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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
118/154

『間違えるはずもない、その光の向こう側にいる君を』

光の中、私は立っていた


一筋の光の上に、私は立っていた


流れては巻き戻り、後ろから前へ、前から後ろへ、世界が動いている


いや、動いているのは時間か、世界か、それとも自分か、


行っては戻り、戻っては始まり、そう、これでは渦だ


進んでは始まり、終わりは始まりで、また進む


そうした光の渦に、私は立っていた


その向こう側に、人影


あれは、そう―――――











 ――――いち―――う――――!!―――



え?何?聞こえない



――――いち――うゆい!!一条唯っ!!」


「えあ、はっ、はい!?」



ガタンと椅子を倒して私は飛び起きた


パチパチと瞬きして周囲を見渡す私を、クラスメイト達が笑う


え?え?何これ?どういう状況!?


と、寝起きの頭で考えてみるも、思い浮かぶ状況はたった一つ



「あ・・・・寝てました?」


「おー、寝てたぞ一条。珍しいな、疲れとるんか?」


「あぅー・・・・っ!!」



未だクスクスと笑うクラスメイト達


やっちまった!と一気に脳内が覚醒すると同時に羞恥心がこみ上げてきた


恥ずかしくなって椅子を戻すと顔を真っ赤にして俯せにした


先生は授業に戻ったが、やはり恥ずかしいので教科書で顔を隠す


なんだろう、夢を見ていた気がするが恥ずかしさで塗りつぶされたかのように何も思い出せない


二時間目の授業・・・


太陽が天高く上り、大学の昼休みを告げる授業終わりのチャイムが蝉の鳴く声と一緒に校舎の中へと響き渡る


初夏、まだ市街には蝉の声はまばらにしか聞こえないが、山の上の学校の周りではもう夏が来たかのようにセミが鳴きわめいている



「あっつ~」



ズズズズズ、と自販機で買ったリンゴジャムジュースのパックが空っぽになるまで啜る


中庭のベンチで空を見上げながら空っぽになったジュースのパックをゴミ箱へと放り込む



「ナイスシュート私」



ぼーっと、空を眺め、流れない雲を眺める


さんさんと照りつける太陽の日差しが、容赦なく照りつける


せめてもう少し風があったらな、と思う


脳裏に浮かぶ、鳥居


夏・・・浴衣・・・お祭り・・・最近行ってないなぁ


いつも通り、何も変わらない日常



―――気がつけ―――



 「ゆーいー」


「やっほー。遅くなってゴメンゴメン。いやぁーひとが多いねぇ」



どこかで祭り太鼓がなっている


人混みのなかで、手を振っていた友達と合流する


友達の手にはわたあめやら焼き鳥やら、どうやら随分とお祭りを堪能していた様子である。


頭には最近テレビでやってる戦隊もののヒーローのお面がつけられており、手からスーパーボールの入った袋とヨーヨーがぶら下がっている



「・・・なんかもう全部回ってみたいな格好だね・・・」


「え?まだ全部回ってないよ。鯛焼きもリンゴ飴も買ってないし、クジもやってないよ?」


「え?全部回る気なの?」


「あったり前じゃん!お金は楽しく使わないとね!」


「岡ちゃん、そのうち身を滅ぼすんじゃないかと私は心配なんだけど・・・」


「だいじょーぶだいじょーぶっ!あ、あとさっき古河さんと真北さんが居たから合流しよう!」


「ん、分かった。じゃ、その前にキュウリの一本漬け買わせて」



一条はそう言って串に刺さったキュウリが並べられているお店に向かう



「えーお祭りでそれは無いんじゃない?」


「な!これすーっごく美味しいんだぞ!」



祭りの明かりが、一条の着た浴衣を淡く照らしている


キラキラと、キュウリの水滴を照らしている



懐かしい、日常




―――違う。気がつけ―――






昨夜未明、――町――――の最中、―――運送会社のトラックが―――――の準備中―――居眠り―――とみられ、現在――――少女が一名―――宮美也ちゃん―さいが――病院へ搬送―――もう一人の少年―――――が――――



 「悲惨ねぇ」


「そうだな」



淡々とテレビから伝えられる地元のニュース


あの、お祭りの時・・・・?


私が帰った後で・・・・?



翌日、小さな花瓶が、祭りの会場にぽつんと・・・・


何故か脳裏から離れない


偶に、非日常


いや、毎日が非日常という名の日常なのだ



―――お願い!!―――




「え?引っ越したの?」


「えぇ、お墓もあっちの実家にたてたとか。たしか・・・そう、ちょっとまってて、私も仲が良かったから、年賀状の住所が・・・あれ、どこにやったかしら?」


母が引っ張り出してきた年賀状の住所をインターネットで調べてみる


あぁ、そこなのか


ならば、墓参りのついでに寄ることが出来るかもしれない


自分が気にすることでは無い他人の事なのに、なんでだろう


頭から、あのニュースと小さな花が離れないのだ


自己満足でもいいから、手を合わせておきたい


もしかしたら、あの場所に居たのは私かもしれないのだから――――




―――そう、それで私は・・・バスに乗って―――



季節外れの紅葉色


昨今の異常気象のせいだろうか?


そういえば今年の冬には少しだけ桜も勘違いして咲いていた


暇だなぁ・・・


と、そこで目についた少年


彼も一人か


普段なら絶対にしないが、なんでだろう


私は音楽を聴きながら気持ちよさそうに目を瞑る少年に声をかけた



「君も里帰り?」





―――彼と出会い―――




私、異世界に来ちゃったって事!?


うわ、どうしよう!?


お風呂あるかなぁ・・・・



―――世界を渡り―――



「おっけ、じゃぁ君はアーヤんだ!」



―――彼と少女と鏡越しに再会し―――



すこしだけ希望が湧いてきたっ!!


と心の中で小さくガッツポーズをした



―――小さな光を見つけた―――



アーヤんが来てる!?


私は夢中で走った


そして扉を開け―――


・・・・・君は蓑虫みのむしか!?


や、やぁ・・・ってちげぇよ!!



―――小さな光は―――



もう会えなくなるなんて、思いたくなかった。だから・・・居なくならないで。勝手に


この世界で退場禁止か。こんな物騒な世界で難しいことを言いますね。まぁ努力してみますけど


彼のことも考えずに・・・・・


ごめん、勝手だね・・・私


涙に埋もれるようなくらい小さく呟いた



―――やがて光を強める―――




自分の勝手な思いを押しつけてしまいたくなる程に


宝玉の光が見せた幻影に押しつぶされそうになった


でも、そんな現実、絶対に認めてやらないと真っ向から立ち向かった


彼の傷つく姿が嫌で、私が守りたかった


絶対に、止めてみせる、と



だめ・・・だよ、アーヤん・・・っ・・・・だめだ・・・よ



―――私もそれに見合える光になりたかった―――



だから思いを伝えた


私は、もう大丈夫だから、と


だから、握られるだけじゃない


握りかえしてこそ、隣に立てると思った


絶対に離さない


離したくない


だから思いを伝えた



―――だって私は―――君の事が―――



好きなんだから・・・





「大好きになっちゃんたんだからあっ!!!」






光の渦の中に立っているのは私


その向こう側で彼が立っている


戻ろう


私の居場所は、もう見つけた


こんなとこ抜け出して、君の隣に立つんだから


光の向こう側にいる、君の隣に


真っ白な翼が、光の中で広がる


光の向こう側に広がる、もっと広い世界に、光を越えて


真っ白な羽が光に溶け込み、自分が一筋の光となって、君の隣へ、一直線に





「お帰りイチジョウユイ。おめでとう。貴方はちゃんと自らを失わず、惑わされず、間違えず、正しく、運命のままに歩いてきたようだ。君が望めば、理想の君の中の永遠を彷徨うこともできたのに、そうはしなかった」



あの光の渦となって、同じ場所を何度も、何度も


地面に、大きな翼を広げて倒れる私を、魔女が見下ろす



「そこに・・・彼は・・・居ない・・・から」



その世界に彼は居ない


私の知る彼は、すべてこの世界に居る



「そう。その世界には出会いが無い。生まれてから、貴方がこの世界に来るまでしか存在しない世界。そこにはこれまでの出会いがあっても、これからの出会いは無い。そして私との出会いも無かった。しかし貴方にはその運命を見定める力がある。貴方が、その力を正しく利用出来る人間である事を力が認めたようですね。貴方が、ただただ純粋な人間であると」



白き翼が、ガラスのように割れて空中へと消える


まるで幻想でも見ていたかのようにして



「故に、貴方はこれからも出会いを続けていくでしょう。その出会いを、間違いの無い場所へと導く。それが、それこそが貴方の役目なのです。一角天馬の神子さん」


心の中で、静かに


間違えるはずもない、その光の向こう側にいる君を思い浮かべて


一条唯は静かに瞼を閉じて寝息を立て始めたのであった

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