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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『英雄と呼ばれた者』

「あそこに二つのがらくたが転がっているでしょう?」



ニールはそう言って少し離れた場所を指さす。


そこにはバラバラに砕け散った紅い鳥の絡繰りの残骸と焼けこげて腕の捕れた青い亀の絡繰りがひっくり返っている。



「あれは元々人につくられた魔獣でしてね」


「ふぅん。人がつくった魔獣ねぇ……。まぁ生きてる訳じゃないからそうなんでしょうね」



レミニアがフッと笑いながら、もう動かない二つの絡繰りのなれの果てを見つめた。


空中で大破した紅い鳥の絡繰りなど、もはや原型すら留めていない。


巨大な金属や木材の塊が周囲に転がっている。



「あれらは本来四つ存在していましてね、ヨン、ゴ、ロクと共同で改造したときに分かったのですが、あれは最初につくられた試作品とも言うべき型番のようです」


「あれが試作品?見たところ結構な力を持ってたみたいだけど」



人があれをつくったというのは恐らく本当なのだろう。


だが、あんな大きな物体を飛ばしたり動かしたりする技術は現在もこの大陸には存在しない。


ならば誰があんなものを、何のためにつくったというのだろうか。


レミニアも流石にそこまでは知りはしない。


目の前の吸鬼に比べれば長生きをしているとはいえ、何でも知っているという訳ではないのだから。



「わざわざ中身を改ざんして暴走させてまでスペードルトを殺したんだ。ただの人間くらい一ひねり出来ないようじゃ此奴は生まれてきた理由さえ果たせないよ。まぁ殺したまでは良かったが、まさか命令を完了させた後逃げられるとは思わなかっ――っと、人の話は最後まで聞くものだよ。お母さんから習わなかったのかい?」


「黙れ!妹を殺したのはお前か!!」



激情に身を任せて飛び込んできたのは永久守護のクローバート・ダウトローズであった。


腰に携えていた短い剣を常人では追いつけぬ速さでニールに斬りつけるが、それを難なく指で挟んで止めてしまう。



「おや、もし真相を知りたければ黙れというのはおかしいと思いますがね。それに斬りかかって殺そうとするのもまた良い手段じゃ無いと思いますけど。死人は喋りませんからね。あぁ、ゼロは喋ってましたけど」


「ふん!お前が妹を殺したって事実があれば、私にはそれだけでいいんだよ!黙って死ね!!」



強烈な蹴りがニールに迫る。


細い足腰でよくここまでの威力とスピードが出るものだとニールは関心しながらも、その足を空いている方の手で受け止める。



「あの方は優秀でしたよ。連鎖思考のスペードルト・ポーカードル。父より授かった命を必至に遂げようと頑張ってあの四神絡繰りをつくっていたのですから。その知識は僕を虜にした。だから取り入った」



ピクリとレミニアの表情が崩れた。


突如過去を語り出すニールに対し、掴まれたままのクローバートは身体を捻って回し蹴りを頭部に放った。


彼女の足を離し、それをサッとかわして両者は距離を取った。



「流石は四天皇の一角、とでも言うべき思考を持っていましたよ。何せこの僕がかつて唯一師匠と尊敬した人物ですからね。似てはいますがあの人はダイヤレスさんとはまた少し違う能力でしたね。貴方の力は知らない事を知る能力だとすれば、あの方の能力は知ったことから連鎖させていく能力でした。答えを直接導き出す貴方とは違い、ちゃんと思考の次に答えを導き、そこからまた新たな思考を生み出す方でしたね」


「師匠?どの口がそれを言う!!」


「まぁそうですね。弟子だったとはいえ最終的には私はあの方を見限りましたから。僕を吸鬼と知って破門しましたから、そんな人種差別するような相手を師匠と崇められるほど僕は自らの種族を悪く思っていませんからね。幸い、思考は素晴らしい方ですが力となるとどうしてこうも弱い」



落ちていた小石を拾い右手をグッと握り、そして開く仕草。


バラバラになった小石の欠片が尚も増え続ける闇の中へと落ちていく。



「それに、妹、といいましたか?」



ニールがニッコリと笑みを浮かべながら構えをとるクローバートはハッと表情を変えた。


あからさまにまずいという表情だった。



「ダウトローズにポーカードル。おかしいですね。名字は違うのに貴方はあの方を妹、と。義妹?いえ、そもそも人間のくせにあなた方四天王は何故そのような異能をお持ちで?吸鬼である僕たちと違い、人はそのような力を持たぬ存在でしょう?僕の実験では一度もそのような反応を持った人間はいませんでした。それに、貴方もしかり、あの方もしかり、何故魔女は何故皆白髪なのでしょうかね?まるで吸鬼の用に」



クローバートはチラリ、と視線をダイヤレスに向けた。


その視線を向けられたダイヤレスはただただ無言で静かにニールを見つめていた。


そこで思い出したようにニールは四天王の話題をだした。



「そう言えば四天王のシェリアさんやアルデリアのチル・リーヴェルトも確か報告によれば異能を持っていましたね。後は赤に僅かに白髪の混じったシェルヴァウツ、緑に同じく白の混ざった髪のホーカー・セインも異能持ちでしたね。そして六天の魔女、ハートウィッチも。もしかして、あなた方は吸鬼の血を引いていらっしゃるのでは?」



その推察に、どこからともなく拍手が鳴り響いた。



「おめでとう。その回答に行き着いたのは今のところ君だけだよニール・メルストン」



レミニアだった。


黒い翼が嬉々と揺れている。


表情は驚きと笑みが入り交じっており、その表情にニールは顔をしかめる。


まるで見下されているかのようだ。



「ククッ、白髪は何処かで吸鬼の血が混じっている証拠だ。とはいえ薄まれば人間は髪に色がつくし純血じゃなくてもその吸鬼の血が強ければ髪は自ずと白くなるわ。彼ら彼女らの身体能力の高さや異能の欠片は吸鬼譲りよ」



なるほど、とニールは思った。


自らの見抜く能力は意識をしなければ見抜けない。


何を対象として見抜くか。その定義が無ければ相手の事は何も見抜けない。


例えば相手を見て見抜きたいと思うだけでは見抜けない。相手の能力を見抜きたい。相手の扱う魔力の種類を見抜きたい。といった具合に何を見抜きたいかと意識をしなければ見抜けない。


これまでで見抜けなかった事はただ一つ。いつ死ぬか。それだけはどうやっても見抜けない。


それ以外の殆どのことは見抜けるとニールは自分の能力を評価している。


だから、目の前の存在が吸鬼であるか。それを意識しないとその答えは見抜けない。


問いがなければ答えは見つけられないものなのだ。


何時の世も。


だからこそ恐かった。


自分の力は見抜く力。


問えば殆どの答えが手に入る。


だから自ら思考して答えを導き出すという事はしたことがなかった。だから考えるという事に憧れた。



――私は君が羨ましいよ――



「とはいえ――――」



脳裏に浮かんだ、あの人の声がレミニアの言葉に掻き消される。



「彼女たち魔女は君たち吸鬼とはまったく起源を別にしているからね。そこのところを同じだと思うと手痛いしっぺ返しを食らうよ」


「起源が別?吸鬼の起源は一つじゃない、そう言ってるのかい?」


「えぇ」



そんなはずはない。


我が元に集った全ての吸鬼のサンプルは手に入っている。


身体を構成している要素はその起源を一つだと示している。


自分を含め、ヨンもゴも、ハチもテンも、すべてその起源は一つ。オリジナルとも言うべき最初の吸鬼の特徴を備えている。


ゼロ。


吸鬼は最初に生まれた原初の吸鬼、ゼロによって生み出された種族だ。


全ての吸鬼はゼロと人の女が交わって生まれた。そうして確立した吸鬼という種族同士の交わりによってこの血はそれ以上薄まらないようになっている。


ニールはその第二群と呼ばれる子供である。


つまりニールはゼロの孫にあたり、ゼロはニールの祖父にあたる存在になる。あまりそんな実感は湧かないニールであったが、それだけは事実である。


現在吸鬼の原初に最も近い存在は自分であるのだから。


ゼロの子供同士が交わり、そうしてニールは生まれた。


だがその子供の産んだ吸鬼は種族としての安定を得たのか長寿、そして翼と白い髪を特徴とした吸鬼という種族の大多数となった。これが第三群と呼ばれる吸鬼である。


第二群にはニールを含めれば五人の兄妹がいた。


ニールは一人人里で暮らすことを命じられた。


そこで出会ったのが一人の女性だった。


名前をスペードルト・ポーカードルと言った。


数年間、彼女を師匠と仰ぎ、そして殺した。


丁度その頃だったか。空に穴が空き、奴らがこの大地に降り立ったのは。


大陸全土を巻き込んだ戦争が終わり、村に戻る頃にはその兄妹達は子供を残して息絶えていた。


戦死、といえば聞こえはいいかもしれない。


大陸を二分するような大戦争。ゼロも、ニールの親達も、そしてニールと兄妹も戦争に参加した。


異物として扱われていた存在であった吸鬼という種族は、突如空から降り立った侵略者に対して人間と同盟を組んだのだ。


吸鬼は人間社会での権利を手に入れるため。人間は吸鬼の力を戦争の戦力として使うため。互いに手を組んだ。


そう思っていたのは吸鬼だけだったらしいが。


兄も、姉も、弟も、妹も、皆すでに子供達によって墓石の下に埋葬した。


そしてニールは求めた。


自らは何時死ぬのかと。いつ死ねるのかと初めて問うたのだ。


人に見捨てられ、残されていったこの兄妹の子供達はいつ死ねるのかと。


求められていない。この大地に存在するべきではない存在。ならどうすればいいのだと。


誰がその問いに一体誰が答えられようか。それに答えを出せる存在なんてそれぞれ自分自身しかいないというのに。


ただただ、泣いた。


そしてニールは異変に気づく。


かつては英雄と湛えられたゼロが残したその刀を手にし、そして魔獣を封印していた岩へと駆け寄る。


絶対に壊してはいけないとゼロに言いつけられていたその岩の前で見つける。


あの時逃したあの二匹の魔獣を。


無我夢中に振り回し、そして倒れるニール。


そこにあいつが現れた。


ゼロだ。


ゼロは言った。


この子らは我が育てる、と。


勝手にしろ、と思った。


今更、兄妹が皆死んだ今のこのこと出てきやがって。


殺してやろうかとも思ったが、それを実行すれば間違いなく自分は殺されるだろ。


最初の吸鬼は血の薄まった自分のような中途半端な存在ではなく、ただただ黒の魔力の塊のような男である。


そしてゼロはその子供に一から十の数字を割り振る。死んだ者に関してはこんどはそれらの間に生まれた子の名を入れていく。


そうして今の集団が出来ていく。


時にはわざと隔離して育てたり、わざと優しく手を差しのばしたり。


理解できない。


そこに愛情は無い。


何故道具に育て上げようとする。


死にたくない。


老いたくない。


あんな、吸鬼を道具のような目でみる存在になりたくない。


問えば答える己の力。


あぁ、自分は不老になりたい。


死にたくない訳じゃない。


ただ、この今の感情のまま生きていたい。


問えば己の能力は簡単に答えてくれた。


一つ一つ、野草の効力を見抜き、数年をかけて不老のクスリを作り出したニールはそれ以来その姿のままである。


その為に犠牲にしたものは決して少なくはない。


そして時は流れ、恐らく第三群の一人がゼロに引き取られるよりも前に村を出ていたのだろう。


名をルシェナールと言い、新たな吸鬼のグループを作り出していた。


子を産んだのか、小規模ながら吸鬼のグループをつくりひっそりと過ごしているらしいとの噂を耳にする。


そんな時、一人の人間を森で拾った。


女はアキサと名乗り、どうやらこの大陸、この世界とは別の所から来たらしい。


ニールにとってその存在は他の何者にも代え難い存在であった。


他の誰もが持っていない。他の誰もが手に入れられることの出来ない。たった一つの貴重な異世界からの贈り物。


こんな最高の材料を前にニールは他の吸鬼や人間などに目が向くはずもなかった。


彼女に吸鬼の血を混ぜ、自分の従者として育て上げてみることにした。


それには上手くいったが、どうも自分は納得しなかった。


強烈に、自分が求めているものではないと感じたのだ。


自分が求めているのはこんな不完全な存在ではない。


完璧。


そう、この血は完璧を求めているのだとニールはその時初めて気がついたのである。


それと同時に人と交わり、その血が半分流れている自分。


それが我慢ならないことにも気がついた。


あの男の血が混じっている事が人としてのプライドを傷つける。


人の血が混じっている事が吸鬼としてのプライドを傷つける。


完全な存在になりたい。


いつしかニールはそう思うようになっていた。


その拾った人間との間に、子供が出来た。いや、つくった。


そうして自分の研究材料にした。


その結果、生まれた子供は現在実験の最終段階、神子化を成功させている。


とはいえ、それは成功でもあり失敗でもあった。


完全なる神子になる為には一度心の器を魔力の溜められる魔獣のものと取り替える必要があった。


水龍を捕らえ、その器を少女の身体に埋め込んだ。


その過程で砕け散った心を、アキサから奪い取った異世界人の心を娘へと埋め込んだ。


魔力を溜める適正を得たアリスはその結果、神子化を果たしニールの研究は完成を見た。


しかしそれは完了ではない。


完成はした。だがそれで終わりではない。


完了。この研究の最終段階はまだ果たされていない。


だから、もう少し時間を稼がなければならない。


このレミニアと魔女二人との対峙は本来なら避けるべき事柄でこのようなリスクを冒す必要はない。


だがしかし、それ以上に気になるのだ。


科学者としての血が、魔女という格好の材料を前に、ニールにそのリスクを冒させる。



「レミニア、いやルシェナールと読んだ方がいいのかな?君は第三群なのか?」


「いえ。先ほども言ったでしょ。私はゼロとは起源を別にしている吸鬼よ」


「オリジナル……原初の吸鬼とでも言う気か?」


「そうね。この身体は私の子供の身体だけど、私の意識そのものはルシェナール・カズサそのもの。ゼロが人から吸鬼になった最初の一人であると同時に、私もそのとき人から吸鬼になった存在」


「吸鬼の起源は二つ、という事か」


「同じ人から吸鬼になった存在とは言え、進化の仕方は違ったようだけどね」


「…………なるほど!そこでその魔女が君の子供であると繋がる訳か!!なるほどなるほど。ゼロを起源とした吸鬼の能力とは違う、別系統の異能を手にしているのだな?面白い、解剖させろ!!」



そう言ってニールは腰の短剣を取り出そうとし――――右腕が斬り飛ばされた。


ごとりと闇の靄に埋もれるニールの右腕は肩からスパッと無くなっていた。


ニールはその痛みに天を仰いで腹の底から叫び声をあげた。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


「娘の身体を使う私は娘の力でしか戦えない。でもこの二人の娘は違うわ」



そう言って前に出る二人の魔女。



「何をしたあああああああああっ!?」



苦痛に膝をつくニールの見開かれた両目が二人の視線を行ったり来たりする。


苦痛に歪む血管からサッと血の気が引いていく。


肩から血が絶え間なく噴き出す。


能力を使い、相手の能力を見抜く余裕すらニールには無くなっていた。


これが通常の戦いであったならばこれほど焦りはしなかっただろう。


だがこの場所で今魔力は使えない。



「私たちをあなた達と一緒にしないでもらいたいわ。私はあくまで人間だから」



そう言って腰に手を当てるクローバート。


まだだ。まだ死ねない。


腕まで落とされるとは予想外でしたが、魔女相手ならば何が起こっても不思議ではない。



「ふ、フフ……私には……僕にはやらねばならぬ事があるのですっ!!面白い情報も手に入りましたし、もっと興味は湧きますがこれ以上の時間稼ぎは引き際を誤りかねないですね。ハクダッ!!ゲンコッ!!目の前の奴らを足止めしろ!!」



ようやく与えられた命令に、この地での決戦を少なからず予想していたニールは事前に配備していた二匹の――いや、二機の魔獣に命令を下した。


起動した二機の魔獣は大きな音を立てて雪塊を吹き飛ばし、戦場に飛び込んできた。



「三式白蛇。四式玄虎。かの魔女が残した四体の機獣のうち、私が内部の構造の半分を対魔女用に改造しました。さぁ、あの魔女どもをあそこの老いぼれ吸鬼もろとも殺してしまいなさいっ!!」



雪に埋もれ、ただひたすらに命令を待っていた二機の魔獣は雄叫びをあげる。


白く長く、鞭のように撓る巨大な蛇の絡繰りが闇の靄を滑るように、真っ黒な四肢と巨体を持つ虎の絡繰りが上空の灰色の空と雪にシルエットを浮かべながら、同時に魔女とレミニアを上下から挟撃した。



白い蛇の絡繰りは流動支配という能力を持っていた。


自在に動く蛇のような長い胴体は間接部の結合を自在に固めたりゆるめたりできる。


それによって胴体の衝撃を和らげたり強めたりする事ができた。


が、それに効果があるのは物理的な衝撃によるものだけ。



「ごめんなさい。私貴方に興味が湧かないの。だってそういう気持ち悪い形の、好きじゃないから」



故に、その能力の全容を知ったダイヤレスは身の丈ほどあるような巨大な牙を掴み、背負い投げをするかのように頭を思いっきり地面に叩きつけた。


頭から尾までが綺麗な白いアーチを描き、頭部が地面にめり込んだ白蛇はその衝撃によって動きを止めてしまった。




 黒い虎の絡繰りは牙と爪をクローバートへと向ける。


少女は身動き一つせず、ただただ突っ込んでくるその鋭利な牙と爪を睨み付けた。


それらが彼女に触れる。たったそれだけで人の腕よりも太い牙と爪は砕け散った。


爪も牙も、そしてそれが備え付けられている頭部や腕も、まとめて勢いのまま少女にぶつかっていき、そうしてバラバラに砕け散る。


周囲には触れずして分解した絡繰りの足やら背中の残骸が放り出された。


拒絶の結界は、彼女に迫り来る全てを拒絶した。



「ふん。僕に触れたければもっと強いものを持ってくるんだな。友情とか、愛情とか、そういったものをな」



彼女の結界は来る者を選ばず拒絶する。


能力が発現してからこれまで一度も彼女の生身に触れた者はいない。


家族ですら拒絶するその力を少女は疎んでいる。


しかし、それでもいつかきっとこの拒絶の力を越える力が彼女に触れる日が来るのをクローバートは待っている。


それが友情だったり、愛情だったりという存在である事を彼女は望んでいる。


ただ固いだけの存在などで、彼女の結界は貫けない。


二人の力は魔力ではなく、呪いとも言うべき存在だ。


故に、魔力を操るハートウィッチと違い、この二人の能力は限定されない。





「少し予定より速いが、しかたない」



もはや猶予はない。足止めも限界だろう。


このままでは私は殺されるだろう。


それよりも速く――――


踵を返し、そうして力の塊へと歩を進める。




「私は……神子に……いや、神の力を!!絶対的な、圧倒的な、並ぶことのない力!力!!力をっ!!」



そうして、人でも、吸鬼でもない存在にニールは手を伸ばした。


ゼロの道具を見下すような姿が頭を過ぎり、スペードルトの寂しげな最後の顔が瞼にうつり、アキサの幸せそうな顔が脳裏に溶けていった。




「行かせると思って?」


「邪魔はさせぬ!!」



翼を広げニールに迫るレミニアを迎え撃ったのはアルデリアでの大会でファンダーヌ聖王国を裏切ったアークス・ガランドーラであった。



「人間風情が!!」


「女風情が!!」



その横を二人の魔女がニールの背中目がけて駆け抜けていく。



「魔女用に改造したと言わなかったかな?」



ヌッと姿を現した白と黒の影が二人の後ろに浮かび上がる。


それでもその接近に気づき、反応できただけまだマシだったのかもしれない。



「癪な話だけど、やはりオリジナルには到底及ばなかった。僕のつくったものが何処まで通じるか試してみたかったけど、彼女のつくったオリジナルのひな形を改造したものがやっぱり一番強いみたいだ」



長い尾がダイヤレスの身体を捕らえ、締め付ける。


「ぐっ……!!」



その横で牙を受け止めるクローバートは力みながらも戸惑いの表情を浮かべる。


「何故、拒絶できないっ……!?」



苦痛に顔をゆがめるダイヤレスと拒絶できない事に驚くクローバートを尻目に、寂しげな目を九つの頭を持つ魔獣へと向けるニールは小さく漏らした。




「本当に、癪な話だ」、と




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