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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
一章 ~龍の神子~
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『彼は何処から来たのだろう』


「なんだ、ちゃんと木刀あるじゃん」



俺は手にした木刀を左手で持つ


やはり右利きの俺には多少辛いものがある


右手で持ったところで、どうせやりとりに夢中になってしまえばその不便さに苦しむだろう


なら初めから左手でやってやる。いずれ慣れないといけないしな



「それ、練習用に差し上げます。私予備の木刀をあと2本持っているので」


「ん、悪いな。こういうのって支給とかされてるものなのか?」


「いや、これは一応練習用に私が自分で作ったものです。部隊での通常鍛錬は真剣を使いますので」



鍛錬のくせに真剣使うとか、信じられん・・・



「そういやチルとかいう隊長もそんなこと言ってたな」


「意外にサクラさん来たばっかりなのに人脈があるんですね」


「逆に言えばそれだけ俺は重要視されてるんだろう。こっちの世界の人から見れば不確定要素満載な存在だからな、俺。いつ俺が手のひら返して王様の寝首をかくとか、みたいな心配も無くはないんだろうな」


「え、アヤキさんそんなことするつもりなんですか!?」


「いや、マジに受け止められても困るんだけど・・・。俺にそんな力はないけどさ、アグレシオンってやつらが前にここに攻めてきたんだろ?警戒するのも無理ないかなって」



そう。この大陸中を巻き込んだ大戦争


その発端が突如現れたアグレシオンと呼ばれる者たちによる、侵攻


大陸が唯一、一つにまとまった時代の話である


どこから来たかもわからない彼ら


突如として異世界にとばされてきた俺達


この世界の人たちから見れば、俺達は彼らとどう違うのであろうか?



大陸支配戦争と呼ばれたその戦争はこの国ができるより遙かに昔に起こったそうだ


約半月で大陸の半分がアグレシオン達の手に落ち支配された、彼らの力は人々に恐怖を覚えさせ、絶望という言葉を作り出した


10名にも満たない、そのアグレシオン達の力はこの世界の人間の力を逸脱していた力を持っていたそうである


まだその時代は高度な魔術が少なく、戦うすべも少なかったと聞く


ちょうどその時代のあたりから剣という武器が現れたそうである


異国の騎士がこの大地に刀を持ち込んだのが始まりだと言われているがその彼もどこから来たのかはわかっていない


その騎士はこの大陸の現状を知り、10本の剣を自らつくった


蒼き天を駆ける剣、蒼天駆


天を舞う炎の剣、炎天舞


轟く雷牙の剣、轟雷牙


地に花開く剣、地開花


水の流れと生きる剣、生流水


氷の龍が泳ぐ剣、氷龍泳


白き光りの影の剣、白影光


風の王が奏でる剣、風王奏


音の境を創る剣、創音境


黒き血を喫する剣、黒喫血


剣を授かった10人の騎士は救世騎士と呼ばれたそうである


10人の救世騎士はアグレシオン達を見事打ち倒し、この大陸を守り抜いたという言い伝えが残っている


十の聖剣はその後、子孫に受け継がれた物、盗賊によって闇へと流された物、行方のしれなくなった物、王宮に納められた物など、世界中へと散り散りとなっている


俺が前に見た聖天下十剣のうちの一本、蒼天駆を間近に見ている。その切れ味も同時に


あんな化け物みたいな剣を使わないと勝てないような


それほどまでに強いアグレシオン達は何百年も後の、この後世にまでも恐怖の象徴にもなっている


今思うとよく信じてくれたよな。アグレシオンじゃないって


そうじゃなかったら今頃勘違いされて殺されている可能性も捨てきれない


いや、まだ聞くところによると俺をそいつらと一緒にしている者達も居ないわけでは無いらしい


そういった者達には気をつけろとファルアナリアさんやセレシアさん、ティリアさんからまでも助言をもらっている


となるとやっぱり監視とかつけられてるんだろうなぁ



「確かにそうですけどアヤキさんがもしアグレシオンならたぶん私は殺されて、今頃はこの国は落ちていると思います」


「んな馬鹿な」


「いえ、過去の記録によるとその昔存在していた大国、アーガルバム聖帝国は、えっと大陸の北方に位置していた国なんですが、そこは一人のアグレシオンの襲撃にあい、一日で壊滅まで追い込まれたと聞きます。でもまぁまだ魔法が正確に確率されていない時代だったんですけどね」


「・・・・本当に俺が今皆から疑われてないのが奇跡に感じるわ」



そんな恐ろしい前例があるのだ。警戒しない方がおかしい


これはやはりティリアさんが俺の監視役と見た方が良さそうだな


それならば王妃直々の侍女が来たことにも納得がいく


それにアクアサンタ騎士団の隊長と副隊長との早期の接触


結果的には魔術師団の隊長とも接触している


精霊の言うことが無かったらまだひどい状況だったんだろうなぁと思う


今思えばこうしてあの二人から実際に斬り合いをしようと言ってくるのは俺の力を試そうとしているから出はないのかと思えてきた


事実、副隊長とはすでに一戦交えている


右腕の事や俺の力量などが調べられた、と言ったら聞こえがいいだろうか?


んー、となるとファルアナリアさんは俺を信用しているとか言っていたけど、やっぱり不安はぬぐえなかったって事なのかなぁ・・・?


俺が力を隠しているとでも思う、ま、警戒すればそう思えてくるか


用心には用心をってな



「ん〜、こうして考えてみると俺ってやっぱりイレギュラーなんだよな・・・。あれ?さっきも言ったような・・・。ええぃ、今はそんなこと考えても仕方がない、やるぞ!」



俺はもらった木刀を叩き折る


折れてとがった断面を俺は地面で思いっきり削る


多少のとんがりは消えたがまだとげとげしい



「えっと・・・何をしてるんですか?一応あげるとは言いましたけど・・・」


「俺は今はこのサイズの剣を右手で振るえなくてな。ということで俺の獲物は短刀になった。リーチの練習もかねてこれで行く」


「わかりました。ちなみに剣を握ってどれくらいですか?」


「ん、7年だが多少のブランクがあるな。短刀はこっちに来てから握ったしまだ間合いとかもわからんから正直いろいろ試していくしかないかな」


「わたしは剣を握って4年です。ですのでそれなりに戦えるはずです!」


「・・・さっき剣適当に振り回して無かったか?」


「・・・気にしないでください。あのときの私は騎士じゃなくて女の子だったんです」



少女に対して剣を向けるのは忍びないが俺は折った二本の木刀を構える


一定の距離をとり、俺は木刀を握る


こうして見ると本当に刃が小さい


これは受け止めるより避けた方が無難かなぁ


力も直接伝わるし、右肩への衝撃は出来るだけ避けたいところだ



「では、仕掛けさせてもらいます!」


「おし来い!」



少女は木刀を右手で逆手に持っている


左手を柄の尻に添え、体は低く屈むようにしていた


地面を蹴り、一気に小柄な体格の少女は加速する


妙な構えをするなぁと思っていた彩輝は駆け寄ってくる少女のスピードに驚く


体が軽い分、体を動かすのが楽なのだろう


弾丸のようにつっこんでくる少女が持つ木刀は右の脇のあたりにある


俺から見て振るわれる方向は左から右


初撃が俺に襲いかかる


ただ、早いとはいえ、見切れない早さではなかった


今の俺の目はあの剣道少年だった頃の自分を思い出すかのようにその太刀筋を目で追った


あの体格だからといって油断はできない


少なくとも彼女は4年間、重い剣を握っていたのだ


だから、リーチの長い相手の剣を避けるのは不可能と踏んでいるので両手で防ぐ事を考える


両手ならば、あのスピードと筋力を耐えきる事ができるはずだ


ガンッ!と二つの木刀が彼女の木刀を受け止めた


予想通り


おそらく片手だったならばこの木刀はあっけなく飛んでいったはずだ


両手にびりびりとした感触が伝わる


先ほどとは違うその一撃に、思わず驚きそうになってしまう


勢いを止めたことにより、俺は片手の木刀で支えきれると判断


思い切って右手の木刀をはなして彼女のへと素早く手を伸ばす


人差し指が彼女の肩に触れる


そこで少女は俺の視界から消える


俺の双眼が彼女を追いかける


これはまずいな・・・


俺の真下から、一発の肘鉄が飛んでくる


全身をバネのようにしたその少女は思いっきり右手の肘を突き出して彩輝の顔を狙う


とっさに彩輝は伸ばした右手と木刀を持つ左手を顔の前まで持ってくる


後から考えれば良く間に合ったという気もするほどのタイミングだった


自然と交差させる形になり、両手に重い一撃が腕に直撃した


とはいえ、少女の体格からして、その一撃を余裕で耐えきる事ができた



「いっ・・・てええぇ!?」



その瞬間、予想外に右の弁慶の泣き所を思いっきり蹴り飛ばされる俺


交差した腕の隙間から、にやりと笑う小悪魔が一匹


尻餅をついて右足を押さえる俺にその小悪魔は何故か木刀から手をはなした


木刀が地面に落ち、見上げている俺は引きつった笑みを見せることになった


理由はわからないがこれはおそらくマナが収縮していく感覚だと思う


第2修練場を、膨大な白光があふれ出した








アルデリア王国、王都アクリス


その中央に位置する場所にたつアルデリア城


その会議室に、国の重要人物が集まっていた


王族、それと武官、文官、それに加えて国内外でも力を誇るアルデリアの3大貴族の当主が参加している


ざわついていた彼らはとある人物の登場で一斉に静まる


一つの大きな机の周囲に彼らが座っており、最後に現れた国王、ヴァルナンディア・エルアモ・キルト・アルデリアが一際高価そうな椅子に座る



「この度、忙しい中集まって頂き、誠にうれしく思う。ただトルロイン家のご当主は現在病床についているため不在なのが残念である。そのため息子であるエフレル殿に来てもらった事を理解してほしい。では早速話を進めようか。たのむ」


「進行は私、ファルアナリアが致します。よろしいですね」



ファルアナリアが周囲を見回し、会議室に集まった者すべてが無言でうなずく



「では・・・。今回集まってもらったのはほかでもありません。異邦人、サクラ・アヤキという人物の事です。このことはすでにここに集まった者全員にお話ししてありますが、一度皆さんの意見を聞きたくこの度は招集をかけさせて頂きました」


「たしかに、話を聞いてから彼の事は我々も気にしております」



アルデリア王国の3大貴族の一人がそう言うと隣に座る貴族もうなずく




「危険で不確定すぎる要素ですな。私としての意見は一刻も早くすぐさま死刑台に送るべきかと・・・」


「私もそう思いますな。歴史に刻まれたあの大惨事をお忘れですか?大陸の半分があの数名のアグレシオンによって支配されてしまった事を」



はじめに口を開いたのは3大貴族の一人、初老の男性である


この初老の男性はロートベルト家の当主であり、現在3大貴族の中ではもっとも力を持つと言われている


その隣に座るのがそれよりも少し若い中年ほどの男である


彼はレディアル家と呼ばれる貴族の当主である


彼もまた金髪であり、たいそう煌びやかな服装を着ている


この二つは昔から続く有名な家柄である


そしてその横に座る若者はトルロイン家の子息で、ほかの二貴族と違い、赤髪の家系を持つ珍しい貴族である


アルデリア王国の貴族の多くは金髪碧眼の持ち主であり、彼のような貴族は周りの貴族から若干省かれたりすることがあるのだが現当主であるシャルクスは大商人として他の貴族との関わり合いが深いのである


売り手であるためか一歩下手の接し方をし、派手な行動を慎んでいたため、これまで他の貴族からはそこまでマークされていなかったりもした


さほど貴族達は気にかけていないとはいえ、今年に入り前3大貴族の一家、バンデルト家はとある事件により没落貴族と化したため、トルロイン家が国王の推薦により成り上がったのである


それまでノーマークだったトルロイン家が三大貴族になった事で他の貴族達が猛反発


やることなすことすべてに他の貴族達がいちゃもんをつけてくる始末


現当主であるシャルクスが病気で倒れ、それを好機と見た貴族達は一斉にトルロイン家を没落させようと裏でいろいろと働いているのだがそこは一枚トルロイン家が上手であった


元々商人である貴族なために、世渡りはそこらの無能な貴族達よりも遙かにうまく、また貴族以外の者との交流が多かったためにそういった場所からの手回しも上手くいかなかったらしい


お金で買えないものでトルロイン家はその立ち位置を確定させたのだ


そのトルロイン家の若い当主が口を挟む



「それは軽率すぎませんか?僕たちが集められたのはサクラ・アヤキ個人に対するものであって、彼がアグレシオン達と同じと考えるのは判断が速すぎろと考えますが」


「だがしかし彼がアグレシオンと同じだった場合の事を考えると一刻も早く殺すべきではないのかね?」


「たしかにそうだった場合はそれはもう取り返しのつかないような被害となるでしょうね。しかしそんな力を持っている相手をそもそも拘束し、処刑する事など可能なのでしょうか?そしてそんな彼がタイミングを見計らってこの国を落とそうとしたところで、彼を取り押さえる事ができるのでしょうかな。その辺の事は私より聖水騎士団の隊長さんのほうが詳しいかと思いますが」



話を振られたチルは面倒くさそうに頬杖をついてその目を紅い髪の貴族に向けた



「取り押さえるのはいいけれど、それよりも私が乗り気じゃないわね」



そうため息をつく彼女にレディアル家の当主が声をかける



「たとえ貴殿が隊長だといえども、そのような自分勝手な考えで物事を決定するのはどうかと思うがね?」


「そりゃ上の決定には従うわよ。あくまで私の気分とか考えの事だからその辺は無視していいわよ。でもやはり、実際に彼がアグレシオンならすでにこの国は落ちていると考えるべきよ。アーガルバム聖帝国がどうなったか知らない訳じゃないでしょう?」


「だが油断させて好機をうかがっているのかもしれぬ。それに当時と今とでは魔術や兵の質は明らかに向上しているのもまた事実」



と文官の一人が反論する


そこへアルレストがチルの意見に乗っかった



「俺は隊長と同意見だ。あいつにはたいした力は無い。俺やチルなら余裕で取り押さえられる力だ。魔力こそは大量にためこんでいるみたいだが・・・扱う統べも知らない。剣をあわせてみて俺は悪い奴では無いと思った。これもあくまで俺個人の意見だが」



実際に手合わせをしたがあれが彼の本気なのは一目瞭然


一度反射的な動きを見せたことに驚きはしたものの、所詮その程度


力を隠す気なら、ふつうはあんな真似はしないと彼は付け加える



「右腕をけがしている事から見てもそれほど危険度は無いと俺は思う」



その発言に、ファルアナリアとセレシアはぴくりと表情が変化した事に気づいた者は居なかった



「手を抜いている風には見えなかった・・・と?」


「俺の考えです。どう思います?シオンさん」



アルレストはここで話を魔術師隊の隊長であるシオン・ウェンヴァーに振る



「私は・・・判断しかねます。あの魔力の量は、力無き者が持つに値するとは思えない量。でも彼の体質がマナを集めずとも魔力をそのまま取り込めるという体質で、彼が魔術の使い方を知らないという報告は一応受けている」


「異常ってことね。特異体質だけど、それは彼の本質とは関係ないだろう?」



チルがまたもや割って入ってくる



「力があるからって、彼が力の使い方を知ってるとは限らない。でも彼の普段の様子からはどうもそれほど脅威に思える要素がそれぐらいしか無い」


「その特異体質、アグレシオン達が使っていたという能力の一種とは考えられないのか?」



アグレシオンは一人一人魔術とは別の妙な能力を持っていたという言い伝えが残っているのは有名である


彼がそのような疑いをかけられるのはさけられないだろうとは思ってはいたが



「あり得ますね。元々この世界の住民では無いのですから。そのような体質を持っていても不思議ではありませんしね」


「ですがそれ以外の能力があると確認をとったんですか?」


「むぅ・・・」


「現状ではとれていない。と言ったところですかね」


「そういった体質なんだ。膨大な魔力を持っていることの説明はつく。それにそんな悪そうな奴には私は見えなかったがな」


「根拠も無い事を言わないでくれませんか?」


「まぁまぁ、いったん落ち着こうではないか」



ここで国王であるヴァルナンディアが話し合いを中断させる



「一つづつ解決していくべきだろう」


「申し訳ございません。ついつい感情が先走りしてしまいました」



そういって頭を下げたのは貴族の二人


チルも無言で椅子に座る


トルロイン家のエフレルはあまり発言をしなかったので座ったまま会議を傍観していた



「ふぅむ・・・ではまず最優先に考えなければいけないことはなんだ?」


「それは・・・」


「アヤキ・サクラの信憑性」


「珍しいわね、シオンが自分から発言するなんて」



隣に座っていたチルは驚いてついつぶやいてしまったがこれは本当に珍しかったことだからだ


自ら発言をするのは本当に珍しい


たいていは聞かれたことに答えるのが彼女の会話のスタイルだからだ



「信用できるかはわからない。だけど、悪い人じゃ無いと思う」


「そう。奇遇ね、私もよ」



と、騎士団長と魔術師団長が意見をそろえたところで、反対側の席では議論が白熱していた



「信憑性?そんなもの、信じるに値すると思うのか?確証もなく何故そのようなリスクを冒せる?」


「そうね、確かに証人無しでは彼が何をしにこの世界に来たのかわからないわね」



ファルアナリアがそこで口を挟む



「だけど、私と娘は事実この目で精霊台より召還されるところを見ているのよ」


「いやしかし、この世界の住人やアグレシオンが何らかの手を使ってその場に転移してきたと考えられないのかね?」



正直そんなことできるわけがないというのが王族や臣下達の思うところだ


一応この大陸には転移魔法という魔法がある


とはいえそんな転移魔法を使う術者はほとんど居ないうえ、表沙汰にはしていないが城の周囲には転移防止の結界まで張られている


場所を転移させるということは遠く離れた地へと現れた時点で移動距離の時間が短縮されることになる


移動分の時間を零と出来る、それはつまりその転移の一瞬のうちに移動した距離のぶんの時間を体に受ける事になる


だがその距離を時間で表すことは不可能


速く走れば短くなるし、ゆっくり歩けば長くなりその測定は計算すら意味を成さない


転移魔法を使えばその代償を受けることになる


代償は自身の時間を感じることが出来なくなること


世界の時間軸からずれたその体は、その時間軸に沿って起動しなくなるのだ


とはいえそんな無謀なことを言う彼ら貴族としては彼のような存在は早めに処分したいと考えているのだろう


彼の話では彼の世界では貴族制度をとっていないという話が彼らの中で広まっている事もあり、彼がこのように王族や武官を見方につけてしまえば、もしかしたら・・・という考えがあるようである


保身のために他者を蹴落とす


最近の貴族も質が落ちたわね。と考えるファルアナリアであった


が、トルロイン家は別のような感じである


発言を控えて出来るだけ事態の収集をしているのではないかと思うほど彼はジッと座って事の成り行きを見守っていた


むしろ彼にはどちらかというと、いろいろと彼からあやかりたいのでは無いのだろうか


異国の文化、道具、文明等、商人にとって彼はまさに宝箱のようなものだからだ


しかもそれが自分たちより進んだ文明の世界から来ているとなればなんとしてでも聞き出したいだろう


聞くところによると生き物を使わなくても人を運べる乗り物があったりするそうである


おそらくは、自分たちよりも遙かに進んだ文明を持つ世界から来た人間なのであろう


それに反して、あまり不便といった感じの顔を見せないことにも少々気になるが



「証人は一応います。彼が本当に別世界から来たという証人が。おいでください、水の地の守護精霊様」



特別に用意した術式を刻んだ符を取り出し地面に設置する


ファルアナリアがそう言葉にするとかちりと音を立てて魔法陣が展開された


言葉がキーとなっているこの精霊を呼び出すための特別な召還符が使えるのは精霊と契約を結んだ者だけである


この地を納めるのは国王である夫なのだが、実際にこの血筋を受け継いでいるのは私である


直系にのみに扱えるその精霊の召還を私は行った


魔法陣からゆっくりと半透明の存在が現れる



「よんだかえ?ファルーよ」


「えぇ。この者達に何故サクラ・アヤキがこの世界に来てしまったのかを聞かせて差し上げてください。私の口から言うのはあまり意味をなさないもので・・・」



周囲がざわつく


それもそうである。精霊など一生に一度あえるかどうかの代物である


しかもそれもごく限られた者達にしかあえる機会は訪れず、一般の民衆には一生あえない者がほとんどだ


精霊がこちらの世界に姿を現すときは、契約者の名の下に召還される、あるいは精霊台を通して精霊の意志でこちらに来るかのどちらかである


後者はほとんど無いと言っても過言ではない


つまり、ほとんどが契約者に呼ばれて出てくるときである


精霊の権力は国王にも勝ると言われており、神の象徴に近いものとされている


この場に居る者全員が頭を下げる



「ふむぅ・・・別によいが何か報酬はくれるのか?姿を維持するのは疲れるのだが」


「そうですね。王城専門の料理長が作ったお菓子などはいかがですか?甘くておいしいものがそろっておりますよ?」



ファルアナリアがこの精霊が甘いもの好きだったことを思い出す



「よし、よかろう。出てきた甲斐があった」



ポンと手を打ち、にやりとにやける精霊はお菓子と代償に情報を引き渡す



「確かにサクラ・アヤキは異世界から来た人物である。まぁ以前来たアグレシオン達とは別口だがな」



周囲が再びざわざわとなる


ファルアナリアも驚いて追求をしてみた



「それはいったい・・・?」


「異世界が、一つと言うことではない、といったところかの。ここもその一つ。今現れた彼らが居た世界は、過去に現れたアグレシオンと呼ばれて折る者達とは違う世界ということだ。これでよいかの?」



大陸中を回ってもこの情報はどこにも残っていないだろう


衝撃な事実を意外と軽々と教えてもらったことに困惑する一同


ファルアナリアも彩輝が現れるまでは別の世界があるなんて考えもしなかったのでさらに多くの世界があるとなれば考えを改める必要がある



「あの・・・何故あのときそれを早く言ってくれなかったのでしょうか?」


「聞かれなかったからの」



一同しーんと静まりかえる


精霊は頭にはてなマークを浮かべながら空中に浮遊している



「ん?何かおかしな事を言うたか?」


「というわけで、今日の議会は終了だ」



国王が手を叩いてお開きを宣言する



「ですがしかし・・・」



まぁもちろん渋る貴族達も居るわけで



「彼は妾と契約をした。それで十分な理由になると思うが、ほんの少し前まではこの国は精霊を神とも崇めていたように思うのは気のせいだったかの?」



そこまで言うと精霊はスッと姿を消した



「では、会議はこれにていったん終了とさせて頂きます。彼の処遇はまた後ほどこちらからお伝え致します。意見のある方はいつでもいらしてください」



顔をしかめる貴族二人は立ち上がり渋々といった感じで退席していく


それに続いて文官やら武官が退席する


貴族達はアグレシオンではないと精霊から直接聞いてしまったことで反論の余地は無かった


彼を信頼した武官達数名も内心若干ホッとした部分はあっただろう


多少なりとも彼を警戒して接する必要があったであろうから


だが少なくとも侵略のために現れた者達でない事が精霊によって約束されたためにその心配は無くなった


そうして皆が退室していこうとドアに近寄ったとき、白銀の魔力がドッと城全体を覆い尽くした


びりびりとした感覚の中、それを感じ取った者はあーあ、またか。と思うのである



「おいおい、またミーナちゃんが魔法ぶっ放したんじゃないのー?」


「だな。次は誰が犠牲になったのやら・・・」


「誰かもうちょっとまともな先生つけてやれよ」



そんな会話が武官達の中から聞こえてくる



「えと確か騎士団の3番隊長のえーっと、娘さんだっけか?」



アルレストがつぶやく


隣を歩くチルがにこにことした顔でうなずく



「なんだ、なんか知ってるみたいだな」


「あぁ、まぁねー」



にこにことした笑いが、にんまりとした笑いに変わる


ドアを開けて退室したところでアルレストはちょっとした考えに行き着く



「お前・・・もしかして」


「んー?何?」


「わかっててやってるな・・・」



小声で言ったにもかかわらずちゃんとチルは聞き取れていたようでフフーンと胸をはった



「当たり前よ。おもしろいことは何でもやって見ないとね〜」


「あーぁ、同情するよ・・・」



アルレストもチルにはいろいろとひどい目に遭わされているためかそういったことには妙に勘が働くのである



「親と子供にぼこぼこにされる。うん、いい絵図〜!」



飛び跳ねてチルは職務に復帰していき、その後ろ姿を見ながらアルレストは項垂れた


あの少年とはいい理解者になれそうだとふと思ったのである





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