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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『会議・吸鬼』

ハートウィッチによる会議の開催宣言が終わるが、やはりこの張りつめた空気に皆神経を研ぎ澄ませていた


余裕を見せる王もいたが、まだ若い王も中にはいる


そんな若輩の王達はそれでいて中々に達観した表情で会議にのぞんでおり、賢王達は「ほぅ」と僅かに口元を綻ばせる


若いとはいえ、流石国を束ねる王であると


しかし中には愚王もいるようで、国の長がこのような若者ならば我の意見も通しやすいと考える者もいた


が、それを口に出すほどには愚かでは無い事が不幸中の幸いか



「まずは皆様遠い地へのご足労感謝する。開催の地の王としてまずは礼を申し上

げる」



エステルタ国王、ゴーイックが謝辞を述べる


いつ見てもごついおっさんだなーと、アルフレアは自らの父と重ね合わせて見る


どちらもごつかった



「此度の収集に応じてもらい感謝する。時にアルフレアよ。この場の皆を代表し、無事即位がなされたことに、心よりの祝福の意を伝えさせてもらう」



グレアント聖王国女、アルフレアはスッと椅子を引き立ち上がるとその燃えるように赤く長い髪を揺らすことなく洗練された動作で礼をした



「我々個人の意としてはもう少し祝ってさしあげたいところではあるが、ここは会議の場。積もる話や社交辞令はまた後程、即位を祝う祝宴場を設けるのでそこで酒を飲もう。是非飲もう」


「ありがとうございます」



最後の辺りはもう、酒が飲みたいだけのおじさんの会話になっていた


そんな姿を見て、異世界の住民達はまるで飲み会を楽しみにするおじさんのように見えてしまいクスッと笑みを漏らした


そんな緊張がほぐれた彼らの様子を見て、アルフレアも少し気が楽になった



「では会議を始めよう」



二人が着席するとハートウィッチが会議の開始を宣言する



「議題については先刻承知でしょうが、今一度手元の資料を見てほしい」



資料には大きく3つの議題が目立つように書かれている


《吸鬼》

《異世界人》

《帝国》


「初日は最近確認されるようになったという吸鬼についての話し合いといきましょう。この件についてはまずはアルデリア聖王国国王ヴェルナンディア殿から述べて貰うとしようか」



手に持った杖をビッと向けられたアルフレアは静かに頷き立ちあがる



「ふむ。どこから話したものかな。報告によると最初に吸鬼の存在が確認されたのはヘルダ平原での一件でだ。まだ記憶にも新しいであろうあの事件も吸鬼が先導して起こした事件のようでな」


「へぇ、それは初耳ですね」



フェーミリアス聖王国女王、ラスタレスが呟くように発言する


もちろんこの事件に吸鬼が関与している事を知っている国はグレアントとアルデリアのみであるため、彼女だけでなくこの場の殆どの者達にとって初耳であった



「吸鬼の目的は不明ながら、あの黒騎士が生み出したという宝玉の一つ黒玉を所持していたという事である。所持していた元神子から話を聞いたところによると、一度夜盗の手に渡った後、吸鬼が奪ったとの事だ。現在もその吸鬼が黒玉を所持していると思われる。またその黒玉と手懐けたであろう黒龍とを掛け合わせなにやら行っていたという情報もあるが、これについては我々も正確な情報を持っていない。が、一応報告しておく」



そこで話を打ち切ったアルデリアの国王は腰を下ろす


その実験というのがあの激突した二匹の内の一体、暴走した黒龍だという事は全員が察していた



「次の吸鬼出現位置はアルデリア聖王国王都でしたかな?」


「うむ。武闘大会中に乱入した吸鬼の数は四。内二人は成人しており残りの二人はまだ子供だと思われる男女だ。大会中、フェリーに化けた魔獣が襲撃、その混乱を突いて吸鬼は宝玉を奪取しようとするも、居合わせた者達が迎撃。またファンダーヌ聖王国第二王女、エリエル・シェルトール・ロフス・ファンダーヌの側近アークス・ガランドーラが吸鬼側と共謀していたようで商品となっていた宝玉・炎玉を奪おうとするも異の地より来たりし少年と少女がそれを阻止」



その言葉にピクリ、と数人の肩や眉が反応する


席に座りながらも、奥に座す各国の文官達の中に混じった黒髪の者達の様子をアルフレアはチラリと見た


ふむ、やはり気になるよな。などと思いながらアルフレアは再度資料に目を落とす


グレアント、アルデリア、ファンダーヌ、リーナ、エステルタ、フェーミリアス、エルフィニア、フェリエス


只一国、ロルワートを除けば精霊台保持国はこの場に集っている


そしてアストーン、シルカス、イリーユ、ダリア、クレイン、オールベル、シトーレ、マールという大陸の中でも大きな力を持つ国々が開くこの会議


この要の会議は恐らく歴史に名を大きく残す結果になるだろうとアルフレアは予感している


いい意味でか、それとも悪い意味でか


それはまだ始まったばかりなので分からないが、少なくとも彼ら異世界人にとっては良い結果になって終わって欲しいものだとアルフレアは思う


私が知る二名はこの場を外しているが、この場には残りの七名中五名までが集っている


彼らを除けばあと二人が居ないな


彼らに関しての処遇についても翌日話し合われる予定ではあるが、アルフレアですら分かるこの空気


精霊台保持国以外の国からもその好奇の視線は絶えず注がれているように思える


波乱は今日ではなく、恐らく明日か明後日であろうとアルフレアは踏んだ



「――結果、炎玉は守り通したが、吸鬼の戦力はやはり人の力を凌駕していることを実感した。隊長職があれ程集っていながらこういった結果になったとなればやはり吸鬼は我々にとって脅威と認識すべきであろう」


「なるほどね。その力は脅威、か。ま、本気のシェリアともまともに打ち合えるなんて吸鬼はやっぱりどうかしてると思うけどね」



周囲がざわめく


アルフレアもまた驚きを隠せない



「いくら隊長職が苦戦を強いられる相手とはいえ、まさか四天王の一角が本気で打ち合えるというのか吸鬼は」



イレータ湖の事は噂程度には聞いていたが、四天王のシェリア・ノートラックが本気で殴り合ったとはどういう事なのだろう


その四天王の実力をよく知っている者達ほど、吸鬼というその存在に初めて目に見えた脅威を覚えた


今思えばどこかで、四天王ならば、と思っていたのかも知れない



「その話はこちらから報告させて貰います。此処では湖に面したイリーユ、シルカス、フェーミリアスの代表者として報告致します。現場に居合わせた火薬職人、まぁそこの元神子の報告になりますが」



そう言って立ちあがったのはイレータ湖に面したフェーミリアス聖王国女王のラスタレス女王


そこの神子、と言われて指さされたイレータ湖の畔で火薬師見習いとして修行を積む元神子、リク・ヒノトが礼をした



「イレータ湖に現れた吸鬼は確認された数では3人、成人が一人、子供の男女が一人ずつ、です。ですが居合わせた異世界の者達によると、アルデリアに現れた吸鬼とは3人とも別人だという事です。そして謎の巨大な魔獣が一体。これもどうやらアルデリアに現れた魔獣とは別の個体のようです。宝玉の一つ水玉、聖天下十剣が一本『生流水』を湖の社の結界を破り奪っていった模様。また周囲の村々に魔獣の群れが出現。居合わせた冒険者やギルドがこれを撃退。しかし情報によると吸鬼の一人が魔獣を操る力を持つとの事。聖獣、虹魚を封じていたようですが―――」




絶滅したとされていた吸鬼の復活


そして突如現れ、各地で騒動を起こしているという事実に加え、その戦力は未知数


かつて、吸鬼と手を組みながら裏切った我々人に一体彼らはいかほどの怨みを抱えているのか


また彼らの目的とは何なのか


こんなところで話しあって彼らのことがどれほど理解出来るというのか


アルフレアは誰にも聞かれないような小さなため息をついた


とはいえ、無関係では居られない


真っ先に吸鬼が現れたのは自国グレアントの領土の上



「しかし四天王でも倒しきれぬとは、まこと信じられぬような力を持つのだな吸鬼とは」



エルフィニア聖王国の国王、ラフォンクスが呟く


そう、その戦力が四天王に匹敵するレベルだとすればもはや我々には数しか残されていない


流石に大陸全土の兵士全員を集めたとして、その数が吸鬼よりも少ないという保証は無いが、それはあり得ないだろう


だとすれば、個々の強さが我々の一般兵何人に匹敵するかと考えてみようと考え、それが四天王と同等となれば吸鬼に対抗できる者は大陸でも100人居るかどうかというレベルだ


100人程度なら、吸鬼が数百年姿を隠し続けることは不可能では無い


聞くところによると吸鬼は謎の力を有しているという話だ


アルフレア自身も、アルデリアで吸鬼を間近に目撃してる


あれだけの実力者がいながら、結果的に取り逃がしてしまう結果になってしまった


しかし痛手を負わせた事は確か


ならば攻略法も無いわけではないし倒せないわけでもない


吸鬼が絶滅したのは、個々の力が強く長寿であるという反面繁殖能力が人に比べ低かったからであるとも言われている


戦争で大幅に数を減らし、気がつけば吸鬼という存在は人々の前から消えていた


故に、絶滅したと思い込んでいた


その強さは今となってはどれほどの物になっているのかは不明だ


吸鬼の戦力、そして目的が分からない以上こちらも下手に動くことは出来ない


内通者がいない、とも限らないしね




「さて、各地の報告は終わったようだね」



魔女・ハートウィッチは小さくあくびをしながら資料を机の上に置く


この人は何時見てもマイペースな人だなとアルフレアは思った


こんな張りつめた空気の中であくびが出来る人間なんてそうそう居ない


いや、人間じゃなくて魔女だから出来るのか?



「目的は分からないが、共通する事柄を上げてみようか」



誰かがそう言った


そんな事、確認するまでも無く分かっている



「まぁ、宝玉だな」



私が言ったのか、それとも誰かが言ったのか、会議の場にその言葉が漏れる


吸鬼が現れた場所に、必ずと言っていいほど関わっている物


そこへスッと手が挙げられる



「もう一つあるだろう」



そこでラフォンクスが言う



「彼らが、居ただろう」



そこでラフォンクスはこの場に居る五名の男女を指している事は誰にでも分かった



「ふむ」



アルフレアも、そう言えば、と思った


ヘルダ平原、アルデリア王都アクリス、イレータ湖、そのどれもに黒い髪の人間が関わっている


なるほど、そちらの線もあったか


しかし、まぁ十中八九吸鬼の狙いは宝玉である事に間違いは無いだろう


イレータ湖では多少これまでよりも積極的に接してきたそうだが、もし彼らに興味があるならばもっと何か具体的な行動をとっているはず


しかし、各国の報告通りだとするならばそのような様子はうかがえない


どちらかというと、宝玉奪取の方に戦力や作戦を充実させている


ならば彼らに対する優先度は宝玉以下だという事になるだろう



「そもそも、宝玉とはなんなのだ?」



どこかの王がそんなことを言った


確かに、黒騎士が作ったと言われる宝玉が一体何の目的で作られ、どれだけの数が存在するのかはアルフレアにも知らない


その実体は謎に包まれているが、一説には何かの鍵や操作機だとも言われている


そこらの魔石では匹敵できないほどの魔力が込められていると言われるが、その総量は誰にも分からない程である


また宝玉はどのような素材で出来ているかすらも分かってない


ある時、研究者が何をしてもびくともしない宝玉に嫌気が差したのか、ハンマーでかち割ろうとした


が、失敗。しかもハンマーの方が砕けるという結末に


それにも苛立って上位の魔術をぶっ放したらしい


しかしそれでも宝玉は傷一つ負わず、むしろ魔術を放った研究者の研究所が吹き飛んだらしい


一時期、研究大好きな研究大国フェーミリアス聖王国では、研究者殺しとまで呼ばれた・・・らしい。詳しくは知らん



「・・・・そうだね」



しばらく沈黙していた議長のハートウィッチは頷いて立ちあがる


何かを決意する顔がアルフレアには見て取れた



「そろそろ話しても良いのかもしれないな。吸鬼の目的が宝玉で、宝玉の意味を吸鬼が知っていたら確かに困ったことになりそうだし。入ってくると良い」



ハートウイッチは振り向き、そして指を鳴らす


巨大な扉がゆっくりと開いてゆき、其処に立っていたのはアルフレアも予想していなかった面子であった


全身が純白に包まれており、その翼とシルエットが各国の王達をざわつかせた


そして小さな黒髪の少女も其処に立っている



「紹介しよう。神獣の一柱、一角天馬と現神子であり異世界人でもあるオダワラ・ユウヒ、いや、今はチヒロであったかな?」



その姿を見て、黒髪の女性が少女目がけて駆けだした


娘の名前を叫びながら



今年最後の投稿です。


来年辰年もまた面白い小説に出会えますように。


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