『心は二つ、身は一つ』
「っと、危ないわねっ!」
真横を通り過ぎたレーザーがまた一本、雪に深く線を刻み込む。
巨大亀から飛んできたレーザーを避けた唯は天高く吹雪の空へと舞いあがる。
すれ違うかのように、真っ赤な翼を広げた早苗が真上から急降下し巨大亀に突っ込む。
足に纏わせた魔力が巨大なかぎ爪を象り、その両足で巨大亀の頭部を狙う。
しかしあと一歩、あと一歩で届くといったところで早苗は無理をせず軌道を反らし、亀の背後へと飛び去る。
「見えた」
これまでのレーザによる攻撃を観察していて分かったのは、この攻撃の恐怖というのは回転する頭部とレーザーの組み合わせにあった事を把握した。
スピードと威力は高いが直線にしか飛ばない欠点を、あの巨大な亀は頭部を自在に動かす事によって補っている。
プラス遠心力か、それとも追尾性能があるのか、僅かにではあるが軌道がずれるという事も分かった。
そしてその射程の死角は、恐らく上下、亀の真上と真下だ!
宙返りをし、そのまま地面に向かって急降下した早苗は地面すれすれで体の向きを反転させる。
そして一気にスピードを上げ、積もり始めた雪を再び舞上げる。
スピードに乗ったまま早苗は右足を突き出し、直立する巨大な亀の円錐形の足目がけて突っ込んだ。
いける!捉えた!
ガゴゴンッと音を立ててぶつかった早苗は魔力のかぎ爪で二足歩行の巨大亀の背後から足を鷲掴みにした。
そして突っ込んだ勢いで巨大な亀のバランスを崩しにかかる。
炎の翼を広げ、そのまま上に向かって力を込める。
「っでぇい!倒れろおおっ!!」
ぐらりと揺れた巨体が傾いた瞬間、早苗は足を放し僅かばかりに距離をとると今度は思いっきり腹部を蹴りつけた。
いや、その蹴りが直撃しようとしたその瞬間だった。
腹部が、開いた。
……開いた!?
「な、にぃっ!?」
急ブレーキを掛けるが、巨体を蹴り倒すために全力で加速していた早苗の小さな体はすっぽりとその開いた亀の腹部に入ってしまい、そして開いていた腹部が閉まってしまう。
その様子を見た唯と仙は一瞬口をあんぐり開けたが、その後同時に早苗の名前を叫んだ。
しかし、その声は早苗には届かない。
その傾いて制止する亀の頭部に、小さな影が翼を広げ降り立った。
「何、ここ……」
真っ暗な亀の内部に入ってしまった早苗は、自らの炎の明かりによってその巨大亀の内部を見た。
ゴウンゴウンと音を立てて、無数の歯車が回っていた。
「から……くり……?」
「いっえーす!そのとうりなのさーっ!!」
突如、その巨大な亀の内部に子供の声が響いた。
「僕の名前はヨン。よろしくねおねーさんっ。」
「私の名前はロク。初めましてー」
少年の声の自己紹介の後、少女と思わしき声が聞こえてきた。
やけに声が響く亀の内部だと思いながら、声が何処から聞こえてくるのかと周囲を見渡す。
しかし、どれだけ見渡しても回る歯車しか見えない。
「ということで、お腹の中のおねーさんや外の二人には今からゲームをしてもらいまーっす!いっえーい!!」
「ということで、って、どういう事だコラ」
そんな早苗の疑問すら聞く耳を持たず、少年は勝手に説明を始めた。
「僕たちは今、こいつ、えーっと、正式名称そーきにごー、べにづるさんごーを操作しているんだよ。生物が乗り込んで動かす魔獣なんて凄いよね!いくら僕やロクが技術職でもこんなの想像もしなかったよ。昔の人ってすごいねー。んでえっとね、それでこの二匹の魔獣で今から君たちをぶっ殺すから、君たちは頑張ってこのそーきにごーと戦ってね!」
「は、おいちょっと待て。ぶっ殺すって……」
ゴゴン、と大きな音を立てて何かが“はまった”。
巨大な歯車が一つずれ、二つずれ、そうして巨大な亀は再度動き始めた。
その内部で炎の翼を広げる早苗は舌打ちして周囲を見渡す。
「ってお、おい……糞っ、説明もなしかよ。逝ってよしってか、けっ。餓鬼のくせに、ああもうっ、子供に手をあげる私は最低だな。いや……」
それでも、仕方がないなら私は鬼になろう。
私は、子供を叱れぬ大人であった覚えはない。
そういう大人になるつもりも、無い!
「熱い、力が……っ!!」
炎の翼が、まるで彼女の心情を表しているかのように轟々と燃えて彼女を包み込む。
これが、怒りか。
もし彼らが私より年上でも、それでも私が過ごした世界ではあんなのはただの餓鬼だ。
見た目じゃない。年月でもない。力でも能力でもない。ただ――
「その中身が、糞餓鬼だってんだ!」
握り拳を打ち合わせ、両腕に炎を纏わせた早苗は真っ暗な天に向かって叫ぶ。
「ちなみに、君たちが僕を倒せば人質は返してあげるね。それと中には魔力を跳ね返す作りになってるから、彼女が神子の力で出るのは無理なので変な期待とかしないように。それじゃぁはじめーっ!」
それだけを言い残し、足下の扉を開けて内部に乗り込んだ少年は巨大なカラクリを操作し始める。自動操縦を手動操作に切り替えたその瞬間だった。
『だ、だめ!!』
何かが砕ける巨大な音と共に、空気が震えた。
無線でカラクリの内部にもう一体のカラクリに乗り込んでいるはずのロクの声が響く。
「え?」
ヨンが亀の頭部を操作して音のした頭上を見上げた。
巨大な破片がカラクリの亀と仙と唯の間に落ち、2メートル程の巨大な破片は地面に突き刺さる。
何が起こったのだと二人も灰色の空を見上げた。
巨大な翼は根本から砕け、更に巨大な右翼の本体が降ってきた。
その破片の隙間を縫うようにして飛行する影が体勢を崩した深紅の鶴のカラクリの上に飛び乗った。
細長い首の上に、一匹の獣が翼を広げて爪を立てる。
「あれはっ!」
見覚えがあるその姿に、唯は思わず仮面を外した。
間違いない。唯は一度彼らに会っていると確信し、また驚いた。
グリフォンは高らかに雄叫びをあげ、上体を持ち上げたかと思うと体重を一気に前足を振り下ろしその細い首へと叩き込む。
小さな破片がはじけ飛び、グリフォンから飛び降りた人影が隙間が空いたその隙間へ槍を振り下ろした。
が、細いとはいえ幅は2メートル近くある首である。一撃では貫通出来ず槍を抜いて再度攻撃しようとした時だった。
『まだよ!』
ロクの声がヨンの乗るカラクリへと響いた。
巨大な片翼の鳥はぐるりと背を下に向けると、グリフォンは驚いて振り落とされるように空中へと投げ出された。
一方、首に槍を突き刺した人影は突き刺さった槍を掴んだ状態でぶら下がっている。
『落ちろ!』
巨大な魔法陣が片翼のカラクリから広がった。
ヨンは慌てて叫んだ。
あんな状態でカラクリに仕込まれた重力操作の魔術を発動させてしまえば……。
「止めろロク!そんな状態で重力を弄ったら!」
『きゃっ!』
案の定、亀裂から一気に首が折れて投げ出された男共々カラクリの残骸が落ちてゆく。
その紅い鶴を中心に広がっていた魔術は自身の体の崩壊と共に砕け散り光の残滓が吹雪の中へと消えていく。
投げ出された男を見て、その下にいた唯は仮面を付け直し真っ白な翼を広げた。
吹雪に逆らうかのようにして瓦礫をさけながら唯は落ちてきた男性を抱きとめた。
「うお?」
「大丈夫ですか?」
驚きの表情でお姫様だっこされた男性はキョトンとした目を仮面に向けた。
「ろ、ロク!」
最も大きな残骸が大地に叩きつけられ、さらにそこへ幾つもの破片が落ちてくる。
ロクと呼ばれた吸鬼の少女が乗り込んでいるであろう頭部を巨大な亀が受け止めた。
その頭部に無数の亀裂が入る。
といっても、ひび割れのような亀裂ではなく、溢れ出る黒い光が鋭い亀裂が縦横無尽に紅い頭部を切り裂いた。
そのバラバラになった頭部を少女の小さな腕が弾き飛ばす。
「む、無茶しないでよロクぅ……死んじゃうかと思ったじゃん」
「ごめんねヨン……」
項垂れるようにして少女は頭を下げた状態で翼を広げる
「悪いのは全部、全部あいつんなんだから!謝ること無いよ!」
「そうだよね。私たちは二人で一つなんだもん。一緒になれば誰にも負けないよ!」
「そうだそうだ!なのにまったくもうなんだいなんだい!なんで揃いも揃ってみんな僕たちのおもちゃを壊すんだよ!?」
ヨンは吹雪の中、純白の翼と黒の髪が舞うその姿を見上げた。
仮面の奥の表情は分からないが、巨大なカラクリの中に居るゴと視線がぶつかり合ったのは分かった。
それを合図にするかのように、両者が動いた。
いや、動こうとした。
「わりーな。悪ガキは大人におもちゃを取り上げられるって相場が決まってるんだよ」
突如大きな衝撃が巨体を揺さぶり、亀の腹部が弾け飛んだ。
歯車と巨大な扉がバラバラになって腹部から飛び出す。
その暗闇の中から、破片と一緒に飛び出してきた人影が巨大な炎の翼を広げ、白銀の雪を燃やしながら制止する。
紅蓮を纏うその女性は漆黒の瞳に巨大な影を映す。
「魔力を跳ね返す仕掛けとかなんとか言ってたが、一体何年間動かしてなかったんだ?術式が刻まれた中の木の歯車、もう殆ど腐ってたぞ?」
刻まれた魔術式は朽ちた木と共に早苗の炎に焦げ落ちた。
人工の神子を作り出すために、私の魂は切り取られた。
暗い施設の奥深く、鍵の掛けられた何もないシンプルな部屋。
赤子を抱く黒髪の女性は目の前の男に向かって叫んだ。
「貴方、本気で言ってるの?」
「当たり前じゃないか。アリス・メルストンは僕ニール・メルストンと君の子なんだよ?どう使おうとかってだろ?」
「私のことは子供を産む道具とでも思ってたのかしら?」
黒髪の女性が怒りを殺した声で叫ぶ。
「いやいや。君のことは愛しているし、僕たちの子の事も愛しているよ。ただまぁ、僕も無から命を生み出すっていうのは流石に抵抗はあるんだ。それは禁忌だからね」
「何が禁忌よ。命を弄ぶ事にどう違いがあるっていうの?」
「言い方が悪いなぁ。進歩、進化の為の実験と呼んでもらいたいね。まずは宝玉を手に入れて比較的肉体が強い龍種でも捕まえて実験するさ。それが成功して僕の仮説が正しい事を証明できたら次はその子で試すつもりさ。なんといっても、僕の血を半分は引いているからね、適合性を試す意味でも申し分ない試験体なんだよ」
「結局は貴方のわがままに付き合わされたって事なのかしらね。私も、生まれてきたこの子も」
「酷い言い方するなぁ。あんなに僕を心から愛してくれたのに、今じゃ疑心と憎しみと、悲しみしか感じ取れない」
「一体私の何を愛していたんだか。貴方ご自慢の能力も、これだけ壊れた心じゃ読み取れないみたいね」
「あ、自分の感情がグチャグチャだって理解はしてるんだ。じゃぁ大丈夫みたいだね」
「何が大丈夫なのよ」
「あぁ、こっちの話。安心していいよ。僕が折角異世界からの迷い子の体と心を手に入れたっていうのに、そんな貴重な試験体をみすみす捨てる訳ないじゃないか。イチ、アキサを縛っておいて。アリスは僕が預かるよ」
「ちょっと、やめてよ!あっ、アリス!アリスっ!!」
「君の体も、心も、アリスも、全部全部愛してるよ。だから、大事に大事に有効活用してあげるね。素材を愛して無駄なく使う。それの何が気に食わないっていうんだ。やっぱり理解できないなぁ人間は」
「良い子にしていましたか?」
「うん」
「おー」
小さな子供二人が右手を突き上げるようにして答えた。
すると二人の隣に居た老人が二人を家の中へ戻るようにと言う。
まだ五歳か六歳ぐらいにみえるその少年と少女はクルリと身を翻し家の中へと戻っていった。
「それでは、引き続きアリスのお世話をお願いしますね」
「あぁ、任せてくれ。しかし、いつもいつもすまないねニールさん。我らのような身よりの無い者をこうして集めて世話までしてくれて」
「いえいえ。あくまで自立した村ですから、私は何も関係有りませんよ。強いて言うなら切っ掛けを作っただけにすぎません。その後の発展は全てあなた方のお力です」
「いえ、こちらこそ。我々に、再び家族が出来るなどとは思っておりませんでした。こうして人の温もりに触れるというのも、何でもないようなものこそ価値ある事なんですなぁ」
「あはは。ですから私なんて何もしていませんよ。いや、本当に」
「またまた。おっと、お湯が沸いたようです。それでは、奥様のご意識が速く戻られる事を願っておりおります。あぁっ、走るなシャン、ルオ!」
「ははは、では、この子をよろしくお願いしますね」
小さな幼子を抱いた村長がお辞儀をしてシャンとルオを追って扉を閉めた。
村長宅に踵を向け、ニールはそのまま村を立ち去った。
もう、意識は戻らないんだなぁ。
アキサ、君は今どんな気分だい?
小さな小瓶を懐から取り出し、小さくため息をついた。
「魂だけになっても、まだ君はビンの中でも君は意識があるのかい?見えて、聞こえて、叫んでいるのかい?」
小さな光が、ふわりとビンの中に浮いていた。
散り散りに逃げていく人をイチは薄目で眺めていた。
村は焼け野原となり、そこには何も残っていない。
ニールが現れたのはそんな頃だった。
「終わりましたか」
「えぇ。って貴方がここに来たらまずいのでーは?」
「いえ、いいんですよもう。アリスは無事に?」
「えーぇ。私が村を壊した後、ルオ・カリオンとシャン・アルティによーって北の方へ逃げていきましたよぅ」
「そうですか。あの二人には幼い頃から風の民だと信じ込ませましたからねぇ。ちゃんと信じ込んでアリスに語ればまぁ問題はでないでしょう。魔術で髪の色を変えましたし、三人が兄妹だとばれることもありませんしね。……って、どうかしましたか?」
「いや、なーんでもぉ」
「彼らには私の血が、吸鬼の力が流れていますから。なんとでも生き残れるでしょう」
「そぅかい」
バラバラと崩れた天井を見上げ、何かのモニターのような機械を弄る少年は頭をぽりぽりと掻いた。
光が木々の緑を室内に散りばめる。
砕けた鎖が無惨にも散らばっている。
「あーあ、同化させた途端どっか飛んで行っちゃったね」
「意思をなくして制御には失敗しましたか。ですが、同化によって魔力に影響があったことは確かなのですねヨン?」
「うん。間違いないね。魔力と波長が合わないから多分違うと思う。魔力を弾く鎖が腕力で壊れたっていうより、切り裂かれたっていうのも……ね」
「となると、魔力が神力となった可能性は捨てきれないと?」
「そだね。ロク、黒龍はどっちに向かって飛んでる?」
「南東。ちょうどゼルタール火山の方向に向けて飛んでるわ」
「そうですか。丁度神獣、虹のフウシ龍の方向へ向かって飛んでいるという訳ですか。であるならば、あの結界を破ればほぼ神力である事が確定しますね。咄嗟にイチが飛び乗っていきましたが大丈夫でしょうか?」
「放っておけばいーんじゃない?あれだって結構適当な奴だけど、まさか狂った龍に乗って宝玉を回収するなんて本当に気が狂ってるとしかおもえないよー」
「えぇ。あぁ、それと、くれぐれもぜひこの事はゼロ殿にはご内密に」
「もっちろん。報酬はちゃんと貰ってるからね。同じく裏切り者のイチとサンにも伝えておけばいいかい?」
「そうですね。ゼロが宝玉を集めてくれるというのも、手間が省けるというもの。是非今後とも内通にご協力を」
――どうですかアキサ。貴方はいずれあの魔獣の頂点の器と交わるのですよ。あぁ、想像しただけでもとろけてしまう――
「なるほど、ということは何も適正が無かったというわけでは無さそうですね」
「そうだね。言ってしまえば心に宿る魔力と宝玉の魔力が混ざり合って反発しあった結果があの魔龍みたいなんだよね」
「心と魔力、ですか。また面白い研究結果が出たものです。魔力は心に宿ると言われていましたが、あながちただの教訓や言い回しという訳でもないのかもしれませんね。ヨンとロクには後でお金を渡しましょう」
「うん、いつもいつもありがとね」
「いえいえ。我らに比べ、不遇なお二人の境遇を思えば大したことではありませんよ」
「まぁ同情はそこそこにね。あんまりそう言うの好きじゃないから」
「おっと、これは失礼。しかし、そうですか。魔力と心にはやはり重要な関連性がありましたか。確証が得られたのならばそろそろ試しても言い頃合いかもしれませんねぇ。ちょうど水玉も手に入ったというのもありますからね。成長が楽しみです。っと、その前に水龍を捕まえてきましょうか。自身と同じ血を引くアリスの肉体、アリスの親として肉体に最も近しいアキサの心、そして神獣を除く最強の魔獣の強固な魂の器。心の器をまず捉えよう。アリスの心を壊すのはその次です」
「魔力の乱れを感じてみれば、君は何処から来たんだい?」
小さな黒髪の少女と、白髪の青年が森の奥で出会ったあの遠い日の過去。
握り締めることも出来ない残滓と化し、消えてしまった心。
流れる時の中で恋をした。
貴方に恋をした自分は、もう、居ない。
だから、あなたの好きにはさせない。
この魔獣も、貴方も打ち倒して、私の子を私から解放させる。
「このレプリカはね、何もただ魔力を詰め込んだだけのものじゃないのよ」
『ほぅ?』
突き出した腕をしっかりともう片方の腕で支え、九尾の狐を睨み付ける。
元々九尾の力を狙うニールがアリスに求めたのは、アリスとの戦闘で弱った九尾の力の根元を奪うためだ。
そのために渡されたのは、多少の足しにはなるだろうと渡された宝玉のレプリカであった。
宝玉といっても見た目だけの代物で、元々の魔力は生贄となった水龍の蓄えていた魔力の結晶を球体に磨き上げただけの代物であり九尾の持つ魔力には到底及ばない。
魂がアリスの肉体に宿ったとき、生前の自身の魔力が扱える事を知った安輝早はこのレプリカに自身の魔力を練り込んだ。
「私お手製の魔力を練り込んだ宝玉の欠片を、貴方に打ち込んで内側から吹っ飛ばすわ」
『吹っ飛ばす?魔力を打ち込まれただけで儂が吹っ飛ぶと?これはこれは面白い冗談だ人の子よ!面白い、やってみせよ』
「言われなくとも」
安輝早は水龍の魔力を使った。
今、この肉体は水龍、安輝早という別々の魔力を行使することが出来る。
水龍の神子となったこの体は、水龍のもつ水の魔力と同時に、速さという本質を手に入れていた。
アリスと彩輝の戦いに置いて、同じ龍の神子でありながらその素早さに大きな差があった。
彩輝は風を操る速さに置いて最速であるならば、アリスは泳ぐことに関して最速だった。
付随するかのように、この本質は潜る事ができる場所ならば何処にでも適用された。
それは例えるなら水の中、雪の中、そして土の中でさえ泳ぐことが出来るという力をこの肉体には宿っていた。
アリスの肉体は一瞬にして地中に溶け込んだ。
大地と同化したという感触、それと同時にこの人としての肉体を操り、大地を泳ぐ。
泳ぐ事に関してならば、彩輝すら凌駕するスピードをこの肉体は手に入れていた。
そして、この身に宿ったもう一つの魔力。
元の世界で安輝早は彩輝や唯達同様に魔力を蓄える事ができる性質を宿してこの世界に降り立っていた。
彼女が司っていた魔力は、水でも、火でも、雷でも土でも風でも氷でも、ましてや光や闇、音でもなかった。
この世界には存在しない、あちらの世界にしか存在しなかった新たな魔力。『 爆 』という魔力を安輝早はその身に宿していたのである。
突如大地から飛び出したアリスの突き出した左腕のブレードが、九尾の狐の真下からその喉元に突き刺さる。
弱らせる?そんな生やさしい事をしてあいつにみすみすこの化け物を渡すわけにはいかない。
私が、引導を渡す!殺す!絶対に!
――ゴメンねアリス。貴方の体なのに……これがお母さんの最後の我が儘だから、傷つけちゃうの、許して――
――ううん。これは私も望んだ事だから。だから、一緒に、ね……――
心は二つ、身は一つ。沢山望んでも思い通りに行かないことを指す言葉だけど、文字通り今の私たちみたいね。
貴方を抱きしめたいのに、お母さんに抱きしめられたいのに。
あの人を愛したかったのに、お父さんに頭を撫でられたかったのに。
三人で手を繋ぎたかったのに、みんな一緒に笑いたかったのに。
全く思い通りに行かなかった。
でも、私たち親子は二人で一人。一緒の思いを抱ければ、二つの心を一つの身体で共有できる。一人よりももっともっと強い思いを抱くことが出来る。
これで、断ち切る。吹き飛ばす。二人で、たった一つの思いを乗せて、全部、全部、これで全て――――
「「終わりだあああっ!!」」
腕に渦巻くレプリカの欠片が、暗き闇を照らす光を無数に迸らせた。
瞬間、強烈な衝撃が九尾の狐とアリスの体を襲い、真っ白な視界にアリスと安輝早はどちらがどちらとも分からぬその混ざり合う意識を手放した。