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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
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『王妃と魔法』



「入りなさい」



ドアがノックされる音を聞き、そう答えるとすぐにドアが開いた


その人物は自分の娘であるセレシアの侍女の一人、レノアであった


娘の侍女は彼女の母である自らが決めているために、もちろんノックしてきた人物が誰であるかは何年も聞いていればすぐに分かった



「どうしましたかレノアさん?」



現在、ファルアナリアは自室で書類を読みあさっていた


山のように詰まれたその書類に一枚一枚目を通して彼女はサインをする


提出期限が明日の物だけを振り分け、その分だけにシャシャッと羽ペンでサインをしていく


羽は虹色に輝いており、トルロイン家で買った掘り出し物の最高級品で、フェリーの巣の真下で見つけた品なのだという


フェリーと呼ばれる鳥は翼をひろげると全長約5メートル近くになる巨大鳥でその尾羽は七色に輝いていることから虹鳥とも呼ばれる


フェリーはアルデリアとグレアントをまたぐようにして存在する山のにある森、テルミアの森に生息している


元々一生で卵を一つしか産まない性質のため個体数が非常に少なく、両国の間でも捕獲や直接の干渉が禁じられている鳥である


ならばそもそもどのようにして現在まで個体数が増えたのか、どれほど生きながらえるのかすら分かっていない謎多き長寿な鳥である


観測史上最も生きながらえているものは現在40年を越えている


が、その個体がいつの時代から生きているのかすら不明なのである


人を襲うことは無いが、その希少性の高い尾羽のために密猟者が現れることもしばしばある


フェリーの尾羽は美術品としてとても高値で売れるために密猟者は年々増えるばかりというのが現状だ


そのため、両国では連携体制をとりフェリーの保護をしていこう、という書類である


今彼女が目に通していたものはグレアントと共同で作るフェリー保護団体の設立に関する文章であった



「セレシア様が精霊殿でお呼びになっております」


「理由は聞いていますか?私が何のために祈りの儀式を休んだかは貴方も知っていますよね?」



今日彼女が祈りの儀式を休むことをセレシアに伝えたのは他でもないレノア自身である


急遽舞い込んだ書類をかたづけるために忙しいのである


仕方がないとはいえ、一分一秒ですら時間がほしいくらいである


しかしレノアの表情は困ったという顔のままだ



「しかし緊急の伝令ですので・・・」



そう言われると内容を確かめないといけない


セレシアが命令したとはいえ、わざわざ作業を中断させてまで伝えることだとレノアは判断したのだろう



「で、その内容は?」


「精霊台より若い男が出現しました。風貌からしてこの近辺の人民では無いようで年は10代後半ぐらい」



その言葉を聞き、目を見開くファルアナリアに対してレノアは落ち着いた雰囲気で伝令を伝える


ファルアナリアもつい先ほど、突如として現れた魔力を感じ取っており、気になっては居たのだがどうやらそれが原因のようだ


魔術師隊が魔法の訓練をしているのかとでも思っていたがどうやら違うようである


しかも膨大な量の魔力を感じていたため、それが一人の男が発したものと考えると恐ろしいレベルであることが伺える



「・・・・分かりました」



娘にあまり対応を任せるべき事柄ではないと判断し、仕方ないと椅子から立ち上がるとフェリーの羽ペンをペン立てに立てる


そして机に立てかけてあった大きな杖を取る


杖の先端には透き通った巨大な宝石がついており、蒼く光るそれはずっしりと手に重みが伝わる



「ティリア。ここで私の部屋の見張りをお願いします。レノアはチル隊長に伝令を伝えてきてください」


「見張りですか?了解しました!」



黄色い髪の女性がどこからか現れた


彼女はファルアナリアの侍女の一人でレノアの先輩にも当たる人物であった


レノアはファルアナリアに伝言を聞くと一目散に廊下を駆けていった


途中で足をもつれさせて転けた事は2人とも見なかったことにしておこう。と無言で頷いていた


大丈夫かなぁと哀れみの目で彼女を送り出す2人であった







城の頂上


屋根の一番上に立つ女性が一人


若い女で長く白い髪が地上よりも強い風を受けて靡いている


青と白のコートはアルデリア王国を象徴しておりそのマントは他の一般騎士との違いを見せつけるかのような威厳を放っている


腕を組み、眼下に広がる城下を見下ろしているのは聖水騎士団、通称アクアサンタ騎士団の隊長、チル・リーヴェルトである


歴代リーヴェルト家は代々アクアサンタ騎士団に務めており、父は過去に副隊長、兄は第3位の地位まで登りつめた身である


だが両者とも数年前の戦争により殉職しており、母は物心が付く頃に、チルの目の前で死んでからというもの今は妹と2人暮らしである


そんな唯一の身内も一ヶ月ほど前にアクアサンタ騎士団の見習いとして入隊し、つい5日前、正式に入隊の儀を終えはれて騎士の仲間入りを果たしたのだった


そして第2位に居たチルは副隊長であるアルレストとの一騎打ちの末、隊長の座を掴んだ


そんな彼女は屋根の下に人の気配がするのに気がついた



「あれー・・・ここにいると思ったんだけどなぁ・・・」



聞き覚えがある声だ


屋根の頂上から外に突き出している手すりに飛び、其処で上手くキュッと音をたてて城の方に向き直る


そしてピョンと窓から部屋の中へと入る



「うっす、レノア」


「あ、いた!君はどこから入ってきてるのよ毎度毎度」



レノアとチルは幼少時代からの友人で、今ではこうして道を分かれて職に就いているのだが、2人とも国のために働くという内容については同じである



「うるさい。あと君いうな。隊長と呼べ!」


「仕事柄仕方ないですね・・・悲しいかな。隊長、ファルアナリア様からの伝言を言付かってきました」


「王妃の?」


「はい」


「話せ」


「実は・・・・」



話を終えて一息つくレノアに対し、チルはうんうんと頷きながら腰に手を当てる



「ふむ・・・・確かに気になる話ではあるな。まぁ誰だかわからない以上、警戒は必要だしな」


「賛同も得られたことですし行きますしょう」


「うむ。では近道と行こうか」



話を聞き終えたチルはガシッとドアに向かおうとしたレノアの襟首を掴む


え?と声を立てて止まるレノアをズルズルと窓の方向へと引きずっていく


そして片足を小さな柵の上にのせる



「へ?」



レノアは嫌な予感がした


活発なチルに対し、そうではないレノア


それは昔から同じでよくチルに振り回されたものだ


木の上に一緒にのぼらされ、なれていないレノアは木から落ち(実際には上から蹴り落とされた)


浅瀬の川の石の上を飛び跳ねるチルに無理矢理引っ張られ、濡れた石に足を滑らせ川に落ち(実際には突き落とされた)


結局被害を被るのはこっちなのだ


タンッと軽い音を響かせて、人影二つが空を舞う


数羽の鳥の真横を地面に向かって急降下していく


どんどんと先ほどまでいた場所が小さくなっていく



「よっ」



チルが服の中から小さなお札を取り出してそれを下に突き出すようにして向ける


するとその札には術式が書かれていたようで巨大な魔法陣が出現


基本的にチルは符術師ではない


あらかじめ札に魔力を込め、その効果を式にして札に書いたものが術式符とよばれるものでいろいろと応用が利く道具である


レノアは恐らくそれが衝撃を吸収する吸収符であると予想する


能力は一度だけ衝撃を札の中に吸収することができる


ただそれは打撃に対してのみで剣で切ろうとすれば他の紙と同じように切れてしまうし魔術を防げるわけでもない


これを下にして着地の衝撃を吸収しようと言うのだろうか?


吸収符はさして高いものではなく、魔術学と術式学を習得した者ならば誰にでも製作可能である


安いとはいえその力は打撃にのみ、最高級の盾となる


それがたとえゴーレムの蹴りだろうがいん石だろうが止める力を持つ


まぁ流石にそのレベルまで行くとある程度数がいるが・・・


そしてどんどんと近づくのは精霊殿の屋根


城の真下に位置する精霊殿のためこれならショートカットが可能なのである


声にならない叫びをこらえて行く末を見守る


札を思いっきり地面に向かって投げる


そして札が自分たちより早く屋根に到着


ピタリと屋根に張り付き魔法陣が展開する


そしてその上に、着地


ズドオオオオオン!!!!


もの凄い破壊音を立てての着地だった


その破壊音に混じって「あれ?」とチルが呟いたのだがレノアはそんな彼女の声を聞き取ることはできなかった


屋根が、二人を巻き込んで大きな音をたてて崩れ落ちた









ファルアナリアが精霊殿に到着すると目の前では自らの娘と見知らぬ男が精霊台の階段に座って話をしていた


セレシアが此方に気づいて駆け寄ってくる



「あの方です」



そう言って指を指すのはこっちを見ている男


成人・・・はしているようね。黒髪黒眼・・・・



「どうも。私はこの国の王妃ファルアナリア・ユネレイア・キルト・アルデリアと申します。長いからファルアナリアで結構ですよ」


「王妃・・・・んっ、俺は桜 彩輝って言います」



サクラアヤキ・・・妙な名前ね、と最初にファルアナリアは思う


サクラが名でしょうか?


ファルアナリアは聞き慣れない異国の名前に戸惑いつつも



「んー・・・あー・・・やっぱり口調は変えた方が良いですかね?王妃って偉いんだろうし?俺平民だし・・・」


「いえいえ、別に強制は致しませんわ。むしろこのままの方が良いかしらね」



ファルアナリア自体あまり砕けた口調をする相手がおらず、居るとしてもそれはほぼ家族や侍女などごく一部の親しい人間にのみ向けられる



「わかりました。じゃぁこのままでいいっすかね」


「ええ。しかし・・・」


「?」



ファルアナリアは少しばかり困惑した



「貴方は精霊台から現れたと聞いています」


「精霊台?」



意味が分からない。というツラで顔をかしげる


あぁ、とファルアナリアは君が腰掛けている物がそうだと教える



「この精霊台は精霊の住む世界と繋がっています。ですがどうやら貴方は精霊とは異なる者のようですね」



ファルアナリアは精霊殿の外にいるときから感じていた膨大な量の魔力が彼の体から出ている事を知るとすぐさま魔術を行使しようとマナを体に取り込む


彼の体からは魔力が異常なほどにあふれ出ている


彼が元から持つ魔力か、それとも精霊台を通ってきた事による、精霊台の魔力が周囲に付着しているだけなのか


そんな詮索は兎も角、早めにこの魔力を押さえ込まないとそのうち魔力だけが周囲に四散して危険がでてくるかもしれない


セレシアも彼の体を取り巻く魔力の力を感じ取っており、早く対処をしなければと思っていたのだ


しかし彼女はまだそのような高等魔術を習得しては折らず、母であるセレシアを呼んだのであった



「今の貴方は魔力が体を取り巻いています。なので今からそれを押さえ込む魔術を使用するのでちょっとだけ我慢してくださいね」


「は、魔術!?おぃ、マジでどこのゲームだこれ・・・」



ファルアナリアは目を閉じ持ってきた杖を彩輝に向ける


意識を集中させ魔術を発動させる



「水の精霊よ、加護を受けし者に力を貸し与えたまえ」



ボウッとファルアナリアは青いベールに包まれる


驚きで声がも出ない彩輝



「聖なる鎖よ、鉄の音響かせ絡みつけ、ジェヴォス・インフォディリス」



彼女がそう唱えると数秒後、ゆっくりと彩輝の周囲に何重もの鎖が出現した


鎖はグルグルと彩輝の周囲を回転する


その間ファルアナリアはその鎖を凝視する


一本一本の鎖に精神力をとけ込ませる


この術は相手の魔力を固定するするための術で、鎖の数が多ければ多いほど強い魔力を押さえ込むことができる


その代わり鎖の数はそのまま自らの意思によって強度を変えるため、集中を欠くわけにはいかない


鎖の数はそのまま使用した魔力の数に等しい


ファルアナリアも過去に15本もの鎖を出現させたことはなく、しかもその一本一本に意識を集中させて魔力を押さえ込むなどという行為は初めての試みだった



「あの、これ危険は無いんですか?」



彩輝が周囲を取り巻く鎖に驚きつつ、自らの体を心配した


自らの体を魔力が取り巻いている


目には見えないが何となくではあるが彩輝はその魔力を感じ取っていた


だがそれよりもやはり異形の力を目の当たりにされ驚いている一方、その魔術とやらに好奇心が湧いてきた



「はい。貴方の魔力を固定するだけなので危険はありません」


「そ、そうですか・・・」



集中しているファルアナリアには彩輝の声は届かず、逆にセレシアが答えを返してくる


セレシアも冷静に答えを返しているがこれでもかなり驚いている


精神力の強さで術の力が決まってくる精神術を使用する母を見て感心する娘であった


おそらく自分がやれば5本と出ないだろう


ジャラジャラと鎖が音をたてて、ゆっくりとその輪を縮めてくる


ファルアナリアもその美しい美貌を歪めて歯を食いしばっているようにも見え、うっすらと汗が見え始めている


するとセレシアは何か思い出したようにパタパタとどこかへ駆けていった



「思ったより・・・・きついですね・・・」



ファルアナリアはこの彼の体を取り巻く魔術を彼の体内に固定させるために鎖は最低15本は使わないといけないと予想をしてはいたが、予想通り流石に苦しい状況だ


鎖を出現させるだけならともかく、実際に使うとなると話は別だ


少しでも気を抜けば鎖全てが押し返されそうな感じである



彩輝も流石にそんな彼女を見ていて自分も何とかできないかと考えていた


とはいえ魔力の扱いなんて分かるはずもなく頭をひねっていた


とりあえず彼女は俺の中にその魔力とか言う奴を押し込もうとしているんだよな


そしてあの鎖はそのために必要な物らしく、彼女が辛そうにしている所を見ると力を使う・・・いや精神をとけ込ませているのだろうか?と推測してみる


ということは魔力をこっちでコントロールできれば彼女の負担も減るのではないかと彩輝は考える


だがそのコントロールができない


当たり前か。魔法なんてなかった世界から来たのだから


一旦考えを変えてみるか。逆転の発想という奴だ


彩輝は考えを魔力を押し込む、から魔力が何故押し込むのに力を使うのかを考えることにした


あれだけ苦労していると言うことは逆に体に魔力が反発しているのではないか?と彩輝は考えた


魔力が体内にはいるのを拒んでいる、としか思えない


魔力自体がなんなのかを彩輝は知らなかったがとりあえず推理してみる


型にそぐわぬ物を入れようとするから入らない


固い粘土を型に入れようとしても無理だ


今やっているのは無理矢理その粘土を上から押さえつけて型、つまり俺に詰め込もうとしているという事だ


ということは、魔力を型に合うようにしてやればいい


ただ魔力をコントロールできないのでは意味がない


ということで逆に型の穴を広くして押し込むすることを考えてみるか・・・


彩輝は無心になる


今思い浮かぶ方法はこれだけだったので試してみる


これでダメならまた他を考えてみるか、と思いつつ目を閉じ座り込む


息をゆっくりと吐き、精神をとぎすませ、無心で居続ける


できるだけ、何も考えないように脳内からすべてを排除する


瞑想みたいなものだな


すると妙なことに胸の当たりから何かが入ってくるような感覚を覚えた


重く、鋭い感じの物が胸の当たりから入ってきて、それらは体の中心から根を張るように広がっていく


そんな感覚を感じ取れた


息が苦しく、胚が重く感じ取れる


ジャラジャラジャラッ


15本の鎖は一気に彩輝の体に向かって締め付けるように縮まり、そして青白く光ると鎖は砕け、空気中へと消えていった



「終わりましたよ」



ファルアナリアがふぅとため息をついて汗を裾でぬぐい取りながら歩いてくる


彩輝は重くなった胸がすっと軽くなるのを感じて目を開く



「これでもう問題はありません。貴方を取り巻いていた魔力は貴方の体に馴染んだようですね」


「・・・・どうも」



そこまでする重大さはよく分からなかったが、とりあえずお礼を言っておくべきか、とお礼を言って頭を下げる彩輝であった



一方ファルアナリアも急に魔力がおとなしくなったようにすんなりと彼の体に入っていったことに驚いていたのだが、無言で彩輝のお礼を受け取るのであった



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