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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
120/154

『残された罪悪感の行方』


彼の声が聞こえた










「え、でも・・・」


「そうか・・・仙はまだ・・・。気づけなくて、ごめん。でも、気づいたからにはもうこれは私の役目だな。すまないが、少し下がっていてくれないか彩輝くん」



静かな彼女の気迫に押されて彩輝は神子化を解くと、後ろへと下がった


その瞬間、訓練での戦闘と神原との戦闘の負担が体に一気にのし掛かる


神子化というのは、神子化自体にもエネルギーを使う


変化するだけなら解いた後は怠いぐらいの気持ちなのだが、激しい動き、つまり通常人が出せないような身体の動きをさせるとドッと疲れが体に押し寄せる


とはいえこれも慣れか、倒れたりすることは無かったもののやはり彩輝はこの感覚だけはまだ慣れない



「早苗さん・・・?」


「とどいたよ」



何故か突然目つきが変わった早苗に、彩輝は何かいつもと違う彼女を感じた


強い意志のこもった言葉が、彩輝を問答無用で引かせ、強い意志のこもった瞳が、獣の視線と交差する



「仙、言ったよな?俺をはけ口に使えとかなんとか」



彩輝は数日前の出来事を思い出す


宿で盗み聞きしたあの時の事だろうか


確かにそんなことを言っていたような気がする



「じゃぁさ、遠慮無く私の拳の犠牲になってくれ」



彩輝は恐る恐る早苗の横顔をそっとのぞき込む


笑っている?


どう見ても正気を失って攻撃してくる彼氏を見て、笑えるものなのだろうか?


でもなんでだろう。なんだか嫌な予感しかしないんだけど、と内心冷や汗を流す


何故今この人はこんなにも笑顔で、生気に満ちた顔をしているのだろう



「フフフッ、獣となった君を存分にボコボコにしてあげようではないか!!」



なんでだろう。早苗さーん?


指をポキポキとならしてどうしたんですか突然!?


轟炎が早苗を取り巻く


取り巻く炎は、彼女の背中から伸びる翼の火力をあげてゆく



「ちょ、火強すぎません!?」


「このぐらいでちょうど良いっ!!」



そんなもの、自分が一番分かっていると付け加え、炎がまるで生きているかのように生き生きと燃え上がる


彩輝もあまりの熱さに距離を取って待避した


炎も文字通り遠慮無く勢いを増していく


いくら氷で身を包んだ神原とはいえ、一瞬で蒸発してしまうのではと思わせる程の火力だ


その炎の翼を広げた彼女に、獣はうなり声をあげた



「私とお前なら、これぐらいで、ちょうどだ。懐かしいくらいだ。そうだろう、仙。何、遠慮するな。何せ私は未だに、燃えて燃えて燃えまくってるんだからな!今の私は灼かな不死鳥!豊梨でもないお前が仙を閉じこめるとか、私が許さない!!私の方が、仙を愛してる!!仙の彼女は、私だっ!!だから、お前は私が焼いてやる。お前が、私に妬くとか、あり得ない」


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」



獣が叫び声を上げ、冷気と熱気がぶつかり合い、周囲は水蒸気に包まれた







 それは君たちに、妬かれて焼かれた物語

それは、じわり、じわりと罪悪感が彼を閉じこめる氷の牢を作り出す。そういう、三人だけの過去

氷の狼と炎の鳥と霜の少女の、霜妬けのように、静かに二人の心に罪悪感という罪を背負わせる過去

神原仙、小田原早苗、そして霜野豊梨という少年と少女達の物語





――――――一緒に死のうよ、仙――――――





カサリカサリと、絨毯のように敷き詰められた落ち葉を踏みしめながら歩く帰り道


日が傾く時間帯も早くなり、ついこの前まで夏だったとは思っていた世界はどこへやら


気がつけば肌寒いと、押入から引っ張り出した毛布と扇風機を入れ替えてしまう程に夜は冷え込んでしまう。そんな季節だった


辺りはすっかり椛と銀杏の二色で覆われ、その赤と黄色の葉をオレンジ色の夕日が淡く照らす


そんな夕日が、目の前を歩く二人の女性を照らしている



「ほら、早くしないと置いていくぞ神原!」


「そうだよ」



長い癖っ毛をだらしなく伸ばした少女が手提げを振り回しながら俺を呼ぶ


その少女よりももう少し小さい隣の少女は長い黒髪をポニーテールで括っている


神原の方へと振り向いたそのとき、長いポニーテールがクルリと弧を描く



「置いてけよ俺なんて。女子二人がガールズトークに花咲かせてる所に入る気はねーよ」



恥ずかしいからな、とは付け加えない辺り内心自分はこの二人を異性として見ているのかもしれない


まぁもちろん、男としてはもう少し積極的になるべきなのかも知れない


思春期真っ盛り、では無いと思いたいが、年齢的にそう言われる歳だというのはまぁ自覚していたし、自分もそうなのだろうな、とは思わなくもなかった


異性として見ていなかっただけに、一度そう見てしまったらもう目を背けるしか無いじゃないか


そう考えると、今俺と彼女たちの距離は今のように、一歩、いや二歩も三歩も距離が離れているのだろう


いや、自分が距離を取っているのは分かっているのだ


しかし、距離感が、分からない


友人にそんな悩みを相談すると、「贅沢な悩みだなぁおい!!」と頭をスリッパでぶっ叩かれた


自分にとってはこれが意外に息苦しいのだから勇気をもって相談したというのに、まさか叩かれるとは思わなかった


自らの長い癖っ毛を弄っているのは小田原早苗


もう肌寒い時期だと言うのに何故か暑い暑いと上着を脱いでる


下着の線が見えて思春期の俺には毒だ


いくら見慣れた幼なじみとはいえ、流石に目を反らしたい。じゃないとポーカーフェイスがいつ崩れることやら


そしてその隣が霜野豊梨しものとよりという少女だ


小柄で大人しい少女で何かと早苗と一緒にいるところをよく見る


学業は優秀だが運動が苦手。よく早苗や俺の後ろに隠れる癖がある


その代わりに俺や早苗に勉強を教えてくれているので、なんというか共生のような感じである



「ふん!神原が私たちに気をつかうなんて10年と六ヶ月と三日ぐらい早いわ!」


「無駄に細けぇなぁオイ」


「ほ、ほっときなさい。それよか、ほらほら、寒いんでしょ!もっとくっつきなさいよ!!」


「や、やめんか!?」



早苗はそうやって俺の首に巻いてあるマフラーの端を持ってぐいぐいと引っ張ってくる


もちろん、身近な女性とはいえ密着すれば緊張もする。俺も男だ。ポーカーフェイスを気取っているが、男だ



「・・・・・・近すぎんだろ」



内心、両手に花でラッキーとか思ってるのは死んでも口に出せない


手際よく、俺と豊梨を寄せて早苗が巻いていた超ロングマフラーを三人で一緒に巻く


俺を間に挟んで左右に女子が陣取ってるわけだが、有無を言わせぬ早業であっというまにマフラーで身動きが取れなくなってしまった



「そ、そうだよっサナちゃん!」


「そう?しょうがないじゃん、マフラー短いもん」



いや、三人分巻けるとか十分長いから


そう突っ込みを入れることすら、気が動転して出来ない


俺も初だな


しかし、もう少しなにかいい巻き方はなかったのだろうか


ぐるりとマフラーが首を締めるような巻き方なんだが。おい、引っ張るな、首が絞まる


早苗は鞄からピンク色の小さなコンパクトデジカメを取り出し、俺達三人が入るように腕を伸ばし、そしてシャッターをきった


もちろん、次の日俺は教室で友人達から尋問を受けた


なんだかんだで、彼女たちも美少女という部類に入るのだから、そりゃまぁ気にはなるのだろうな


無心のふりを続けるので、俺は精一杯だというのに


友人達に、俺は苦笑いを浮かべた




 小田原早苗にとっては、三人の友達関係という距離感が当たり前だった


そう思っていた。だからこそ、後に三人の関係はブログや掲示板で例えるなら大炎上してしまったのだろう


 私はガサガサと自分の部屋でお菓子を食べながら霜野豊梨とお話をしていた


俗に言うガールズトークとかいうやつだ


とはいえ、親しい私相手でも、豊梨はあまり自分から話すことは少ない


だから大体は自分が話題を振り、ちょっと乗ってきた彼女を置いていくぐらいの勢いで会話を一人盛り上げる


いや、一人でという事は盛り上げるというよりかは一人で騒いでいただけともとれなくもない


そこで、珍しく私の会話に、彼女が割って入ってきた


今思えば、そこで彼女の声を遮ってでも会話を続け、彼女の悩みを聞かなかった方が良かったのかもしれない・・・と思いかえす事もあったが、それはきっと無理だったのだろう


積み上げた物が今壊れるか、すこし先延ばしにされるかのどちらかだったのだ。彼女の真剣な顔を見て、それを私が断れるはずが無かったのだ



「・・・え?マジ?」


「うん。本気」



自分は意識したことは無かったが、どうやら彼女はそうでは無かったらしい


何が切っ掛けか、何故今言ったのか、そんなことは頭からすっかり消えてしまうくらいに驚いていた


彼女の告白を聞いたとき、少なくともその時の私は素直に喜んでいた



「そうかそうか。にしても豊梨っちが神原を好きだったとはねー。身近に居ても気がつかないこともあるものだね。うむ、よっしゃ!では私も君の恋を応援しようではないか!」


「・・・いいの?」


「良いに決まっているじゃないか!私の友達が好きな奴を見つけたというのだよ!それが例え神原だろうが、それを応援するのが友達じゃないか!」



バンバンとお菓子の粉がついた手で彼女の背中を叩いた


彼女は苦笑いをしながら、私にお礼を言った



「・・・ありがと・・・う」



今にして思えば、あの時彼女の問いかけは、私自身気がついていなかった事に彼女が気づいて聞いてきていたのかもしれない。そう思ったりもする


私が彼女の気持ちに気づかず、自分の気持ちにも気づかず、それでよく彼女に友達だと言えたものだと今にして思う


そう軽はずみな言動をしたあの時の私を後悔しないでもない



「君が彼を好きだと言うならば、私はお前達の架け橋となってやろう!」



そうして私は、神原に好意を寄せる豊梨との間を取り持ってやろうとキューピット役になることを決めた


振り返ってみると、私はまさにデビルであったと言えなくもない


悪魔の所業とはこのことか


少なくとも、その場でもう一つの返答をしていればあんな未来は待っていなかったのかもしれない


が、所詮は過去。起こった事は変えられないし、そんな未来が訪れたとも思えない


私は、あの場で、ああ答えることしか出来なかっただろう


何度やり直しても、あの時本当の感情に気がつかないことにはそんな未来は訪れなかっただろう


そして私は彼と彼女をくっつけるべく奔走した


神原には気づかれないように、私は後ろから策を練って彼女の背中を押してあげた


彼の友達や周辺人物から彼の趣味や好きな物なんかを調査して豊梨に教えてあげたりした


いろいろ教えてあげる度に、彼女は笑ってお礼を言ってくる


そして、彼の話を周りの人達から聞く度に、私の中での神原仙という人物の印象が少しずつ変わっていく


隣の家に住んでいる、生まれてからずっと一緒だった男の子だったのに、自分の知らない彼が見えてくる事に私は嬉しかったというのもあった


彼の話を聞く度に、心が躍るようになっていった


ちょっとしたことで傷ついて、ちょっとしたことで怒って、悲しんで、そして笑う彼の姿が私以外の人達が見てきた彼だった


それぞれ別々の人のエピソードで、所詮は彼の断片なのだけども、それでも私が知っている彼と、皆が知っている彼が一緒だと思うとまた不思議な感じがした


神原への見方が180度変わったとまでは行かないが、斜め45度くらいは変わったと思う


ワクワクしながら、彼の情報を聞き、そして私はその情報を豊梨に渡す


そんな日々の中で、それが芽生える





 最近、幼なじみの早苗が俺の事を嗅ぎ回っているらしい


何を企んでいるのかは知らないが、とりあえず俺の情報を周囲の人から根こそぎ聞き回っているそうな


オタクでありながらその行動力の高さには恐れ入る


そもそも、ゲームやアニメが好きなオタクが引きこもりで社交性が低い、という事自体俺の思いこみなのだろう


理解しよう、とまでは思ったことは無いが、やはりそこには人を引きつける何かがあるのだろう


スポーツも、読書も、お絵かきも、映画も、料理も、人がやりたいと思うことには何かしら人を引きつける魅力があるものだ


極端な話で言えば、性欲や睡眠欲、食欲なんかも欲と言われるだけあって強制的に人間を魅了する


最初はみんなリア充。一体何人の常人をオタクへと転生させるつもりなのだろうか


まぁそんなことはどうでもいいか。後に自身もそちら側に転生してしまうのだから


新聞欄の週間天気に、雪マークが見え始めた頃、灰色の空を見上げながら俺はここしばらく、三人で遊ぶことが少なくなったなと思った


早苗や豊梨と三人の予定が合わない日が増えたため、バラバラに合う事が多くなった


そして、決定的に気がついた事があるとすれば、二人の俺を見る目が以前と変わっているという事だ


どう変わった、と言われても困るのだがどうも前よりもジロジロ見てくる事が多くなった気がする


気配というものはあまりバカに出来ないものだ


視線も、これまでのようなものでは無い事ぐらい俺でも分かる


最初の頃はその視線は豊梨のものだと分かっていた


これまであまり二人っきりになることなど無かったため、俺も少々戸惑っていたのだろう


しかし、よくよく考えてみれば彼女が俺に好意を、友達とかそういうものではなく、恋や愛といった類の好意を寄せているのだな、と気づいた


三人で合うつもりが急に早苗がドタキャンしてきたり、一人先に帰ったりと、豊梨よりも何かと早苗の様子がおかしかった


そして俺の周囲を嗅ぎ回る早苗


考えてみれば容易に分かった


とはいえ、俺は気づかないふりをした


俺としては、このまま二人とは友達という関係を続けたかった


でなければ、早苗を独りぼっちにさせてしまうことになる


俺がもし豊梨と付き合ってしまえば、早苗は俺達に一歩引いて接してくるだろう


現に彼女は豊梨のために俺の周囲を嗅ぎ回って情報を集めているらしい


大方その情報を豊梨に渡して応援しているつもりなのだろう


自分がしていることが、後にどうなるかなんて分かり切っていて、それでも尚豊梨の恋を応援する彼女に苛立ちを覚えた



 俺は独りだった


中学生の頃、俺の周りには友達と呼べる人間は誰もいなかった


一人、私立の中学を受験した俺は毎日電車に乗って隣町の学校へと通っていた


そんな所に知り合いが居るわけでもなく、気がつけば俺一人だけが浮いていた


当時の俺は人と話すのが苦手、というよりは大勢で居ることがとても苦手であると自分に言い聞かせなければ耐えきれなかっただろうと今にしてみれば思う


することと言えば、独りで机に向かって読書や勉強をする事が日々の日課である


ある意味、それは逃避と言えなくもないだろう。いや、逃避だったと断言できる


クラスの知り合いとは申し訳ない程度に事務的な事しか話すことは無かったし、そういう態度を取る俺に近寄ろうとする奴も居なかった


することも無く、勉強や読書ばかりしていれば、勉学の時間を友達と遊ぶ事に使う同学年とはそれは学力の差がついたとしても当然の事である


勉強した分だけ知識はつくのは当たり前


同じ勉強量でも、要領よく覚えた方が多く思い出せるのは当たり前


テストの点もしかり、言われた事以上の事をすれば90から100点台を出せるのは当たり前


つまるところ、俺はクラスの奴らには頭は良いが、気むずかしい奴という印象をもたれていた


独りでいることにも次第に慣れた


ただ、その過程で俺は逃げる癖がついた


面倒くさい


時間の無駄


気づけばそんな拒絶の言葉ばかりを並べている自分がいて、それに気づかぬまま俺は三年生になった


そんな俺にも転機があった


よく覚えている


鉛色の空の日の事だ


俺は、接点も何もない三年生達に袋だたきにされた


殴る、蹴る、そんな方法で俺を痛めつけた


受験生はストレスでも溜まるのだろうか、俺はそのはけ口として目をつけられた


生意気、地味、ウザイ、いろいろと理不尽な理由で俺は殴られ、蹴られ、いじめられた


理由なんてなんでも良かったのだろう


そんなことをする暇があれば勉強すればいいのに、と殴られながら、蹴られながら思った


思うだけ。それがあいつ等に出来る唯一の反抗だった


これが負け惜しみ、というものだろうかと思ったりもした


思っただけ


そこで、俺は初めて思い知った


辛い・・・と


誰かに話す事もできない


相談にも、慰めてくれたりも、何も無い


ただ、其処にいる物だったことに気がついた俺は思った


何と無駄な三年間だったのだろか、と


勉強する暇があれば友達を作ればよかったのだ


本を読む時間があれば友達と遊べばよかったのだ


学生の本分は勉強をすること、と親や先生には言われるがそんなものをそのままの意味で受け取っていた自分がばからしく思えた


そんなものは、建前だというのに


勉強をするというのは建前であり、大前提


それだけしかしてこなかったから、俺は今こんなにも辛いのだ


言われなくても、みんな自分と違って、笑っている、楽しんでいる


三年間という中学生活を、楽しんで過ごしたのだ


それに比べれば、俺の過ごした三年間は白黒の世界だ


何せ、文字や数字だけ読めればよかったのだ。俺の世界なんて白と黒だけで、十分だ


 そんな俺の世界に色を付けたのは、高校に入学した時に出会った二人の少女だった


いや、性格には一人は再会という形になるか


もっと上を目指せる、そう先生達に言われていたが、俺はもう上を目指すこととかどうでも良くなっていた


中卒は流石にまずいからというのは分かっていたのでとりあえず高校には進学したが、学費も高すぎず家からも近い普通の高校に決めた


そこで俺は幼なじみと再会した


幼なじみとはいえ、家が隣同士という訳でもなく、同じ町内だったという程度でその当時はまだ親しくしていたから一応幼なじみだ


中学の時はお互いの家の間にある少し広い道路で校区が区切られていたため別の中学へ通っていた


学校自体反対側で会うこともなく、親の話なんかを聞くところによると部活で早朝に家を出て、帰ってくるのも夜遅くという事だから、普通に生活をする分には出会ったりすることは無かった


特に仲が良かった訳でもないが、悪かった訳でもない


それが小田原早苗という幼なじみだった


 そしてもう一人の少女


霜野豊梨は中学時代早苗の友達だったらしい


高校では知っている相手が早苗だけだったという事や同じクラスだったということもあり、早苗にべったりらしい



「久しぶりだな神原!小学校以来か!高校でもよろしくたのむ!」



笑った彼女の顔を見て、俺はこれまでの自分を捨てる決意をした


あんな白黒の世界より、差し出された彼女の肌色の手を握り替えそうと


突然のことで頭が真っ白になっていたが、彼女の顔を見て不思議とそう思うことが出来た


久しぶりに見た彼女の笑顔は、俺の世界に色を取り戻してくれた



「あ、ああ!」



自分でも意外だった。こんな声を出せるのかと思った


と、彼女の後ろから小さな少女が出てきた



「あの、霜野豊梨・・・です。よろしくです」


「あ、うん。神原仙だ」



よろしく


そう言って、差し出された小さな手を握り替えした


それが霜野豊梨との出会いだった


とても、小さく可愛い少女だった






 私は仙の事が好きだという友人の為に彼の事を調べていた


幼なじみ、とはいえ中学時代の彼を知らなかった私はまずその辺から探ってみることにした


小学校低学年の時はよくゲームをしたり公園で遊んだりした覚えはあるが、次第に周りの目が気になりだしいつの間にか合わなくなり、中学で完全に一度縁が切れている


なので、豊梨の恋の手伝いをすると言った以上、自分も何かと彼の事を知っておいた方が良いと思ったのである


一応幼なじみという肩書きはいろいろと調べるのに便利だったので有効活用させてもらった


少なくとも、引っ込み思案な彼女よりも自分が動く方がまだいいと思ったのである


そして中学時代の彼の話を友人伝いに聞いて回った


頭が良かった。へぇ、そうなんだ。私バカだからいろいろ勉強教えてもらおうかな


いつも本を読んでいた。どんな本呼んでたんだろ?あの顔で恋愛小説とか呼んでたら笑えるな


地味で印象に残ってない。ふーん。今の神原からは想像つかないなぁ。意外。そんな静かな奴だったんだ


いじめられてたらしいよ?・・・・・・なぬ?


いろいろな人から話を聞き終え、私は考えに考え、問いつめる事にした



「そうだったけど、別に何とも思ってないし、気にすることでもないぞ」



彼はそう言った


そこで私の中で神原の見方ががらりと変わってしまった


いわゆる、興味が湧いたというべき感情だった


そして、彼の事を知れば知るほど、ふれあえばふれあうほどに


彼の事が好きだと思い始めたのである


もちろん私は悩んだ


豊梨の為と思って彼を調べていたのに、いつの間にか自分が彼に執着していたらしい


本当に彼女の為に動いていたのかどうかも怪しく思うほどだった


そして悩み、悩み、私は彼女に打ち明けることにした



「私も、仙の事が好き」



打ち明けるしかなかった


どちらにせよ、自分が酷い人間なのだというのは分かってた


だから私は打ち明ける方を選んだ


少なくとも、多少気は晴れた



「・・・・・そう」



豊梨はそう小さく答えただけだった


私は今でも思うのだ。打ち明けない方が良かったのではないかと


思いこみだ、勘違いだ、そうしていれば良かったと思える未来があったかもしれないと思うからだ



「じゃあ・・・・・・・・・・ライバルだね」



長い沈黙の後、彼女は私をライバルだと言った


こんな酷い女をライバルだと言った。裏切り者、と言われる事を恐れていた私にとってその言葉は救いであった


代わりに、彼女を苦しめた事に私は気づかない。自分の保身で精一杯だったから


同じ土俵に立たせてもらえるだけ、私は彼女にお礼を言いたいくらいだ


だからこそ、私は全力で彼を自分の物にしようとした


私はそういう人間だからだ


友達でも、例え豊梨だとしても、彼だけは渡したくないという強い気持ちがすでに私の心に深く深く根を張っていた


それほどまでに、私は彼を愛していた


豊梨もまた、彼のことを好いて恋して愛していたというのに、私は自分の気持ちで精一杯だったのだ


だから気がつけなかったのかもしれないな


恋は盲目


周りなんて見えやしない


私も、彼も、彼女だって




 気づけば俺は早苗に引かれていた


彼女を中心に、俺の世界が色づいていると思った


豊梨も確かに俺の友達だ


好いてくれているのは分かっていた。だからそれに答えてあげられないのが辛くもある


友達で居たかったと思った時もあった


それが当たり前で、これからもあり続ける関係なんだと思っていた


でも、気持ちに嘘はつけなかった


通じ合う気持ちがあれば、また通じない気持ちも存在する


成就する恋もあれば、失恋する恋もある


すでに天秤は早苗へと完全に傾いていた



「うーし、これで全部か?」



俺は服の袖で汗を拭った


埃にまみれた薄暗い小屋で俺は一息ついた



「うん、ありがとう」



豊梨がそう笑ってお礼を言った


現在、俺と豊梨は豊梨の家の小屋の整理をしていた


彼女曰く、新しく買い換えるため、古くなっていらなくなったものを倉庫に仕舞いたいのだという


そこで男の俺がかり出されたというわけだ


暇であったし、豊梨のお願いとあっては断れないと二つ返事で俺は倉庫の整理を請け負った


人数が多い方がいいと、豊梨は早苗もよんでいた


が、その早苗は今三人分のお茶を入れてくると豊梨の家の中でコップを探している頃合いだろう


埃が舞い上がり、小屋の隙間から差し込む光が埃によって柱のようになって見える



「これで、全部。あ、其処に座ってて」


「そうか」



古くなった机やタンスなども小屋の奥に仕舞い、これでいつでも買い換える事は出来るだろう


豊梨はゴミ袋を一つ持って外に出てすぐに小屋へと戻ってきた



「ねぇ、一つ聞いて・・・いい?」


「ん?なんでもいいけど?」



ガタガタ、と彼女は立て付けの悪い扉を慣れた手つきで閉めた


ガチャリ、と彼女は錠前に鍵を入れて扉にロックを掛けた


その様子を不思議そうに見る俺


ゆっくりと振り返る彼女の顔は、穏やかだった



「私、仙が好き」


「・・・・・・」



遂に来たか


そう、思ってしまった


思ってしまったのだ


もうそれだけで俺はその言葉に続く問いに返す答えを一つしか持たない。持ってはいけない



「付き合って、くれますか?」



震えた声で言う彼女


勇気を出しているのが分かった


勇気を振り絞って声を出しているのが分かった



「それは・・・ごめん。出来ない」


「っ!!・・・・やっぱり」


「本当にごめん。俺・・・」


「謝らなくていいよ」



彼女はそう言って俺を見つめる


その瞳に、光は無い


奪ってしまったのだから



「分かってた。知ってた。気がついてた。仙は、私を見ていなかったから」



言葉が出なかった



「ねぇ、一つ聞いて良い?私に魅力が無かったから?」


「違う!」



俺は叫んだ


躊躇ってはいけない


其処だけは、其処だけは絶対に



「そう。嬉しい」



そう言って、彼女は笑みを浮かべた



「ありがとう。でも――――ごめんね。仙も、早苗も、悪くないから、謝らないで」



彼女が何に苦しんでいたのか、知らなかったではすまされない


どれが彼女にとどめを刺したのか




「私は、心の底から、祝福してる。誓うよ。二人に誓って。二人の友達の、霜野豊梨は祝福してる。本当に、本当に信じて。・・・だからお願い―――」



そう言ったのだ


友達である豊梨が、俺達を怨んでいないと、俺と早苗に誓って言ったのである


だから、俺は今でも彼女が俺達を憎しみ、怨んでいたとは思わない


そこは絶対に、彼女の為に、信じてあげなければいけない


それでも、その言葉は俺の心に突き刺さる



「私を絶対に、許さないで。こんな私を、怨み続けて」



涙を流しながら彼女はそう言った


壊れた彼女は、最後の力を振り絞って、笑いながら、泣きながら、そう言った


それが、壊れなかった彼女の最後の言葉だった


今にしてみれば、あれは彼女の遺言だったのだろう


自分を、怨み続けろという、友達としての豊梨の遺言



「豊・・・梨・・・?」


「ゴメンね。ゴメンね。ゴメンね。私が、私が壊れちゃったから、わた、私が、友達が、壊れちゃったから・・・せ、仙をひ、独り占め、したいからぁ・・・ご、めんね。ごめんね」


「何を言って・・・るんだ?」



突如大粒の涙があふれ出し、嗚咽で口が上手く回っていない彼女の言葉を、聞きのがすまいと俺は豊梨に釘付けになった


小屋という密閉された空間だからか、それともこの壊れた彼女の事を見てなのか、汗が止まらなかった


鼓動だけが早くなっていく



「さ、早苗は、だめ・・・なの。一番のと・・・もだちだから・・・。だから、仙しか、ちがう、う、裏切れっ・・・!!あ、あ、あああ・・・ち、ちが・・・っ、私・・・私はもうっ・・・もう、うらぎ・・・わ、わたしっ!!」



完全に、錯乱していた


今でも、俺は壊れた彼女の心を理解しようと思ったことは無い


あれは豊梨じゃ無い。そう思わずには、いられなかったからだ


豊梨は、壊れた自分を豊梨だと思って欲しくなかったのだろう


だから、後に壊れてしまう自分に対して怨み続けろと言ったのだ


壊れた自分を(・・・・・・)怨み続けろ、と


友達としての最後の願いを、俺は未だに守り続けている


とはいえ、当時の自分はそうとうに頭が回っていなかったらしい


思い出してみるまで、彼女の言っていた意味が理解出来ていなかったのだから


彼女は壊された


愛に、嫉妬に、壊されたのだ



「――――――い・・・一緒に・・・」



燃えさかる炎が彼女の声を掻き消した


そこで俺は初めて気づく



「豊梨っ・・・!!」



小屋が、炎に包まれている事に


俺はすぐさま退路を確保しようとドアへと向かった


しかし、扉は新品の金色の錠前で固く閉ざされていた



「鍵っ!」



俺は咄嗟に振り返り、豊梨が持っていた鍵を――――


俺の目の前で、そいつは鍵を飲み込んだ


!!


そこで俺は、完全に思考が止まってしまった


そこまで、そこまでしてお前は俺を、殺したいのか


呆然と立ちつくす俺は、最早何をすることも出来ない


炎を纏った木材が、地面に落ちて埃を舞あげる



「いつまでも、い、いっしょ・・・に」



そいつはそう口だけを動かした



「だ、りゃあああああああああああ!!!」



と、突然燃えさかる炎の向こう側、つまり真後ろの扉の向こう側から早苗の叫び声が聞こえてきた




 小屋が燃えていた


それはもう激しく燃えていた


たった数分目を離しただけで大炎上


真っ黒な煙と煤を巻き上げて、それを一瞬呆然と眺めてしまった


現実だと理解し、自分が取るべき行動を理解し、私は一度豊梨の家へと戻った


消防へ連絡を入れ、すぐさま玄関に立てかけてあった金色の金属バットを持って飛び出した


これだけ燃えていればドアを掴むことすらできない


ならば、まだ建物としての強度を保ってる間に、中にいるであろう二人を助けなければならない



「だ、りゃあああああああああああ!!!」



思いっきり振りかぶり、そして木製のドアに金属バットあて、振り抜いた


バキィッと音を立てて扉に穴があく


その金属バットは扉の鍵ごと吹き飛ばした



「仙!?豊梨!?中に居るの!?」


「あっ、ああ!!今の一撃で鍵が壊れた!蹴破るから、どけっ!!」


「うん!」



早苗は咄嗟に横に避けた


それと同時に扉が勢いよく開き、仙が転がり出てきた



「豊梨っ!!」



だが、仙はすぐさま立ちあがると燃えさかる炎の小屋に飛び込もうとした


豊梨がまだ中に居る!!



「豊梨!!」



私は叫んだ


飛び込もうとした仙の前に、巨大な屋根が炎を纏って落ちて砕ける


仙は踏鞴を踏んで表情をゆがめた



「豊梨いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


「っ!!」



彼女は、笑いながら、泣きながら、こっちを見ていた


口だけ動かして、さようなら、と動かしたようにも見えた


ありがとう、と言っているようにも見えた


幸せに、と聞こえた気がした


豊梨の小さな体は、崩れた炎の小屋に押しつぶされた









 「そりゃ、私だって辛いさ!!」



氷の腕を蹴り飛ばす



「でもね、私じゃなくて、仙がそれを聞いたんだろ!私じゃない!豊梨と最後に居たのは!!あんただ仙!!」



次いでその空いた胴体に回し蹴りを入れた


ミシリと音を立てて氷にヒビが入る


転がった仙は体勢を立て直し、すぐさま飛びかかってくる



「その仙が、豊梨に頼まれた仙が、いつまでも・・・いつまでも、居ない女の面影みてんじゃないわよっ!」


「ぐガッ!!」



下あごを掬い上げるように蹴り飛ばし、神原の体は空中へと吹き飛んだ


炎の翼が広がり、グッと縮めた足をバネのように反発させて飛んだ



「言われたとおり、怨んでやれ!!豊梨を壊したあいつを、怨んでやれよ!!あいつと一緒に見てるから、何時までも仙は囚われてるんだ!」



さしずめ、呪いの用に、霜囲いのように、檻の用に


どうしても、豊梨を怨むことになってしまう


彼の心は、ずっと霜に覆われていった


冷たく、霜焼けのように静かに、それでも確実に彼の心を蝕んだ


多分、私の中にもそれはある


でも、私がやらなきゃ、誰がやるんだ



「あたしの彼氏なんだから、自力で、なんとかしなさいよねっ!!」



一瞬にして神原の上に移動し、早苗は彼の顔をぶん殴った


回転しながらものすごい勢いで地面に叩きつけられる神原を見て早苗はハッと鼻で笑う



「って、本当ならそう言いたい所だけど、何時までも引きずっていく訳にもいかないでしょう」



地面に叩きつけられた神原を両手両足、そして翼を使って押さえ込む



「割り切れる事じゃないけど、捨てるなんて出来ない過去だけど、今のままじゃ豊梨が可哀想」



早苗は言った



「でも、仙は私だけの物よ!!」



消えた豊梨と違って、私はまだ燃えているのだ


まだまだ燃えるのだ


こんなところで彼の心を閉じこめようと、自分だけの物にしようなんて許さない


仙の彼女になっていいのは私か豊梨だけ


嫉妬心なんかに、罪悪感なんかに、そんなもので彼を渡すものか


早苗の体と、神原の体を、深紅の炎が包みこみ、燃え上がる


翼をまるで腕のように、目の前の彼の体の氷の割れ目に突き立てた



「仙、嫉妬の言葉なんか気にすることはないっ!私も悩んだ。けどっ!!豊梨の事を思うなら、私を見て!!私だけを見て!!そう、豊梨も望んだんだから、都合がいいなんて解釈でいいんだよ!!私も仙だけを見るから、だから、だから―――泣かないでっ」



グッと炎の翼に力が入る


豊梨は絶対に私を、仙を怨んでいない


そう信じる事は都合の良い事だろうか?


そうなのかもしれないけど、私はそうは思わない。豊梨が、祝福してくれたのだ


嘘なんて絶対につかない豊梨が


左右に氷が引っ張られ、ミシリと音をたてて軋む


涙を流す彼の瞳に、私の心が揺らいだ



 辛かった


辛すぎた


あんな過去、変えられたら良いのに


そのためなら、なんだって出来る


豊梨は怨めと言った


憎むなんて、出来ないのに


豊梨からしてみれば罪悪感を持ってもらいたく無かったのだろう


そんな事言っても、俺も早苗も、自分を怨むに決まっているのに


俺と早苗は額を合わせて抱きしめ合った


まとわりついた氷が、ボロボロと涙と同じく重力にひかれて落ちていく



「もう、大丈夫だ」



心に刺さった棘は抜けた


吹っ切った


そう、仙は言った


嘘を絶対につけない相手に向かって



「ありがとう、早苗」


「ううん、私も、ありがとう仙」


「俺も、全力でお前だけ見るから。だから、早苗も俺だけを見てくれ」


「うん。こんなオタク女でよければ、何時までも見てていいよ」


「お前のせいで、俺も似たようなもんだろうが」



二人は、涙を拭って笑い合った


早苗と付き合っているという罪悪感は、仙の心からはもう、これっぽっちも無くなっていた






『心からの祝福を』

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