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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『幕間・祝賀会兼晩餐会(下)』





晩餐会が始まり、三十分程が経っただろうか。


それでもまだ異世界組に対する周囲の好奇の視線は冷める事は無かった。


ほぼ王族とその従者のみという空間であるためか、その空気は通常の晩餐会とはまた違った空気が張りつめている。


とはいえ、ある程度無礼講も許されている事もある為か王族同士は私的な会話をそこかしこで交わしている様子が見受けられる。


その中でも特に注目を集めていたのが異世界から来た者達が集まっているグループ、そして女王となったアルフレア自身であった。



「いやぁ、それはちょっと」


「おっと、申し訳ありませんでした」



笑みを浮かべながら、玄元周平はどこかの国の王の話を受け流す。


掻い摘んで言えば、こうして接触してくる者の殆どが異世界の技術をあわよくば聞き出そうとする連中であった。


王ということもあるのか、割と高圧的に話しかけてしつこく迫ってくる者もいればこうして聞き出すのは無理だと早々に悟って身を引く者もいる。



「どうだね」


「駄目ですね。頑なに口を閉ざしております。これでは聞き出すのは難しそうですね」



こんな会話が部屋の隅で行われる事もあれば



「ふん、同じ人型とはいえ、随分とケチくさい民族だな」



などと声を大にして去っていく王もいる


もちろん、こうして合流する以前、つまり彼らがバラバラになって保護されていた時を含めて吐き出した情報は少ない。


彩輝や唯、早苗や神原などは技術に関する知識が乏しいのが幸いしたが、膨大な知識を持つ社会人組の稲田や玄元、佐竹や湊は誰に言われるでもなく口を閉ざすという事を行っていた。


あちらでは科学が、こちらでは魔術が発達しているという状況を知った上で、みだりに向こうの知識をひけらかすことは身の危険に繋がると咄嗟に察知したのである。


もちろん、革命を起こすほどまでとは言わないが、多少なりとも便利な仕組みや技術を保身や人として当たり前なレベルでは教える事にしていた。


それは例えば医療の事であったり、例えば料理の事であったりと、生活向上という面に置いて問題ないと判断した事については知識の譲渡や交換を行ったりした。


しかし、軍事、武器や兵器そのものやそれに繋がるであろう技術については頑なに口を閉ざしていた。


一同に、この世界の国同士のバランス、釣り合いが崩れると考えたからである。


ましてや、ここは日本では無く、殺人や戦争が行われる大陸だ。そのバランスの釣り合いは些細な事で崩れるのである。


加えてこの大陸の様々な場所に飛ばされてしまった日本人がその争い事に巻き込まれるという可能性をも考えた。


つまり、異世界の兵器を生み出す技術提供者、いいかえれば道具として扱われる可能性がある、と。


誰一人として争いは好まない者達だったからこそ、その危険性を十分に分かった上で口をつぐんだのである。


が、一方裏方では彼らを拷問し知識や技術を無理矢理吐き出させるという手もあった。


それが成されなかったのは、日本人達が精霊台を通して現れたという点にあった。


精霊では無くとも、精霊台を通れるのは精霊のみで、その精霊を神と崇める国でそのような行いが許されるはずもなかった。


四人は合流してその事を話し合い、これからもあちらの世界の情報については気をつける事を確認し合った。



「ほういやひゃあ、みんひゃはどほのくひひいはんば?」


「もう少し行儀良く食べてくれませんか佐竹さん」



ガツガツと何かの肉の骨が口から飛び出ている佐竹が三人に問いかける。


その様子を見た湊実は、「あちらの世界の品格が勘違いされますよ」とため息をついた。



「私はフェーミリアスに」



と湊がそれまでいた国を教えると



「俺はここエステルタ」



と横にいた玄元が佐竹がかぶりついていたのと同じ肉を手に取った



「私はフェリエスだ」



その横で稲田が答える



「そして俺がファンダーヌ、か」



佐竹はそう言って肉の無くなった骨をグッと握りつぶした


その様子を見た三人はギョッとする


骨は一瞬で押し固められ、まるで小石のようになってしまっている



「あれ、言ってなかったか?これぐらいのものなら俺、魔術使えるようになったんだけど」


「いやいや、聞いてませんよ!なんですかそれ!?」



まぁこれが普通の反応だよなぁと佐竹が周囲を見渡しても、さして誰もが驚いている様子という訳ではない


魔法が当たり前の世界で、さして珍しくもないのだろう


今使ったのは身体強化の初期の魔術である部分強化である。魔術というよりも、ただ魔力を体の手や足といった部位に集めて瞬間的に肉体を強化する技術である。


属性が関係なく使える便利な技術なので、魔術が使える者は大体これをマスターするのだという



「まだ聞き手の強化ぐらいしか出来ないが。あと、強いて言うなら俺は大地の守護者、創造を司る大土竜の神子らしいんですよね俺。なので・・・ハッ!!」



周囲を見渡した佐竹は丁度いいか、と合掌し、そこへ力を込める。


何をするのかと三人、そして王やその従者達が注目する中で意識を集中させ、ゆっくりとその手を離してゆく


すると両手の間に小さな欠片が生まれた。


今度こそ、周囲の王や従者達が驚きのリアクションをとった。その内の一人、どこぞの国の従者が取り巻きから一歩進み出る。



「サ、サタケ殿、それはもしや“無有精製”でしょうか!?」


「“無有精製”とはちょっと違うわね」



その小さく透き通った欠片が高度をあげると、頭越しにひょいと佐竹の後ろ目がけて飛んでゆく。


その欠片を、手に持った杖の先でフロートさせて留めたのは、まだ幼さが残る少女でありながらこの会議を取り仕切る魔女、ハートウィッチであった。


開けた窓に腰掛け、向こう側に見える夜空の光の一つを手に取るかのようにしてその欠片を見つめた。



「“無有精製”は無から有を生み出す精製だ。現実的にあり得ない。無有創世ならばあり得るかもしれんがそれこそ、神を越えた所業は世界が始まる一瞬、たった一度しか起こらない事だ。覚えておきたまえ。大土竜の神子の能力は創造は決して無から有を生み出す力ではない。古きから新しきを生み出す力。想像を創造する力とでも言おうか。ふむ、なんとも美しく澄んだ魔晶だ」



魔結晶。


その響きが会場を波のように伝わり、大きなざわめきへと変わってゆく。


魔石は他の属性のマナを吸収しやすい土のマナが、純粋なマナを大量に吸収したものである。


これを人は魔石と呼び、魔力の結晶として扱う。が、その魔石が大量に結合し合い、大きな圧力によって押し固められると魔石は長い年月をかけてさらにマナの純度を高めた鉱物“魔晶”となる。


魔晶はそのマナの純度の高さ、そして秘められたマナの量が魔石の比ではない。


ごく稀に、人が立ち入らぬ秘境とも呼ばれるような場所や、太古の文明の遺跡の奥深くから発見される事もある。


大陸一の活火山であるゼルタール火山や、今は死火山となってしまった北にそびえる別名大紅蓮火山群とも呼ばれるアストレキア死火山連峰なんかの地下深くには、この魔晶で出来た洞窟があるのではと昔から密かにトレジャーハンターやギルドではもっぱらの噂である。危険すぎて近づけないのではあるが。


希少性の高さからいっても、値段の高さからいっても、殆ど市場に出回る事は無い。


魔法などよりも、よほどの珍品が突如現れたのだ。この世界の住人にとってはこれが当たり前の反応であった。



「返すよ」



ハートウィッチは杖を振るい、宙に留めていた魔晶を佐竹の元へと飛ばして返す。


パシッと音を立てて魔晶は佐竹の大きな手に戻り、それを受け取った佐竹はそのまま魔晶を握りつぶした。


周囲で、あっと声が上がるが、佐竹は慌てた素振りは見せない。


元々自らの体内にあった魔力をマナへと戻して体外に物体として構築しただけであるため、何もマナが霧散して消えた訳ではなく元合った場所に戻っただけであるからだ。



「凄いですね佐竹さん」



それに、驚きながら小さく手を叩くみのりの頭に、突如先ほどまでハートウィッチが身につけていた、黒くて大きな三角形に尖った帽子が真っ黒な髪の上に被せられる。



「使い捨てるにはおしい存在だと思われないように、とは面白い事を考えるね君」



クスリ、とハートウィッチが佐竹の横に立って彼だけに聞こえるように話しかけた。



「まぁ、やり方は少し雑だけど君たちに対して強気には出づらくはなったわね」


「妙な駆け引きは、俺にはよく分からん。単なる余興ですよ」


「まぁ、そういう事にしておきましょうか」



あちらの技術が提供されないとなれば彼らにとって異世界人は単なる一般庶民と同じである。


強いて言うなら、異世界の思想というものを排除しようとする可能性がある。


なら、すれてられない為にはどうするか。


その為に、彼は今魔晶を具象化させてみた。まだ使える価値があると思わせる事に一応は成功したのである。



「本当に見事だよ。そんな君たちにお願いがあるんだけど、もしよければ精霊文字の解読も頼めないかな?」



ハートウィッチは突如話をそらして、精霊文字の事を彼らに聞き出した。


精霊文字は各地の遺跡は碑文として残されており、解読できた者は誰一人としていない。


それが異世界から来た者達の文字であるという事に、会場はざわめいた。



「精霊文字・・・ですか?」


「この文字、精霊文字は君たちの世界の言葉というではないか。ならば、是非読み解いて欲しくてね」



そう言って集団を割るかのようにして、一際目立つ紅の髪をなびかせた女性が堂々と現れる



「初めまして、というには少し遅いかな異国の客人達。ようこそ、異世界へ。私はグレアント聖王国女王、アルフレアだ」



佐竹達四人がお辞儀をして返し、握手をしてそれぞれが自己紹介をした。



「さて、少し君たちには頼み事があってね、この精霊文字を読み解いて欲しいんだ。ここにその写しがあるのだけれども、是非よければ何が書かれているのかをお教え願いたくてね」



そう言って、後ろの従者に持たせていた山のような紙束の上から一枚手に取った。


その紙を四人に向けて差し出した。



「この精霊文字が書かれた石碑や石版が各地にあってね。精霊はどうもこの文字の読み方を教えてくれなくてね。理由は分からないが、差し支えない内容であるならば教えて欲しいな」



四人はじっくりとその写しがされた紙を見ると、どうやら本当にこれは日本の文字であるらしい。


しかし、佐竹や湊、玄元には何と書かれているのかは読めなかった。


かなり崩れた字体で、何百年も昔に使われていたような文字であったからだ。



「いくつか読める文字はあるけど…」


「読むことは可能ですが、我々がこの世界に悪影響を及ぼすと思った内容に関してはノーコメント、という事でよろしいですか?」


「…もちろん。その条件で構わないよ」



一瞬考える素振りを見せたアルフレアだったが、すぐに顔を上げて了承を出した。


周囲は、これまで解読できなかった文字に何が書かれているのかと静まりかえりその解読を待つ



「どうしたんですか稲田さん?」



突如、顔をしかめてその文字を凝視する稲田に、周囲の面々が顔を見合わせた


稲田が、そちらの資料も見せてくれと、ほぼ無理矢理その資料を読みあさりはじめた



「そう言えば、稲田さんって、歴史の先生なんでしたっけ?」


「でもこういう文字って国語が専門になるんじゃないか?」



などと佐竹と玄元が言い合っていると、稲田は小さく声を漏らした。



「まさか本当だというのか…」実が紙に何が書かれているのと聞いた


振り返ることなく、資料を読みながら彼は答えた



「これを書き刻んだのは・・・間違い無く日本人だ。それも、今の時代の日本人ではない。平安時代の人物だ」


「へ、平安ですか!?」


「平安時代末期の武将にして、上総国かずさのくに、現在の房総半島の北を掌握する武士団の長だった人物で当初は平家に与していたが後に頼朝に加勢した人物で名を上総介広常かずさのすけひろつね

平広常たいらのひろつねという人物がこれを書いたらしい」



よく見れば、それらしい名前が書かれている。しかし稲田を除く三人は今一ピンと来なかった。



「あんまり聞いたこと無い名前だな」


「授業で習った覚えは無いな。清盛とか頼朝に比べると」


「そうですね」


「確かに、そんな有名人に比べれば影は薄いかもしれないが、名前は知らずとも、彼が討ち取った者の名はあまりにも有名だ。彼は八万の軍勢を引き連れ陰陽師を軍師として、ある妖怪の討伐を果たす」


「妖怪・・・?」



佐竹はてっきりその相手が人間であるとばかり思っていたため、虚をつかれた。


隣の二人も同じように目を丸くして、妖怪?と首を傾げた。



「たしかサクラアヤキという少年とイチジョウユイという少女が魔獣が封印されているのある地に向かったと言ったな」


「あ、あぁ」



アルフレアが、突如何故彼らの名前が出てきたのかと首を傾げる。



「もし、本当ならば…いや、本当だというのだろうか」


「どうしたんですか稲田さん?」


「………鳥羽天皇が討伐を命じたのは玉藻前たまものまえという妖怪だ」



有名だと言うから、三人にも分かる有名な妖怪、例えば天狗だとか、鬼だとかそういうものを想像していただけに、なんだそれはと思ってしまった。



「初めて聞いたんだけど、それってどういう妖怪なんだ?」


「玉藻前は、それが女に化けていた時の名だ。若い女の姿であるにも関わらず多くの知識を蓄えており、そしてあまりにも美しい美貌は天下一と謳われた」



女に化ける?


佐竹は、頭のどこかであれ?と思った。


どこかで聞いたことのある話だ。


隣の二人も、どこかで何かが引っかかったかのような表情をしている。


稲田は、その乾いた唇を開き、重々しくその妖怪の名を口にする。



「玉藻前が女である時の名前だとすれば、大江山の最強の鬼酒呑童子、死後大天狗となり災いをもたらした崇徳天皇と並んで日本の三大妖怪の一角を担う妖怪の名は―――そう」



そして彼はそれを口にする



「九つの尾を持つ最強の妖狐、白面金毛九尾の狐」



彼の顔があまりにも真剣であるため、三人は生唾を飲み込んだ。



「この世界に魔法をもたらしたような存在が封印されているのなら、この九尾の狐がそこに封印されている可能性がある」



彼はそう言った。




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