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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
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『再会祝いの集い』




クロロト城下街、とある食堂にて一条唯は木のジョッキを片手に立ち上がった


二階の小さな一室を借り、再会の祝宴会が開かれようとしていた


窓から満月が覗き、涼しい夜風が流れ込んでは美味しそうな食材達の匂いを部屋にかき混ぜる



「では、全員集合という訳ではありませんが、ひとまずお互いの無事と再会を祝して、かんぱーーいっ!」



そのかけ声を合図に、一斉に木のジョッキがぶつかり合った



「いぇーいっ!!」



と、高らかに声を上げて彩輝のジョッキに早苗が乾杯をする


次々にみんなのジョッキに乾杯していくのを見て、彩輝も神原や唯のジョッキへと一つずつ乾杯する


そして最後にカイと千尋ちゃんのジョッキにも乾杯をする


カイは少し戸惑っていたが、これが向こうの世界の風習だと勝手に納得して仮面を外すとお酒を喉へと流し込んだ


と、その隣の二人も一気にお酒に口をつける



「あぁ、旨いっ!!」


「最高っ!!」



ドンっと机にジョッキを叩きつける仙と早苗



「どこのおっさんだよげぷっ」


「一条さんのほうも負けず劣らずおっさんですよ」



と、二人に即座に突っ込んだ唯がゲップをすると、彩輝もまた一条さんを横目で見ながらそう突っ込んだ



「う、うぅ~・・・」



顔を真っ赤にして机にガンガンと顔をぶつける一条さん


酔いが回ったのではなく、ただ単に恥ずかしいだけだろう


みんなが笑う




「いやぁ、二人とも凄く疲れててねー・・・これでも体を動かすのが手一杯なんだわ。あぁー染み渡る染み渡る」



と、早苗は早くもお代わりを要求する



「しかし、まさかこんなところであっちの世界の人と合流できるとはなぁ!」



神原さんは酔いが回るのが早いのだろうか、顔がいつのまにやら真っ赤である


合ったばかりのテンションとは裏腹に、現在はテンション上げ上げである



「神原さんはどこに出たんですか?あ、ちなみに俺はアルデリアっつー、まぁ南の国だったんですが」


「俺はロルワートだ。まぁ王都に居たのは少しだけなんでな、たぶんお前等よりかはこの世界の常識は知らないと思う」


「私はフェーミリアス。今回の戦争で駆りだされちゃってねー。んで戦地にて仙と再会してね」



机にもたれながらジョッキの中のお酒をグルグルと回して彩輝を見る



「ね、どう?帰る方法、分かった?」



まぁ恐らくその質問が真っ先に来るだろうとは思っていた彩輝は視線を落とし、首を横に振った


それを聞いて来るという事は、恐らく二人も帰る方法を見つけていないのだろうと容易に想像がつく



「現状、まだ分かってません。まぁ今はそれどころじゃ無いんで」


「そうだね、ここは一度全員の持ってる情報と今の状況を話し合って今後の事を考えないといけないか」



君たちが此処にいる理由とかも聞かないといけないしね。そう言って考える素振りを見せる神原


他の三人も頷いて情報交換の場が持たれた







 「なるほど・・・そっちはそっちで色々あったらしいな」



腕を組んで椅子の背にもたれかかる神原


とりあえず俺、そして一条さんは現在自分の置かれている状況を全て話した


この世界に放り出され、そして龍に攫われ、武闘大会があり、イレータ湖での出来事、そして全ての事件に関わる吸鬼の事と千尋、いや、夕日ちゃんがとてもややこしい事になって攫われている事


そして、神子の事、北へ向かっている目的を話した



「それが事実なら、最優先は夕日ちゃんの精神の奪還、それと魔獣の封印の上書きが最優先だな」



話した事はやはり異世界、魔法や魔獣などがいる事から二人もあっさりと信じてくれた


予想以上にあっさり納得する二人を見て、彩輝がその事を訪ねてみると



『こいつ、オタクだから』



と、お互いに指を差し合いながらそう言った



「でも吸鬼がどこに向かったのか分からない以上、探しようが無いです。とはいえ、三度にわたって遭遇してるんでそのうちまたどこかで合うんじゃないか?」


「楽観しているね、彩輝君」



そう彩輝が言うと、顔を真っ赤にさせた早苗に真顔でそう言われた


楽観。確かにそうかもしれない



「優先順位は彼女の奪還が最優先です。それは理解しているんですけどね、此処までの道のりで吸鬼の話を一切聞かない。探しようがないですもん」



お手上げだ、と彩輝は器に残った飲み物を一気に飲み干した


早苗はそれを見て口を出す



「とはいえ、吸鬼とやらのアジトが北にあるのは間違いないだろうね」


「だな。話を聞く限り、南でそれだけ騒いだというのに、この辺ではまだ吸鬼が絶滅していない事を知っているのはごく僅か、噂程度の広まり方で誰も警戒していない。狙ってるとしたらそいつら、思った以上に頭が切れる」


「そうだね。それだけ騒いでいて、肝心の目的が分からない。潜伏していた期間は長いのに、ここ最近は立て続けにお祭り騒ぎ」


「目的・・・たぶん宝玉を集めてるんだと思います」



彩輝と一条は宝玉が三つの事件の中心になっている事を伝える


黒龍に埋め込まれた黒玉


大会の景品となっていた紅玉


そして見ては居ないが、湖の社から奪われたという水玉



「宝玉にどんな力があって、何のために使われるのかは分からないが良い予感はしないな。荒れ狂った黒龍、突如パワーアップするおっさん。ま、また魔術とか魔力とか、そのへんが関係してるんだろうが・・・な。流石異世界、意味が分からん」


多分お酒が入ってるから分からなくなってるんじゃないでしょーかと彩輝が呟く


早苗にお酒をつぎ足してもらうと神原さんが天井を仰ぎ見る


隣にいる早苗にも継ぎ足しながら、こんどは早苗が自分の憶測を話し始めた



「本当に・・・羽生えた人間が何集めて何しようが私たちに関係ない、って言いたいくらいよ。私たちよそ者には関係ないじゃん・・・」


「でも、その羽生えた人間に夕日ちゃんの魂が攫われてるんだけど」



瞼を半分閉じた唯が早苗にぶっきらぼうに言う


すると早苗も一条を見返してほんの少しだけ口調を強めた


二人とも、先ほどからお酒が入ったからか互いに睨み合ってる気がする



「あの、二人はこれからどうするんですか?」



其処に彩輝が割ってはいり、神原と仙に質問した


ナイスフォローと神原が親指を立てて机の下でガッツポーズした



「どうするっていわれてもねぇ・・・二人みたいに明確な目的があるわけじゃ無いし・・・それに帰る手段探す代わりにお国の方に尽くしなさいって言われてこうして私は軍人になっちゃってる訳だし」


「居場所が、欲しいんですか?」



唯はそっと、訪ねてみた



「居場所・・・?」


「あぁ、確かに、分かるかもしれない。俺も居場所が無かったから、あんな組織つくっちまったのかも知れない」



早苗に対して問われた問いに、神原が割ってはいる


組織というのは革命軍の事だ



「私は、帰る場所が無くて、知ってる人も誰もいない世界に放り出されて、泣いてた」



そう口を開いた一条をジッと、静かに見つめる早苗


次に口に出される言葉を待つかのように



「でも、そんな手をアーヤんが握ってくれて、私は安心できる居場所を見つけた」



ね?とでも言うかのように一条さんは俺の方を見てきた


それに彩輝はどう答えれば良いか分からず沈黙してしまった



「だから、帰るまで、私の居場所はアーヤんの隣っ」


「自分勝手ね」



そう言った早苗に対し、俺は無意識に口を開いていた


開いた後に、あれ?と思った



「そんな―――ことは・・・無いです。俺も、一条さんに手を取って貰って助けられたんですから、おあいこですよ」


「うん。じゃぁそういう事にしておこう」


「え、事実ですよ?」



空に籠もってしまった自分を、彼女は助け出してくれた


今でも思い出せる。白い翼を広げた彼女の姿を


と、早苗はジョッキを机の上に置き、無言で立ちあがった


突然の行動に、全員の視線が早苗に向けられた


だが早苗は、ただただ無言で部屋を後にした


不安になった彩輝は



「何か悪いこと言った?俺?」



と皆に聞くが



「夜風にでもあたりに行ったんだろ」



と、カイが静かにお酒を飲みながら一言呟いただけであった




「あー・・・俺、ちょっと様子見てくるわ。みんなは此処で待っててくれ」



と、今度は神原が席を立った


静かにドアを閉め、彩輝がもう一度



「俺、本当に何も言ってないよね?」



と確認を取った


全員、何も言わない


えぇ~、不安だ~


と彩輝は内心汗をかいていた








「どうかしたの、あの彼女?」



ドアを出ると、其処には獣人の少女ウーリィンが腕を組み壁にもたれて立っていた


彼女はお腹がすいていない、とずっと廊下に立っていたのだ


神原が出てきたあと、片目をぱちりと開けてこちらをジッと見つめてくる



「さぁ、な。俺の与り知るところでは無いが、声ぐらいはかけておくべきかと思ってな」



一応俺の彼女だし、と付け加える



「彼女ならあっちに行ったよ。突き当たりはバルコニーだから、たぶん其処じゃない?」


「サンキュ」



片手を上げ、そしてウーリィンが指さした方向へと歩き出そうとしたとき



「ねぇ」



呼び止められた神原は足を止める



「神原はあたしの居場所になってくれる?」


「・・・聞こえていたか」


「耳は多少いいからね」



ピコピコと獣の耳がかわいらしく動いた


静かに息を吐いた神原は自分よりひとまわり小さいウーリィンの瞳を見つめる



「お前がなって欲しいって言うなら、俺はなるよ。その責任が俺にはあるからな」



彼女の帰る場所を奪ってしまったのは俺なのだから


あの後、寝込んでいた神原の元へ、神原、そして人間を連れてきたウーリィンの処遇が通達された


村人からすれば人間に村の場所がばれるのはまずい


しかし、異世界から来たため、その恐れは必要無いという神原の言い分が信用される訳もなかった


申し訳なさそうに、裏切り者としてのレッテルを貼られたウーリィンと共に村から追放されてしまった


獣人にとって、人間は敵である


人間界では獣人は奴隷として売買されているのだから、獣人から見れば人間は恐ろしい敵である事に間違いは無い


多数派や強者が少数派や弱者を虐げるのは何時の時代でも変わりないのだ


その点、ウーリィンは人間に対して友好的であったため、神原が仲間達の言う恐ろしい人間にはどうしても見えなかったのである


森には魔獣も沢山居る事だし、獣人という種族を信じて村へ神原を泊めてあげようと連れ帰った結果、神原とウーリィンは村に拒絶された


処刑されなかっただけでもありがたいと、何かと頑張ってくれた村長にお礼を言って神原はウーリィンと共に森を出たのである


どういう説得をしたのかは結局聞けなかったが、それでも生きている事に感謝である


ただ、生まれた故郷に帰れなくしてしまったのは紛れもなく神原自身なのである


だから、この獣人の少女には何をされても文句は言えないし、言うつもりもない



「責任なんて感じなくて良いよ。私が勝手にやったことだし、後悔もしてないから」


「そう言ってもらえると救われるよ。じゃぁ」



神原は静かにウーリィンを背にして歩き始める


そんな神原の背中を、何か言いたそうな顔で静かに見つめ、見送った




 「この世界にも月みたいな衛星があるんだな。にしても、お前が月を眺めてるなんて、似合わんな」


「・・・・何さ。嫌味?」


「いやいや、お前に合ってるのは月を眺めてる姿じゃないだろう」


「なら何が似合うっての?」


「パソコンの前でニヤニヤとゲームやってるお前。もしくは、ぬるぽという字をみたらすかさずガッと突っ込むお前が好きだな」


「・・・褒めてるの?貶してるの?ちなみにあんたも似たようなものじゃない」


「褒めて・・・る・・・と思う。たぶん。褒めてる。うん。まぁ、そこについては悲しいかな否定は出来ないね」


「私もそんな自分を否定できないけど、やっぱそれは褒められる事じゃないのは理解してるつもりよ」



バルコニーに置かれた椅子に座って月と星空を眺める早苗の隣に椅子を持ってきて神原が座る



「何しに来たの?」


「早苗を見に来た」


「そう。どんな私が見えるの?」


「寂しそうにしてる早苗が」


「・・・・」



沈黙が訪れる


街はまだ眠ってはおらず、人々がまだ行き来して賑やかだ


風と共に運ばれてくる匂いが、二人の鼻を掠めていく


しばしの沈黙の後、神原も夜空を見上げながら口を開いた



「ごめん」


「なんであんたが謝るの?」


「いやあ・・・居なきゃいけない時に、側に居れなかったから」


「・・・・」


「君が軍を指揮しているのを知ったときは驚いた。それと同時に、辛いことを言わなきゃいけない立場になった早苗を支えてやるどころか、一緒に居ることさえ出来なかった自分が悔しい」


「・・・やめて」


「俺はお前の彼氏なのにな。ついさっきまで、お前が手を伸ばしている事に気づくことすらできなかった。彼氏失格だ」


「・・・・・・・やめてよ」


「なぁ、早苗、俺を許―――」


「やめてって言ってるでしょ!!何!?なんで!?なんで仙が謝るの!?対等なんじゃないの私たち!?私は・・・私はっ!!弱く、無いっ!!」



神原の言葉を遮り、座っていた椅子がひっくり返る


勢いよく立ちあがった早苗は神原を見下ろしてそう叫んだ


溜まっていたものをぶちまけるように


そんな早苗を見て、神原はニコリと笑う



「確かに、弱くはないと思う。でも、早苗は溜め込む癖があるからね。昔から、そうだった。言いたいことを言わずに溜め込んで、でも押さえていられなくなるとこうやって席を外して逃げ出す」


「っ!!」


「そういう所も含めて早苗だし、でも俺はそんな早苗が好きなんだけどね」



メガネの奥の瞳はややつり目の黒い瞳にニット帽


そんなニット帽を、照れ隠しのためかグッと深くかぶる



「私は・・・嫌い。こんな自分が」


「何?早苗は完璧な人間でも目指してる訳?」


「そうじゃ・・・ないけど・・・」



そう言われ、言いよどむ早苗



「俺のこと、はけ口かなんかだとおもって使えよ」


「でも・・・」


「俺はお前の彼氏なんだからさ、それぐらい受け止めてやるって言ってるんだよ」



そう言って立ち上がり、今度は早苗を至近距離から見下ろした



「それぐらいは出来るし、俺じゃそれが出来ないとでも思うのか?」



そうじゃない、と口に出したそうな顔をして早苗は首を横に振る


そこで神原はため息をついて振り返る



「つまり、俺が何を言いたいかと言うとだな」



神原はバルコニーに出た時に締めたドアを思いっきり開き―――


どさどさーっと雪崩のようにしてバルコニーに溢れだしてくる人影に早苗はお酒で火照った顔をぽかんとさせる



「お前等はいつまで盗み聞きしているんだ、と言うことだな」


「あは・・・は」



そこには笑顔を氷らせた一条唯と桜彩輝、そしてウーリィンが居た


一人静かに、カイは部屋でお酒を注いで料理を摘んでいた



「美味いな、これ」



窓から覗く月は地上を静かに照らしている


バルコニーの方は少々賑やかだったが



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