りかけるも返事は無い


だけど彩輝はそんなことを気にすることなく空を眺め続けました



「あー・・・日焼けしてそうだなぁ俺・・・・」



ずっと太陽の光に浴びっぱなしでそんな心配をした俺は守り刀の紅翼太陽ソーレを手に取った


それまで日の光をずっと浴びていた鞘には結構な熱が溜まっていてかなり彩輝の手にはその温もりが伝わってきた



「よっ・・・と」



荷馬車の後ろに手をかけて脚から荷馬車の中へと飛び降りる


すると目の前ではツキがぐっすりと眠っていた


机に向かって伝票のようなものと羽ペンを握ったままのツキに俺は寄り添った


インクの瓶の蓋をしてはねペンのインクを拭き取ると俺はその羽ペンをペン立てにたてた


暖かいし別に上には何もかけなくて良いだろうと勝手に判断して俺は荷馬車の角に座り込んだ


リッドクルスを出て約一週間とちょっと


俺たちはようやく目的地であるアルデリア王国王都アクリスを目の前にしていた


いくつかの渡商人の荷馬車が先行していて俺が乗る荷馬車は一番後ろ


この荷馬車を引っ張っているクェトルはツキの家で飼っているものらしく、名前はサナという雌のクェトルだという


にしても本当に奇妙な生物だ


太く短足な脚に背中の甲羅


横に伸びた太い角にロープを結び、荷馬車を力一杯引いて歩く姿は亀のような馬のような非常に微妙なものであった



「これってもっとスピードでないもんなのかねぇ・・・」



そしてこいつがまた遅いのなんの。まるで亀のようにゆっくりと歩く生き物であった


この間道中にツキに聞いてみたこともあったのだがこいつは危機が迫れば猛スピードで走るらしい


らしい、だ。実際俺も、ツキですら見たことがないらしい


そのときのために力を残しているのか、それとも基本的に動きが遅い生物であるせいでたまにしか見られないレアな姿なのか


どちらにせよもう少し早く歩いてくれれば今頃は王都ついているんだけどなぁ


正直人が歩くのと大差ないんじゃないかとすら思えるスピード


でもこのゆっくり加減がまた良い感じにゆりかごのように感じられて眠気を誘う


現にツキもぐっすり寝ている


寝込みを襲う気は全然無いがむしろ寝息とか無防備な寝顔にちょっとばかり意識させられる



「降りてきたのは失敗だったかな・・・。上いこうかな・・・」


そんなことを思って荷馬車についている取っ手や布やらを器用に足場にして上まで昇る


と、そこで俺は気がついた


後ろの方に男の人が見えた


先ほどまで空を見上げていたときに抜かしたのだろうか?


ああやって各地を旅する人も居るのか


放浪人か、はたまた武者修行の旅か



「まぁ物好きな人もいるもんだね・・・」



その反面、彼は結構自分の腕に自信はあるように俺は見えた


そうでなければ魔物に出会う確率の高くなる場所を一人で歩いたりはしないのが常識だからだ



「そういや腰に刀差してるっぽいような・・・」



ボロボロのローブを被った男の腰に一本の刀ようなものがぶら下がっているのがみえた



「ま、いいや、寝よ」



もう少しでつくのだからそれまで寝ていても誰も文句は言わないだろう


俺は張った茶色い布の上に寝っ転がった


やっぱり空に雲は無かった







俺たちがアクリスに到着して、検問とかを受けて中に入ると其処には大きな道路が一本、真っ直ぐ王都の中心にそびえる城へと伸びていた


水路が多く、移動も船ですることが多い王都とはいえこういった運搬物などいろいろな物を運ぶためにいくつかこうした大通りもあるのだとか


王都に入ってすぐにツキは荷物などを検問所の近くに預け、そこから水路に向かった


簡単な荷物だけをそろえてツキは一艘の船を借りてきた



「アヤキはどうするの?」


「お、俺?そうだな・・・・。別に急ぎって訳でもないしついていってもいいんなら同行する」



特に俺には用事はない


城に行くにしても今すぐに行くための理由も無い


そういえば王都で回ったことがあるのは第4地区のみで他の地区は見回ったことはない


城に近づくにつれて大きな屋敷が建ち並ぶ第2第3地区の範囲は第四第五地区のそれぞれ半分も無いほどに狭く、王都のほとんどは一般人が住む区域になっている


まぁ貴族っていうのがそれほど沢山いるってわけでも無いらしいしね



「私は別に大丈夫。取られた我が家の家宝の話もしないといけないし」



黒玉は家宝でしたか・・・悪いことしちゃったな


ソーレの代わりに差し出したとはいえ、代々伝わってきた物を差し出して・・・



「じゃぁ一緒に行こうかな・・・ってあれ?なんでそんな大事な物を持ち歩いているんですか?家に置いておけば良いじゃないですか」



俺はそう言いながら先に小舟に乗ったツキの手を取って船に飛び移る


船が多少揺れたものの俺はバランスを取って座る



「・・・・家に置いておいたら、危険だったから」


「き、けん?」


「あれは代々我が家に伝わってきた大切な物。価値なんて絶対につけられないもう、国の宝といっても過言じゃないほどの物なの」



俺はそれを聞いてぽかーんと口を開けてしまった


あれにそれほどまでの価値が合ったのか


他に方法が無かったのか・・・


俺は少し落ち込んだ


あのときはそんな事も知らないで言ってしまったんだよな・・・


『他に代わりになる物は無いんですか?』


俺は少し自分の無神経さに腹が立った


彼女がどういう思いであれを差し出していたのか


あのときはツキにそう言うことをさせてしまった自分に俺はいらだったが今は彼女のことを何も考えていなかった自分にいらだっていた



「・・・ごめん」


「なんで謝るの?あのとき言ったけど気にしないでいいから。それに・・・少しホッとしてるから」


「?」



どういう意味かと俺は首をかしげるがツキはオールを手にして船をこぎ出した


皆が通るであろう水路はそれなりに幅も広く、10台くらいなら余裕で平行して船を走らせる幅があるように見える


そこからいくつも枝分かれした小道のような水路があり、石垣の上に立つ家々にはそこからいけるようであった


その証拠に支流の奥には昇ることが出来る船着き場のような場所がいくつも見えた


そのうちの一本に俺たちの乗る船は入っていく


そしてとある家の前にぴたりと船を止めた


すぐさまなれた手つきでロープで船を岸に止めた


俺はツキに荷物を渡して自分も船から陸に上陸した



「これがツキの家?」


「うん。ルベル家」



家は木と煉瓦のような物を組み合わせた家でツキはその扉を迷わず開けた



「ただいまー」


「お、おじゃましまーす・・・」



靴は・・・脱がなくても良いのかな?



「む・・・?ツキか?」


「ただいまお祖父ちゃん」


「久しぶりだの。おや、隣におるのは・・・・お主、まさかこんな男と・・・!?いかんぞいかんぞ!!」


「ひ、ひぃ・・・!?」



おじいさんは突如目をカッと見開きドスドスドスと迫ってきた


それをツキは一瞥して家の奥へと向かう



「今お茶入れるから」


「あ、うん・・・」


「お主、いったい何者じゃ!?ツキのいったい何なのじゃ!?」



俺はツキに返事を返しながらおじいさんの猛攻を受けていた


両肩を捕まれてガックガックと揺さぶられる



「う、っえ、やぁめぇてぇくだぁぁっさい!?」



揺すられて声も変な風に出てしまう


っていうか早く戻ってきてぇっ!!



「ちょ、ちょっ・・・っと!」



俺は何とかおじいさんの腕をふりほどいて距離を取った


にらみ合う両者の間にツキがいつもの無表情で入ってきた



「お茶・・・」


「あ、どうも・・・」



俺はお盆にのったコップに注がれたお茶を手に取った


カランと氷の音が気持ちよく部屋に響いた


喉を潤して俺は近くにあった椅子に腰掛けた


ツキのおじいさんは俺を睨み続けていたがツキがおじいさんの方を見るとにこにこと笑って反対側の椅子に座った


ちっ、猫被ってやがるなこのヤロゥ


このおじいさんは孫の前ではどうやらそう言うキャラを作っているらしかった


ツキも席についてお盆を机の上に置いた


深呼吸だけしてツキはおじいさんに向き直った



「お祖父ちゃん。話があります」





これまでの出来事を話し終わるとおじいさんは目をつぶってお茶を一口飲み、それからしばらく腕を組んで考え始めた


だがその後、「そうか」とぽつりとつぶやいただけであった



「すいません。俺がいなかったら彼女も差し出すことはなかったと思うんです」



俺がいたせいでソーレよりも高い品物を差し出さなるをえない状況になってしまった


ツキはそんなこと無いというが俺も多少は罪悪感を感じてしまう


おじいさんもツキと同じように俺に責任はないと言ってはくれるものの、俺は素直にそうは思えなかった



「とはいえこれで我らは怯えることなくすごすことができそうじゃの」


「どういうことですか?」



俺はおじいさんの発言に対して問いかけた


怯える?いったい何にだろう、と



「あの黒玉は我ら先祖代々が受け継いできた家宝であり、また悩みの種でもあった」


「あれのせいで我々のところに幾度もこの国から譲り渡すようにという催促がなんども来ておったのだ」



その言葉に何かが引っかかった


なんだろう。催促?あの優しそうな人たちがそんなことをするのだろうか?


そりゃあ確かにものすごくレアな代物だと言うことは分かるが其処までして国がほしがる理由は何なんだろう


前にもちらっとこの宝玉の話があがっていたが・・・



「あの、この宝玉ってどういう物なんですか?まだちょっと理解が出来ないんですが」


「む?お主もこの大陸に住む者ならそれぐらい分かるだろう」


「えっと、ちょっと事情がありまして。さっきの話にも関係するんですけど・・・」



俺は自らが異世界人だと言うことをあかした


おじいさんはさして驚く様子は見せなかったが何か納得するようにうんうんと首を縦に振っていた



「確かにこの大陸では黒髪黒眼という人種は聞いたことがないからの」


「こっちの世界の人は頭カラフルすぎです。染めてるように見えるぞ・・・」



正直こっちの世界に来てからというもの、その、人の髪が無性に気になっていた


そりゃもと居た日本じゃ周りがみんな黒とか茶色とかそんな感じの色だったしな


まぁ例外もあるっちゃあるけど・・・



「まぁ結構君も街じゃ浮いてたけどね。リッドクルスにいた時とか」


「うあ、マジでか・・・。いや確かになんか周りの目線がたまに俺に向けられていたような気はしたんだがまさかそういう理由だったか」



そう言えば周りに黒髪の人が全く居なかったな



「そ、それよりもあの、たまの話を・・・」


「む、そうだったな。あの宝玉についてどこまで知っておる?」


「えーっと・・・たしか黒騎士ってのが作った魔道具とかなんとかってくらいしか・・・」


「そう。過去幻かこげんの話というのは知っているかね?」



その単語はどこかで耳にしている


そう、ガッドさんの説明の中にあったような気がする



「過去幻の話?そういや耳にはしてますけど何のことなんですか?」



おじいさんはうむと首を縦に振って話し始めた



「過去幻の話というのは正式には過去幻の書という書物の中にあるものを差す言葉じゃ」



おじいさんは立ち上がって横にある古ぼけた書棚の中にあった書物を一つ手に取った


埃をパンパンと払ってその本を開いた



「たとえばここには一つの物語がのっておる。創世の歌やら様々な説話、童話がの。過去幻の書に記された無数の物語のうちの一つ」


「ですけど原文はもちろんあるんでしょう?」


「もちろんだとも。原文は今行方不明なのだ」


「行方不明?」


「以前はイリーユという中原の国に合ったのだが昔の大戦で行方不明となってしまったらしい」


「大戦・・・あぁ、戦争かぁ。物騒な世界だよなぁ全く」



とはいえ普段は流石にそんなことはしていないであろうはずなので一応均衡的なものは保たれているといってもいいのだろう



「その過去幻の書の話の一つに黒騎士という伝説上の人物、まぁ実物が存在する以上伝説というのもおかしな話なのだがその男が見る者を虜にするほど美しいいくつかの宝玉を作ったという。世間では一般にそれを純色宝玉と言い、またそれを宝玉コレクションとも言う」



おじいさんは本をめくった


古びたその紙に絵が乗っていた


黒い髪


黒い服


黒い目


本当に全身黒ずくめの男が両手で大きな球体を天高く掲げている様子が描かれていた


球は虹色に光り輝き、その男の腰には鞘に収められた剣がぶら下がっていた



「だがな」



おじいさんは続ける



「儂はこの呼び方はふさわしくないと思うておる」


「呼び方・・・ですか?この純色とかコレクションとか?」


「考えても見ろ。儂等が受け継いでおった黒玉。黒は純色ではないのじゃからな」


「あっ・・・」



純色には黒や白は混ざらなかったはずだ


色相において最も彩度、つまり鮮やかさが高いもののことを純色と言ったはず


黒の宝玉がある時点でこれは純色とは呼べないはずなのである



「で、でもそれじゃぁなんで訂正しないんですか?」


「現段階で公に公表されておる宝玉は6つ。紅玉、蒼玉、黄玉、翠玉、空玉、紫玉。赤青黄薄緑に水色紫。非公式を含めると黒で7つか」


「ちょ、え?これはずっと公開しないで隠し続けてたんですか?」


「無論。それを持つ者で公開しておる者は大抵が国や貴族などといった者。我らのような権力的にも武力的にも弱者な我らがそれを世間にあかせばいろいろと不味いことがおおかろう」



そうか。たしかにそうかもしれない


国がほしがるほどの宝


そしてそれをもし一般人が持っていると知られた場合、それを奪おうとする輩も出てくるだろう


奪って金にすれば一生遊んで暮らせる金が手に入るかもしれないのだから



「で、でもアルデリアからは黒玉の譲与の催促が来てたって事はあっちは黒玉があることを知っている・・・ってことですよね?」


「うむ。だからいつ取り立てにやってこようとも手元に無ければおとなしく下がってくれると思って持たせておいたのだ」



おじいさんはツキの方を向いた


その結果は言うまでもなかったが


でもだからさっきあんな事を言ったのか。ホッとした、悩みの種、と



「先ほど儂は純色という名が相応しくないと言ったが、ならば儂はそれをなんと呼ぶことにしたか」


「あ、そういや純色じゃ無かったんですもんね」



ならば何と呼ぶことにしているのか



「この話にはもう一つ続き、いや、先ほどの話の前につく話があっての。『剣は空を裂き、玉は空に架け橋を繋いだ。その先の闇を照らす架け橋の光りは絶えることなく輝き続け、そして空へとかかる架け橋を登り、消えていく古の精霊達』という一文がある。本当にごく一部抜粋じゃがの

。仮説だが剣は精霊の国とをつなぎ、道を造ったのは宝玉。他の話にも関わったりするがここに現れる精霊達は黒騎士によって助けられた精霊達で彼らは今もこの地を守る守護精霊ではないかと儂は思っておる。そのためには精霊に証言を取らねばなるまいが精霊なんぞに会えるはずもないの」



俺はその一人、いや二人に心当たりがあった


水の地の守護精霊、そして炎の地の守護精霊


俺は鳥肌が立った


何故だろう


各地に在る精霊台


おじいさんが言うその空の切れ目の裂きに在る場所


抜け落ちた世界


この世界に放り出された精霊


虹龍の主であったという騎士が張った精霊台の膜


宝玉を作り出した黒騎士


これは、この話はもしかして・・・・・・



「儂はこれを精霊宝玉と呼ぶことにしておる。ネーミングセンスあるかの儂?安易すぎた名前じゃったかのぅ?」



おじいさんはお茶を啜った


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ