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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
プロローグ
154/154

『唯一輝く光』

プロローグ



シーグリシアの森南東 トールの滝



「っぐ、ああっ!!」


「よわっちいなぁ。小せえ割には強い波動を感じたから、ちょっとはやるかと思ったんだけど、なっ!」



少女の足を掴み、強く締め付ける男がいた。


力任せに少女の体を放り投げ、小さな身体は滝に突っ込み、大きな水飛沫をあげた。



「けっ、つまんねぇなぁ」


「ガイ、貴方はもう少し危機感を持つべきよ。不意打ちが成功したくらいで浮かれるにははやいと思うわよ」



白く、美しい髪を靡かせた少女が言った。


手に握られた巨大な鎌がその存在感を際だたせている。


そう言われたガイと呼ばれた男は長い前髪で表情を隠しているが、口の形と口調から苛立っているのが分かる。



「んだぁよ。折角楽しんでたのによぉ」


「ほら、来るよ」


「っ!?」



滝壺から飛び出し、纏った水を風が吹き飛ばす。


水色の魔力の翼を広げる少女は水の槍を握っている。


その素早い突撃にも、男はきっちり反応して避ける。



「んだぁその力!?」



だらしなく伸びていた服から爪が伸び、それを見てアリスは警戒を強めた。


未知の相手。目的も、能力も、正体も、何もかもが未知。


ただアリスは感じていた。


慣れ親しんだ魔力も、マナも、違う。


この感じはあの時に似ていた。


異世界から来た彼らに似た雰囲気を、彼らもまた纏っているのだ。


彼らが元居た世界に帰ってから七年。


つい三日前の事だ。


突如、前触れもなく天が裂けた。


ひびがはいり、空を割って九つの光が大地に降り注いだ。


やがて空は元通りになったが、外界から降り注いだ九つの光は邪悪を纏って大地に災いをもたらした。


それはアグレシオンの再襲来だった。



「お前達……アグレシオンだな」


「んだそりゃ?こいつら何言ってんの?」


「私たちのことをそう呼んでいるのでしょう。私たちがこの人達を“現住民”と呼んでいるように。意味まではしらないけどね」



言葉は通じていないが、アグレシオンという単語が自分達に向けられた言葉だと思いそう解釈する。


この世界の住民は私たちのことをそう呼んでいるのか。



「ま、言葉は通じねーが、叫び声は万国異世界共通ってことは分かったんだ。それだけで十分さ」



首をコキコキと鳴らし、爪の伸びた腕をぷらぷらと振る。



「さってと、少しウォーミングアップしますかな。他の奴らにやるには惜しい強さだからな」


「……その考え、そのうち死ぬわよ」


「死にたい程に、殺し合いが好きなんだからしゃーねぇだろうが」



にたりと覗かせた鋭い歯から吐息が漏れる。


それを見てゲッカはため息をついた。



「さーてと、その身に纏ってるのがお前の能力か?いいねぇいいねぇ、こっちの世界にも能力持ちがいるのかい!こりゃぁさっさと殺してっとぉ!」


「死ねアグレシオン!」



構えた水の槍をガイが爪で受ける。


甲高い音が響いたが、水の槍も鋭い爪もどちらも欠けることなく互いを浸食しようと競り合う。


今度の異邦人は随分と好戦的だこと!!



「なんだぁ、水を操ってんのか?」


「帰れ!」


「何叫んだって意味通じねーよ!オーガア・ド・アーム!!」


「!!」



突如ゆるんでいた両腕の布地が膨らんだ。


咄嗟に後方に距離をとるアリスは目を見張った。



「なんだその腕……」


「その腕なんだって顔してるな。ま言葉が通じないから説明なんてしないけどなっ!」



大きな腕を振りかぶり、アリスに向かってガイは突っ込んだ。


アリスは槍を消し、両腕に水の刀を纏わせる。



「お、形を変えられるのか。おもしれぇ、俺のパワーとどっちが上かな!!」



ぶうんと振るわれた腕を避けたアリスは驚愕した。


避けたのに、勢いが強すぎて巻き込まれる!?


その威力は恐らく神子の力を使った私とさほど変わらない、あるいはそれ以上と見た。


まだスピードは私の方が上だが、それでも驚異的な破壊力を持つわりには速い。



「当て損なったか。じゃぁ次いくぜぇ!」



と、徐々に手数を増やすガイに対し、アリスは紙一重でその攻撃をかわし続ける。


すると、攻撃が当たらないことにいらつき始めたガイが攻撃を止めた。



「んだよ、やるきねぇのか?っお!?」


「しっ!!」



大きく飛び退き、攻撃をゆるめたガイに向かってアリスが全速力で突っ込んだ。


スピードを誇る龍の神子の力を持つアリスは、スピードで勝つしかないと最初から狙っていた。


あの時の彼ほどのスピードは出せないが、それでも私も水龍の力を宿している。


そのこちらの最大のメリットを隠しつつ、一撃のチャンスを狙ったのだ。


一気に肉薄したアリスはガイの表情を見て恐怖した。


笑っている。


この状況下で、驚き、そしてそこには笑みがあった。


殺さなくては。


アリスは久しく感じなかった狂気というものを感じた。


本能が拒絶する。それを久々に味わった。


右手の刃はガイの腕を切り落とし、左手の刃がその先にある喉を狙う。


捉えた!







「全く、油断しすぎなのよ」


「っ!」



水の刃は巨大な鎌に受け止められていた。


そして三日月型の鎌が突如一本の細い線となる。


まずい、と水の刃を交差させる。一から盾を作る余裕がない。


スピードでは負けないと自負していたはずが、いつの間にか相手の行動の後手へと回っていた。


こちらに向けられた切っ先が下から迫ってくる。


交差させた刃は鎌に跳ね上げられ、無防備な体を相手にさらしてしまう。



「信じられないというその瞳、まるで黒い満月のよう……」



半分ほどしか開いていないその瞳に見つめられ、アリスは言葉を失う。


気がつけば、女は鎌を真横に構えていた。


う、嘘だろう?


速すぎる。


ようやくアリスは悟った。


何故かつてアグレシオンが襲来した際、大陸が二分する程に荒れてしまったのか。


強すぎるからだ。


こんなの無茶苦茶だ。


これなら吸鬼の方がまだマシだ。



「っく!!」


「あら」



アリスは突如翼を広げ真上へと飛んだため、鎌は空を斬った。


意外そうに上を見つめ、女は口を開く。



「飛び立つ三日月、月夜鴉」


「な!!」



切り裂いた空間が輝き、三日月に輝く斬撃が上空に向けて飛んだ。


その刃は回避行動をとったアリスよりも速く、その翼を斬り飛ばした。


とはいえそれは生身の肉体ではない。


魔力は再び翼を象りアリスは二人を見下ろした。



「くそ、やっぱ情報が何もないと辛いなぁ……」



これまでに確認されたアグレシオンは三人だとハートウィッチから魔力で脳内に情報が飛ばされてきた。


巨大な剣を持った男、炎を操る女、メガネをかけた男。


だがこの二人はどれでもない。


倒せないと判断したら逃げろ。そう言われていた。


流石、チル・リーヴェルト、シェルヴァウツ・アルファナレンツを倒した奴らと同じ世界出身者なだけはある。


あんな化け物を倒せるくらいだ。こちらの方がよっぽど化け物じみている。


こりゃ、強すぎる。


いくつか情報は手に入れたし、ここは退散かな。



「おー、とんでるとんでる。こっちの人間は空も飛べるのかよ」


「馬鹿。私たちの情報を持って逃げられる意味、分かる?」


「そういやそうだな。オーガア・ド・アーム」



腕が元の大きさに戻った男は、斬られた腕がすっぽりとまた服の下に収まっている。


だが、再度服から姿を覗かせた腕はまた元に戻ってしまっている。



「誰が二人だと言った」


「!!」



アリスの後ろに、突如男が現れた。


巨大な剣を持つバンダナをした男……シェルヴァウツを倒した男と証言が一致している……。



「お前……」


「このような少女まで戦いをするというのか。この大地の戦力はそこまで疲弊しているのか、それとも少女が我々と戦える程ここの民は力を持っているというのか」



その理解出来ない言葉には耳をかさず、アリスは全速力で加速した。


距離をとらなくては、このままでは殺されてしまう。


三対一など、勝てない。



「ふむ、戦力差を判断し逃げるという冷静な思考能力はあるのか。ならば致し方ないな。敵は団結するよりも少なくした方がいい」


「てめぇレクティアス!俺の獲物を横取りするんじゃねぇ!」



ガイは憤怒の表情を浮かべるがレクティアスと呼ばれた男は興味が無さそうに飛び去る少女の方を向く。



「お前が殺し損ねた相手を私が仕留めているだけに過ぎない。撃ちもらした己の未熟さを恥じるんだな」


「んだとぉ!?やっぱりテメェは気にくわねぇ!!此奴らより先にぶっ殺して――」


「はぁ」


「ンだよゲッカ、そのため息は!?」


「もう少し静かに喋って。どれだったか忘れるじゃない」


「何?」


「……よし、落ちた」


「落ちた?何がだよ」







森に落ちたアリスは木の枝に引っかかっていた。



「いったぁ……ヘマしたなぁ。いつ斬られたんだ?」



空を全速力で飛んで逃げるアリスは突如肩に痛みを感じた。


傷は浅かったが突然の痛みにバランスを崩し、森に落ちた。


傷口を確認すると、肩がスパッと切れており表面からは血が勢いよく出ている。


神子の力で再生力は高まっているが、完治には夜までかかるだろう。


それを待つ暇は無い。速く逃げなくては……。



「みーっけた」


「え!?」



頭上の枝に立つガイがニタリと笑った。


くそっ、追いつかれるのが速すぎる。



「今度は確実に仕留めねーとなぁ。オーガア・ド・フット!」



今度は腕ではなく、足が巨大化した。


ぶかぶかだったズボンに巨大化した足がピッタリとはまった。



大きく足を振り上げ、そして振り下ろす。


自らが乗っていた枝ごと踏み抜き、落ちてくる。



「畜生!」



バッと翼を広げ、地面に向かって飛び込んだ。


大地の中を泳ぎ、一定の距離をとったところで地上に出る。


木々をかわし全力で跳び続ける。



「半月・扇」


「!!」



思わず頭を低くした。


真上を何かが飛び去り、バタバタと広範囲の木が一斉に倒れていく。


なんでこんなに私が狙われるのだとアリスは舌打ちした。


私を殺して何の得がある!?



「地面にも潜れるなんて、すげぇじゃねーか」



倒れる木の上を飛び移ってきたガイが倒された木の切り株の上に着地した。


足はすでに元に戻っており、その後ろからゲッカが追いついてきた。


そしていつの間にか後ろにゲッカとレクティアスがそれぞれ武器を構えていた。


一体どんな移動をしているのだとアリスは思うほど、上手く追いつめられてしまったと心の中で相手を賞賛した。


アグレシオン。確かに言い伝え通り論外な奴らばかりだ。


体を変化させたり、めちゃくちゃ速かったり、斬るという行為を飛ばしてきたり、まったくなんて奴らだ。


神子の力を持ってしてこれだ。


どうりで昔の人が恐れたわけだ。


寧ろどうやって倒したのか聞きたいくらいだ。



「やるしか……ないか」



こうなったら、倒すしか無い。


これでも私は強い。昔よりも、強くなっている。爆裂の魔法も使っていない。


勝機は消えていない!



「お、やる気になったか?」


「三人に囲まれて尚尽きぬ闘志、それは賞賛に値する」


「…………」



そして三人がアリスに攻撃をしかけようとした、まさにその時だった。



「そこまで、だよ!」


「お取り込み中悪いね。俺の友達に何しちゃってくれてるのかな?」



強烈な風が吹いた。


その瞬間、アリスは息が詰まりそうになった。


大きくなった。


見違えるかと思った。


けど、見間違えるはずもない。



(ひかり)、ちょっとさがってな。すぐ終わらせるから」


「えー、私もたたかいたーい!ヒーローになるんだもん!」


「っていってもなぁ、光じゃまだ倒せないよ」


「えー」


「こいつらは強いから俺が相手するよ。光は彼女を守っておいて」


「はーい」



しょぼくれた返事をしたのは小さな少女だ。


十歳くらいの少女が光に輝く翼を広げ、アリスの横に立った。



「お姉ちゃんも羽はえてるー!」


「え、ええ」



あっけにとられたのはアリスだけでは無かった。


アリスと光と呼ばれた少女を囲むようにして武器を構えていたアグレシオン達もまた、空を見上げていた。



「んだてめぇは!?」


「ん、俺か?っていうかお前らこそ誰だよ。にしてもアリスじゃないか、大きくなったな」



真っ黒な瞳は相変わらず真っ直ぐな瞳をしている。


真っ黒な髪は少し伸びたかな?



「すぐ終わるから、待ってな。準備はいいかススミ?」


『いつでもいいわよ!』



構えた短刀は、前に見たあれとは別物だ。


しかし、その短刀は確かに風を纏っていた。


あの時と同じように。


七年前と同じように。


聞きたいことは山ほどあった。


それでも言葉を飲み込んだ。


また、彼はこの世界に風を吹かせるのだろうか。


今度はこの小さな光の種と共に。


なぜだかアリスにはそんな予感がしていた。





























































また、いつか会えるだろう


その時までに、果たした約束を果たせるようになっていられるように


きっと、また出会うそのときが訪れることを祈って


この地に別れを告げよう


少年は決意をしました


次に彼を待つ出来事は?


さぁさ行ってみようかお次の話


物語はまだまだ続く


まだここは始まりにすぎない


これから起こる大きな出来事の、ほんの序章なのである



挿絵(By みてみん)



烈風のアヤキ 完

ここまで読んでくださった皆様、長々とおつきあいありがとうございました!

本当に、本当にありがとうございました! 本編同様長々とした後書きは活動報告にて。

Thank you for reading this to the end !


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