『紅翼太陽』
彼はまだ二十数年しか生きていない人生で若者と呼ばれる部類にいながら、近衛隊の騎士隊長にまで上り詰めた男であった
近衛隊は王族を守るという任務のため、彼も外交のため国外へ行く国王や王女の護衛につく事も度々あった
その度に各国の騎士や魔術師達と話をすることもあった
どの騎士達も魔術師達も、これ以上ないくらい、自分より強いのが分かる
経験の浅い自分に比べ、精神と肉体に置いて極限を目指した者達の姿がそこにはあった
いつか自分も、そんな中に入れる日が来ることを目指して毎日鍛錬に励んだ自分がそこにはあった
だけど俺は、いつからか分かっていたのかも知れない
自分は高みには上れないと
結局今の自分は鍛錬もせず、一日中ハンマーを鉄に向かって振り下ろす日々を送っている
所詮はその程度か・・・と思った
そのとき自分の限界を俺は知った
きっと自分はこれ以上先へ進めないのだと
なのに今では主のために働くことも出来ないくせに、何故かその元主に命令されて俺はここにいる
まるで自分が幼き頃から妹のように接してきた女性はいまや一国の跡取りともなる器にまで成長している
世界は広い
今まで生きてきた中で、これほどまでに広い世界を知りたいと思ったのは恐らく、俺が力というものを感じたからだろう
力を感じて俺の心は奮い立った
俺はあのころに戻りたいと思った
まだ、戻れる。いや、ちがう。進むんだ
上を、力を、求めているものはもっと高みにあるのだから
私がそれに恐怖し、また心酔した
力の波動を感じられる
魔力とはまた違う、別の力を私は感じ、その力の虜となった
その力には、それだけの威力を持っていた
かろうじて私は立っている
今にも膝をついてしまいたいほど、私は、酔っている?
力に酔っているのか、私は?
私は疑った
まさか自分がこんな、禍々しい力に酔い、自分を忘れかけてしまうとは思うはずもなかった
私は成人したとはいえこの世に生を受けてまだ19年しかたっていない
自分は、未熟だ
そう思わされた
これまで、この若さで第3位まで上り詰めて、でも知らず知らずのうちに私は・・・
思うだけで悔しくなった
だけど、それもまた一つの経験だと今は自分にそう言い聞かせた
後悔なら後でいくらでも出来る
そうでも思っていないと、この戦いを見ていられなくなる
この絶対的な力のぶつかり合いを見逃す事なんて、出来るはずがない
虹色と黒色が闇に落ちる
雲の上に光り輝く月と星の明かりだけが2体の体を闇夜に浮かび上がらせる
虹色と黒色は互いに絡み合いながら雲を突き破る
噛みつき、弾かれ、絡みつき
轟雷が空を飛び交い、黒炎が空を走り、黒の触手が空を切り裂く
荒々しい2匹の獣は牙を月光に反射させる
そうしてもみ合いながら2体は地上へ向けて落ちていく
雲が2体を避けるかのように穴を開け、二つの巨体は地上に墜落した
巨大な土煙が立ち上り、轟音が静寂の夜に響き渡り、巨大な揺れが地面を揺さぶった
その光景はグレアント、ファンダーヌ、ゼルタール火山の向こう側のカナンからも確認することが出来た
はじけ飛ぶ稲妻と黒い炎が空を落ちていく光景はまさに壮観であり、またその異常事態に何事かと各地があわただしくなった
2体が落ちたのは王都リッドクルスとゼルタール火山との間にある巨大な平原であった
名をヘルダ平原という
ヘルダ平原に落ちた2体の龍は土煙の中、見えない相手に攻撃を放っていた
黒い龍の攻撃は手数では勝るものの、虹龍の纏う不可視のシールドに阻まれて攻撃が届かず、虹龍の攻撃は確実に相手に当たって致命傷をいくつも負わせていた
首から流れ出る血は未だ止まらず、片方の翼は妙な方向に折れ曲がっており、恐らくもう飛べないようにも見える
だが怯む気配一つ見せず、黒い龍はただ攻撃を続ける
虹色の龍は雷を放つのを止め、長い尾を思いっきり煙の奥を薙ぎ払うように振るう
黒龍はその一撃を食らって体を大きく地上から浮かせながら煙の外に吹き飛ばされた
草原の原っぱの上を滑り、そして止まると黒龍が地面を削った後が平原に大きく残っている
その上を滑空して煙から飛び出してくる虹色の巨体はそのまま黒い巨体にぶつかり、地面に向かって強引に腕で押し倒した
顔を地面に押さえつけ、そして虹色の龍は大きく息を吸い込んだ
黒龍は押さえつけられた状態で懸命に吠えた
月夜にその咆吼が響き渡る
そして、刹那の輝きが当たりを虹色に包み込む
一瞬の静寂、そして訪れる一瞬の爆発
その爆発は2体が地上に落ちたときよりも大きな土煙が立ち昇った
そして俺たちはその光景を上から見下ろしていた
なんという戦いだろうか
一切の割り込みも出来ないこの戦いを、俺たちは見守ることしかできなかった
虹と黒が煙の中に消える
すぐさま黒色の龍が体勢を崩した状態で平原の上を滑っていく
そして飛び出してきた虹色の龍はその巨大な翼を広げて超低空飛行をしながら黒色の龍にぶつかっていた
そのまま黒色の龍の上に覆い被さる
そして、爆破
巨大な轟音と共に、爆発の衝撃で巻きあがった土煙が視界を悪くする
威力が強すぎたせいか雲のあるこの辺にまで土煙は昇ってきており、今や地上の様子はほとんど分からないに等しかった
何が起こっても言いようにレイルさんとセルディアさん、それとツキが剣と杖を構えた
こういうところでも油断をせずに行動できるって、やっぱり彼らは軍人なんだなぁと思わされた
それに加えて何も出来ない自分が悔しい
黒い龍から感じる禍々しい波動
依然として黒龍の動きは止まらず、触手もまだうごめいている
そしてそれほどまでの力を持ってしても、虹色の龍は未だ無傷
両者がいったい俺たちとどれだけの力の差を持つのかは分からない
が、恐らくはまともに戦う奴など居るわけ無い
雲から飛び降りてあんなところに割って入っていく勇気は俺には無い
在るのは、恐怖だけだ
黒色の龍は距離を取ろうと大きくジャンプして黒の翼を羽ばたかせた
その一降りで砂埃が虹色の龍を飲み込んだ
たった一度羽ばたいただけで数百メートルの距離をとった黒龍は月夜に吠えた
それに呼応するかのように触手が再び生気を取り戻した
そして、次の瞬間には黒龍は虹色の龍に投げ飛ばされていた
いつの間にか虹色の龍は黒色の龍を鷲掴みにして思いっきり空へ向けて放り投げた
グルグルと体勢を崩して回転しながら空へ空へと飛んでいく黒色の龍
体の重心が定まらず、翼を広げるも風の抵抗を受けて上手く飛ぶことが出来ない
ほぼ腕力だけで投げられた黒色の龍何とか雲の手前で制止して6本の触手を虹色の龍へと放つ
6本は放射状に広がり、そして同時にかくっと曲がり虹色の龍を穿とうとした
だが虹色の龍には見えない防壁があるため攻撃が届かない
白い閃光を放ちながら黒い触手は見えない結界を攻撃し続ける
虹色の龍に攻撃は届かない
一方的に傷を負い続ける黒龍は誰の目から見ても不利に見えた
だが、次の瞬間、見えない障壁に大きな亀裂が入った
バシィッ!!とまるで空気が弾けるような音を立てて亀裂はさらにもう一段階広がった
虹色の龍は目を細め、一気に上空まで飛び、気づけば黒龍と同じ高さの空にいた
虹色の炎が龍の口からはき出される
黒い触手が下の方から迫ってくる
黒龍は虹色の炎を避け、そして触手を操作する
まるで軌道を読まれないようにするかのように6本の触手は違う動きをする
虹色の龍は再び加速して黒の触手を振り切る
そして真っ正面から黒龍に向かって突っ込んだ
だがそれが当たることはなく、虹色の龍は黒色の龍に突っ込み、そしてすり抜けた
黒龍と触手の姿が急に消えた
文字通り、消えた
黒い巨体は、暗闇の中へと消えていった
「き・・・・消えた・・・?」
俺は唖然とした
二体の戦いは突然止まる
ただ眼下で虹色の龍が羽ばたく音が聞こえるだけだ
何が起こったのか、まだよく分からない
俺以外の人も皆困惑していた
何せ突然あの巨体が視界から消えたのだから
虹色の龍の飛行速度はまだ目で追えるレベルであった
だがこれは移動したときの残像すら映らない、完全な消失だった
「え、何!?どういうこと!?」
「わからん。何が起こった・・・?」
俺たちが消えた黒龍を目で探していた
そして、現れた
突如暗闇の中、黒の霞の中から現れた触手が虹色の龍の背後を襲う
とっさに現れた殺気に気がついた虹龍は上空へと逃げる
5本の触手が虹色の龍の影を貫いた
だが、一本の触手が虹色の龍の尾を捕らえ、絡みついた
そして下に思いっきり引き落とす
虹色の龍はそのまま触手に振り落とされた
襲いかかる6本の触手が虹龍の障壁にぶつかり、巨大な亀裂が虹龍の周囲全体に広がった
ついに見えない障壁はまるでガラスのように砕け散った
虹龍は全力で翼を広げて空へと飛ぼうと試みる
が、触手の一本が虹龍の鱗を突き破り、右足を貫いて地面に突き刺さる
鮮血が緑の草原に染み渡り、その一点だけが紅い草原へと染まる
黒龍の片目が、虹色の龍を捕らえた
この状況の中でその中に飛び込む勇気を持った奴がいた
それはもうすでにこの場には居なかった
俺の目に飛び込んできたのは、眼下に広がる広大な草原の上で戦う二つの影に向かって行く
真っ直ぐ、なんの迷いも無いかのように・・・
俺は手を伸ばした
戻れと叫びたかった
でもその声は届かないと思う
二人の距離はすでに、龍の咆吼と放たれる雷や炎の轟音で彼の耳に届くはずも無かった
だけどやっぱり俺は叫んだ
「戻れーーーっ!ソーレエエエエエエエエェェェ!!!!」
俺はまた、後悔するのだろうか?
残った5本の触手がまさに虹龍へと向かって放たれようとした
その時、黒龍の後頭部で小さな爆発が起こった
黒龍はゆっくりと顔を後ろに向けた
そこには空中で威嚇する一匹の龍子がいた
大人の龍に比べ、その声は高く、威嚇になっているかどうかは怪しいものだったが本人は必死だっただろうと思う
現にアヤキにも、虹龍にもその声は届いていた
懸命に羽ばたきながら再び火球を放ったソーレだったが、触手の一本がその炎をはじき返し、そして小さなソーレの体の半分を抉り飛ばした
真っ赤な体色と同じ色の液体がどばっとあふれ出て、液体に月が写り込む
焦点の合っていない目が、空にぼんやりと浮かび上がる月を映し出していた
触手はソーレの体を空中へとはじき飛ばした
雲を突き抜け見えなくなった
虹龍は、月夜に吠えた
黒龍は、神に唸った
紅龍の子は、最後に一人の少年の姿を眼に写した
それが、誰であったかを認識できたかどうかは、誰にも分からない
「っ・・・!!!!!」
駆け寄った俺が左半身が抉られて無くなっているソーレを手のひらにすくい上げた
どれほど歯を噛みしめただろうか
どれほどこの拳でものを叩いてやろうか
どれだけこの悲しさを叫んでやろうか
行き場のないその感情を発散したかった
後ろから駆け寄ってきたセルディアさんやシェルディさんが俺の手の中で目を閉じたソーレを見つめた
スッとしゃがみ込み、シェルディさんは鱗が薄いのど元に指を触れる
何をしているのか分からなかったし、自分が今何を考えているのかも分からなかった
思考が、ぐちゃぐちゃだったから
「まだ息があるわ!龍族は生命力が強いからあと少しは耐えてくれるはず・・・。アヤキさん!!」
「は、はい!?」
俺はまだ悲しみに浸るには早いようであることに気がついた
「まだ、今なら・・・。今なら転精術が使えます!」
なんだろう
この人は今何を言っているのだろうか?
まだ、ソーレが生きている?
馬鹿な。体半分をあの禍々しい触手に抉られたんだぞ?
体の半分を失って、まだこの小さな命は生きているというのかこの人は
そうであるならば
「転精・・・術ってなんですか?」
「その人の精神を別のものに宿らせる術です。息を引き取っていないのならまだ間に合います!」
「そんな・・・ことが・・・うつし、かえるって・・・どういう・・・」
「良いですか。時間が無いので早めに説明します」
シェルディさんは早口でしゃべっている
慌ててのか、それとも急いでいるのか
「この世の生き物はすべて、肉体と精神で出来ています。それを強制的に引きはがして別の物に意識だけを移し替える術があるんです。普段なら禁忌に触れるのですが・・・」
肉体と精神を、引きはがす?
「どういう・・・こと・・・え、そんなことが・・・?」
「我が家系に伝わる秘術のような物です。やりますか?」
俺は・・・
「ソーレの命が助かるなら」
その救いの手に、ソーレを任せてみることにした
「正確には、肉体が死に、精神のみを生かす術です。ではセルディアさんとユイさんに手伝ってもらいたいことがあります」
「え、私も!?」
一条さんが驚いた顔で自分を指さした
あわてふためき自分に何が出来るのかという様子で駆け寄ってきた
そしてソーレの体を見て眉をひそめた
「はい。この術のために至急10枚の術式を刻んだ符を作ってください。貴方はきっと符術師の才能があると睨んでいます。良いですか、これと同じ術式をこれに刻んでください!正確に、間違えずにです。それをこれから出てくる魔法陣の周囲に均等に配置していください。その私は祭壇を作って精霊を呼び出します。この術は精霊の加護無しでは使用が出来ないので・・・。セルディアさんも祭壇の基礎を手伝ってください!」
「わかった。だが属性雷しか無理だぞ?」
「火なら最良なのですがこの際雷でもいいのでお願いします。何とかして見せます」
セルディアさんは分かったという顔でうなずくと杖を構えた
巨大な魔法陣が広がり、それがいくつも重なる
5つほどの、速度や大きさの違う魔法陣が重なり、それらはバラバラに回り続ける
一条さんはもらった符を見てそれを魔力を込めて書き写す
それをシェルディさんに指示された通り、大体一定の間隔をあけて配置した
地面に置かれた符はゆっくりと光りを灯し、そして空中に浮かび上がった
その中心に立つセルディアさんは両手で杖を持ち直し、それを足下の雲に突き立てた
いや、実際には雲ではなく、その上の魔法陣に突き刺さったのだろう
ガキンと音を立てて挟まった5つの魔法陣の中心に立つ木製の杖はもうびくともしないだろう
セルディアさんは杖を突き立てるとそっとその魔法陣の外へと出た
浮かび上がる魔法陣の中心で杖を握ったのはシェルディさんだった
「この地を守護する者よ、古よりの盟約に従い、そのお姿を・・・」
杖から迸った光りが魔法陣を伝い、魔法陣が大きく光り輝く
そして空に向かって光りが伸び、その中から一人の女性が現れた
真っ赤な色をしたボロ服を身に纏い、髪は燃えるような赤色のショート
空中で座って腕を組んだその女性はにんまりと笑って呼び出したシェルディさんを見下ろした
その姿は半透明で、向こう側が透けて見える
前に見た精霊よりか姿が薄いように見えた
「久しぶりだな。お主を見るのはお主が幼少期の頃以来だ。」
「お久しぶりです。早速で悪いのですが、私に精霊の加護を・・・」
「よかろう」
赤色の精霊は地上を見下ろした
雲の切れ間から見えるそこには、二つの巨大な影が戦っていた
精霊はゆっくりと両手を広げ、そして両掌を顔の前に持ってきた
そっと吹きかけるようにして息吹を吹き込む
その息吹は光りの粒となってシェルディさんの姿を取り囲む
光りは集まり、やがて渦となり、そしてシェルディさんの体の中へと吸い込まれていった
「感謝致します」
「礼には及ばぬ。ところでそこの二人がもしや・・・」
精霊は俺と一条さんを見つめる
「別の世界から来た者達か?」
「は、はい」
「そうです」
「話には聞いていたが、そうかそうか。なるほどな。ということはお前がアヤキか?」
「え!?」
何で俺の名前知ってんの!?
「お主らの言うところの水の精霊というやつから聞いた」
心読まれた!?
「おー。まぁ我々は別に口伝で話を伝えるわけではないからな。まぁ口伝も出来るのだが・・・ってそんなことはどうでもよいか」
「そうです。アヤキさん、こちらへ」
俺はシェルディさんに呼ばれて魔法陣の中へと入っていく
「アヤキさん。今から彼の魂を引きはがします。そのことについて異論は無いですね?」
シェルディさんはそういって俺を見つめた
俺はソーレを見つめる
短い間だった
出会って一ヶ月も経っていない
だけど・・・俺は・・・
「はい」
迷いは無い
それでソーレが助かるなら別にいい
別れの言葉も言えなかったし、あれだけ俺になついてくれていた
短い間だったけど、そこには確かに何かが生まれていた
友情・・・では無いと思う
どんな言葉で言い表せばいいのか分からないけど、二つの心の間には、確かに心を繋ぐものが存在していた
少なくとも俺はそう感じていて――――いや、そんなものでは表せないのかもしれない
たとえ血は繋がっていなくとも、最初に出会ったあのときから
俺はこいつの親だったんだ
「では魂の拠となる物を」
「よりどこ・・・ろ・・・か」
魂を引きはがし、それを別の場所に移し替える
その肉体の代わりとなる器を探さなくてはいけない
「出来るだけ、いつも身近に持つ物がよろしいかと。その方が移された魂も喜ぶかと・・・」
いつも持ち歩く身近な物
俺がこの世界でもつ物
この世界で俺が肌身離さず持っている物はあまり無い
在るとすれば・・・こいつくらいだろうか
左手を静かに動かし、触れるは短刀の柄
それは、俺を守る唯一の武器
名もない短刀をアルレストさんに譲り受け、これまでずっと旅を共にしてきたもう一つの相棒
俺は腰に結んだ紐を解いた
そしてそれをシェルディさんに渡す
手から手へと渡された短刀
俺が身を守るためにと譲り受けたそれに、今ソーレが宿るというのだろうか
無言で受け取ったシェルディさんはその短刀をそっと魔法陣の上に置く
浮かび上がる光りの上で宙に浮く名も無き短刀
「悠遠へと響く鼓動。過去の足跡を追想し、思いを馳せる大地へと我踏む足跡思い浮かべる」
そういえば、お前には名前が無かったんだよな
「決意を秘めし心、勇気を持ってこれを受け入れる。揺るぎなきその意志、望む者に永久の祝福を」
たぶん、来るべき時っていうのが今なんだろうな
「欲する者、別れ路の艱苦を超克し」
名前か・・・・
「願いを礎に、心に宿れ」
魔法陣が大きく光り輝き、闇の中に皆の姿が浮かび上がった
「輪廻転生!」
浮かび上がっていた魔法陣の層がゆっくりとソーレの体に集まっていく
横たわるソーレ
そしてシェルディさんはしゃがみ込んでソーレの顔をのぞき込んだ
ソーレは目を閉じているため、恐らくシェルディさんの姿は見えていない
「君は、どうする?」
しゃがみ込んだ女性は、優しく語りかけた
虹色の龍は予想していなかった
まさかこの空間の結界を破るだけでなく、自らが纏う結界までも破壊してしまうとは予想すらできなかった
この結界を破ることが出来る者は、この世に一人として居ない
神の力とも言うべき絶対的な力がこの体を取り巻いていた
それが―――――破られた?
そしてもう一つ気になる点がある
それは一瞬にしてあの巨体が闇に溶け込んでいったことだ
その瞬間、奴は闇そのものになっていた
結界を破る奇妙な触手、そして闇に消えるその巨体
何だというのだいったい
いや、何だと問われれば、恐らくではあるが答えは出ている
だがそれはあり得ないはずだ
合って良いことではない
でもこの力
普通の一匹の龍が持つには異常すぎる力
多生驚いたとはいえ、ここまで自分と対等に渡り合えるとは思っても居なかった
いったい誰がこの事態が予想できただろうか
同族を殺すのは忍びないと思っていたが、やむを得ない
もはやあれは、同族ですらない只の獣
油断も、情けも、哀れみも同情もいらない
在るのはたった一つ
殺意だけだ
だがその覚悟をした瞬間、自らの脚に触手が絡みつく感覚が伝わった
強固な鱗のおかげで圧迫されてもそれをはじき返せているとはいえ、このままでは不味かった
触手が地面の方へ向かい、もう離さないとでも言わんばかりの力で足首に絡みついた
そして地面に叩きつけられ再び土煙が上がった
そこで、心のどこかがうずうずとうずく事を感じ取っ
今、自分は叩きつけられた後に巻き付けられた触手によって身動きが取れなくなっている
両手両足を縛られているので爪で切り裂くことも、牙も触手には届かない
だが、腕力には自信が在るため思いっきり両腕に力を込めた
力に物を言わせて触手の先にあるものをたぐり寄せる
黒龍は翼を羽ばたかせ抵抗をする
そのとき、後ろの雲が異様に明るいことに気がついた
あの場所に、新たに一つ、生体反応が増え、さらにその周囲に巨大な力の渦が渦巻いていることを感じる
あれは、この周囲を守護している火の精霊
また懐かしい者が現れたようだな
触手をたぐり寄せる力を強めた
地上で戦いたくは無かったが、今あの場で行われていることを邪魔するわけにはいかないだろう
何をしているかは分からぬが恐らく先ほど倒れた同族の子供を助けるために高度な魔術を行使しているのだろう
今彼らに近づけさせる訳にはいかない。幸いこの当たりは運良く人里が無い平原である
草原にいた魔獣達はすでにこの騒ぎでこの当たりから避難しているだろう
ならば、もう少し暴れても良かろう。
虹色の龍は口を開いたのが見えた
その奥に見える絶望を見た黒龍はより一層抵抗を強めた
これから放たれるそれは、これまでの比では無いことが分かるからだ
だが二本の触手をしっかりと捕まれているため逃げることが出来ない
一度離れた触手が虹色の龍に殺到した
だがそれが虹色の龍を捕らえるより先に、触手を虹色の光りが飲み込んだ
放たれたそれは一筋の光りとなりて闇を飲み込み、目指す一点へと伸びていく
そこで黒龍は二本の触手を根本から断ち切る
そして全力でに放たれた光線の軌道からそれようとしたが虹色が黒翼を貫いた
まるで触れたものを巻き込むかのようにして翼はまるで布きれのように形を変え、絞られたぞうきんのようになって虹の光りの中へと消えた
虹色の光線は雲を貫き、周囲の雲を巻き込んで空気中に霧散していった
黒龍は片翼を失い空を飛ぶことが出来なくなったため地上へと落下していく
その光景を見つめていた者がいた
虹色の龍
そして雲の上に立つ者達
迷いは消えた
見届けるつもりでいた
邪魔になるから・・・と
今、俺の手に収まるこいつの鼓動が聞こえてくる
今、俺の頭の中に虹色の龍の言葉が語りかけられている
先ほど放たれた虹色の龍の光線
圧倒された
だがそれを遙かに上回る力が俺の体を取り巻いているのが自分でも分かる
何故かは分からないが、今なら俺は、神でも殺せる気がする
自分に何が起こったのか
精霊が力を貸してくれたのか
ソーレが力を貸してくれたのか
そんなことはどうでもいい
ただ分かるのは、俺はあいつを倒す役目を担ったと言うことだけ
これだけは確実に分かった
虹色の龍は俺に言った
あの異形の力。それは付属された偽りの力だと
それを破れるのは虹色の龍の力
そしてその血が流れる俺だけだと
虹色の龍は言った
動きを止めるから、とどめを刺せと
俺とソーレと、二人で
もう、虹色の龍には分かっているのだろう
ソーレが俺の短刀になっていることも気がついているはずだ
だから二人で、なんて言ったのだろう
いいよ
やってやる
不思議と恐怖は無い
こんな高い場所に居るけれど
向かう場所に絶対的な力の壁が立ちはだかっているはずなのに
勝てる保証は全く何もない
倒せる技の一つも知りやしない
不思議だな
俺は短刀を抜き放ち、月が刃に映る
うっすらと刀身が鈍い赤色を纏う
出会った頃の青の波紋はいつの間にか赤みを帯びている
名前を付けるなら、今か
これまで道理ソーレと呼んでも良かったが、俺は何となく違う気がした
これまでのソーレとは違う
そんなものを俺はこの短刀から感じている
紅き翼を持つ龍が宿る短刀
紅き翼の持ち主は太陽の名を持つ
紅き翼の太陽。すなわち
紅翼太陽
皆が雲の切れ端まで歩いていく俺を制止させようとするが気にはならなかった
勝手に体が動き、俺の体は雲の切れ間へと飛び込んだ
直後、加速が始まった
ぇぅ・・・遅くなってすいませぬorz
なかなか納得がいかなくて書き直しとかしていたらなんか思っていたより遅くなってしまって・・・
だ、だけどその代わり一杯書いたから許してください!なんか最近の執筆ピンと来ないんです・・・初心を思い出せ俺!!