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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
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『炎国の王都リッドクルス』

グレアント王国は別名『炎国』とも呼ばれている


アルデリア王国の東側に位置し、北方にはリーナ聖王国、南方にはファンダーヌ聖王国が存在する


昔は一つの国だったグレアント、リーナ、ファンダーヌ、そしてアルデリアは今も友好的な国交を交わしている


アルデリア王国は水の精霊が守護する地域であり、水を有効に使って大量の食料などを輸出する国である一方で、グレアント王国は火の精霊が守護する地域であり、地下深くには巨大なマグマだまりが存在する


そのためこの地域は寒冷期が来るころでも暖かく、また温泉が有名な地域としても有名である


昔からこの地域に住む人たちは熱や炎、吹き出す蒸気などを有効利用して鍛冶職や観光業が発達してきた


各国からは温泉好きの者達や腕利きの剣士達がこの地域に集まるようになり、今では商業的にも他国の追随を許さぬ発展を遂げてきたのだ


人が集まれば文化や情報といったいろいろなものが集まるようになってくる


そしてその恩恵を与えてくれるのが王都から少し離れた場所に位置する大陸唯一の活火山、ゼルタール火山である


ゼルタール火山からは絶えることなく噴煙が上がり続けており、300年に一度の周期で大噴火が起こるのである


とはいえ前回の噴火は100年ほど前であり、次噴火するまでにおよそ200年ほどあるためしばらくは噴火の心配は無い


鍛冶が発達している国であり、かの有名な聖天下十剣もここで打たれたという


またゼルタール火山はもちろん、巨大なオラージュ山脈からは良質な鉱石が豊富にとれると有名であり、魔剣や魔道具などの材料となる魔石の産出国としても各国に大きな影響を与えている


王都に入るための門を抜けるとそこはアルデリアとはまた違った光景が広がっていた


アルデリア王国の王都は他の国家から見てもかなり特別な国で水路が多かったのに対し、すぐ隣のグレアント王国では大地がほとんどをしめており、王都を横断するかのような巨大な川沿いを中心に発展している



「おぉ・・・そこらかしこから煙が・・・」



温泉地のように多くの煙突から煙が立ち上っていて煙は風に流されてすべて同じ方向へと流れていく


と、乗っていた荷馬車が止まり、中にいた人たちが外へと出て行く


俺は最後に眠っていたソーレを起こして荷馬車から降りた


暖かい。それが第一に感じた印象であった


肌に感じるその暖かさに俺は驚き、また多くの人が居ることにも驚いた


アルデリア王国の第4地区の商業区のように人があふれている


それがまだ王城のある中心部から遠い、入ってすぐの場所ということでも驚いた



「人がすごいですね〜・・・」


「あぁ。なんていったって商人から旅人までいろんな奴らがここに来るからな」



よくよく見れば一般民のなかにも鎧を着た人や武器を持つ人も見受けられる



「で、このあとどうするんですか?」



俺は隣に立つガッドさんに聞いてみる



「そうだなぁ・・・向こうに戻ったら『赤銅の器』は解散させるからな・・・適当に家族土産でも買っていこうかな」



これは丁度昨日決まった事であるが、リーナに戻った暁には『赤銅の器』は解散する予定なのである


昨日のような事件があり、一気に皆の闘志が薄れたのである


簡単に言えば、怖いから止めよう。ということらしい


何度かギルドとしても働いたことはある『赤銅の器』だったのだが今回のような中規模な戦闘になったのは初めてなのだという


これまでグレイの群れに出会ったことは何度かあったものの、今回のようなボスグレイが混じっていることも無く、比較的小さな群れだったこともあり奇跡的にもこれまで問題は何もなかったのだ


が、今回のような自分たちの数より遙かに多い魔獣が現れ、とてもではないが今のままだと死んでしまうといった危険の方が高いと言うことが彼らにもわかったのだ


半数以上は家族を持ち、家計の助けにするために始めたギルドだった


軽い気持ちで始めるギルドも少なくはない。が、それでも途中で消えていくギルドも少なくは無い


組んだパーティが全滅なんていうのは当たり前


もし外に出たらすぐ隣に危険が迫っているという事と同じであり、それを自覚せぬまま集まった者達が多かったせいで今回の解散の件につながったということにも少なからず原因があるだろう



一方渡商人達のほうはここしばらくはグレアント王国での商いを続けることになるらしい


だが俺とツキはアルデリア王国に向かうために早めにこの国を出る予定ではある


とはいってもツキもせっかく商業が盛んな国にきたのだから店を出さねば利益も無い


ということで『赤銅の器』は数日中にリーナへと帰還する予定であり、渡商人達はしばらくグレアント王国にとどまり、俺とリーナはアルデリア王国に行くために近日中にこの王都を離れるという事になり、事実上グループは解散となった


解散した俺とリーナは『赤銅の器』に一端別れを告げた


彼らも数日はここに滞在する予定なのでもしかしたらどこかで会うかも知れない



「でさ、なんでアルデリアに行きたいんだ?」


「私?そうね、届け物ってところかしら」


「誰に何を?」


「さぁ、何かしらね」



教えてくれたっていいじゃん・・・まぁいいか。言いたくないことくらいあるかも知れないし



「で、どうするんだこの後?」


「そうね。とりあえず商業許可証をもらいに王城の近くまで行ってそれから2、3日商売をするってところかしらね」


「王城か・・・」



王都の中央にそびえ立つその巨城を俺は見上げる


城の周りには二つの巨大で白い輪のようなものが浮いている



「なぁ、あれなんだ?あの白いの」


「あれ?あれは魔術防壁。あれで強力な魔術から城を守ってるの」


「へぇ・・・」



つまりあの輪が取り囲む城には魔術で手出しはできないって訳か


どうやらあの巨大な白い輪は城とその周囲を取り囲むようにして防壁を張っているらしい


ツキは一台の荷馬車を引いているダトルの綱を引っ張り、ダトルはそれにあわせて足を動かした





王城のかなり近くまで来た


ツキは商業許可書をもらいに施設に入っていき、俺はダトルと荷馬車の見張りというお留守番を言い渡された


仕方なく手綱を受け取り小さな段差に腰を下ろす


空は青いし路地裏を縫って吹いてきた風も心地よい



「どうしたもんかな」



ソーレはダトルの頭の上で寝ており、ダトルも腰を下ろして地面に伏せている


のどかなひとときだったが隣を何名かの騎士達が駆けていった


変わったことと言ったらそれぐらいである


しばらくしてツキが戻ってきた



「許可とれた?」


「えぇ。問題ないわ」


「んじゃ行くか。起きろソーレ」



俺とソーレは荷馬車に戻った


ソーレは俺から離れようとしない


それ故にソーレをつれて町を歩けない


龍の子なんて連れて外はろくに歩けないからな


顔だけ出しておいても、今よりは目立たないはずだとそのうち袋か何かに詰めて持ち運びしようかと検討する彩輝であった





渡商人専用の商業許可地域に来る


沢山の渡商人が自らが出向いた地で手に入れた商品をこれでもかという風に紹介している


活気がいいとはこのことだろう


その一角にツキは商座を決めたようでそこで荷馬車をとめて商品を荷馬車から降ろし始める


俺はソーレが起きないようにそっと荷馬車から降りてツキの荷物並べを手伝い始める


見知らぬ道具を並べ終わった俺はたぶんここにいてもすることが無いのでツキがお小遣いをくれてそこら辺を回ってこいという使命をもらった


というわけで一人で心細いがしばらく辺りを見てまわることにした


そこで俺は王城に行くことを思い出した


王城の城壁の前までつくと甲冑を着た多くの兵が槍を持って城門を守っていた


城壁の門の周りには巨大な堀、といっても水は無く、城と道をつなぐのは巨大な橋だけである


さて・・・どうしたものかなぁ・・・


とりあえず近づかないと・・・ね


とはいっても怖い


甲冑を着た人たちが全員こっちを見ているのではないかと思わせる


無言で立って職務を続けるその甲冑男が纏う雰囲気に妙なものを感じさせる


一人が城の敷地内へと戻っていった


交代でもしにいったのだろうか?もしかして尿意を催したとか?


まぁ一人になった方がやりやすい


と、とりあえずアタックだ!!


俺は橋を渡った



「え、っと・・・すいません。あの・・・」


「ん、誰だお前?」



誰・・・



「えっと・・・彩輝桜と言うんですけど」


「アヤキ・サクラ?知らん名だな・・・。で、ガキが何用だ?」



ふむ・・・俺の事を知られてないってことはおそらく兵達には俺のことを知らせてないんだろうな


まぁ行くなんて言ったわけでも無いし、知らなくて当たり前か



「えと、あー・・・そうだなぁ・・・じゃぁ王女のアルフレアさんか一条さんに俺が来たって伝えてくれませんかね?」


「お前、どこかの貴族か?」


「いや、そういう訳じゃ無いんですが・・・」


「じゃぁだめだな。重要な人間でも無いお前を城内に入れる訳がないだろう」



隣に居た兵士も俺の事を笑い飛ばす



「バカだろお前!なんでお前の事を王女に話さないといけないんだ!?第一誰だよそのイチジョウとかいうの?」



ふむ・・・多少気に障るが一条さんの事もしらないみたいだな・・・


てか嘘でも貴族の子とでも言っておけば良かっただろうか?


とりあえず通って二人のうちのどちらかに合えば誤解は解けるわけだし


失敗したなぁ・・・・



「まぁいいか。しょうがない。また来ます」


「帰れ帰れ。ここはお前のようなガキが来る場所じゃねーんだよっ!帰ってかーちゃんのおっぱいしゃぶってな!ギャハハハハッ!!」



酒に酔ってんのかあいつら?


あんな笑い声なんかだして・・・


とりあえず一端引き上げてもっとまともな兵士に変わるのを待つしかないかな


戦略的撤退?あれ?なんか違うな。まぁいいや


結局言いくるめられて俺は帰路についた


帰り道、俺のおなかがぐーっとなった


・・・・腹減ったな・・・


何か食べてから帰ろうかな


もう昼飯時か


とはいえ俺は店の場所も知らない


仕方なく昨日びちゃびちゃになった早見表を乾かして持っておいてよかった


昨日のオラージュ山脈で濡れた文字早見表を俺は一日中洗ったズボンと服と一緒に干しておいた


なんとか乾いたのだが多少文字がふやけたりしているところもあり、多少の翻訳ミスはするかも知れないが取り合えず飯屋さえ探せれば何とかなるかと思い早見表を開く


そして文字と看板の文字を見比べて読むが店名が書いてあるだけで実際何屋なのかよく分からなかったりする


紙をたたんでポケットにしまった彩輝は仕方なく通りがかった人に聞いてみることにした



「すいません、この辺で食事できるところってありますかね?」


「ん?それならあそこのラーデルの店がいいですよ。美味しくて安いですから」


「ありがとうございます」



ら・・・でー・・・でー・・・で、あ、これか。


早見表でラーデルという店の看板を探し、俺はそのドアを開けた



「いらっしゃい!」



さて、どこに座ろうかな・・・


むぅ、人が多いな


さっきの人が言ったとおり安くて旨いのならば人が集まるのは当然


しかもお昼の昼食時というのも重なっているせいもあってか人がごった返している



「相席でもよろしいでしょうか?」


「え?あ、はい」


「こちらへどうぞ」



ウエイトレスのような女の子に連れられて小さな座敷のような場所につれてこられた


先に座っているのは少し大きな体格をした男であった


肩から先は破けており、黒いシャツの上にその破けた服を着ているようである


腕だけを見るならごつい筋肉の上に脂肪だけが付いたような感じであり、腹のふくらみを見るなら脂肪だけのような感じである


うぅ・・・相席・・・ね


男はがつがつとチャーハンのようなものを食べている


と、とりあえず何か頼もうかな


メニューをもらい、解読してみようとするも全く持ってどんな料理なのか想像がつかない


くそぉ・・・博打って訳にもいかないしなぁ・・・


適当に頼んで変なものが出てきても困る


ということで――



「この人と同じのください」



ぴくっと男が動きを止めたが気にもとめないようで漠々とチャーハンを食べ続ける


というよりお米があったんだなこの世界にも


まさか米があるとは・・・感激だ


店員は店の奥へと戻っていき、俺は料理を待つため壁にもたれかかった


にしても繁盛してるなぁ。


人はどんどんとやってくる


いったいいつがピークなのだと言わんばかりの人だかりである


お小遣いとして俺はルド青貨3枚とガル銅貨を数十枚もらった


それだけあれば十分にいろいろできるはずだ


そうだなぁ・・・今のうちに店でソーレを入れられる袋を探しておかないとな


ソーレは今ツキに預けており、未だに荷馬車の中で眠っている


故に置いてきたができるだけ早く少し大きめの袋を探さないといけない


でなければソーレをつれたまま出歩けないからだ



「へいおまち!」



これも翻訳機能のおかげか


元の世界で聞いたなんというか・・・ありがちな台詞と同時にチャーハンが出てきた


知らない野菜や豚肉とは違う別の肉が入っていたりするが確かに見た目はチャーハンっぽい



「いただきます」



俺は空腹を満たすためにがつがつと口の中にチャーハンを放り込む


うむ、旨い


ほどよい甘みが噛めば噛むほどにじみ出てくるかのようだ


久しぶりに食べたご飯の味はまた格別であった


うめぇうめぇ



「おっちゃん、勘定ここにおいとくぞ」


「おぅ、まいどあり!」



店内で鍋やフライパンのようなものを振るう男が目の前に立つ男を見送った


男はルド青貨を一枚置いていった


ふむ・・・おつりはいらないとな?


男はおつりをもらおうとはせず、そのまま店を出て行ってしまった


そんななかで別の席に座っていた男達がふとこんな言葉を漏らした



「昔は有名だったのに今じゃただの大飯食らいか」



騒がしい店内の中で聞き取ったその言葉を耳にして俺は出て行った男の出口を見つめる


誰なんだろう、あの人?


昔は有名だから昔騎士だったとかそんなかんじなのだろうか?


立ち去った男に聞くすべはもう無い


というか聞くつもりはさらさら無いが





店を出て俺が向かったのは商人達が店を並べる場所だ


俺はとりあえずここで大きくて丈夫な袋を手に入れようと向かった


手頃な袋があるかどうかは分からないがとりあえず探してみるだけ探してみようと俺は人混みの中へと入っていく


一つ一つの店を回っていくがどれも見たことのないものばかりを売っていた


とりあえず袋だ


龍を入れて持ち運べるくらいのちょうどいい袋が見つかればいいのだが・・・


しばらく探しているとそれらしい袋を見つけた



「おばちゃん、これ見てもいい?」


「スゲサの草で編んだ丈夫な袋だよ」



ようやく目当てのものにたどり着いたようで俺はその袋を手に取ってみる


隙間もなく、なかなかに丈夫そうだ



「これ、引っ張っても破けないよね?」


「あぁ、もちろんだとも。ダトルが引っ張っても破けないさ」



ふむ・・・・じゃぁためしに



「ふっ・・・・んぬぅっ!!だーっ、かてー!!」



思いっきり袋を引っ張って破いてみようとがんばってみるが袋はしわ一つ作らず、破けることも無かった


袋口にはひもが通してあり、引っ張ると口が閉じるようになっている



「気に入った。これにするよ。いくら?」


「10ガルだよ」


「おっけー、銅貨銅貨っと・・・はい」



俺は銅貨10枚を取り出してしわしわの手のひらに置く



「ありがとね」



俺は袋をもらって店を後にした



「さて・・・することが無くなったがどうしたものかな・・・」



目当ての袋は手に入ったし飯も食った


することがない・・・・


彩輝は周囲を見渡すがとくにしたいことが見つかるわけでもなく、仕方なく歩き回って疲れたので道の脇に座り込む



「異世界でも・・・人間にはかわりはないんだよな・・・」



だからこうやって国はでき、人々は商売をして・・・・


元の世界と何が違うと聞かれれば・・・・違うところなんて無いのだ


住む世界が違うけど、人の本質というものは変わらないのだろうか






グレアント王国は今、王都全体に兵士を配備していた


王都を守るラドルク防壁とその入り口のある門の場所には通常の倍の兵士を配備してある


というのも昨日、オラージュ山脈に住む紅龍、レッドテイル・シェレンフェル種が隣の国、アルデリア王国に現れたという情報が始まりだった


レッドテイルには飛行能力に優れたシェレンフェル種以外にも普通種、レディアル種などが居る


龍について未だ解明されていないことも多くあり、そのうちの一つが生息域の謎だ


龍にはそれぞれ種類がついているのだが、大陸をその龍の色別に分けるとちょうど7つに分けることができるのである


龍は大陸中に住んでいるが色別に分けられるという事もあり、それらをまとめて七龍と呼ぶ


今では七龍は独自の縄張りを持っており、他の種族とは別々の生態系を持っていると言うことになっている


互いに不可侵の条約でも結んでいるかのように、七龍のどれもが他の龍の縄張りを犯さない事はすでに周知の事実となっている


この周辺に住む龍は一般に紅龍と呼ばれ、7つに分類されるうちの一種である


紅龍は鱗の紅い龍の総称であり、種類が違えど紅い鱗を持つ龍は紅龍と呼ばれる


この紅龍の縄張りはグレアント聖王国、リーナ聖王国、アルデリア聖王国、ファンダーヌ聖王国の4つの領域とほぼ同じである


とはいえアルデリア王国に、生息地であるオラージュ山脈から離れた場所に龍が襲来するという異様な事態が起こり、両国とも大あわてである


生息域から大きく離れたアルデリア王国の王都を襲撃した龍はシェレンフェル種という事が分かっており、龍の活動が活発になっているのではないのかという事でグレアント王国は警戒態勢に入っていた


そして新たに入った情報によるとそのアルデリア王国から少年が一人連れ去られたという情報が入っており、さらにその少年を連れ去ったという龍を見たという情報も国内からもいくつか入っている


同盟を結んでいる友好国ということもあり、緊急にオラージュ山脈へと兵を派遣することになった


可能性は薄いがもしかしたらまだ少年は生きている可能性があるからだ


派遣隊を緊急で募集するもなかなか人数が集まらない


流石に龍という圧倒的な存在を敵にするような事は誰だって嫌なのである


というか殺されて当たり前のような場所に何故少人数で行かなければいけないのか


助かるより死ぬ確率の方が高いようにも思える


グレアント王国第一王女、アルフレア・シャレル・ヴィルラート・グレアントもそれに苛立ちを覚えた


我が国の兵士は腰抜けどもばかりなのかと


流石に兵達の前に出て行って募るのも手の一つだがそれでは自らやりたいという意志に反し、逆に強制させているような形になってしまう


というわけでアルフレアは今、城の大講堂で兵達でオラージュ山脈へと向かうものを決めさせるように命じ、本人はその確認のためにこっそり隠れてこの光景を見ていた


そして一人で勝手にため息をつくのであった


これはもうちょっと兵士の志気を高めないといけないわね・・・


ただでさえ龍の行動が活発化しているらしいのにこんなにまったりとした空気でいいのだろうか


町の守護に当てた兵以外のほとんどはこの大講堂に集まっている


かれこれ1時間


すでに隊を編成してもいい頃だ


アルフレアも我慢の限界である


もともと短気な性格でもあったのだが1時間も持ちこたえたのは初めてではないのだろうかと思えるほど待ってみたが誰も志願しようとしない



「お、お嬢様・・・」



とっさに隣にいた執事のジュルダがアルフレアの肩を押さえようとする


が、時すでに遅し


アルフレアは大講堂のホールのど真ん中まで行く


意外なことにまだ誰も気がついていない


それほどまでに誰かに押しつけようと必死なのか、皆討論に必死である



「そんなに行きたくないのなら私が直々に行こうではないか」


「お嬢様!?」



幕の裏から発言に驚いたジュルアスが飛び出してきた


腰に携えた護身用のレイピアを抜き放つ



「我は勇敢なる女騎士、フィーナ・グレアントの血とグレアントの名を継ぐ者なり。ここで我が炎の意志を持つ国の主となるべき者が行かずに誰が行くか!!」



一瞬討論をしていた騎士達がそろえて口をぽかーんとあけている



「お嬢様!!いったい何を・・・!?」


「離せじい!!このような腰抜けの腑抜けの甲斐性無しどもが我がグレアント王国の炎の意志を通せる訳が無かろう!!私に行かせろ!!」


「な、なりませんーっ!」






その後結局乱心した王女を見て志願する兵が殺到したとさ



「まったく・・・こうでもせねば誰も動かぬとは・・・我が国も落ちたものだな」


「まぁまぁ・・・お茶を入れましたよ」


「うむ。すまんな」



お茶を一口飲み、落ち着いたアルフレアはため息を漏らす



「もちろん全員という訳ではない。中には国のためにまじめになっている兵も少なくはない。だが、いささかやる気のある者無い者との志気の高さに差があるとは思わぬか?」


「そうでございますね」


「ここは私自らが行くべきでは無かろうか?」


「流石にそれはなりませんよ。お嬢様には国を継ぐ第一王位継承権があるのですから」


「そうなのだよなぁ・・・私が第二王女くらいなら誰も何も言わぬのだろうが・・・。とはいえあのような者達に任せてはおけぬしなぁ・・・」



とりあえず彼の似顔絵を美術の学校に行っているという一条に頼んで作ってもらった


これまた異常な上手さで本人そっくりな似顔絵を作ってくれた


さらわれたのがこれまたサクラ・アヤキというのがまた面倒くさいことだ


これでは放っておく事もできやしない


おそらく龍が向かった先はオラージュ山脈。一番近い我が国が行かねばさらに面倒なことになる可能性もある



「何がどうなってこうなるのやら・・・」


「お困りですかい王女様っ?」


「おお、ユイか」



王女の部屋にノック無しで入ってきたのは一条唯であった


ジャケットを肩にかけ、汗をタオルで拭いている


こちらの世界に来てからというもの、何故かこのイチジョウ・ユイはひたすら走り込んだりして運動をしている


それにしてもこの年でこの若さというのがまた信じられない


何をどうしたらこんな若さを保っていられるのやら


王女も女としてその美しさには軽く嫉妬するのであった



「少し我が兵の質に・・・な」


「んん?」


「何でもない。忘れてくれ。さて、それよりもよく落ち着いていられるな。知り合いが龍にさらわれたというのに」


「そうだね。じゃぁあわてればいいってのかい?」


「いや、別にそういうわけではないのだが・・・」


「でしょ?私は無力。魔法が使えるわけでも剣の腕がたつ訳でもない。魔力自体は私にもあるらしいけど使い方分からなきゃ・・・ねぇ」



こちらの世界に来てからというもの、何度も一条は魔法の練習をしていた


だが進展という進展は無かった


魔力を操るどころか魔力を感じることすらできない事にしばらくは苛立ちを覚えたものだ


今は何とかマナや魔力を感じ取るまでには至ったものの、まだその先へは進めていない



「私が騒いでも何も変わらないからね。効率的に行こうよ」


「むぅ・・・私としては今すぐにでもオラージュ山脈へと駆け付けたいのだがなぁ・・・」


「とりあえず私はできることをやるだけやった。その結果が・・・・ちょいとまっててね」



一条は部屋を出て行った


しばらくして戻ってくるとその手には紙が山のように積まれていた



「な、なんだこれは?」


「おぅ、似顔絵」



どさっという音が聞こえてきそうな感じで一条は机の上にその紙山を乗せる


そのすべてにはサクラ・アヤキの似顔絵が描かれていた


しかも一枚一枚手書きの上、すべて水鏡を通して見たときに見た彼の顔そっくりなのであることにアルフレアは驚きを隠せなかった


たった一度、水鏡を通して見ただけなのに、よくまぁここまで描けたものだ



「こ、こんな枚数をいったいどうやって・・・」


「ふふふ、禁則事項だよ〜。能ある鷹は爪を隠す、ってね」



ニヤニヤと笑いながら一条は紙山のてっぺんをぽんぽんと叩く



「どういう意味の言葉なのだ?」


「頭の良い生物はここぞという瞬間までその武器を隠すんだよ。ま、私の場合は隠すつもりはそうそうなかったんだけどね」



てへへ、と笑う彼女を見て、面白い言葉だなとアルフレアは素直な感想を漏らし、またその絵の上手さを褒めた


とはいえ、隠しているのはこれだけではないのだろうが……



「これでこそ美術学科に進んだかいがあったというもの。まぁ手配書みたいなものとして使えばいいさ。だけど流石に作りすぎたな・・・。もしかしたら逃げ出して町に来ている可能性も無くはないからね」


「ふむ、その可能性は考えていなかったな。オラージュ山脈からならば一日かかるかかからないかでつく位置だからな。いてもおかしくはないな」


「やっぱりビラ配りするよりかは電柱みたいなところに貼り付けたいな。電柱なんか無いだろうから壁か何かでいいが」


「ふむ・・・では早速暇な税金泥棒の兵どもに命じてやるとするか」






「というわけで、お前達にはこの紙に描かれた人物、アヤキ・サクラを探し出してもらいたい。そのためにまずやって欲しいことはこの紙を王都内に適当にはりに行ってくれ。なぁに、王族命令とでも言っておけば大丈夫だ。とはいえ、許可の取れない民家や店などには張るなよ?」



とりあえずオラージュ山脈への派遣隊と居残り組も含めてビラを配る


派遣する兵達にもこの顔は覚えてもらわなければいけない


アルフレアはうんうんと手配書が配られる光景を見ていたのだが・・・



「あ・・・・あっ、あーーーーーーっ!!?」



兵の一人が突如大きな声を出した


何事かと周囲の兵達もその男に振り返る



「こっ・・・こ、こいつは・・・・」



汗をだらだらと垂らすその兵は、昼間アヤキが城壁の門まで来たときに追い払った兵士だった




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