『雲の上』
「不思議だよなー。これ本当に雲なのか?」
レイルさんは恐れることなく雲の上を飛び跳ねる
なんだかフワフワとした不思議な感触に俺も触れてみる
雲に触れようとするが手はそのまま雲の中にスッと入っていく
そこにあるのは、気体である雲
普通は立ってること自体おかしい話なのだが
「何処だろうねーここ。変な場所」
一条さんも周りを見渡しながらつぶやく
今、俺たちは妙な場所にいる
地上に居たときにはそんなに雲が無かったと思うんだけど・・・
上も下も、右も左もすべてが雲で覆われている場所
雲で出来た橋を俺たちは駆け上がり、気がつけば雲のど真ん中で視界は真っ白
みんなの顔すらよく見えずに霞んでいる
「とりあえずみんないるか?」
「番号!いち!」
「にー」
「さん」
「しー」
「よん」
はっ、被った!?
俺の声と一条さんの声が被った
「あ、じゃぁ俺ごで良いです」
「ろく」
「かぅっ」
「よし、全員居るな?さて、勢いとノリでここまで来たはいいものの、どうするよこれ」
レイルさんが少し離れた場所で全員の点呼をとり、ソーレが最後でしめた
まぁ確かにどうしましょうかねぇ・・・・
だれも道なんてわかんないし
「先に進むしか無いんじゃない?」
「先って何処だよ」
「知らん」
「うがーっ!とりあえずむやみやたらに行動するのは避けた方が良い。まとまっていないとはぐれそうだ」
数メートルも視界が持たないここで、自分たちで勝手に歩くとすぐにはぐれてしまう
「とりあえず近くに居る奴を見つけて合流しよう」
ぼんやりと見える人影のところに俺は向かう
そこに居たのはツキだった
そしてすぐにシェルディさんが合流した
最後に後ろからレイルさんと一条さん、それにセルディアさんが一緒になって雲の中から現れる
その上をパタパタと飛びながら追いかけてきたソーレも俺の肩に止まり、うれしそうに鳴いた
「さて、どうするかな。行き先も方向も何も分からん」
レイルさんが唸って雲の上に座った
「ソーレ、何かわかんないか?」
「かぅ?」
「うーん、んじゃぁ上まで行って何か無いか探してきてよ」
「クゥッイィッ」
ソーレはパタパタと羽ばたいて雲の上に向かって飛んでいった
すぐに龍の影は消える
「にしても本当にお前ら話ができてるんだな」
レイルさんが不意にそんなことを言ってきた
「え、あぁ。まぁそうですね」
「龍の神子ってやつの能力なんだろう?」
「らしいです。まぁ詳しいことはわかんないですけど」
「でも興味はわくわよね」
シェルディさんが話に加わってきた
「その会話って龍から貴方、貴方から龍っていうのだけなのかしら」
「いや、龍から龍っていうのも入ります。龍同士の会話聞いたんで」
だからどちらか一方通行って訳じゃないと思う
「ってことはその龍の神子っていうのは何なのかしらね」
何なのかしらって・・・・何なんだろう
血筋とかそんなのか?
「というと?」
「その力は貴方が突如与えられたものなのでしょう?能力そのものは元から誰かが持っていたと貴方が言っていたのだからその能力は譲渡という形なのか、それとも適合者の力の序列で決まるのか」
「どうなんでしょう。何人も能力を持っていて力の序列で高い人間が龍の神子に選ばれるとしたら、少なからず他にも龍の声って聞くことが出来ると思うんですよね。んでそれだったらもっと龍の事とか分かってると思うんですよね」
「まぁ龍にはまだまだ分かっていないことが沢山あるからな」
「あ、そうだ。もしかしたら今からその龍に会いに行くことになるかも知れません」
・・・・・・・・・・
『は!?』
見事に全員の驚く声がハモる
あれ?言ってなかったっけ?まだそのことって伝えてなかった・・・ような・・・気が・・・
「ちょ、ちょっと待って。龍に、合う?」
「はい。紅龍の巣に行った時に聞いたんですけど俺は確か虹の不死龍ってのに会って力の解放、つまりマナの解放をしてもらってこの周囲の大地にマナを満たさないといけないんです」
「マナで大地を満たす・・・。一年が9の月からなっていて次の龍の月はほぼ一年後。なぁ、それって毎年行っているのか?」
「マナの解放をですか?えぇ、っと確かそうだったと思います。毎年自分の月が来たときにはマナを解放するって。あ、ただ神子は毎年変わるわけではないらしいですけど」
「マナの実り・・・か。なるほど。そういう事か」
「マナの実り?」
聞き慣れない言葉が出てきた
一条さんも首をかしげる
「あの、マナの実りって?」
「あぁ、お前らは知らないのか。この大陸では毎年、膨大な魔力が大陸を巡るんだ」
「マナが、大陸を巡る?」
「あぁ。大陸中にあふれているマナ。これっていったい何処から来たと思う?」
「え?マナの出所ですか?」
出所?元々マナって何処からできるかってことだよな
土・・・は只単に空気中のマナを吸収するだけだから違うし
俺は火山の中で聞いた話が浮かんで候補に土を出したがこれはどうも違うということで候補からはずす
それぞれ属性があるから現れかたはそれぞれ別々なんじゃないだろうか
「分かりません」
「私もちょっと分からないけど、たぶんそのマナの実りって言うのが関係してるんじゃないかしら?」
一条さんがビシッと指摘する
あ、なんか答えそれっぽいような気がしてきた
「なかなか勘が鋭いなお前は。さっきの問題もすぐに答えられちまったしよ。ま、それが答えって事になるかな」
一条さんは軽くガッツポーズを取る
レイルさんは苦笑いしつつも説明を始めた
「マナの実り、これはこの大陸に存在するすべてのマナの素となるマナが毎年各地を巡ることをいうんだがまだその素となるマナが何処から現れるのははっきりしていなかったんだ。その素マナは各地の自然、大気の中に溶けていき、そして定着する。それは土であったり水であったり風であったりってな」
「補充みたいなもんですか?」
「まぁそんな感じだ。だがそうなると答えはどうやらここに在りそうだな」
レイルさんはスッと立ち上がる
力の解放こそがマナの実りの正体ってことか
まだマナの実り自体はピンと来ないけどやっぱり自分は重要な位置に居ることを再確認させられた
そしてちょうどそのとき、頭上からソーレが戻ってきた
「カゥウッ!」
「お、ほんとか?」
「そいつはなんだって?」
「なんか上のほうにあるってさ」
「それは何だ?」
「さぁ、口で表現しづらいんじゃ無いですか?なんかソーレにもよくわかんないって言ってるし」
「じゃ、上いくか。全員ちょっと俺の周りに集まれ」
『はぁ・・・』
「?」
「?」
俺も一条さんも、後ろにいたツキまでも頭にはてなマークを浮かべる
いったい何をする気だろうか
俺はいろいろ考えながらレイルさんの前に行く
レイルさんはニヤニヤと笑っているし、シェルディさん、セルディアさんは何故かため息をついた
しかも綺麗にハモった
「じゃぁ先方は誰が行く?」
レイルさんが俺たちを見渡す
「わ、私が行こう。だがお前はどうするんだ?」
「飛ぶ。んじゃいくぞ」
セルディアさんがどうやら最初のようだ
最初といっても何をするかは見てのお楽しみって事だろうか
レイルさんは腕をぐるんぐるんと振り回す
え、ほんとうに何を・・・・
「じゃぁ準備はいいか?」
「お、おぅ。これ、久々だな。何年ぶりだよ」
「そうだなぁ・・・。まぁ語るより思い出せだ!」
セルディアさんはまた一つため息をついて雲の上に寝そべった
そしてその足首をレイルさんがつかみ、振り回す
徐々にスピードが上がっていき、そのうちセルディアさんが悲鳴を上げ始める
ただぐるぐると回されて悲鳴はとぎれまくって俺たちの耳に届いている
「いざ、飛んでけー!!」
「う お お ぉ ぉ ぉ ぉ」
セルディアさんは杖を持ったまま斜め上前方へと消えていく
唖然と見つめる俺
隣の一条さんは周りを忘れてぽかんと口を開けていた
「どうだー?ついたかー?」
遠くに向かって叫ぶ
するとかすかに返事が返ってきた
どうやら無事上にたどり着いたようだ
レイルさんは無言でうなずいてこちらを振り返る
「いやいや、これってジャイアントスインっひゃ!?」
最後まで言うことなく、一条さんは逆さまに持ち上げられる
「おっりゃぁ!!!」
「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
何処まで飛んでいったのか
それすらも分からない恐怖
そして自分の番が来た
「お、お手柔らかに」
「何を、どう、お手柔らかに?俺の手は常にかたく、ごついぜ!」
ぐるぐると回る俺
遠心力で体が吹っ飛んでいきそうだ
体が回る。景色が回っている
回っているのは景色?それとも俺?
「そら行ってこい!!」
「だああああああ!!」
雲を突き抜け俺はミサイルのように飛んでいく
というか真っ白で何処をどう飛んでいるのか分からない
前後左右上下の感覚が吹っ飛び、俺も吹っ飛び
気がつけば俺はお天道様を見上げていた
「やっほ、気がついたか?」
「ん・・・」
ひょこっと視界に顔をのぞかせた一条さん
突然のことで驚いたがこうしてよくよくみると整った顔立ちをしているなぁと思った
ただたまに親父っぽいしゃべり方をするのが少々残念だが
「どうした?見惚れたかね?」
おぅ、ばれた?心を読まれたのか俺?
「見惚れてました」
「はぅ!?」
くねくねと身をよじらせる
いやいや聞いてきたのはあんたでしょうに
俺はゆっくりと上体を起こす
「俺いつから気絶してたんですか?」
なんかもう雲の中に居たときからすでに記憶が飛んでいるのは気のせいか
「さぁ。見つけたときには気絶してたし」
ですよねー
「そう言えばレイルさんは?」
「さぁ?アーヤんは私が飛んできた後すぐに目を覚ましたからそれほど時間は経ってないんだけどまだレイルさんは来てないなぁと思うけど」
周りを見渡すとレイルさん以外の全員が雲の上に到着しているようであった
何処までも続く巨大な雲の大地
もちろんこんな広い空間の雲、下からは無かったはずなんだけどな
ツキは酔ったのか何故か四つんばいになっており、背中をシェルディさんがさすっていた
あのぐるぐるで酔ったのだろうか
まぁ確かになんか、こう、衝撃的だった。うん
なんつー原始的な方法だよ。ジャイアントスイングって
たしかあれって結構難しいらしいよな
もちろん腕の力もいるけど自分も体勢を崩さないようにしないといけないから結構バランス感覚が重要ってのを聞いた覚えがある
「全員上まで来たけど肝心のレイルさんはどうやって来るつもり・・・・・・」
後半俺は言葉を失った
それもそのはず少し離れた場所からレイルさんが飛んできた
雲を突き抜け上昇していき、勢いを失ったレイルさんはそのまま落ちてきた
雲がクッションになったのか、レイルさんの着地が綺麗だったのか、けろっとした顔でこちらに歩いてくる
「ど、どうやって来たんですか?」
「ジャンプ」
超人が居る
俺の目の前に超人が居る
超人と書いて鳥人とも書く
見た目からして俊敏には動けそうもなく、もちろんこんな馬鹿みたいな距離をジャンプだけで飛べる人が居るのかと俺は自分を疑った
だが、目の前に確かに垂直に飛んできた男が一人
見た目どうこうの以前に人間やめてるんじゃないかこの人?
「そのチビ龍が言ってたのはあれか」
俺は後ろを振り向いた
皆の視線の先には巨大な雲の塊があった
平坦な雲の上にそこだけどっさりと雲を盛った感じの場所がある
四方には巨大な雲の柱が立っており、そのどれもがとても巨大
20メートルは在ろうかという巨大な柱、そして巨大な雲
どうも怪しいのはあそこだ
「でもなーんか嫌な予感がするんだよなぁ・・・」
ボソリと誰にも聞こえない声でつぶやいた
だが、その場所に感じていたのは興味。それよりも今の俺は何か不安なものを感じ取っていた
だから、それを違和感の元だと勘違いしていた
それ意外にそんな要素は何処にもなかったのだから気がつけなかった
俺たちは巨大な柱の前まで来た
雲で出来たその柱は風で揺れながらもその形は崩さない
「近くで見るとでけー・・・」
圧倒される俺たち
雲の上、日差しが強く、そして寒い変な場所
俺は、その巨大な雲に触れる
触れないといけないような気がした
だから触れた
次の瞬間、雲ははじけ飛び、空気中に消えていった