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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『烈風の彩輝』




強烈な刀の突きをかわし、回し蹴りを放つ。


その足を左手で受け止め右手をスッと引き絞るツキは再度、弾丸のような鋭い突きを放つ。


大きな紅の炎と翡翠色の風の翼が広がり、風を捕らえる。


身体を捻らせ突きを避け、そのまま塞がれていない方の足で刀を持つ手を蹴り飛ばす。


弾かれた刀が宙を舞い、その向こう側にいるツキに彩輝は撓る尾を叩きつける。


小さな身体は一瞬にして地面に切迫する。


しかし、その一瞬で体勢を立て直したツキは地面に尾を叩きつけ衝撃を殺す。


それだけで大地は大きく窪み、雪が舞いあがる。


その中から飛び出してきたツキが一気に加速し、彩輝の腹部に右拳をめり込ませる。


咄嗟に腕でガードするが、その威力を殺しきれず上空へと飛ばされる。


腕を伸ばし空中に飛んでいた刀を掴み、ツキは翼を大きく広げ風を押す。


まるで太陽の用に熱い。


すれ違い様に三度の攻防があり、両者の肩に鋭い鮮血が舞う。



「くっ」


「ぐっ」



鋭い爪のような魔力がツキの肩を切り裂き、鋭い切っ先が彩輝の肩に血で濡らす。


その傷跡を神子の力がすぐに塞ぐ。


息つく暇も無く、再び二つの影が交差する。



「う、おおおおおおっ!!」


「はああぁっ!!」



彩輝の拳骨がツキの肩を捕らえ、同時にツキの踵が彩輝の鳩尾に直撃する。


お互いの身体はすれ違いながら森に積もった雪に突っ込んだ。



「っ……やっぱり力は向こうが上手か……。でも、その力の事は私が一番知っている!」



雪の中から飛び出したツキが黒い龍の翼を広げる。


周囲に満ちた魔力を吸い取り、そして放出する。



「轟吼。カァッ!!」



大きく口を開き、カッと渇を入れる。


龍が司る最大の強みはその速度。


この世で最も速いものは光。


そしてその次が音だ。


自ら光を生み出せない人、そして龍自らが放てる力の速度は音速が限界なのだ。


そして音というものは周囲に拡散し、消えていく。


その発せられたエネルギーがもし、拡散せずに直撃したら。


放たれた声は魔力によって固められ、音速で彩輝が消えた辺りの雪を吹き飛ばした。


音を切り裂き、音を放つ。それこそが龍の力の神髄。


ずっと、その力と共にあった私がたどり着いた結論だ。


人に戻るため、君を通すわけにはいかない。


その為なら、



「君を殺す事も厭わない」



例えそれが人として悪なのだとしても。



「私は構わない」



私は知っている。


敵は吸鬼や魔獣ではない。


まず私自身を乗り越えなければならないのだ。


まずは、そこからなのだ。


あの人のように、ピンと背筋が伸びたあの白い髪を靡かせる後ろ姿に、ずっとずっと憧れ続けてきたから。



「だから……!」



言葉にならない。


止めて欲しい。


止めないで欲しい。


人として私は間違っているのだろうか?


舞いあがる雪の中から、龍が飛び出してくる。


私は、あの人に憧れた。


あんな風になりたい。


あぁ、もう、私はなんで彼と戦っているのだろう。


すれ違い様の攻撃を避けてバランスを崩す。


人として私はチル・リーヴェルトに憧れた。


人として私は自分の悪の血を許せない。


吸鬼として私は産んでくれた母の血に感謝している。


吸鬼として、人になりたい私は悪に荷担している。


なりたいもの。あこがれるもの。ゆるせないもの。にくむもの。


それら全てが私なのだ。



「認める。私には結論が出ない。出せない。分からない。だから、君と戦って道を選ぶ」



それで死んだら本望だ。


それで生き残ったら、頑張って考えてみよう。私の人生を。


どれを選んでも、私の人生にかわりはない。


自分で選ぶことは大事だ。それでも私は少し期待しているのだ。


君になら、任せられると。



「う、おおおおおっ!」



反転した影が、大きく翼を広げた。


そして刀が抜かれた。


短い刃だ。


腕の長さも無い、短い刃だ。


しかし、その刀は強く輝いていた。


まるで太陽のように力強く輝いていた。



「眩しい」



あの刀が輝く太陽ならば、私の刀は月だ。


光がなければ宇宙に溶け込んでしまう程に、黒い。


けど、それと同時に放たれた熱を蓄える事ができる。


黒は吸収の色。


熱も冷気も、光も闇も、血も涙も啜り喫して宿す。


それが黒血喫。私の母が吸鬼達から盗んで託した聖天下十剣。


光が強いほど、影もまた濃くなる。


この刀もまた力が強いほど、その恩恵を受ける。


君の刀は、強い光を宿している。



「まるで太陽だ」



その輝きは私の刀に、強く濃い影を投影する。


対象の力を吸い、同等の力を生み出す刀。


勝てずとも負けぬ、相討ちの刀。


負けない。勝たない。善にも悪にも縛られないそんな……未来を……。



「見せて」


「君の声に、応え答える与えよう。いいだろソーレ」



そう言うと思ったよ。


月は太陽があってこそ、夜を照らせるんだ。


俺達が来なかったら、君は輝ける未来を失っていたかもな。



「君の相手をしたのが俺でよかった」



月は太陽の変わりに夜を照らす太陽なのだ。


どんなに小さくても、俺達の星からは凄く大きく、美しく、輝く存在だ。


龍の神子同士争いなんてやめて、明るく地上を照らそうじゃねーか!





「明るくいくぞソーレ!」



刃は紅に染まる。



「その力は私が一番知っている!」



刃は黒に染まる。



紅翼太陽(ソーレ)!!」


黒翼満月(ルーナ)!!」



満月の龍と太陽の龍が一瞬にして近づき、そして接触した。


月が食われるか、日が食われるか。


互いの龍は闇と炎の牙を並べたアギトを名いっぱいに開き、互いを食らおうとぶつかり合う。


闇に炎がちらつき、炎を闇に隠す。


火の粉と闇の粉が幾度も、幾度も雪上に舞い上がる。


互いの力は拮抗していた。



「なんでハーフとして生きれない!」


「この血が悪だからよ!」



どうせ、それなのに悪に荷担するのかときくのだろう?


分かりきっているのだ。そんな事は。


目の前まで、目の前まできたのだ。


もう、裏切れない。


だから吸鬼についたのに、あの人に、悪だと思われた。


いるなんて、思わなかった。


全ては破綻した。ならせめて、唯一願った人になるという希望にすがるしか無いじゃないか。



「もう、全て手遅れなのよ!!」



二人が同じ神子として共鳴しているからか、近づけば近づく程相手の感情が伝わってくる。


彼の熱すぎる思いは、私を焦がすくらいに強いものだ。


つられて、柄にもなく叫んでしまった。


後悔の念を。



「遅くなんて無い!君は初めから悪なんかじゃ無い!!君が憧れていた人は、君を悪だと言うような人じゃない!」


「黙れ!この血は……こんな穢れた……こんな血っ!」



あの人に見られたくない。


あんな魔獣の黒く淀んだ血を受け継ぐなどと、知られたくなかった。


その思考を感じ取った彩輝は思わず叫んだ。


叫ばずにはいられなかった。




「貴方が穢れているなら、俺なんて穢れの塊だ!魔獣と同じ世界の血だし、誰が獣が穢れて人が穢れてないなんて決めた!ちょっとした失敗で挫けて、泣いて、落ち込んで!好きな女の子も守れず、のうのうと生きてる醜い人間の血なんて、獣以上に穢れてる!!」


「!!」


「けどツキさん!あなたが憧れる人が、ツキさんを悪だと言う人間だと俺は思わない!!純粋に親を思い、憧れる人を思うそんな人を、悪だという人間じゃぁ、ない!」



チル・リーヴェルトはそんな人間ではない。


俺なんかと違って…………貴方は綺麗で美しい、闇夜に浮かぶ月のような人だ。


全ての星を掻き消す光とは違う。


沢山の星に囲まれた、そんな美しい光だ。


そんな、黒い力では無い!



「貴方にそんな力は、似合わない!」



貴方が身に纏うべきは、この薄く輝く龍の力だ。


まるで流れ星のように、まるで彗星のように、六色の輝きが黒い翼を広げた龍を地面へとたたき落とした。


欠けたゴーグルの破片がツキの額から外れ、彩輝は叫んだ。



「憧れるなら、追いかけろ!!」


「っ!!」



追いかける?


私は、あの人に憧れて、それで……騎士になって強くなった自分を見て貰いたかった。


そして私という存在を認めて貰いたかった。


けどそれを私はあの人の下ではなく、遠くから眺める事にした。


私には、あの輝きが強すぎたのだ。


何時だってそうだ。


まぶしくてゴーグルをかけていた。


強い光が、輝かし存在が、憧れる人達が、眩しすぎて。


自信が無かった。


隣に立つべきは、私ではない。


私は何時だって、遠くから眺めていたのだ。


赤と緑の残光に、涙の粒が輝いた。


一歩だって踏み出せていない。


本当に、遅くないの?


全てを肯定していいの?


――そう。世界は広いのに、そしてもっともっと知るべき事があるんじゃないかなって。それを知れたら、うん、もっと自分は成長できるなって思って――


そんな彼女の言葉を思い出した。


少し遠回りだったけど、ここでもし、ツキさんの道が変われるのなら……。


彩輝は翼を大きく広げ風の抵抗を強めて蹴りの勢いを弱めた。


それでも勢いよく地面に叩きつけられたツキは身体を半分雪に埋め、上空で翼を広げる彩輝を見上げた。


ゆっくりと身に纏った龍の魔力は消えていくのを感じる。


あぁ、雪が冷たい。


でも私は生きている。


やり直せる命が、まだこの身体で脈打っている。



「は……はっ…………どこで間違えたのかな…………」


「間違えてなどいないさ」


「チル……リーヴェルトさん……」


「君のことは聞いているよ、ツキ・ルベルさん」


「え……?」



懐から小さな包みを取り出したチルは、ツキに微笑みかける。


その包みには祖父の名前が書かれていた。



「君の祖父から受け取った推薦書だ。随分君のことを暖かく見ていたようだね。君の生い立ち、気持ち、全て読んだよ」



びくりと、身体が勝手に反応してしまう。


祖父は私が父と母による吸鬼のハーフだと知らないはずだ。


父が打ち明けた?いや、私が生まれる前からそれを知った上で……私を育てて……?



「昔は私もいじめられててねー。女だから生意気だーとかなんとかってさ。でもまぁ、騎士団は正義と実力の世界。私と一緒に騎士団をやってみないか?まぁ最初は見習いからだけど、なに。君ならすぐに私の隣にまで来れるさ」



溢れ出る涙で、何も見えない。


ずっと憧れていた人が目の前にいるのに、視界がぼやけて何も見えない。



「年齢制限をクリアしてるんだ。入団には遅くないよ。君が正義の心を求めるなら、君にはバッチリの仕事だ」



悪でも、正義を求めれば、人に尽くす正しき義を求める。それで良かったのだ。


声にならない。それでも、答えなければ。


嗚咽を飲み込み、涙を拭い、声を捻り出す。



「は、はい゛っ!!」



その瞬間、周囲の雪が全て蒸発した。


そして振り返った彩輝は思わず目を見開いた。


二人の頭上を、炎の翼と風の翼を広げた龍が飛んでいく。






「さて、頼まれたからには頑張りましょうか、唯ー」


「女も働く時代ですもんねー早苗ー」



白い翼を広げた唯と炎の翼を広げた早苗がそう言いながら、不気味な姿となったニールに接近する。


ギリギリ人の姿をしているが、足元にたまった黒い液体がどんどんと体から流れ出ている。


少しばかり彩輝とツキの戦う様子を見ていたが、どうもすぐに援軍に来てくれそうにない。


速さを司る龍の神子とは聞いていたが、あそこまで速く飛び、尚かつ戦闘を繰り広げているとなるとこちらとしてもどうしようもない。


耐えきれず、唯が一度束縛の札で攻撃してみるも、紙が一瞬で黒く塗りつぶされてしまい効果は無さそうである。



「てかどうするあれ?」


「パッと見墨みたいだけど、能力も分からない相手に近寄りたくないわね。わからないからとりあえず遠くから焼いてみますか」



手をかざして力を込める。


燃え上がる翼の火の粉が空中に炎の渦を作り、やがて渦は槍の形になる。



「君たちから始めるのかな?」


「そうなるな!死にたくないから手加減はしないよ」


「いいね。来なよ」



黒い液体となったニールが量腕を開き、早苗を煽った。



「真赤な誓いは炎に限るな!まさか自分が灼熱の戦いに身を投じるなんて思いもしなかったけど……さっ!おおおおおっ!!」



火の鳥となり燃え上がる早苗はその炎の槍を掴み、投擲する。


その槍を突如黒い何かが横切り、難なく弾いたその残り火の後ろから猛スピードで早苗が突っ込んだ。


一瞬にして周囲の雪が蒸発し、その衝突の衝撃波に熱が乗って周囲の雪を一瞬で溶かして蒸気にする。


瞬く間に真っ白な蒸気で覆われた二人の姿に、上空から眺めていた一条は外していた仮面を身につけた。


上空に飛び出してきた早苗とバトンタッチし、今度は唯が上空に札をばらまいた。



「あいつ、やばい!」



すれ違い様、早苗がそう言った。



「竜巻!」



その言葉をキーに札を中心に風が渦を巻き、幾つもの小さな竜巻が天地を繋ぐ。


蒸気が竜巻に舞上げられ、地上の様子が露わになった。



「うっわ、何あれ!?触手?」



地上から、九つの巨大な触手がうねっていた。


そこには胴体が地上の液体と同化したニールと、その身体から伸びた九つの触手があった。


一つ一つが意思を持つかのように、バラバラな動きをみせる。



「あれ、意外に速く動くわ」



早苗が腹部を押さえながら唯の横まで下降してきた。


苦しげなその表情から、先ほどの衝突で腹部をあの触手の攻撃を食らったらしい。


恐らく先ほど飛び上がってきたように見えたのは、打撃で突き飛ばされたからだろう。


期待はずれだとでも言わんばかりの表情を浮かべるニール。



「もう終わりですか?」


「誰が!スターダスト!!」



決戦前に、札という札を沢山書いてきたのだ。


札を全て鷲掴みにして一気に空中にばらまいた。


その札全てが流れ星となって男に降り注ぐ。


その全ての星屑を触手が弾いていく。


弾かれた流れ星、外れた流れ星が地中深くに埋まっていく。


それほどの威力とスピードなのだ。



「不思議な符術ですが、この程度傷にも……」


「おまけにくれてやる!コメットアッパー!」



札を使わず発せられたその言葉に、一瞬違和感を持ったニールがバッと地面を見た。


――狙いはこちらか!――



地中深くに埋まった流れ星は紙へと変化し、スターダストと書かれた下の言葉が光る。


そして全ての札が地面ごとニールに向かって殺到する。


自らが弾いた札、外した札。それらはニールを囲むように埋まっている。


無数の穴から無数の青白い光が漏れ出す。



「ぬ、おっ!!」



触手で対応しようとするが、盛り上がった地面がニールを身体ごと上空に吹き飛ばす。


先ほどよりも巨大な光の玉が尾を引き、まるで彗星のように見えた。


吹き飛ばされたニールに、いくつもの彗星が直撃していく。


ドドドドドッ。



「がっ、は……!!」


「痛みがあるようで、何よりだ!」


「!?がぁっ!」



そして真上に接近していた早苗が拳を振り絞る。


地中からの彗星の攻撃に身体を曲げていたニールが反り返る。


砂煙を巻き上げ、落ちたニールから距離をとる早苗。



「あれだけ力込めて殴ったんに、まだ死なないとか本当に化け物だな……。まぁ私らも人のこと言えない化け物やけどね」


「まだ生きてるんですか、あれ」



煙が上る拳の炎をフッと吹き消し、早苗と唯が見下ろす。



「えぇ、生きていますとも。神がその程度で死にますか」


「え、っ!?」


「っ!?」



二人の身体が薙ぎ払われた触手にまとめて吹き飛ばされる。


いち早く反応した唯が触手の鞭から抜け出し、ニール目がけて加速する。


そして一気に男の反対側まで飛んで抜ける。


反撃を予想していたニールはあっけにとられて唯を目で追う。



「む?」


「私の右手が真赤に燃える!!ついでにお前も真赤に燃えろ!」



燃え上がった早苗の炎が触手を猛スピードで伝う。


触手は早苗を薙ぎ払うのを止め、鞭のように撓らせ炎を消す。



「まだまだぁ!」



より一層気合いを入れ、炎の勢いが増した早苗は自分ごとニールに体当たりしようとした。



「こいつを持ってけ!お前の炎気に入った!!」



そんな早苗目がけて刀が投げ込まれた。


それを無言で受け取り、力強く頷いた早苗はニールに突っ込んだ。


炎天舞、出石小刀を二つ纏めて振って鞘を飛ばす。


翼を広げ、巨大な不死鳥の用にも見えた早苗の強力な魔力を感じ、唯は反転しようとした。



「これを!」



下から投げられた刀を唯が受け取る。


それは先ほどまで戦っていたツキが持っていた刀である。


投げたチルもまた鞘から蒼天駆、天羽々斬剣を抜き、ニールに向かって走りだす。


それを見て唯も鞘から黒喫血、神度剣を抜き、翼を広げた。



また別の場所で、



「刀をっ!」



刀を探し求めて探し回っていた神原だったが、どこも戦闘で使っていて回収できず、ようやく戦闘が終わったカイに事情を話しテンが持っていた刀を受け取った。


オーバーアビリティ状態のカイはそのまま生流水、生太刀を受け取る。



「あんたも!」


「あ?」



走り出した二人の持つ刀、そして自分がもつ刀を見てニールを見る。


ため息をつきながら、ジャンジャックも氷龍泳、クトネシリカの鞘を抜きニールに向かって走り出した。



そして別の場所で、




「貴方、ニールの子供なんだって?」



そのレミニアの問いに、アリスは頷くこともせず、ただ地面に倒れていた。


その後ろには元神子達が事情を説明し終えた所であった。



「一人じゃこんな大きいの二本も使えないわ。あんた、まだやる気ある?」


「………………うん」


「じゃ、さっさと終わらせましょ。あんたの父親なんでしょ?私もちょっと油断してこんな事態引き起こした後ろめたさは持ってるのよ。ほら」



立ちあがったアリスに、アークスが持っていた刀を渡す。


二人同時に、戦う赤と白の姿を見て刀を抜く。


創音境、七枝刀と白影光、天之尾羽張はその二つ赤と白の光と禍々しい黒を刀身にうつした。


二人は翼を広げ、ニールに向かって飛んだ。



そして別の場所。



「師匠……」


「何、心配はいらないよ。偶には仕事してやらないと、チルがあとで五月蠅くなりそうだからね」


「おい」



リリッドとセルディアがユディスを支えていたところ、突如後ろから声を掛けられた。


後ろに立っていたのは一人の獣人だった。



「元神子から伝言だ。これを返してくれってさ」



突如後ろから投げられた刀をユディスが受け取る。



「君は?それにこの刀……」


「別に誰だっていいだろ?ライって奴がこれをあんたに返してくれってさ」


「師匠、これって――――」


「あの時少女に預けた――――」


「あぁ、雷轟牙…………こんな時にまた私の手元に戻ってくるとはな。何という因果……か」



かつて、少女に託した刀が、また私の元に。


二度と手にすることは無いと思っていたが、妙なことがあるものだ。



「いいわ。また一暴れしてやりましょう。けど一度は引退したんだ。こういうのはこれっきりにしてくれよ」



雷公暴姫、アーレストゥルシア・ユディス。


パチリと指先を雷化させ、まだ力は消えていないと確信する。


雷化は元々この刀に宿る力に依存し、体との相性が合わなければ出来ない現象だ。


自分以外に相性が合う人間は一人おり、その相手に刀を譲ったのだがこれは都合がいい。


後ろで介抱されている少女がライだろう。


大きくなったな。


握った刀轟雷牙、布都斯魂剣を握り、身も刀も雷となる。



「ふん、遅い」



伸びた九つの触手がニールを中心に九方向へと伸びていく。


それは雷となったユディスよりも速く伸びた触手は、唯、早苗、仙、チル、カイ、アリス、レミニア、ユディス、ジャンジャックの九人を絡め取った。


腹や首、腕や足などそれぞれ様々な場所を黒い触手が絡め取り、九人の勢いが削がれた。



「かはっ!?」


「これまた随分と僕が寝ている間に似た刀をつくったものだな。模造刀とはいえ、これではまた十束剣が――――」



触手に首を絞められ、翼の白い羽が散らばった。


それでも刀は放さなかった。


そして触手に刀を突き立ててやろうとしたその時、唯の瞳に映ったのは太陽を纏った風だった。


雲を吹き飛ばし、舞い散った白い羽を舞上げる。


太陽と重なるその影が三つの神器を携え、現れた。


烈風に彩なす太陽の輝きを身に纏って。


烈風の彩輝は現れた。



やっとタイトルが出てきた。タイトルが出てくると終わりって感じがしますね。まぁもうちょっとだけ続くんですけどね。

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