『アルデリア王国』
アルデリア王国
王都・アクリス
水の国ともいわれるこの国には太古より水の精霊が住むといわれている
国の中央に位置する巨大な城
そして並び立つようにして城の側にたつ精霊殿とアルデリア城が眼下の城下町を見下ろしている
この国の王女、長女セレシアは建国の始祖である人物、アヴァルス・アルデリアの子孫である
名も無き国は彼の性を取ってアルデリアと名付けられた
その王家の名前を引き継ぐセレシアは日課である儀式を行うために精霊殿へと向かった
セレシアは数人の従者を従えてまっすぐその精霊殿へと向かう
幼少の頃より母と共に行ってきた儀式はこの国の精霊との対話によるものである
とはいえ、精霊そのものと対話をするわけではない
精霊との対話は名称のようなものであり、後々セレシアも精霊と契約を結ぶ時のための準備という形となっている
現在この土地の精霊と契約をしているのはそのセレシアの母、ファルアナリア只一人
代々王族に生まれた女性は精霊と交感出来る血を受け継いでいる。
精霊と契約を交わし、その後は精霊使いと呼ばれるようになる
17を越えた時点で男女共に成人とみなされるこの世界では、王族の女性、それも直系の女性のみが儀式を行い精霊と契約を交わす
そのための訓練を毎日行ってきたセレシアだったが今日はファルアナリアがどうしてもずらせない仕事が急遽できてしまい、今は別室に籠もっている
いつも付き添っている母が居ないとは言え、サボるわけにも行かず、(サボるという事自体思い浮かばないのだが)彼女は精霊殿の門をくぐった
見慣れた場所
水の精霊が祭られる場所でもあるこの場所は、いつも汚れ無き美しい水が精霊台から絶え間なく溢れ出している
満たされた水が、さらさらと音をたてながら精霊殿の外へと外へと流れていき小鳥たちが囀る
「こんにちは、ユェンさん」
王女セレシアは近くに立っていた青年、ユェンに挨拶をする
ユェンと呼ばれた青年もも膝をついてそれに答える
彼の後には巨大な石のアーチの中に満たされた水が満ちている
決して横に零れることが無く、アーチの中にとどまる水はゆらゆらと揺れている
水鏡と呼ばれるその巨大なものは他にもいくつかの国に同じように存在し、互いに言葉のやりとりや姿形を相手の水鏡に映すことができる便利な代物である
「セレシア様、たった今、火、光の精霊殿より通信が入りました」
ユェンがそう言うとセレシアは進めていた歩を止め、振り向いた
その振り向く様に、純白のドレスが翻る
その美しさに息をのむ者も居るほどだ
「この時間に・・・ですか?定例通信・・・の時期では無いから緊急を要する事なのですか?」
この水鏡は滅多な事では使えず、それは王女であるセレシアですら勝手に使うことは許されない代物であった
この精霊殿が立てられたときから存在する水鏡と、中央に位置する精霊の台座は今も健在で、その二つに関しては取り扱いが厳しくなっているのだ
精霊殿を仕切っているのはファルアナリアなのだが、その母は今城で執務をこなしているはずである
母を呼ぶにしろ、相手を待たせるわけにも行かないために今は自分がその通信をすることになるであろう
「はい。緊急を要するとの事です。火の精霊殿からはアルフレア様、光の精霊殿からはアーマルジュン大魔導師が代理で通信に入っております」
「分かりました。お下がりなさい」
ユェンは水鏡の前をどいてセレシアに場所を譲る
目の色を変え、仕事モードに入るセレシア
「こんにちはアルフレア。それにアーマルジュン大魔導師殿も」
水鏡の左半分に映し出される女性の姿
対して反対側には老人の姿が映し出される
アルフレアは隣の国、グレアント王国の第一王女であり、数少ない友人の一人である
そしてもう一人、アーマルジュン大魔導師はそのグレアントとアルデリアの北方に隣接する位置にあるリーナと呼ばれる大国に居るゼリアル魔術師団の団長で、何度かセレシアとの面会もある
この国は少々独特で国が大きいためだろうか、権力が大きく二つに分かれており二つの城が別々の場所にたっているのである
それでも互いに独立はしておらず、東西に分裂しているという訳ではないらしい
長い白ヒゲを紅いリボンで括られているのは彼の国の王女によるいたずらであるらしい
あちらではどうやら今ではすっかりその姿が定着しているらしい
太めの体型をしたその老人はゴホンと咳をする
「リリアやルラは其処に居ないのですか?」
セレシアの口から出た2人の名はリーナに居る双子の王女の名である
本来ならこのような伝令には各国の精霊使いが出るしきたりであり、彼のようなその他に含まれる人物が代理を務めることは滅多にない
もし精霊使いが居ない場合は代理を立てる事になるのだが今回はそのうち全員が精霊使いとは別の人間とは珍しいこともある物だ
『お二人とも、ただ今ダリアに向かっております故この場に出ることはできず、変わりに私がこの場を任されておりました』
白髭を蓄えたその男は少し寂しそうな声で言う
「ダリア?あそこはたしか・・・」
『お察しの通りでございます』
「それで、用件があるのではなくて?」
『そうでございました。アルフレア殿の所でも同じ現象が起こったのです』
「現象・・・ですか?」
現象?いったい何が起こったというのだろうか
それも二つの国から同時に通信が来るほどの
そして、その伝令がこちらへ回ってきたと言うことは、アルデリアにも何かしら関係があることなのだろうか
となれば共通点としてまず思い浮かぶのはこの精霊殿の事である
『じゃぁその件は私から言うね』
と、アーマルジュン大魔導師の代わりにに左側で静観していたアルフレア王女が声を発した
こういった通信を行う場合、大抵は周囲の従者達を下がらせるのだが緊急を要することらしい
そのためか、単なる彼女のミスなのか、まだ何人かの従者がその場でその伝令を聞いていた
皆一様に「何事か!?」といった顔をして聞き耳を立てていた
『ついさっき、炎の神殿での祈りの最中、精霊台から炎の柱が出現たの』
祈りの儀式はこの国だけで行われるわけではない
周辺国はもちろん、この大陸の精霊台のある国には精霊教が浸透している
精霊教は大まかに言えば精霊を神に近い存在として崇める宗教のようなものである
事実精霊は存在している
精霊台の存在する9の国では何処もこのように自国の発展と実りを願って祈りを捧げている
それも精霊教の浸透する国の王族がその宗教をを拒絶するはずもない
「炎の柱?」
『私の所は光の柱でございます』
アーマルジュンが隣で付け加えた
炎と光。それぞれが自らのあがめる火の精霊、光の精霊に対応しているかのようである
『それでどうなったと思う?突然炎の柱の中から人が現れたのよ!もうびっくりびっくり』
彼女は声を荒げて興奮したように言い出した
そういえばいつの間にか彼女は普段の口調に戻っていた
それほどの事が本当に起こったのだろうか
あり得ない、と言い返したかったがそれもできない
わざわざ水鏡を使って通信をして、さらに彼女が嘘をつくなんて考えられないからだ
「人?一体どこから?転移の類?」
『さぁね?その辺はわかんないんだけど突然現れたんだよ。光の精霊殿の方も同じような感じ』
「それで、現れたというその人は?」
『それがさ、妙な事に変な服を着てるんだよ。私たちが知らないような異国って感じの服着てね。しかも燃えてないし・・・』
「見知らぬ土地から来たと言うことですか?」
『詳しいことは分からないけどさ、これってあれに似てない?ほら、始祖の話にさ』
昔から多くの国に伝わるその話は現代でもしぶとく生き残っている話の一つである
先人が残したその原文は今でも各国に伝わっている
各国いろいろな伝説や過去の記録の話などがあるがそれをひとまとめにしたものを『過去幻の書』と言う
その中でもどの国にも伝わる話の一つに始祖の話という話があり、その話に酷似している気がすると彼女は言う
「始祖の話・・・ですか」
アルフレアは続ける
『そう。その始祖の話に似てるわよね。精霊の代わりに現れたのは人間だったけどさ。何ていったって精霊台の魔力の奥には精霊の世界が広がっているはずでしょ?そこから人が現れることなんて、ありえると思う?』
たしかにそうだ
あの奥は精霊の住む世界とつながっていると聞いている
母ならともかくセレシアにはまだ完全に精霊と会話するという技量は無い
精霊台は各国の精霊が現れたとされる場所に立てられた精霊殿の中心に位置する台座である
台座には何本かの柱が立っており、その中心つまり精霊台には各国それぞれ違うが、無限なる魔力が注がれている
この国ならば魔力が満ちあふれた水があり、火の精霊殿なら大量の魔力が詰め込まれた炎が、光の精霊殿からは微弱だが、尽きることのない光が漏れている
触れることができないほど表面に膜を張った魔力の奥には、昔から精霊の住む世界があると言われている
なぜならば精霊はその台を通して現れることがあるからだ
最もそれしか方法が無いという訳ではないが昔からそういう風にセレシアは言い聞かされていた
「どういう事なのかしらね」
『これまでに無いことだったからね。かと思って驚いていたら同盟結んでるリーナから通信がくるしさ』
『他の国にも伝令を回そうとしたのですがやはり仲の良いお二人方へ連絡を入れるべきかと思いまして。ファンダーヌの方にも連絡を入れてみたのですがどうも応答が無くて・・・』
水鏡が同時に通信できるのは3つまでである
もとより水鏡が4つしかないためもある
故にアーマルジュン大魔導師は普段リリアとルラの双子が仲良くしているセレシア、アルフレアの同盟国に連絡を入れたのだ
ただどうやらもう一つの国、ファンダーヌとは連絡がとれていないらしい
この4国は諸事情により他国から狙われやすい関係にあった
そのため4国は各国の王女の名の頭を取り、他国の牽制となるアセアル同盟を結んだのだった
尤も、この同盟は前にあった同盟に不備が合ったために結び直したものでもあるので前の世代には別の名で呼ばれていたらしい
そしてそのうちの一人は今通信に出ていない
「現れたという人は今はどうなされているのですか?」
『あぁ、今隣にいるわよ』
アルフレアがちょいちょいと手招きをする
するとハジッコからひょこっと女性が顔を覗かせる
大人のようである。それもまだ成人して間もないのではないかというような感じである
黒髪は綺麗だし、水鏡越しに見ても背が高いのが分かる
アルフレアよりも背が高く、そして美しい
大人の雰囲気というものを上手く醸し出していると思う
見たこともない衣服を身に纏っているが、それでも彼女の風貌にそれは見事に合っているとしか言いようがない
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
と、その女性の名を聞くことにした
『え、私のことですかい?』
彼女は親指で自分のことを指さす
こくりと頷くと
『私は一条唯!22歳独身でぇっす!』
と、ビシッと敬礼のポーズを取る・・・が
「わ、若いんですね」
『マジでッ!?』
『ほほぅ・・・』
『なんだそのリアクションーーーー!?』
『五月蠅いわねー!』
グイッと水鏡の奥に彼女を押しやるアルフレア
ザワザワ
周囲がざわめく音で彼女は意識を後に向ける
そう言えば皆を待機させたままだったわね
セレシアはクルリと振り向いてついてきた従者と彼女が来るまで精霊殿の周囲を警護していた兵を下がらせようとした
が、その言葉が喉にでかかったところで彼女は目を丸くする
振り向いた瞬間に、とある光景が目に飛び込んできたからだ
「ねぇ、フレア・・・・もしかしてそれって・・・」
『んーどうしたー?』
アルフレアが後から問いかけるが振り向く気配が無いセレシアを見る
いつの間にか彼女をいつもの呼び名で呼んでいる自分が居た
『おーい、生きてるー?』
アルフレアが水鏡越しに手をブンブンと振っているが、後を向いているセレシアにはまったく見えないため気がつかない
『ねー本当にどーしたのー?』
するとスッと体をずらして彼女は水鏡の前から退く
水鏡から姿が消え、彼女の後の光景が映し出される
すると其処には天井近くまで渦を巻く水が精霊台から伸びている光景が2人の目に飛び込んできた
ぐらぐらと揺れていた水の渦は徐々に垂直におさまりはじめる
そしてその中に、いつの間にか現れた黒い人影
人影は地上から数メートルの地点に現れており、精霊台の上に居るためさらに高い場所に居るかのように見える
渦はゆっくりと精霊台へと戻っていき、その人影もゆっくりと水と共に降下してくる
ん・・・・
目を覚ました桜 彩輝は瞼を開いた
最初に視界にうつったのはぼやけた世界だった
ゆらゆらと揺らぐ世界が其処にはあった
世界と彼の目の間には水があった
そのため周りが揺らいでいるように見えたのだが起きてすぐの状態で、しかも体験したことのない状況に一気に目が覚める
「うわぁっ!?」
あわてて手足を動かそうとするが水圧で上手く動けない
それなのに皮膚に水の感触が無い
妙な浮遊感につつまれた彩輝は自分に落ち着け、落ち着けと二度復唱して落ち着こうとする
何があった?バスが事故した
俺はどこにいる?分からない
皆はどこだ?周囲には居ないようだ
俺は誰だ?桜彩輝だ
ゆっくりと水が引いていき、それと同時に体が降下していく
降りると足に水の感触があったのが分かった
だが足は水に浸かることなく、体をいつものように支えている。水の上で
な、なにが・・・!?
視界が水が無くなったことにより、とてもクリアになった
周囲には人だかりができている
小さな台座のような場所の上に立っている俺は自分の頭がどうかしてしまったのではないかと思いこんでしまう
何が起こった!?と、脳内で問いかけて見るも、彩輝の質問には誰も答えない
ザワザワと周囲がざわめき、その中心となる人物は恐らく自分であろうと予測
円形の床にその周囲には水が満ちている
床にはいくつもの溝が掘ってあり、彩輝が立つ台座の下にはそれよりも大きめの溝があいており、そこから水が溢れているようだ
天井を支える柱は長方形の室内の端に無数にたっており天井を支えているようだ
そしてその柱の奥には町が見えた
大きな町が広がり、其処にはここから流れ出した水が用水となって町の隅々まで水が引かれているが分かる
空を飛んでいる鳥が遠くを旋回しているのが見え、遠くには山々が連なっている
雲一つ無い空と深緑の山が手前にある町と合わせてみることでとても綺麗な風景となっている
是非とも写真に納めたいものだ。と彩輝は思う
ぴちゃぴちゃと水の上を歩き台座から出ると周囲が再びどよめいた
それにしても彼等は誰で、一体ここはどこなのだ?
日本じゃ・・・ないよなぁ、と彩輝は思うのだがバスに乗っていたときは確かに日本だったし・・・
彩輝はいろいろと考えてみるが結論はもちろん出るはずもなく、ハッと気がつくと自分の荷物が無いことに気がついた
うぁー・・・まじかよ・・・・
あの中には財布やら携帯電話、あとは実家へのお土産や着替えなどが入っていた
要するに手持ちにあるのはポケットに入っている携帯音楽器とイヤホン、それと抜き忘れた5円玉と腕時計だけだった
こんなものでどうしろというのだ
そうしていると人だかりの後から女性の声が聞こえた
「退きなさい!」
その一言で人垣はザッと割れる
おー、モーゼの何とやらみたいだ
道をつくり、皆その女性に対して膝をついて低頭している
凛とした声でその女性は彩輝の立つ台座の麓まで来ると此方を見上げた
肌は白く美しい
身に纏うドレスも光り輝くように煌びやかに風に揺れる
それと同時に長い髪も又、同じように風に揺れた
ぱっちりとした目が彩輝の目を捕らえ、視線が交わる
反射的に彩輝は羞恥により視線をそらしてしまう
おそらく彼女は地位の高い場所に居る人間なのだろうと推測
周りの人間を従えているあたり、結構偉かったりするのだろうか?
「名前を訪ねても良いですか?」
「誰だお前?人に名前を尋ねるときはまず自分からって言わないか?」
ちょっとムッとした
普通に名前を言えば良かったのだろうが、なんで反抗してしまったのだろうかと後悔する彩輝
見るからに偉そうな雰囲気なのにさ。なにやってんだ俺
周囲がまたザワザワとする
まぁお偉いさんに反抗したから・・・かな?
と、大体の憶測を立ててみる
実際周囲からは「何て事を・・!?」とか「ぶ、無礼な!」と言ったりする声が聞こえた
「セレシア様、無礼ですね。斬りましょうか?」
そう言って突如一人の男が立ち上がった
深紅の髪、渋めの色のマントを着ておりちらりと中から剣が見え隠れしている
まて・・・剣?
それに此奴今斬るって言ったよな?あれ?剣?
「剣を納めなさいアルレスト」
柄に手を添えて半分ほど抜きかけていた剣を鞘へと戻した
男を右手で制すると、女性は「失礼しました」と彩輝に頭を下げた
「セレシア様が頭を下げた!?」そんな声が彼女の後の方からいくつか上がった
「それが貴方の住む世界の礼儀なのですね」
あー、さっきの名前の事か
「まぁ・・・そうっすね。絶対って訳では無いですけど」
ていうか目上の人に対する礼儀じゃねぇなと俺はなんだか謝りたくなった
「申し遅れました。私、セレシア・ルミレ・キルト・アルデリアと言います。この国の第一王女です」
お、王女でしたか・・・
どうりで皆さんお騒ぎになるわけで
「お、俺は桜彩輝。え、えっと、ここは何処?」
最初から疑問に思っている事を聞いてみる
「アルデリア王国首都アクリス、水の精霊殿です。貴方はどこから来たのですか?」
「ん、俺は日本・・・だけどアルデリアなんて国は俺は知らないぞ」
世界の国をすべて知っている訳ではないが、少なくとも俺はアルデリアなんて国は聞いたことも無かった
「あなた達は精霊の世界に住む人だと思うので恐らく互いの世界の事は分からないんでしょう。私も貴方の言うニホンと言う場所が分かりません。それは村の名前ですか?」
「いや、国の名前。とりあえずその精霊の世界ってなんだ?俺は精霊でも何でも無いぞ?」
彼女は台座の階段を上り、彩輝の横につく
彼女が指さしたのは彩輝の後にある水の溜まった場所
彩輝は振り向いてその小さな泉をのぞき込む
自分の顔と、隣に立つセレシアの顔が水に映り、揺れる
「この奥は昔から精霊の住む世界が広がっていると考えられています。ですがこの奥に行くことはおろか、触れることすらできません」
「触れることができない?」
「はい。この表面には魔力の層ができており、全ての物を遮断してしまいます」
「え、ちょ、待ってくれ。精霊?魔力?なんだよそれ。いや、ゲームとか漫画とかでなら聞いたことあるけどさ。魔法とかが存在するってのかここ?」
「ありますよ?それが何か?」
彩輝は焦った
本当にどこなのだここは?
魔法が存在する世界!?ふざけるなよ!
地球上には存在しない場所に出てしまった事を悟った彩輝は頭を抱えてしゃがみ込む
精霊台に映って揺れる自らの顔を見つめた
俺が映っていた
どういう事だ!?どういう事だ!?おい、ちょっと待て!何が・・・え、マジ?マジなのか!?
現実味が全くないにもかかわらず、彩輝はこれが現実だと分かってしまう
夢?自我を持った夢などこれまで見たことがない
ゲームに入り込んだ?そんなアニメのような事があるわけがない
これは現実?ていうか何処の漫画だこの世界!?
夢ならさめろ俺!
彩輝は自分の頬を思いっきりバチンと叩いた
い、痛い・・・・
あたりまえだった
現実だな・・・
「レノア、母様をここへ呼んでください。緊急事態と言えば多分来ますから。それから皆さん、ここで見たことの口外を一時的に禁止します。外部に漏れないように注意してください。それと退室して各持ち場に」
周囲がまたざわめく
王女自らの命令により、各々精霊殿を出て行くが
「セ、セレシア様とこの者を二人っきりになど・・・」
皆が出て行く中、逆に王女の方に近寄ってくる女性が一人
「ユン、これは命令です」
「し、しかし・・・」
「いくら私の侍女とはいえ、命令を無視するならデノンの侍女にさせますよ?」
「ひぃっ、それだけはご勘弁をっ!」
セレシアとか言う王女が自らの侍女に軽く言うと異動はイヤーー!と叫んで部屋から出て行った
「さて、やっかい払いもすみましたし、ゆっくりと話をしましょうか。主に貴方の事について」
まぁそうなるよなぁ、と担任教師に別室に連れて行かれ説教されているみたいだと感じつつ、彩輝は台座の階段に腰掛けた
「それは困るな。聞きたいことが山ほどあるのはこっちなんだが・・・・まぁいいや。この状況を説明してくれるなら」
彩輝は目の前のセレシアに向かってそう言った