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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『動き出す者』

「フ、フフ、これはこれは、思ってもみない副産物です。魔力を放出したかと思えば、それ以上の力に溢れ、進化までしてくれるとは……これぞ、私が使役する聖獣として、いや、私自身として相応しい!」



暗闇の中、ニールが誰にも見えぬ笑みを浮かべて高らかに笑う。


禍々しき力を目の前に、彼の心は最高に高ぶっていた。



「少々邪魔が入りましたが、それもまぁ許しましょう。これこそ、私の力だ……。私が望んだ絶対なる力だ……。永き時をを生き長らえたのもまさにこの時の為!私の研究の集大成は今まさにこの瞬間に完成するのです!!」



パチンと指を鳴らし、吸鬼達が彼の前に集った。


音や光などを外界と遮断しているこの靄ではあるが、どうやら外と中を遮断するだけであり内部の音などはちゃんと聞こえているようだ。



「この靄も後で研究しておかなければ……ね。毒性は無さそうですが」



懐から小さなビンを取り出し靄を詰めて蓋をする。


それをしまうと集った吸鬼達へと振り返る。



「先ほど渡せなかったプレゼントを、今この真に神なる獣に渡して差し上げましょう!」


「誰かを忘れてないかしら?」


「……レミニアですか。もうとっくに家に帰っててたのかと思ったよ」



彼の前に、一人の吸鬼が降り立った。


地に足が着いた時、小さな身体から広がる翼が小さく折りたたまれる。


お互いが見えないにもかかわらず、その視線がぶつかり合うのを二人は感じていた。




「残念だけど、この状況は望んでなかったのだから仕方がないでしょう。それにしても、私抜きでそんな事やろうなんて、意地悪ね」


「いえいえ、君にとっては残念かもしれないが、僕にとってはこれこそ望んでいた未来。ゼロに従っていた従者は全て僕に着いた。イチ・アッカーを殺した君を怨むサン・リィズ。専用の研究所をやると言ったらコロッと着いてきたヨン、ゴ、ロク兄妹とハチ・ウィーカー。ナナ・ラトリは迫害で人を怨み、親を殺したグレアントを怨んでるキュウ・リッツア。強い相手を探すテン・ティニート。どいつもこいつも扱いやすい事このうえない。ちょっとした提案で皆僕に着いた。対して君はどうだい?三幹部は息絶え、残った部下も君に従うというよりは君の母親に従っていた者達だろう?君にどれほど忠誠を誓えるものやら」


「よく喋るわね。よほど気分が良いんでしょうね」


「そりゃそうさ。ゼロと同じ時代に生まれ、これまで長い時を得て探していたものがようやく目の前にあると言うんだよ?」



レミニアが首を落としたゼロは吸鬼の中でも二番目に長く生きている存在であった。


かつての大戦を知る数少ない存在であったが、あっけなく目の前の小娘に殺されてしまっているのだから友人であった自分としては少々複雑な気持ちである。


友人、と言っても相手が命を落として嘆く程では無い。歳も行きすぎると友だった者に対しても涙が出ないものだ。


肉体の老いを止めているせいか、自分はゼロよりも若者気分のままに今を生きている。


それ故に自分と似た境遇、といえば全く違うが若さを保ち続ける最年長の吸鬼を目の前にしてはあまり他人事のようには感じられないのだ。少なくともゼロよりかは。



「後悔するわよ」



その言葉にニールは反発する。


長年の成果を実らせる事を、悔いる結果になると言うのだ。


これ程情熱をかけてきた事を、何故貴方が語れるのかと。



「何故?最強にして全てを支配するこの魔獣の力を手に出来るのだよ!?何故これ程までに圧倒的で素晴らしい力を前にそんな事を言えるんだい!これぞ、これぞ全てを従える王の力じゃないか!知性のない獣に持たせておくぐらいなら、僕が貰うよ!」


「こんな破壊の力を手に入れても、出来ることは破壊だけよ」


「最高じゃないか!何時だって生き物は争いによって欲しいものを手に入れてきた!それが本能だ!交換だなんだとするからおかしくなるんだよ?お金が生まれ、経済が生まれ、物流が、物価が、あぁ、醜い世界だよ。この世は単純明快、生と死の二つしか無いんだよ!?生きるために必要なのは何だ?お金か?違うね、それは力だ。力さえあればお金なんて単なる光る石ころさ。欲しいものがあれば殺して奪う。それで解決できるんだよ?何故そうまでして物事を深くややこしくする必要があるんだい?」


「それにその考えは自らを滅ぼすわよ。貴方より強い力の前に、貴方は跪かなければならないのだから」


「笑止!今でこそあり得るけど、僕があの力を手に入れるまでの話し。あの力を手にすれば僕が最強になる。僕こそが頂点だ、ミレニアム・ヴァンピラー・プリンセスよ。ミレニアムをもじって名付けた名のようですが、フフ、正体を見破ればなんとも滑稽」



その言葉に、レミニアは眉をひそめた。


それを知っていながら……なお私に刃向かうというのなら――



「その身をもってその自らの愚かさを知ると良いわ。ね、ダイヤレス、クローバート」


「ええ。あの少女を私に仕向けて家を壊してくれた、その差し金は貴方のようですねどうも。分かっちゃうから仕方ないです。怨みはないですが、何となくこういう場合は報復するのが正解だと思うのでそうしますね」


「あー、正直、めんどくさいけどね。でもねー、流石にお手伝いしなきゃいけないよねー。一応そういう約束だった訳だし」



二人の魔女が、少女の後ろに現れる。



「魔女が二人ですか……少々分が悪いですねこれは」


「少々?初対面とはいえそれはちょっと自分の力を過信しすぎていないかい?あまり過小評価しないでほしいねっ。これでも、僕もダイヤレスも一応強いよ?」



えへんと小さな胸を張って少女が笑みを自慢げに笑みを浮かべる。



「ほうほう。それこそ自信過剰だと思うんだけど?初対面なのはあなた方も同じだよ。僕の何を知っているんだい?」


「全てを」



そう答えたのはダイヤレスである。



「あぁ、君なら分かるか。全てを知る全知の迷子魔女、ダイヤレス・セブンリッチ。知ろうと思わない限り、何でも分かる能力だったね。確かにそれは強力だ。でも、言い換えれば知りたいことは分からない。それはそうい能力だろう?君がこの戦いに興味を持ち、参加し、君自身の意思で行動すればするほどにその力は弱まる。そういう能力とも言えるね。無知であるが故に全知。永久に見つけたいと思う答えを見つけれない迷子の魔女。あぁ、哀れだね」


「ダイヤレスの自己紹介ありがとう吸鬼くん。じゃぁ僕のことも大体分かるんだよね?」


「えぇもちろん情報は収集済みですよクローバート・ダウトローズさん。幼き日に魔女として目覚め、異端者として村から追放された少女。全知迷子ダイヤレス、六天六面ハートウィッチ、そして永久守護のクローバートといえば現在の三皇の魔女とその能力を指します。全てを知るが故に、知りたいことを知れぬ魔女ダイヤレス。六つの魔力、六つの感覚を自在に操る六人格六面相の魔女ハートウィッチ。そして、全てから身を守る力がある故に永久に孤独な魔女。それが貴方だ」


「おーおー、勉強熱心だことで。僕はずっと氷の中に居たって言うのに、どこからそんな情報しいれてくるんだろねぇ?」


「さぁて。僕には人の頭を覗くことができるんですよ」


「何処までが本当の事なのかしらね?まぁいいわ。信憑性なんて関係ないわ。どちらにせよ、貴方は私たちにボッコボコにされるんだからさ」


「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。僕、勝てない戦いは挑まない主義でしてね。珍しい方々が出てきた事もあるし、じゃあ僕も研究結果を試す良い機会だと思って君に彼らの相手をしてもらおうかな。アークス」



そうして、今度はニールの側から一人の男が出てきた。


槍を携えた年配の男だ。


しかしその筋肉には無駄が無く、その僅かな歩く脚捌きから見ても相当の強者であると予想できる。



「あー、あの大会の時に裏切ったという方ですか」


「否。すでにそのときには心決まっていた。故に、密偵、間諜とでも読んだ方が正しいだろう」


「ふぅん。それこそどっちでも良いってかんじだけど、ねぇ。その腕、義手でしょ?正直なところ人間風情が私らにかなうとは思えないし、そのうえ義手なんでしょ?勝率ゼロだと思うんだけど」



ダイヤレスがまるで暗闇に佇むアークスの腕を間近で見たかのように的確にその違和感を見破った。


その上で、勝ちは揺るぎないものだとアークスに通告する。


しかし、当のアークスはというとその言葉に思わず腹を抱えて笑い出したのであった。



「――ハハハ!!ほう、それも見抜くか!流石魔女どのお見それした。しかし、通常の義手ならば確かに楽に勝てただろうさ。このニール殿特性の義手でなければな」


「その義手にどんな力があるのかは知りませんが、どうやら大人しく降伏をしないあたりかなりその義手に自信があるのでしょう」


「そうとも。僕がつくったこの義手は超特別製!魔女の妨害が入ることは予想ができてたからね。対魔女に特化した義手を作らせてもらったよ」


「私たち用につくった義手?そんなもので結果が変わるとでも?」


「試してみるか、魔女共よ!!」


「上等!バラバラにしてやる!」















チル・リーヴェルトは見た。見てしまった。


巨大な口と牙に、ハートウィッチが飲み込まれてしまうその瞬間を。


暗闇の中、真横に居た彼女が一口に飲まれて消えてしまったのを見てゾッとする。


背中に残るあの衝撃がまだ残っている。


下から伸びてきた首が上へと突き上げながら自分を空中で突き飛ばしたハートウィッチの瞳が闇に消える瞬間を。


天地が分からない状態で背中から地面に叩きつけられたユディスはゴロゴロと地面を転がった。



「ぐっ……」



チルは額に着いた泥を脱ぐい、すぐさま立ちあがる。


あの魔女として恐れられる彼女を一瞬で……いや、私を庇って……?


自らの握る蒼天駆の刃をマジマジと見つめる。


暗闇の中、僅かに納得のいかない顰めっ面をした自分の顔がそこに映っているような気がした。



「師匠を吐き出しやがれこのデカブツ!!」



その時、近くから声が聞こえた。


あの声は確かリリッド・アシェードだったはずだ。


彼が師匠と呼ぶのは……唯一人、アーレストゥルシア・ユディスただ一人。


まさか、あの酔った彼女も呑まれたというの呑まれたというのか?



「クソっ!何が起こってるんだ!?何なんだこいつは!」



真っ暗闇の中、一人叫ぶリリッドの方向へと走り出すチル。


私が、無力だからか?


今、彼女は騎士団のコートを置いてきている。


どんな事象が起ころうとも、その騎士団の団長であることを示すコートを着ている以上は団長として行動しなければならない。


国が分裂したあの瞬間から、そのコートは代々受け継がれてきた勇者の証であった。


それを、チルは今着ていない。アルレストに託したのだ。



『あなたの力を、その剣の力を、私に託してください。これは魔女と隊長という関係での命令ではなく、私と貴方という友人としてのお願いです』



そんなハートウィッチの差し出した手を握ったのだ。私は。


友人、と言ってくれた彼女に対して。


よくもまぁ、初対面で友人だなんて言えたものだ彼女は。


でも、だからこそ、私は彼女の手を握った。


騎士団長という役職には重みがある。その証を脱いでまで駆け付けた私が出来ることがあるというのならば、私は何だってしよう。


今戦っている敵が危険だというのなら。今戦っている敵が友を傷つけるというのなら。


私はこの剣を抜くに値すると判断しよう。



「守るために、私は斬る!!」



駆け抜けろ。


一本の光の筋がチルの剣から真っ直ぐに伸びる。


閉じた瞳は、伸びた光が真っ直ぐに、リリッドの向こう側にいる巨体を捉える。


神の如し速さで、その一点を貫く。



「どけえええリリッド・アシェードオオォォ!!神速、一点!!」



加速した彼女の身体は、脚で大地を蹴る事にさらに加速してゆく。そして叫んだ。



「矢衝白路っ!!」



飛び出した彼女の身体はバネのように弾け、矢の用に一直線に空中を突き抜けた。


空気を切り裂き、彼女自身が真っ白な光のラインの上を飛んでゆく。


飛び退いたリリッドを追い越し、そしてその切っ先が相手を捉えた。



『それは危険だ』


『そいつは危険だね』


『油断もそこそこにしておけクロよ』


『チッ、うっせーな!分かってんよそんなこと!お前らから先に食ったろうか!?』


『やめなよクロもみんなも。まだお腹空いてるんだから』



「なっ……」



再度地面を転がったチルは己の手の感覚に戸惑った。


確実に捉えたはずだ!!


なのに、何故私は地面を転がっている!?


その思考の直後、この場にいた全員の脳内に魔獣の声が響き渡った。


避けられた?どうやって!?


彼女の剣は一枚の巨大な鱗が突き刺さっていた。



『アオもキも目覚めた見たいだし、そろそろ自己紹介しておこうか』


『それがいいそれがいい!』


『聞け!小さな虫どもよ!!』


『我、支配する者。九つの頭脳と九つの魔力を持つ、神より支配者の称号を授かりし者なり』





「九頭竜だと!?九尾じゃないのか!?」



思わず立ちあがった稲田は叫んだ。


九尾の狐だと思っていた相手が、まさか九頭竜だとは想像もしていなかったのだ。


有名所で言えば八岐大蛇が有名であるが、九頭竜も同種という訳ではない。


八岐大蛇は古事記によって現在に語られるが、同じように九頭竜も現代の日本各地に地名や伝承として残っている程だ。


しかし、何故九尾と九頭竜が同一視されていた?少なくとも読み解いた文献には九頭竜のことは一言も――



「稲田さん!?そこに居るんですか!?」


「実か!?大丈夫だ、そっちも無事か!?」



突如聞こえた女性の声に思考を中断して周囲を見渡した。


すると声に反応して駆け寄ってきた湊実が稲田に抱きついた。



「はい。ちょっと脚を捻りましたが大丈夫ですっ」


「っ、そうか。すまないが、だいぶまずいことになったかもしれない」


「どういう意味ですか?」


「九頭竜……というのは聞いたことがあるか?」


「え、えぇ。確か隣の県にもそんな川ありましたよね?」


「あぁ。九頭竜川か。たしかあそこは黒龍大明神信仰だったか。あれは四大明神の一社だったな確か。東の鹿島大明神、南の熊野大権現、西の厳島大明神、そして北を示すは黒と水と四竜の黒竜。って、そんな事よりもだ、今みたいに地域によって伝わってる伝承は一つじゃないってことだ。確か箱根や阿蘇山なんかにも伝承が伝わっていたはずだ。守護神として祀る場所もあれば火を吐いたり毒を撒き散らしたって伝承も残ってるように、九尾の狐とは比べものにならないぐらいに不確定要素が多すぎるっ」


「でも、九尾の次は竜かぁ。どういう事なんでしょうかね?」


「知りたい?」



二人は突如投げかけられた声に視線を落とした。


そこにはいつの間にか歩み寄っていた小さな少女。実の娘の身体を借りた千尋が見上げていた。



「ゆ、じゃなかった。千尋ちゃん。君、何か知っているのか?」


「えぇ、まぁ。一応私が過ごしていた時代はまだ妖怪やら神やらが力を保てていた時代だから」


「そうか、君は確か平安時代の――」


「あの子の事も知ってるの。小さな子狐の事も」


「子狐?」



少女は一瞬悲しそうな顔を見せ、それを掻き消して笑顔を浮かべた。



「うん。私の友達」








『じゃあそろそろ分体の我らを食ろうて力を取り戻すとするかの』


『全く、あの時は玉と獣に分離させられるとはおもわなんだ。それにその原因となった刀がまた此処にあるというのも何の因果か』


『確かに偶然にも玉も獣も、全てが此処にそろうておるようだ!未だに僅かに力を取り戻せたのはクロとスイのみだが、それも時間の問題』


『さぁ、ゆるりと食ろうてしまおうぞ。我らは腹が減った』



巨大な前足がズン、と歩を進めた。






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