『昔話』
「セルディアさんってどんな人なんですか?」
揺れる荷馬車に乗りながら俺はレイルさんにこれから合流するという人について聞いてみた
レイルさんはめんどくさそうにしながらもこちらを振り向いた
「セルディアか?外見は青髪の女性で雷属性の使い手だ。気が強くて国内じゃ3番目に強い魔術師だ」
「結構強い人なんですね」
「馬鹿、結構じゃない。ものすごく強い。詠唱速度が半端なく早いし威力も申し分ない」
どうやらかなり実力のある人が同行するらしい
そのセルディアという人はどうやらずっと先の火山の麓の町に遠征に行っているらしい
たまに騎士や魔術師の派遣、視察などをやることがあるらしく、それもかねて魔術師の人たちの戦力強化を含めて鍛錬をしにいくということらしい
ちょうどそのあたりの魔獣被害の届け出が出ているらしく、今回はその魔獣の掃討も兼ねているらしい
その部隊長を務めているのがそのセルディアという人らしい
「俺がまだ城に使えていたときはそりゃもう天敵としかいいようのない奴だったよ」
「レイルさん、天敵って・・・まぁそうでしたね。あのころは名物みたいなものでしたから」
おしとやかな声で話しに混ざってきたのはシェルディさんだった
数少ない治癒術を使える人らしいのだがあまりピンとこない
彼女には俺たちの一連の事情は伝えてあるらしい
「レイルさんって城に仕えていたんですか?」
そこに一条さんも興味を示して皆で大きな円を囲むような形になる
最後にツキも一条さんの横にちょこんと座って話を聞きたそうにする
「ん?まぁ数年前まではな。今は町はずれでしがない鍛冶職人をやっているけどな
「鍛冶って剣とか作るんですか?」
「別にそうでもないさ。鍛冶ってのは金打ちがなまってできた言葉らしいが言葉通り金物専門に作るってところだ。頼まれりゃぁ剣だろうが打つけどよ。そっちよりかは剣の手入れとか日常品の鍋とかをうって生計を立ててるさ」
「へぇ」
「っと、話ずれてるずれてる」
一条さんが話を修正して元の、レイルさんが城に使えている話へと戻す
「話は数年前に上るんだが城内でいろいろといざこざがあったんだ。大きくいえば勢力が二分化してな」
「前国王派と現国王派に分かれたんです」
「現国王って今のアルフレアさんのお父さんってこと?」
俺は気になって聞いてみる
シェルディさんは無言でうなずいた
「でもあの、よくわかんないんですけど」
「あ、長いから前国派と現国派って略すけど今の国王になってから数年して、突如前国派の人間が現国派の政権奪取を目論んだのです」
「それって・・・」
「簡単に言えば前国派の、主に文官なんですがその人たちに前国王は金を秘密裏に渡していたんです」
「それがばれて前国王は権利剥奪されてな。それで今の王が国王になった。それでもばれずにすんだ文官たちの数名がそれまで入っていた金が途絶えたってことで反乱を企てたんだ」
なるほど
人っていうのは上を知ると元には戻れなくなるもんだしな
いい思いをしたらそれにしがみつこうとしたわけか
「ん?あれ?でも今のアルフレアさんって名前に国の名前ついてますよね」
「そうだが?どうかしたか?」
「ってことは前の人も国の名前を継いでたってことですよね。前の国王が・・・直系ってことですか?」
別の人が国王になったのに二人が国の名前を継いでいるってのは妙じゃないか?
「何かおかしいところがあるか?二人は兄弟だぞ?」
「え・・・・あー・・・なるほど」
そうか。日本じゃないもんな
総理大臣みたいな感じでとらえてたよ俺
別の人がなるのじゃなく、同じ血を引く兄弟が国王になったのか
「それでまぁ、少し話は飛んだが戻すぞ。それで対立が始まったんだが相手はアルフレア王女をさらおうとしたんだ」
「アルフレアさんを?」
シェルディさんとレイルさんは同時にうなずいた
「俺は当時、近衛の隊長でな。まぁ王族近辺を守る少数の付添人みたいなもんなんだが俺一人に対して雇われた憲兵15人を送り込んできやがってな。さすがに15人相手は俺でも少し無理があってな」
「それで?」
「王女をさらう目的で来てた奴らのうち、数人を王女が受け持って二人で応戦した。本来なら逃がすべきところなんだがちょうど逃げ場のない部屋に追い込まれてな」
「絶体絶命って奴ですね」
「あんときは本当に焦ったぞ。それでまぁ王女自身も多少剣術は学んでいたわけだし何より魔術師でもある。でまぁ王女もその、なんだ。人殺しをさせてしまってよ。それだけはさせちゃぁいけんかった」
うつむいたレイルはぼりぼりと髪をかく
力不足で守るべき主を戦わせてしまったことに後悔しているのか、人殺しをさせてしまった己の無力さを嘆いているのかは彩輝にはわからなかった
そのレイルに代わってシェルディさんが話を続けた
「そのときに取り逃がした一人がそれを反乱した文官に話して、もともと頭の切れる悪知恵が働く方々でしたのでそれを国中に広めたんです」
「王女は人殺しってな」
レイルが力無く声を発した
一気に馬車の中は暗い雰囲気になってしまう
「そのときは城内の内乱を国外に公布するわけには行かなくて、事実を知らない国民たちはそれを鵜呑みにしたんです」
なるほど
うまい手ではある
憎たらしいくらいに
「結果、国民の大半が前国派についてしまってな」
「現国派には紅炎騎士団、魔術師団、近衛隊の主に武官達が、前国派には武官と国民達という形になってしまったの。そこで彼は王女の汚名をかぶったの」
「でもそれじゃぁ具体的な解決にはなりませんよね?」
一条さんが言ったとおり、具体的には解決していない
「えぇ。だけど現国派は内乱があることが国外に知られると言うことはできるだけ阻止したかった。だからそれまでは内乱の事実を伏せていたんだけど国民がここに関与してきた時点で王女の(・)無実を公表したの」
「あのときは隣のカナンと一触即発の雰囲気だったからな。あまり国内のがたつきを知られたくはなかったんだ。でもまぁここまで来たらそうも言ってられなくて」
「そこで殺したのは王女ではなくの近衛の隊長である彼ということにしたの。王女が殺していないってことで国民は文官達から翻ってこちらについた。負けを悟った彼らは実は国外と内通していたらしくて逃げようとした。でも彼がその文官達を殺して・・・重臣殺しは例外なく、城からの永久追放と権力の永久剥奪。公表したのは王女の無実ということだけ。国民から見ればただの仲間殺しなのよ。彼は」
「それって・・・」
一条さんは言葉を発しようとして、でもそれ以上の言葉が出てこなかった
俺も同じだった
決して悪いことではないはずだ
彼は・・・レイルさんは・・・王女の悪くない言葉ばかりの汚名を背負い、裏切りの仲間を殺したことで地位も権力も失って・・・
だけどそれを公表するわけにはいかなかっただろうと思う。文官が一斉に居なくなった。これすなわち国力の衰え
彼一人がすべてを背負って、国民に真実を知られることなく犠牲になって、王女も、国も守ったというのか
「同情はいらん。ちょっとした昔話さ。むぅ・・・セルディアの話から一気に重い話になりすぎじゃねぇか?」
そういえば最初はそんな話題だったような・・・・・
と、とりあえず話題を変えよう
「ところでセルディアさんとはどういう仲だったんですか?」
「ん、おー。何かと俺と喧嘩していた覚えがあるな」
「レイルさんが只単にうっとおしかっただけなんじゃないですか?」
「シェ、シェルディ・・・そりゃねーぜ」
「なんかこう、いつも迫ってましたよね」
「あのころは、俺も若かった」
「今より痩せていた」
「うるせぇってシェルディ!ったく・・・まぁでもあのころは本当に・・・・」
ん・・・?
俺はふと思う
数年前の話だろ?
「あれ?セルディアさんって今19何ですよね。で、数年前の話ってことは・・・・」
「迫ってた〜???(ニヤニヤ)んん〜、レイルさんって実はロリ○ン?」
「ちげーよ!!ってか止めろ!今はもう大人だし!それだけは本気で凹むから・・・」
ってかその言葉が通じることに俺は驚きだ
こっちの世界でもそれっぽい言葉があるってことか?
「あんときは俺も十代だからいいんだーー!」
一人レイルさんが天に向かって叫ぶ
言い訳にもならねぇな
「ふふ、あのころは本当によかったわよね」
一人、一番年上のシェルディさんがほほえむ
シェルディさんは金髪碧眼で貴族の出身なのだという
むしろ代々治癒術が使えて王族に仕えているから貴族と言うべきなのか
「二人とも仲いいですね」
「ん?まぁそうだな。同じ貴族出身で幼なじみってのもある。こいつの方が年上だがな」
「お姉ちゃんみたいなかんじと?」
「まーそれに近いわな」
「へぇ。俺にも同い年の幼なじみは居るんですけど、どうしてんのかなぁ今頃・・・」
「なんだかそんなに日が経っていないのに懐かしく感じるね」
「そうですね」
あの日常が、ものすごく遠くに見える
果てしなく、手を伸ばしてもけっして届かないくらいに
気がつけば、ずいぶんと遠いところに来てしまったんだな
俺は揺れる馬車の外に大きな火山から立ち上る白煙を見た