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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
間章 ~鳥と狼~
107/154

『温もりを確かめるように』

血が出る注意

それを言葉で表すならば、それは火の翼だった


余計なものは何一つ無い、温もりを与え、汚れを燃やす、純粋なる炎


あぁ、それは、それは、それはそれは


怒りの声と共に・・・



「ウチの彼氏に何するげんてやああ!!」


「っくおっ!?」


「・・・・え?」



咄嗟にしゃがんで腕で顔を隠した俺はその聞き覚えのある声にん?と顔を上げた


いま確かに彼女の声が・・・


残り火が空中に消えていき、尾を引く炎が男を連れ去っていってしまった



「ラインッ!!」



と、ルーティと剣を重ねる女が炎に攫われた男に気をそらした


その隙をついてルーティが一気に力を強める



「うおおっ!!」


「んあっ!?」



小さな悲鳴を上げて地面に転がる女性


倒れてなお剣を放さぬのは、騎士である故のプライドか、それとも無意識か


それを見てルーティはすぐさま俺の前にまで駆け寄ってきた



「大丈夫か!?」


「女って力じゃねぇよありゃ!って、んな事より退くぞ!これ以上は押しとどめられん!」



その声の通り、矢の雨が降らなくなったとみるやいなやガルトニールの兵士達が我先にと丘を駆け上ってくる


あまり時間に余裕は無さそうだ


しかし―――



「何躊躇ってんだ!?」


「っ・・・・」


ルーティに腕を掴まれるが、俺は僅かな抵抗をしてしまった


俺は先ほどの炎の翼が通り過ぎた方向に視線を向け、つられてルーティも視線をそちらへ向ける


そこには激しく燃える二つの炎を纏った女性の背中があった


あの後ろ姿を、俺が見間違える訳がない


彼女の後ろ姿を見間違えるはずがない!!



「早苗っ!!」



駆け上ってくる兵士達や味方の兵士達の喧噪の中で、思わず俺は叫んだ


彼女に届いただろうか?


彼女は、ゆっくりと振り向こうとして―――俺はルーティに突き飛ばされた



「余所見余所見あははははっ!!」


「っぐぁっ!!」



どしゃっと倒れた俺は直ぐに振り向き、そしてその赤さに言葉を失う


そこには、左腕を切断されたルーティが立っていた


そしてその後ろに、あの女の姿が見えた


狂気に、笑っている



「っ!!うおおっ!!」



だがルーティも騎士なりに意地見せた


斬られながらも彼は振り向いて女に向かって剣を薙いだ


切っ先が女の部分的に着けている鎧の無い腹部を的確に切り裂いた



「あああああああああああ!?」


「っぐうぅっ・・・」




女の腹が横一文字に切り裂かれ鮮血が吹き出した


女は叫んで腹部を押さえて倒れ込む


しかし、腕を切り裂かれたルーティもそのままバランスを崩して地面に倒れ込む


その二人の行動の終わりに止まっていた神原仙の時間が動き出した


あわてて立ち上がり、ルーティに駆け寄る


肘から先が、1メートル離れた場所に転がっている



「ルーティッ!!」



血が止まらない


彼の下に血だまりが出来てゆく



「あ・・・あああ・・・」



頭の中が真っ白になった


なのに眼鏡についた彼の血が、どうしようもなく赤い


赤色が、消えない


膝をついた俺の隣で叫び悶え苦しむ女の絶叫も聞こえないぐらいに俺は頭の中が真っ白になってしまっていた


そんな真っ白な頭の中に、『自分のせいだ』という言葉だけが浮かんでは消えない。浮かんでは消えない


その言葉だけがたまり続けている


今は戦争中で、ここは戦場なのだという事だけが僅かに心に割り込んだ


そしてまた自分のせいだという言葉に埋め尽くされていく


目の前で苦しむルーティの姿とその血の赤さで、俺は完全に動けなくなってしまったのだ



「止血っ!!」



そうだ、血を止めないといけない


何を・・・何をすれば・・・


そこでようやく俺の頭は思考という機能を取り戻す


血を止める為には、腕を縛ればいい


その為には何が必要か


そこで俺は本やテレビを思い出した


俺は咄嗟に立ち上がって辺りを見回した


使えそうなものは・・・・・・・あった!


俺は自分の腰にある剣の鞘を腰から外す


そして服を半分脱ぎ、鞘から抜いた剣できる


それをルーティの腕に巻き、そして鞘にも巻き付けて締め付ける



「っぐぅ・・・」


「我慢しろっ!!」



たしか、止血帯法とかいったっけか


他にも方法があるのかもしれないが、俺は他の方法は知らないし、この際名前なんてどうでもいい


この方法にも多少のリスクがあったように思うが、俺はそんな事は忘れてしまった


それに彼の腕から吹き出す血をこれ以上見ていられなかった


血が少しずつ止まってきたのを確認して俺は締め付けている鞘を固定するためにもう一度服を巻く


ホッと一息をついたのもつかの間、女がゆっくりと立ち上がり、その影がルーティに覆い被さった


俺が顔を上げるとそこには苦痛に顔を歪める女が剣を片手に持って立っていた



「・・・!!」


「許・・・さない・・・嫌われる・・・嫌われる・・・嫌わ・・・わあぁ・・・あぁ・・・あああああああああああああああああ!!!」



叫びながら剣を振り上げる彼女


だがそれと同時に再び傷口が開いたのだろうか、腹部から血が噴き出し、女は苦痛に顔を歪めた


しかし女はそれを耐えてこちらに剣を振り下ろしてきた


その剣に先ほどまでの威力が無いのが目に見えて分かった


だが、それを頭の中で考えるよりも体が先に動いた


咄嗟に剣を持ち、女の剣を受け止めて膝立ちから立ち上がる



「あまり力を入れると、傷口が開くんじゃ無いのかよっ!」



女であるかどうかなどもはやルーティの中ではどうでも良くなっていた


がら空きになった、そのルーティに斬られた腹部目掛けて思いっきり蹴りを入れる



「ああああああああ!!」



蹴り飛ばされて地面を転がる女はついに剣を手放して腹を押さえた



「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいぃぃぃぃぃ!?」



転げ回る女は涙を流しながら虚空に向かって叫び続ける


その光景に俺は鳥肌がたち、そして吐き気に襲われた


胃の中のものが逆流してくる


俺は我慢できずに胃の中のモノ全てを吐き出した












 「ってえい!!」



十分に仙から距離を取ったことを確認すると早苗は男の顔を掴む手に力を込める


私は男の顔を掴んだまま思いっきり地面にぶつけると炎の翼を折りたたむ


確かに思いっきりやったつもりなのに、そこにはあまり手応えは無かった


バウンドして転がっていく男を見ながら私は着地する


どれほどの勢いが出ていたのかは分からないが、地面を削りながらもかろうじて着地に成功する



「頑丈なのか、私の筋力不足なのか・・・にしてもなんやこれ?炎の・・・尻尾?尾羽?」



ふりふりと早苗は腰の辺りから伸びている炎を動かしてみる



「まぁこっちは翼・・・でいいんだよね?」



そして背中から生えている炎の翼を大きく広げると火の粉が舞った


その割には熱くない



「にしてもなんなんこれ?」



脳裏に突如響いた声に言われるがまま、ある言葉を叫んだ途端この姿になってしまった


その後はもう無我夢中であまり記憶にない



「っててて・・・」


「ん」



ガシャリと胸についていた鎧を外して男が立ち上がったのを見て早苗は臨戦態勢を取る


炎の翼がより激しく燃え上がるのを早苗は感じ取る



「全く、なんだってんだ・・・」


「こっちが聞きたいねっ!」



話なんて聞きたくない。お前の声なんて聞きたくない


仙に剣を向けたのなら、私はお前を許さない


理由なんてそれだけで十分だ


なんだか分からないけど、体中に力が溢れてくる


男の大人相手なのに、私は負ける気がしない


こんな奴相手に、負けたくない!



「あんた、今あたしの彼氏に何しようとしたん」


「あ・・・?てめぇこそ、俺に一撃いれたくらいで浮かれてるんじゃねぇだろうな?」



睨み合う二人の間に火花が飛び散る


私はもう一度、この男を吹き飛ばしてやろうと大地を蹴って炎の翼を広げた


瞬間的な加速に辛うじて体や意識がついて行っている状態ではあったが、それでも相手をしっかりとその視界に捉える


思い切ってその右足を男の頭目掛けて回し蹴ろうとすると、男はその一撃を剣で受けようとしたので私は足を引いた


そのまま振り抜いていれば自分の足が切れていただろう


そして炎の翼を使って重心を移動させ、体の回転を逆向きにする


曲げた右足を伸ばし、その踵で相手の側頭部を狙う


反応しきれなかった男はその私の一撃を食らって再度吹き飛んでいった


丘をごろごろと転がる様を見て私は振り返って叫ぶ



「仙っ!!」



もはや背中の炎などどうでもよくなっていた







 「はぁっ・・・はぁっ・・・・」



神原仙は目の前の自分の吐瀉物の匂いに耐えきれず、立ち上がって新鮮な空気を思いっきり吸って、吐いた


はやく・・・はやくこの場から逃げなければ


辺りを見回すとすでに半分以上の革命軍が撤退をしていた


未だ叫び続ける女を無視し、俺は急いでルーティを担いで撤退を始めた



「くそっ・・・大丈夫かルーティ!?」


「あ・・・あぁ・・・生きては・・・いる。糞いてぇがな・・・」



これまでこまめに洗ってきた洗ってきた唯一の元居た世界の服に血が付くのも顧みず、懸命に二人は丘を下る


向こう側へ見えるエステルタとフェーミリアスの軍へとルーティを治療して貰わなければならない


所詮は応急処置だ



「くそっ、もう少しだぞっ!」



そこへ小さく地面を響かせて一匹の生物が駆け寄ってくる


女の人を乗せているそれは俺とルーティの前で止まる


俺はその女の人を見上げる



「乗ってください!」



その女性は俺とルーティに手を差し伸べてきた


一瞬呆気にとられた俺だがすぐ思考を再開させると担いでいたルーティをその生き物の上に乗せた



「貴方も!」


「すまないっ」



ずり落ちそうになった眼鏡を押さえて俺は彼女の手を取った


生き物の膝に足をかけて引っ張り上げて貰うと女性は「しっかり捕まっていてくださいね!」と言って手綱を引いた



「君は・・・?」


「私はフェーミリアス聖王国、魔獣調教部隊のフォルン・レティッシェです」


「フェーミリアス・・・っ!!そうだ、早苗っ!」



俺はあの時聞こえた声を思い出した


あれは紛れもなく、小田原早苗の声だった!


聞き間違えるはずが無い


この謎の生物から俺は飛び降りようとする


しかし、それよりも先に俺の服をフォルンとか言う女が掴んでそれを引き留める



「待ってください!危ないですっ!!・・・って、えっ、サナエさんを知ってるんですか!?」


「知ってるも何も、俺の彼女だっ!!」



その言葉に、一瞬フォルンが神原の服を持つ手の力を緩めてしまった


その隙をついて神原がトトルの背中から飛び降りた


そして手短に落ちていた剣を拾ってフォルンへそう叫んだ後、神原は走り去ってしまう



「ルーティを頼む!」


「あ、はい・・・・って、え!?あのサナエさんの彼氏っ!?ってああっ!黒髪っ!?も、もしかしてカンバラさんなんですか!?」



と、フォルンが確認を取ろうと叫んだ時にはもう、その声は神原の耳には届いていなかった


戦場の音に乗って、彼の耳には早苗の声が木霊していたのだった



「さなえええええええええっ!!」



俺は力一杯彼女の名を叫び、力一杯剣を握り締め、力一杯走った






 聞こえた


確かに、聞こえた


私の名前を叫ぶ、彼の声が


間違いなんかじゃ無かった


出会えた


仙が、仙がそこにいるっ!


あ・・・


そこには彼が居た


がむしゃらに走っている彼の姿がそこにはあった


やっと、やっと、やっとやっとやっと出会えた


私は小走りになって彼に駆け寄った


彼も剣を放り投げて私に駆け寄った


背中の炎の翼がゆっくりと消えていくのが見なくても分かった


なんだか、体から力が抜けていくような感覚に陥って足下がよたついてしまう


そんな私の体を、彼の手が抱きかかえてくれた


そして、ぎゅっと抱きしめてくれる彼の温もりに、私は涙を堪えきれなくなってしまう



「もっと・・・抱きしめてっ・・・」


「あぁ・・・ああっ・・・!!無事で良かった。本当に・・・良かった・・・」



あぁ、なんと彼は暖かいのだろう


あぁ、なんて彼は大きいのだろう


私はこんなにも、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて、たまらない





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