表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
16/154

『龍の巣窟』

「あーぁ・・・どこだよここ・・・」



目を覚ました俺は空にいた


上空何百メートルだろうか?想像もつかないくらいにとにかく、高い


前に旅行で行った東京タワーよりたぶん高いと思う


というより龍に連れ去れ、こんな空高い場所に自分はいるというのに驚きを通り過ぎてしまい、彩輝は落ち着いていた


体はがっちりと龍の右足で捕まれており短刀に触れることもできない


ものすごい早さで雲と雲との切れ間を縫うようにして飛行する龍は風を切り裂くかのような音を立てて飛んでいる


俺、餌にでもされるのかな・・・ってか超寒い


嫌な光景が脳内に展開される。あの鋭い牙でムシャムシャと・・・


しばらくすると大きな山脈を一つ越える


歩けばどれほどの時間がかかるのだろうか?そんな巨大な山脈をあっという間に飛び越えてしまう


彩輝はもうどうとでもなれといった風に開き直り、大空のフライトを堪能することにした


そうして意識を変えてみると、なかなかに絶景ではないか


遙か前方にはどこかの国の王都と思わしきものが見える


上から見るとまた違って見えるもんだな


さーて、本気でどうしようかなこの状況


彩輝は身動きがとれないまま遠くを眺める事しか出来ない


山を越え、しばらく平地を行き、眼下には大きな城が見えた


周囲には城下が広がっているのが見える


そしてその奥に見えるのは巨大な山脈


連なる山々の頂上には灰暗い色をした雲がかかっており、そこだけが別の空間のように歪んで見える


雲の中ではちかちかと雷が光っているのが遠目でもわかった



(オラージュ山脈か・・・)


以前目にした地図を思い出す


アルデリア王国は二つの巨大な山脈に挟まれており、方向から考えるに先ほど通り過ぎた場所はグレアント王国であろうと予測する


そうなると必然的に奥にある山脈はオラージュ山脈となる


一年中暴風雨が吹き荒れるその過酷な環境で育つ生物は少ない


その数少ない生物の一つがドラゴンだ



「あそこにつれてかれるのか・・・・」



成り行きとはいえとんでもないことになった


生命の危機だ


俺はこれで死ぬってか


ジ・エンド



(目が覚めたか、龍の神子≪みこ≫よ)



ん?何か聞こえたような・・・空耳か?



(否、我は汝に語りかけているぞ)



えーっと・・・・はい?


なにかが聞こえるぞ?


耳じゃなく、脳内に直接語りかけてくるような感じだ



「もしかして・・・お前か?」


(いかにも。汝に語りかけたのは我だ)



・・・・嘘ぉ!?


え!?俺このデカブツと会話してるのか!?



(デカブツとは心外だな)



「え!?ってか聞こえてるのか!?」



彩輝は心の中で考えたことに返答してくる龍に驚く



「ちょ、え?ま、まって・・・くれ」



彩輝の脳内で思考がぐるぐると輪を描く


会話?龍と?会話?



「いや、えと・・まぁ・・・あの・・・俺彩輝って言います」



パニクった彩輝は何故か龍相手に自己紹介をしてしまった


龍はグルルと喉を鳴らす


えっと俺は今・・・会話してるのか?


信じられない


人ではない生物と・・・会話


翻訳機能がついていたのはわかっていたがまさか人外にまで有効とは・・・


と思ったりもしたのだがすぐに龍の方から訂正が来た



(龍の神子よ。我らは正確には人とは話せない。会話出来るのは龍の神子であるお前だけだ)


「はぁ、そうっすか。ってことは翻訳機能とは別ってことか・・・。あの、分からないんだけどさっきから言ってる龍の神子ってなんぞ?」



先ほどからちょくちょくと会話に盛り込まれる龍の神子という言葉が気になって彩輝は聞いてみた


というか神子って女だったよなたしか?俺男なんですけど



(もしや神子様は何も知らぬ・・・と?)


「知らぬも何も突然拉致されて状況がつかめないのですが・・・」


(神子とは神獣の力を宿した者に送られる言葉。汝は我が龍族の王たる虹の風刺龍の血を宿す者)


「不死龍?・・・あぁ・・・どんどん話がおかしくなっていく・・・」



だってあり得ないだろ!


突然異世界に放り出され、ものの数日で俺は龍に拉致されて、そして俺の体には不死龍の血が流れている!?畜生、理解がおいつかねぇ


誰かわかりやすく教えてくれ、そう彩輝は心の中で叫ぶ


しかしここで彩輝は大きな勘違いをする


それに気がつくのはもっともっと先の事である



(神獣は9種いてそれぞれが守護する地域を持つ。そしてその力を持つ神子が9人。汝はその一人なのだ。そして汝にはやってもらいたいことがある)



俺が神獣である龍の王様の力を持っていると?


そりゃぁ大抵主人公とかは特殊な能力や運命を背負ってこそ成り立つがこれはやりすぎだと思う


一時期は漫画の設定に夢見たこともあり、漫画やアニメの主人公になりたいと思ったこともあった


が、幻想は幻想でしかなかった


前言撤回。そんな変な力はいらないからさっさと元の世界に返してくれ神様!



(神により近い存在の汝が神頼みか)



ついに俺は神に近い位の存在になったか


現実味ゼロ


実感ゼロ


ていうか俺は食われないのか?



(神子を食うなんぞ恐ろしいことを考えるはずが無かろう)



彩輝はほっと胸をなで下ろす


とはいえ、まだ自分がいったいどうなるのかを聞いていない


食べられないだけで、何かこう、酷い目にあわされるのでは無いかと彩輝は内心冷や冷やである



「なぁ、俺をさらっていったいどうする気なんですか?」


(汝には使命がある。それを伝えに来た。詳しい話は山に戻ったときにしよう)


「そ、そうっすか」



ただただ圧倒された彩気はそう返すしか言葉が思い浮かばなかった


・・・・ん?使命?






龍は雷雲を突き抜けた


轟音と雨風に耐えながら彩輝は意識を保つ



「冷たいぃー寒いぃー!!雷うるせぇ鼓膜やぶれるうううーー!雨痛いー!!」



すぐ側で鳴り響く雷を龍は巧みに避けながら山の頂を目指す


降り注ぐ頭上の雨は龍の巨体で防げるのだが横風の強風に乗った雨が顔に当たる



「痛い痛いっ!いてててて!!」


(我慢しよ神子殿)



龍は巨大な翼を広げて切り立った岩肌の方へと飛んでいく


正面から見て裏手に回り込んだそこは巨大な崖のような場所になっており、巨大な横穴がいくつもあいていた


そのうちの一つに龍は減速して入っていった


体勢を起こし、地面に着地すると龍は翼を折りたたむ


俺はゆっくりと地面におろされる


立ち上がった俺は驚愕した


そこには俺を連れてきた龍と同じような姿をした龍が10もいたのだ


龍達はいずれも巨大な体をしており、体に昔についた大きな傷跡が残っているものも見受けられる


彩輝は22の碧眼に見つめられ、その存在感に圧倒されて後ずさる


そしてその龍が10もはいるその巨大な洞窟に、不思議な匂いが立ち込める


龍の匂いというやつだろうか?



(恐れずとも良い龍の神子よ)



一際大きく、それでいて体にいくつもの傷跡が残る龍が一歩踏み出した


その一歩は洞窟内を軽く揺らした


おそらくはこの中で一番年をとっていると思われ、俺を連れてきた龍と比較すると長い年月を生きてきたかのようなオーラを纏っているように彩輝は感じた


おそらくはここの長なのであろう


鱗は汚れ、傷だらけ。翼は何カ所も破れている



(我らは紅龍一族の者である)


紅龍こうりゅう)一族?」


(蒼龍、紅龍、翠龍、白竜、黒龍。龍族はこの五つの種族に分けられる。もっともお主ら人の世では別の分け方をするらしいがな)


「それって色で分けてるんですか?」



彩輝は予想したことを聞いてみる


蒼、紅、翠、白、黒


どの種族にも色が入っている


そしてその予想は的中した



(龍族の色は我々の始祖、虹の風刺龍様が生み出したものだ。五つの色を持つ虹の風刺龍様は龍族を5つの部族に分け、それぞれが支配する地域を決めたのだ)


「虹の不死龍・・・。そういえばさっき俺のこと龍の神子って言ってて俺の血は虹の不死龍の血だって・・・」



後ろを向いて俺をつれてきた龍の方を向いた


龍は唸っただけで特に何も言ってこなかった



(左様。お主は龍の王である風刺龍様の血を宿す身。我らは太古より風刺龍様の血を宿す人間を龍の神子と呼んできた)


「ちょ、ちょっと待てって!なんで俺がそのなんだっけ?不死龍とかいう奴の血を引いてるんだ?それに何でそれが俺ってわかるんだ?」


(我らにも詳しくはわからぬ。一定期間で人界の世界で神獣の血を受け継ぐ人間が現れるようになり、その者達を神子と呼んだ。神子は神獣の血をその身に宿し、神獣の納める種族の者達と心通わす事ができるという)



それでか。俺がドラゴンと話できているのは


それに元から龍に人の言葉を話すことは無理なはずだ


声帯の構造上あり得ないからな



「でだ。俺がその神獣?とやらの血を引いてるからって言われてもさ、それがどうしたんだ?」



用も無しに俺を連れ去ってくるわけない


それも低知能な獣と違い、ドラゴン達は俺と会話できていることから高い知能を持って行動している


だからこそ、何かしらの理由があるはずだ



「理由ぐらい聞かせてくれよ」



彼らが俺を連れてこようとしたのなら、チルさんが怪我した事やアルレストさん達を騒動に巻き込んでしまったのは俺のせいということになる


そんな事を考えて見たがおそらくこの思考は読み取られているはずだ


先ほども口には出していないのに何回か龍は俺の考えを読み取っていた


つまり、心を通わせるというのは口に出さずともお互いの感情や考えが読み取れるということだ



(ふむ。時にイセルアよ、腕は大丈夫か?)



龍の方も俺の考えを読み取って思い出したのか俺を連れてきた龍の腕が片方無いことに気がついた


そこで俺を連れてきたイセルアと呼ばれた龍が俺と龍の長との会話に入ってきた



(大丈夫だ。止血はできている。それに元から覚悟の上だ)


「覚悟の上って・・・どういう・・・」


(はじめからお前が広い場所に強い力を持つ者と出てくる機会を待っていたのだ)


「???」



意味がわからず彩輝は首をひねった



(我らはあまり人とは干渉しない。それは人が我らを恐れるからだ。何故ならばそれは我らを殺せる力を持たぬからだ。それ以前に傷すら付けられぬだろう。故に我に同情してもらわねばならなかった)


「同・・・情?」


(たださらうだけでは確実に我をお主は悪だと思ってしまうだろう。何故なら人は傷つけた者を怨むと言うではないか。となればお主が我らの話を聞かぬという事は避けたかったのだ)


「だからチルさんと一緒に出てくるのを待って自ら怪我を負う真似をしたってことか」



確かに彩輝の心の中では腕を失った龍に対して多少の同情をしていたところがある


龍に連れ去られたときも、チルさんを怪我させたときも、目が覚めたときには憎しみ一つ抱かなかった


俺自身が龍の血を引くということが関係していたかもしれないけど、確実にあの時点で龍が俺に語りかけられたとしてもたぶん龍には恐怖しか感じなかったはずだ


思考が恐怖から入れ替わったのはいつからだったか?



(神子殿、お主にはやってもらわねばならぬ事がある)



そういえばさっきあの龍も言っていたなぁと思い出す



「俺が。俺がその神子って存在なのと関係がありますか?」


(そうだ。神子には神獣様の力の解放をやってもらわねばならぬ)


「よくわからないんですけど俺がそれをしなかったらどうなるんですか?」


(次の年になるまでに力の解放を行い、大地を満たさねばその土地は次の龍の月が来れば痩せた大地となるだろう)



彩輝は思う節がありそれを訪ねてみた



「もしかしてその力ってマナの事ですか?」


(人の世ではそういうらしいな)



なるほどね


神獣自体、神ってついてるからよっぽどな存在なのだろう


そしてその神獣がもつ力。言い換えればマナを解放させる力を俺が持つらしい


そういえば神獣はそれぞれの地域を守護するとか言っていたな



虹水の月


火翼の月


金角の月


土天の月


風龍の月


氷牙の月


星音の月


夜眼の月


白翼の月



これらは一年周期で訪れる月の名である


もしかしてこの世界にマナが満ちてるのってこの解放とかいう事をしてるからなのだろうか



(いかにも。9の神獣が守護する地域のマナは一年おきに自らの月が来るまでに一新しなければマナは次第に大地を離れ、やがてマナを失った大地は生き物が住めぬような土地と化していくだろう)


「な、なんだよそれ・・・。もし誰か一人がさぼったらその土地完全にアウトじゃないか」



一年おきにマナを解放することが神子の仕事ということは毎年神子は変わるということか



(それは違う。各地域の守護地にはそれぞれの守人がいてその神子が代々力の解放を行ってきた)


「え?ってことは神子って一年おきにやめるものじゃ無いって事か?」


(神子は生涯を通して神子である。そのものが命尽き果てるとき、次の者にその使命が託される)


「え、ってことはもう前の守人は・・・・死んでるってことか」


(いや、今回は特別だ。前年までの守人はまだ生きておる)


「特例?何で突然守人が俺に変わるわけ!?しかも俺この世界の人間じゃ無いのに・・・」


(我らにはわからぬし他の守護地がどうなっているかは知らぬ。が、我が盟主、風刺龍様のお着きの神龍様が今年の守人がお前になったことを我ら伝えに来たのだ)


「あー、なんでこうなるかなぁ・・・・」



頭をがりがりと掻く


何がどうなってこうなる!?


また面倒な事が増えたじゃないか


しかも今度は俺がこの大地にマナを満たす役割を果たさないといけない?なんじゃそりゃ・・・


俺ってこんなにトラブルに巻き込まれ型だったか?


そんなの漫画やアニメの主人公の体質だろ!俺そんな主人公じゃねぇし!



「と、とりあえず確認なんだけど、俺しかできないんだよねそれ」


(論ずるまでもなくお主、龍の神子殿しかできぬ事だ)


「で、これをしないと次の年からはこの土地は不毛の大地となると」


(不死龍様の力が途絶えればそれは大地の死を表す)



これは引き受けざるを得ない


世界を転覆させようとする輩ならまだしも、全くこの世界に関係のない俺がこの世界の人々を苦しめる訳にはいかないよなぁさすがに



「ふむふむ・・・なんだこの超絶異世界ライフ・・・普通にやってもこうはならねぇ。絶対ならねぇ」


(神子殿にはもう一つ、やってもらいたいことがあるのだ)


「まだ何かあんの?」



ぶつぶつと呟いていたところ、さらに注文される


あの・・・これ以上重荷を増やされたらたまらないんだけど



(神子殿には代々、龍の卵を授けるという風習があるのだ)


「はい?卵?」


(ついて来い神子)



そこで一匹の龍がくるりと反転した


狭い中起用に尾を動かして後ろを向いた龍は洞窟の奥へと入っていく


左右には龍が立っており、俺は歩いていった龍が立っていた場所を抜けて洞窟の奥へと向かった


洞窟内は薄暗く、ごつごつとした岩肌がひんやりとした冷気を放っている


蜘蛛の巣一つ無く、視界の隅でかさかさとうごめいた一匹の虫を龍は小さな息吹に炎を乗せて燃やしてしまう


どんどんと奥へと入っていく


予想以上に深い洞窟で奥にはほとんど光が差し込んでいない


この山脈では常に雲が空を埋め尽くしているため光があまり差さないのである


意外にも外ではずっと雨が降り続き、雷の音が絶えないというのに洞窟内はあまりじめじめとした感じがしなかった


そのために奥へと行くごとに闇はさらに深くなっていく


そこで彩輝は足を止めた


頭上に居る龍の息の音がかすかに聞こえる


だがそれだけではない


もう一つの息吹が闇の向こう側から聞こえてくる



「何が居るんですか?」


(誰が、の間違いだ)



目がゆっくりと慣れてくる


地面に横になるそれは他の龍同様に紅い鱗をした龍であった



(紹介しよう。我が花嫁、イリスだ)



横たわる龍はゆっくりと首をあげ、こちらを確認する



(イリスよ。龍の神子殿だ)



どうやら龍同士の会話でも俺に聞こえるようだ


心に語りかけるとはいえ、実質には会話と同じなのか


ただそれが耳で聞き取るのではなく、心の中に直接響いてくるかの違いなだけである



(龍の神子には代々、使い魔として龍子が送られる)


「え?龍子って・・・龍の子供ってことですか?」


(龍子は9年に一度、龍の月になると龍の神子によって孵化される)


「って俺が孵化させるのか!?しかも9年に一度なのに今年がそうなのか!?」


(いかにも。地上に住む龍族は5種、そして龍族はそれぞれ9年に一度、龍の月になると一つの種族に卵を一つ産む。そして龍の神子はそれを孵化させる役割も兼ねているのだ)



うぇ、責任重大・・・



(5つの卵のうち、最初に孵化させた卵の龍子は神子の使い魔となる。他の種族の卵は一つの卵が孵ると同時に連動して孵化する)


「で、あなたたち夫婦が今年のその紅龍種族の卵を産む役目にあたったと」


(そうなるな)



一端整理しよう


ちょっとややこしくなって頭がこんがらがってきはじめたので彩輝はもう一度整理することにした



「まず、俺は龍の神子ってことでマナを解放してこの周囲に行き渡らせるという役目があると。それは毎年あって今年は何故か俺になってしまったと」


(うむ)


「で、龍の神子は9年に一度龍の子供を孵化させて使い魔にすると。一族の繁栄がかかってるじゃねぇか・・・」



なんで自分がこんな大役をしなければいけないのやら



「あれ?でも9年に一度孵化させるって事はさ、それまで使い魔だった龍はどうなるんだ?」


(9年も経てば龍は人の手に負えるような代物では無くなる。そして使い魔となった龍子は神龍へと進化する。そのときには人の手を離れ、不死龍様に仕える事になる)


「別れが辛そうだな。9年か・・・。あのさ、気になってるんだが俺はこれからも神子をやらなきゃならないのか?」



神子の交代は現存の神子が死ぬとき


これまでは血族で受け継がれてきた重大任務も今では全く関係のない俺の手に握られている


俺が死んだ場合どうなるのか


まず子供も血族もこの世界には居ない


そもそも俺自身が元々の神子の血族じゃない時点でおかしい


っていうか今から死んだ後のこと考えてもなぁ・・・


しかも異世界の後の事を


俺の居るべき世界じゃ無いというのに



(どうだろうな。神龍様は神子変更の事しか伝えなかったからな)



俺が神子になったことのみしか知らされていない・・・か


第一俺がここに来る事自体本来はあり得なかったことだ


予期せぬ事がどんどん起こっていくが、所詮俺たちは世界に合わせるしか無い


選択肢なんて無い、小さな存在なのだから



「まぁいいか。死んだ後の事を考えても仕方ない。俺が来たときに龍の神子になったのなら俺が居なくなったら代わりに誰かがなるだろう」


(深く考えても結論は出ぬしな。さて本題に戻ろう。神子殿、イリスのところへ)



俺は言われるがままそのイリスと呼ばれた龍に近づく


先ほどの龍と比べて体のゴツゴツ感があまり無く、どちらかというと丸みを帯びているように感じる


俺は首をあげたイリスの顔の前に立つ


イリスの鼻息が彩輝の髪を軽くたなびかせる



(我が子をよろしくね。小さな神子さん)



龍がゆっくりと体を起こした


その巨大な体に守られていた巨大な卵が彩輝の目の前に姿を現した


白く、そして見るからに厚そうな殻には地面と龍の鱗が擦れた痕がうっすらとついている


俺はその卵に触れる前に一つ聞いた



「俺が、いやちがう。あなた達は、本当に見ず知らずの俺に我が子を預けていいんですか?」



我が子


自分には子供は居ない。まだ学生だし


だが、子は親を知って育ち


親は子を知って親となる


俺は家族と一緒に暮らしてきた


今では離ればなれだが、一緒にいるというのはそれはもう俺が生まれた瞬間から決まっていた事だ


俺は母の温もりと父の逞≪たくま≫しさに育てられた


母の優しさと父の背中を知って育ってきた


俺は意識はしていなかったけど、幸せな時間を過ごしてきたと実感できる


親にしてみれば、子供はどういったものなのだろうか?


どういった感情で、どんな気持ちで俺を育ててくれたのだろうか


今の俺にはわからないけど、それは絶対に嫌な事じゃ無かったと思いたい


そうでなければ、子供を産みたいとは思わないはずだ


子は願って生まれてくるものだ


そしてその子を・・・・俺なんかに・・・



「俺なら、渡したくは無い・・・。そうしないとマナが無くなったり、不都合があったりしても・・・抵抗は・・・すると思う。わかんないけど」


(ふむ、どうやら我らとお主達との考え方は違うようだな。いいか、確かに子と一緒に育つという事は大事な事だ。仕付けや空の飛び方、いろいろなことを覚えさせなければいけない。だがそれ以上に、龍の神子殿に選ばれるという事は光栄なのだ)


「そんなもんなんですか?」


(私は神子には選ばれなかった。神子に選ばれた龍は成長すると虹龍様に仕える神龍として進化する事ができる。それもまた、子を育てること以上の我々の幸せなのだ)


「・・・本当、俺らとは全く考えが違うってことですね。だけど、俺を信用することにはつながらない。今ここで卵を受け取らずに壊すという手もある)


(そのような事を考える者が龍の神子な訳が無いだろう。神子とは一族を束ねる不死龍様の血を引く者。もし我らを殺そうとしても、それは不死龍様の意志ということになる)


「はぁ・・・ここまで信用されて、俺がそんな事をできる訳ないじゃないか・・・。卵を」



岩の上にぽつんとある白い卵に俺はそっと触れる


その瞬間触れた卵から彩輝にドクンと、しっかりとした鼓動が腕を伝わってきた


それと同時にビシリと卵に亀裂が入る


そこで俺は手を離した


少しずつ、口先で殻を崩すようにして現れた小さな命は途中で嫌になったのか思いっきり殻をまっぷたつにして出てきた


出てきた龍は俺の前後に立つ巨大な姿の縮小版のような姿をしていた


赤い鱗が外気に触れ、小さいながらも長い尻尾はくねくねと犬のようにうれしそうに振っている


親の姿と違うところ言えば四本足で歩いているところと大きさの違いくらいだ



「かわいいお子さんですね」



俺はそっとその小さな龍にむけて手をさしのべた


自分でも珍しいほどに柔らかく笑っているのがわかった



(名前はお前が決めてくれ)



小さな龍は首をかしげて俺の手をまじまじと見つめている


肩に乗るほどの大きさながら、それでも体に対して大きい翼が閉じたり開いたりする


小さな龍はさしのべた手にぴょんと飛び乗りトトトと腕をつたって肩まで移動してきた


俺の顔の横には小さな龍の顔があり、俺はその龍の額を人差し指でなでてあげた


器用に四つの足で俺の肩にとまり、長い尾は首の後ろをまわって反対側で動いている



「名前かぁ・・・。まさか高校生で名付け親になるとは思ってなかったなぁ・・・」



自分の子供って訳じゃないのにさ・・・


全く奇妙な話だよ


なににしようかさんざん迷ったうえ、俺はこの命に一つの名前を付けてあげた


紅い鱗、碧眼の眼が俺の目をジッと見つめる



「お前の名前は・・・」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ