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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『使命を見つける者』


腹を満たすために生物はものを食らう。


空腹は、エネルギーを補充するための合図でもある。


故に巨大な九つの頭をもつ龍も腹を空かせていた。


体力、そして魔力を大きく消耗していた魔獣はそれらを満たすためにギョロリとした十八の瞳を全方位に向けた。


小さくとも胃を満たすだけの数が揃った肉、そして元々自分自身の力であった魔力の集合体。


全ての頭が狙いを定めた。





「っく……」



強烈な打撃によって倒れてた早苗が、その瞳を見つける。


一瞬、気が飛んでいたような気がする。


といっても時間など分からないのだから自分が本当に、倒れた後すぐに体勢を立て直せたのかは自信がない。


ただ、無我夢中で痛む身体に鞭打って立ちあがった彼女は闇に浮かぶ瞳と目線が合った。


まずい!と、彼女は右手をポーチに突っ込んだ。


自らがナイフで削って製作した将棋の駒が指先に触れる。


だが、間に合わない!!


暗闇を引き裂き、その琥珀色の瞳に自分の姿が映うつって見えた。


食われる。


その琥珀色の瞳がぐるん回り早苗を焦点から外した。



「剛・天破!!」



その首が、すぐ真横を飛んで大きく跳ねた。


弾け飛んだ血飛沫が大地を濡らし、頭と首との付け根が引き裂かれたかのようにして弾け飛んだ。



「私はねぇ、酔った方が強いのよっ!!」



なんとそこから飛び出してきたのは全身唾液でどろどろになったユディスであった。


右手を天に突き上げた体勢で飛び出してきたユディスは、頭の無い龍の首の上に着地する。



「酒に酔っても、酒に飲まれるなってね」



空っぽになった酒の入っていた袋を放り投げ、腰に手を当てて振り返る。



「お、ちょっと明るくなったんじゃない?」



黒い靄が風に流され始めたのを確認した早苗は、もしやと再度オーバーアビリティを試した。


すると先ほどは出せなかった炎の翼が彼女の身体を包み込む。


いける!と確信を持って彼女は大地を蹴り上空へと飛び立った。


そして高みより魔獣を見下ろした彼女は驚愕する。



「な、なによこれ……」



そこに居たのは先ほどまでの九尾とは全く異なる存在だった。


一つの胴に細く、しかし強靱な四肢に巨大な仮面を付けた尾に胴から伸びる九つの巨大な首が不気味に動いている。


その歪さはまさに彼女がこれまでに見たことのない生物であった。


そして、落ちた頭が一瞬にして朽ち、首の断面から溢れ出ていた血と闇が泡立つ。



「そんな!」



持ち上げられた首の断面に泡立つ黒と赤の中から新たな顔が出現する。


その全身を覆う濃緑の鱗が覆う額には、真っ黒な宝玉が埋め込まれている。


その周囲には沢山の人影が晴れた闇の靄の中に霞んで見え始める。


その人影と対比すると、さらにこの獣の大きさがまた大きく見える。


首だけでも五メートル、いや十メートル近くはあるだろうか。


重心がどこにあるのか、よくそれだけの巨大な身体を支えられている肉体だけはまだ獣であったころの名残が残っている。


鱗に覆われているとはいえ、その肉体はまさしく九尾の狐だったものだ。


その証拠に、尾に巻き付けられていたしめ縄がそれぞれの首に巻かれているのが確認できる。


新たに現れたという訳ではなく、どうやら九尾の狐が変化したものだろうと早苗は判断する。



「化け狐、って事なのかねぇ」



それにしては、変化というよりも――――



「それよりも、魔力が使えるなら私にも反撃出来そうね」



黒い靄が晴れたことにより、あの大きな雪の穴から飛び出すことが出来た。


神子化、つまりオーバーアビリティもまた魔力によって身体能力の強化や拡張といった行為を可能にしている。


それが出来るということは、イコール魔力が使えるという事だ。


ならば、出来ることは沢山ある。それよりも先に、負傷者を遠ざけることが優先だ。



「桜君、一条さんっ!」



眼下に、倒れた黒髪の二人を見つけ早苗は炎の翼をたたんで急降下した。


大地が迫り、翼を広げてそっと地面に降り立った早苗は倒れる二人の側へと駆け寄った。


転がった短剣が空しく戦闘によって投げ出されたものだろうか?


駆け寄ってみると、二人が息をしているのを確認してホッとする。


となれば二人が目を覚まさないかぎり、ただでさえ危険なこの場に留まらせるのは危険だと早苗は判断する。


身体能力が上昇している今、二人の人間を持ち上げることなど女性の早苗でも容易い。


二人を両脇に抱えて炎の翼を再度広げ、ゆっくりと上昇する。


背後では巨大な魔獣が靄の中からその全体像を表したことにより、突如現れた人達と面と向かって対峙していた。


視界を奪われた状態が改善され、魔力も使用できるようになった今、彼らは攻勢に出るだろう。


彼と彼女を安全な場所に避難させたら自分もそこに加わるであろう。


この力が、一体なんの因果で私に宿ったのかは分からない。


だけど、力があるならば戦うのみだ。と早苗は瞳を閉じた。


ゲームの世界で戦ってきたからこそ分かる、ゲームとは違う命をかけた戦いの緊張感。


それは私が追い求めていたものなのかもしれない。


キャラクターが死んだら、生身のプレイヤーは死ぬ?そんな事はあり得ない。


キャラクターが傷を負えば、生身のプレイヤーも傷を負うのか?それも絶対にあり得ない。


何故ならばそれはゲームだからだ。


そこでは意地と意地がぶつかり合い、策略がぶつかり合う世界。それがある事は否定しない。


しかし、そこに命は無いのだ。


死ねば蘇る。戦えば必ず強くなる。そうして武器を手に入れ、防具を手に入れ、新しい魔法を覚え、それが何になる?


私はずっとその答えを探していた。そして気がつけばそのゲームのトップランカーになっている自分が居た。


軍の指揮を取る立場に立ち、沢山の命を実感できる立場に立てば、もしかすれば――――と。


しかし、何度も戦う打うちに気がついた。


まだ自分が満たされない事に。


轟々と心の奥深くで燃えたぎる炎は、まだ足りない。まだ足りないと唸り続ける。


それが解消されたのはつい最近だ。


召喚され、軍師として作戦を練った。


動くのは駒。しかし、ゲームと違いそこには生がある。


心。心臓。意思。魂。


ゲームにはないものが、確かにそこにあった。そして私はその重さを初めて実感する。


重い。とても重い、と。


これまで感じたことのない重さを、早苗は自身の心に感じたのだ。


命ずる口が開けども、出てくるのは空気ばかり。


命の重さを初めてその身で感じた瞬間、早苗の中にあった炎はゴウッと一気に燃えさかった。


不完全燃焼のような気分は吹っ飛び、これだ!と早苗は直感したのだ。


命は常に燃えている。


あの時、あの丘で不死鳥が蘇った瞬間。沢山の命が燃え尽きた。


それと同時に早苗は一つの答えにたどり着いた。


命とは、燃えるもの。燃えている瞬間こそ、命は最大限にその魅力を発するのだと。


私が、一番燃えている瞬間とは何時だろうか?


心を研ぎ澄ませ、ただ一心に行う行為。


そんなもの、これしか無い。私には。



愛だ。


愛しかない。そう断言できる。


仙に対して持っている感情。その感情が燃えている瞬間こそ、私は生きていると命を実感するのだ。


もっと、もっと、もっともっともっと、燃えて、燃えて、燃えて燃えて燃えて!!燃えたい!!



「すぐに戻って、そしてら仙に棋聖って呼ばれた私の力を見せてやる。マゾゲーのトップランカーなめんなよ。ドラゴンなんざ大抵強いボスだけど、結局は倒されるんだよどのゲームでもな!」






「さて、どうしたものか。狐が龍に化けたか?しては歪だな。大抵は尻尾が見えてたり、ってそれは狸か。どちらにせよ、九つの頭に獣の身体と四肢か。キメラかてめーは」



仙は早苗が去った後、一人警戒をしながら九尾だった存在の巨体を眺めた。


特徴的な九つの頭のうち、一つが弾け飛んで人が飛び出てきたがすぐに頭は再生してしまった。


再生能力を持つとなると厄介だ。


再生ならまだ良い方だ。地球にも切断すればするほどに再生、増殖をする生物も居たぐらいだ。何が起こってもおかしくはない。


そもそもゾウやらキリン以上の巨躯でおまけに再生能力持ちの生物をどうやって倒せばいいのだろうか。


焼き殺したり毒殺するのが良いのだろうか?未知の生物なだけに対策が想像つかない。


大勢の人と対峙するその生物を警戒しながらも眺めて情報を集めていた仙に突如声を掛ける存在が現れる。



「神原さん……だったか?」


「え?」



突如自分の名が呼ばれ振り返る神原の目の前には、一人の男性が立っていた。


自分よりかは年上なのは確実で、恐らく三十代から四十代ほどの男性であった。


縁なしのメガネをしている神原に対し、その男性は黒い縁の四角いメガネをかけていた。


しんちょうは170後半だろう。服装はこちらの世界のものだが、それでも半袖のような服から出ている腕はほっそりとした自分に比べれば十分なほどに筋肉があることが分かる。


どちらかといえば運動ができる理数系といった見た目をしている。


そして一番の特徴はその真っ黒な髪。



「初めまして、になるかな。私は稲田健次郎。あちらの世界では教師で中学生に国語を教えていた……と、自己紹介は後にしよう。突然で悪いが私の話を聞いてはくれないだろうか?」



理数系だと思ったが、国語教師ってバリバリ文系じゃないか。俺も見る目が無いな、ってそうじゃない。



「あの、何で俺の名前を?」


「あぁ。バスの運転手だった玄元周平さんという方が名簿を持っていてね。それと、いろいろな伝からかな?まぁそれはいいんだ。君に頼みがある」


「頼み……ですか?」


「そうだ。大至急、この周辺に散っている聖天下十剣の持ち主を集めて欲しいんだ」


「聖天下十剣……ですか?」


「あぁ。この国の武器は西洋風のものに近いが、聖天下十剣は日本刀そのものの形状をしているから多分分かると思う。それらを十本探して此処に持ってきて欲しいんだ」


「え、でも何で」


「あの九頭竜を倒すためだ。僕はもう少し周囲の人に声を掛けてみる。僕は神獣化に成功した事が無くてね。適正が無いのか、センスがないのか。兎に角、剣だけでも集めてもらえないか?」



その真剣な表情に、顔をグッと引き締めて頷く。


何かしら打開策がある、ということだろう。



「分かりました。とりあえず片っ端から声を掛けてみようと思います」


「すまない。私にももっと出来ることがあればいいのだが……」


「いえ、流石にあの化け物の回りをうろちょろするのは危ないですから。こういうのは若者に任せておくものですよ」



裾をまくり、魔力を両手足に集中させる。


周囲の冷気を取り込み、一瞬にして氷の爪が手足に生まれる。


冷たさは感じないが、この吹雪の吹き荒れる環境のなかでも溢れ出る冷気が視界で捉えられる程だ。



「頼む」



その顔は、ただあの巨大な九つの首を持つ魔獣を倒すという使命を持った顔ではない事に神原は気がついた。


あれは、そう。子供の身を案じる父親の顔だ。



「分かりました」



迷い無く彼に背を向け、一目散に神原は戦場を駆けた。


あれは何時だったか。


先ほどの健次郎さんの顔を見て、間違いを犯した自分をぶん殴ってくれた父親の顔を思い起こさせた。


テストで百点を取ってくれたときに、不器用ながらも褒めて頭を撫でてくれた父親の手を思い出した。


しがみつくと暖かくて、その匂いが心地よくて、落ち着けて。


そしてその背中の大きさと小ささを思い知った。


刀の持ち主を見つけられなかったら。間に合わなかったら。早苗や健次郎さんと一緒に行動しなくていいのか?いや、迷うな!


今だけは俺は一切の不安を消し去って戦場を駆けよう。


不安に思うことなんて何一つ無い。どれが正解かなんて関係ない。俺の進んだ道だけが正解だ!


氷の爪が大地を剔り、その身体を加速させる。







「よう!また会ったなぁ仮面の!!」


「吸鬼……っ!!」



崩れた雪塊の上で二人の男が対峙していた。


漆黒の翼を広げた男、そして仮面を付けた男。


両者の間には様々な感情が渦巻くが、それ故かその場の空気は張りつめている。


ある種の因縁がそこにはあるのだから。


あの化け物も気になるが、でも今俺は此奴を相手しなければいけないと直感が言っている。


九尾と呼ばれた魔獣の復活を許した俺は真っ先にあの魔獣と戦わなければならないのに。


どちらにせよ、出会ってしまったからには此奴を倒して行かなければならない。どうせ相手は俺を見逃す気は無いのだろうから。



「また会えるとはな。ちょっとは強くなったんだろうな仮面の?」



懐から抜いた生流水をカイへと向けるテンはニヤリと笑みを浮かべて問いかける。


風王奏を鞘から抜き、吸鬼に向かって口を開く。



「さぁ。どうだろうな。戦ってみれば分かるかも知れないな」


「言うねぇ!っと、そうや自己紹介がまだだったな!何時までも仮面のじゃ嫌だろう?俺はテン・ティニート」


「カイ・ウルクァ。あの時のようには、いかない!」


「いいぜ。この場にはお前より強そうな奴も一杯いるからな。さくっと叩きのめして、強者捜しでもしますか」



今度こそ、倒してみせる。


カイは風王奏を握り締め、そして吸鬼へと飛びかかった。


それと同時に相手もまたカイ目がけて飛び降りる。



「待っててやったんだ。それなりの成果を見せてもらわねぇと、すぐに殺してやるからな」



吹雪を切り裂く水と風の残光が瞬く間に近づき、二つの聖天下十剣がぶつかりあった。




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