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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『迷いの森の迷子魔女』

「どうしよっか」


「どうしましょうかね」



彩輝と早苗は体育座りをして顔を俯かせたまま聞き合う


二人は完全に迷子であった


理由は分からないが、二人はベタな感じに同じ場所をグルグルしていたらしく、それに気がついたときのショックから抜け出せずに現在意気消沈した声でのやりとりが続く



「真っ直ぐ進んでなんでもとの場所に出るんだよ・・・」



彩輝はため息をつきながら愚痴を漏らす


もう出られないのではないかと思うほどに、見慣れた光景を何度も見てしまう


無限ループって怖いよね、とは誰が言った言葉か。今ならその言葉の怖さがよく分かる


二度と森から出られないと思うと背筋がゾッとする


後ろからついてくる謎の生き物たちがケタケタと笑っている。不気味だ畜生!!


せめて方位磁針や長いロープでもあれば自分が進んでいる方向が分かるというのに・・・


彩輝は改めてそうしたサバイバルアイテムが恋しくなった


最も、それらが当てになるかどうかはまた別問題だが、何かに頼っていないと不安に押しつぶされそうになる



「このままじゃぁやばい・・・とは分かっているんだけどなぁ・・・」


「どうしようも無いよね。よし、こういう場合は意見を出し合うのよっ!えーと、ぶ・・ぶ・・・」



えーと、なんて言ったっけっかなぁと呟きながら考える早苗さんを見ながら「ブレイン・ストーミングってやつですか」と答えを教えてあげる


それだ!と目をキラキラさせながら俺をビッと指さす



「あれですよね、意見をとりあえず出しまくって意見を共有させるとかなんとか、そういう奴ですよね」


「そう、それそれ!ってってことではいどうぞ!」



え、俺から?


突然振られて驚いた俺は何も考えていなかった脳裏にアイディアらしきものを羅列していく



「え、えぇ~・・・んん~・・・とりあえず、原因についていろいろアイディだしてみますか?」


「そうね、解決策から入るのは焦燥すぎるだろうしね」


「それじゃぁ・・・そうだな。迷っている原因・・・原因・・・俺と早苗さんが超方向音痴」


「もしそうなら詰んでるわね。これ以上無い程に。んー森が動いている、とか?」



なるほど、異世界だから本来なら有り得なさすぎる意見も出すべきなのか。ならば



「実は俺たちは何者かによって眠らされていてここは本当の世界じゃないとか」


「誰かに意識や感覚を操られている」


「ん~空間がゆがんで元の位置に戻されている」


「じゃぁ時間がゆがんで前の時間に巻き戻されている」


「・・・・こんなもんですかね?パッと浮かびそうなのは」


「そうね。じゃぁ解決策的なものを考えていきましょうか。そのいち!とりあえずひたすら歩く!歩いて歩いて歩きまくる!」



ここは突っ込むべき所なのだろうか?と彩輝は頭をひねる



「・・・・えーと、ロープみたいな紐を持って進む?」


「とりあえず走って走って走りまくる!!」


「・・・・えーと、一度戻って街道を使って迂回する・・・とか?」


「歩いて走って少し立ち止まってお茶を飲みながらこれまでの人生を振り返り、辛いときもあった。苦しい事もあったとほろり涙を流し、しかし、それを乗り越えた時のあの感動を思い出して―――」



早苗さんはこっちをジーッと見ながら時折身振り手振りを付け加えながら長ったらしい台詞を続ける


そこで俺は折れた



「あのですね早苗さ――」


「突っ込み遅いぞ!それでもネラーか!」



それをぶった斬って早苗さんがビッと俺を指さす


断じて某掲示板のユーザーでは無い俺は咄嗟に口から反論の声が出てしまった



「違いますよ!ってかなんですか!?早苗さんってそっち方面の人だったんですか!?」


「印象変わったかね?」


「・・・・・いえ、あまり」



その言葉に俺は不思議と印象が変わった気がしないと思い、自分でも意外だと思った



「む、では私は見るからにネラーのように見えたという事か!?」


「なんか胡座かいてビール飲んでそうな気がします」


「失礼な!!女性に面と向かって言うか普通!?そういう君こそ・・・ん?」


と、真っ赤になって蒸気機関車のように煙を頭から吹き出そうとしていた早苗さんは突如、その目をきょとんと丸くさせた


その焦点は自分の後ろに向けられているため、つられて俺も後ろを振り向いた



「どうかしまし・・・た?」



そこで彩輝も動きを止める



「こんな物、あったっけ?」


「いえ、全然気がつきませんでした」



彩輝と早苗は、一際大きな木に近づく


御神木のようにしてしめ縄がまわされ、その幹には巨大な木の扉がついていた



「どう思う?これで蝶々と花畑があったら超ファンタジーじゃね?」


「熊とか狸が住んでるんじゃないですか?」



彩輝は何となくその光景が絵本に出てきそうなファンタジーな雰囲気だったのでそう言ってみた



「どこの絵本だそれ、いや、獣人がいるのだからあるいは・・・」



と真面目に考える早苗を置いて、彩輝は迷うことなくその木のドアをノックした


その音を聞いて顔を上げた早苗さんがまたもや目を丸くして俺を見ていた



「っちょ!もう少し慎重にならない普通!?」


「だって迷ってもしかたないですよ。いや、俺達迷子だからもう迷ってるのか?」


「だれが上手いことを言えと言った!?」


「もしかしたら森の出口とか教えてくれるかもしれませんし、あわよくばお茶とかも出してもらえるかもしれませんよ?」


「前も言ったかもしれないけど、楽観的すぎやしないかい君!?」


「例えばですけど、もし此処でここに居るかも知れない人に何も聞かずにさっきみたいに森をグルグルして迷い続けたとします。あぁ、さっきここで話を聞いておけば助かったかもしれないなぁと思うのと、ここでドアが開いて魔獣とか熊とかが出てきて、あぁ開けなければよかったなと後悔するの、どちらがいいですか?俺は断然後者です」


「もしかしたら森を歩き続けたら出られるかも知れないし、だれか見つけてくれるかもしれないじゃん。それに、物理的に恐怖を感じるのは後者でしょ」


「それこそ楽観視ですよね」


うっと声を詰まらせた彼女を尻目に俺は話し続けた



「自分で森を出る為に何かしないと事態は進展しませんよ?まぁもちろんもし化け物が出てきたとしても、死ぬ気はありませんけどね。熊ぐらいなら、何とかなりますから」



そう言って腰のソーレと風王奏を右手でそっと触れた


それを見てもう口出しする気も失せたというような表情でため息をついた早苗


彩輝は日本に居た頃とは違い、様々な力を手に入れて僅かに調子に乗っていたとも、自信がついたとも言えるような気分になっていた


もしもどうしてもまずいと思えば最後の奥の手が無いわけでも無いのである


もっとも、そうなってしまえば彼女の肩を借りる事になってしまうが


と、木のドアの向こう側から足音が聞こえてきた


グッと身構えた二人の前に、ドアを開けた綺麗な女性が顔を覗かせた



「そろそろ来ると思っていました」



身構えた二人はぽかんとした顔で顔を見合わせた



 中に入れてもった二人はそこが木の中であるということを忘れて部屋中を見回した


部屋は確かに外からみる木のように円柱形の大きな部屋で、壁には天井までとどこうかというほどの巨大な本棚。そして螺旋階段。そこには数え切れない程の本が敷き詰められている


その部屋の中心には巨大なデスクがあり、そこにも無数の本と紙が散らばっている



「お、おじゃましまーす」


「お邪魔します」


「適当なところに腰掛けて。今お茶と菓子を出すから」



女性はそう言ってパチンと指を鳴らす


すると突如二人の前にお盆が出現した。それも空中に浮いた状態で


そして小声で何かを唱えたかと思うと、次の瞬間にはポンポンとその上にお茶と茶菓子が出現した


彩輝は再度その女性を見てみた


後ろ姿で今何かを戸棚から探している様子の女性は、先ほど正面から見たときは凄く美しく見えたが、後ろ姿もまた美しかった


ダークグレーのローブを纏っているが、若干その突き出されているように見えなくもない部分から目をそらす


金髪、髪は短く肩の当たりで切りそろえられているようだが、癖毛のせいで揃っているようには見えなかった



「疲れているでしょう。どうぞご自由に食べて座ってください」



と、座ることも忘れていた二人はお礼を言ってお茶とお菓子を手に取ると、腰掛ける場所を探した



「あぁ、すいません」



と、再度彼女がパチンと指を鳴らすと、二人の前に学校机のような机一つと学校椅子のような椅子二つが現れた


彩輝と早苗は其処へ腰掛けるとお茶を一口分喉へと流し込んだ


それを見てニコリと微笑んだ女性も静かに自らの椅子に腰掛けた


彩輝と早苗はとりあえず色々聞きたいことはあったが、とりあえず彩輝が代表に真っ先にこれを聞く



「あの、貴方は一体・・・?」


「そうですね、あなた方は私の事を知らないのですよね。そうですね、私はダイヤレス・セブンリッチ、とでも名乗っておきましょうか」


「ダイヤレスさん、あの、聞きたいことがいろいろとあるんですが」


「えぇ。分かっています。気になりますよね。順を追って説明します。まず私が何者なのか、という問いに名前以外で答えるとするならば、そう、あなた達の言葉では魔女・・となるのでしょうね」


「魔女・・・」



隣の早苗さんが小さく声に出した


俺も、何故か分からないが一瞬どきりとした


そこで俺は突如脳内に浮かんだ疑問をぶつけてみる



「あの、魔女って言っても、魔法を使える女の人が魔女ってことなんですか?」


「その解釈は、半分当たっていて半分外れています。確かに魔女は魔法を使いますが、女性の魔術師が魔女という訳では無いのです」


「じゃぁ、その残りの半分は魔術師と何が違ってるの?」



確かに、普通の人は魔法を使えない。だから使える人を魔女と呼んだ。そう俺は解釈しているし、恐らく早苗さんも同じだろう



「魔女という存在は、皆呪いというものを持っています。それが一番の違いでしょう。私の呪いは永久の迷子。私はこの呪いをそうよんでいます」


「永久の・・・迷子?」


「私は永久に、迷子なのです。目的地へたどり着けないという呪い。そのため、私は欲する物を手にすることは出来ません。逆に、向こう側からたどり着く物のみを手にすることが出来る。そういった呪いです。ですから私は目的を持って行動すると、私自身はその目的を到達することが出来ない」


「貴方、だけが」


「何も成し遂げられない。そういう事ですか?」


「えぇ、そうです。異邦の女性よ」


「!!俺達の事が分かるんですか!?」


「えぇ。しかし、私は欲さぬ情報なら手にすることが出来るのですよ、桜彩輝さん」



俺の名前・・・!


彼女の永久の迷子という呪いがどれほどの物なのかは分からない


しかし、名乗った覚えの無い自分の名前を知っており、尚かつ俺達が異邦人である事を知っている様子である


欲さぬ物以外を手に入れる事が出来る呪い


どうやらそれはデメリット以外のメリットがあるようだ



「その呪い、使い辛くないですか?」


「もう慣れましたから。欲さねば、私は全てを知ることが出来る。欲さねば、全てのものを手に入れられる。いらないものこそが、私が持つ最大の力なのです。そんな力、いらないんですけど、手に入ってしまうのだから仕方がないのです」



そう言って彼女はニコリと笑った



「そう、永遠の若さも、膨大な知識や魔力もいらなかった。本当に欲しい物は、何も持ってないんだから、私にとっては呪いなのですよ」


「そう、なんですか。じゃぁ、えっと・・・」


「興味は無いけど、貴方の心も読めてしまう。だから先に回答しますけど、あなた方二人には今から特訓をして貰います」


「・・・・・へ?」


「・・・・・は?」



俺と一条さんはまたもや目を丸くした


唐突すぎて意味が分からないといった表情をすると、彼女は忘れていたというような顔をした



「あぁ、すいません。唐突でしたね。説明しますね。私、興味が無いけど未来が見えるのです」


「未来?」


「はい。それと同時に、様々な過去も知る事が出来るのです。本当に、興味ないんですけど趣味程度にそいった過去や未来の事、技術や魔法の事、知りたいと思わない知識を私は本にしています。これが私が唯一出来る暇つぶしなのです。別に本を書きたいと思っていないので、書けてしまうのです」



この本全部書いたのか!?


二人はバッと天井まで続く本棚に整頓された無数の本が視界へ飛び込んでくる


1000?いや10000か?いやもしかしたらそれ以上―――


数える気も失せる程の蔵書を、目の前の女性が全て書いたというのか?


その驚きは、凄いという感想を通り越して二人に僅かな恐怖を抱かせた


そう思った瞬間、彼女はニコリと微笑んだ



「お気になさらず。あなた方がそういう人間ではないと、分かりますから。えぇと、本は私が欲すると手に出来ないかもしれないので、貴方に探して欲しいのです」



そう言って彼女は二人の前に巨大な本を置いた


分厚っ!?辞書なんてレベルじゃねぇ!?



「これは?」


「持ってきて欲しい本があります。これはその本の場所が書かれています。本の名は・・・前代時事記録19刊です」



俺と早苗さんはまたもや顔を見合わせ、そして本を開いた


そして息を呑む



「にっ・・・日本語!?」


「ど、どういう・・・」



二人はあまりの驚きに声を張り上げる


この本が日本語で書かれているのならば、もしかするとこの人は―――


そこまで彩輝と早苗が考えたところで、それを本人が否定した



「いえ、ここにある全ての本にはその人が読めるように勝手に翻訳してくれる魔法をかけています。今はあなた方が一番親しみのある、読みやすい言語になっているはずです」


「こ、これなら探しやすい!」



正直、また一から翻訳し直してさがさないといけないのかと思っていた彩輝はホッと胸をなで下ろす


そうして、綺麗に名前順に並べられた本の中からその一冊を見つけだす


しかし、途中目録の中に単動式蒸気機関やら元素やらDNAシークエンシングとか、よく分からないものから聞いたことのあるような名前の本がちらほらと出てきた


この木の中の本があれば、外の世界に大革命でも起きるのではないだろうか?



「記すために書いているのに、自分では読みたいと思った本を読めないのが呪いの辛いところですね」



そう愚痴を漏らしながら、三人は螺旋階段を上って目当ての本を早苗が手にした



「17、18、19・・・っとこれか」



一体どれほどの間そこに挟まっていたのだろうか


表紙に汚れは無いが、上に溜まった埃が下へと落ちていく


緑色の、蛇が縁取られた本であった


そして目当ての本を手にした三人は下へと戻ると、その緑色の本は勝手に開いてしまう



「さて、どこから話しましょうか。まずは、過去の話しをしましょう。私が知る過去を。そして未来の事を。そしてあなた方がすべき事の指針を。しかし、その前にあと二人の主人公も到着したようです」



俺と早苗さんはキョトンとして、まだ誰か来るのだろうかとドアを振り返った


ダイヤレスさんは音もなく立ち上がり、すり足でドアまで移動するとそのドアを開いた


其処には少年が立っていた



「案内ご苦労様」



そう言うと少年はスッと消えてしまう


その後ろに、見覚えある人影二つ



「せ、仙!!」


「あ、アーヤん!?」


「早苗っ!?」


「一条さん!?」



驚く四人を尻目に、彼女はニコリと微笑んで二人を部屋へと招き入れる



「主役は揃ったみたいね。さぁ、今度こそ話を始めましょうか」



魔女はその微笑みを崩さぬままあと二人分のお茶と茶菓子を出し、学校机と椅子が二つずつ新しく出現した



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