表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風のアヤキ  作者: 夢闇
間章 ~鳥と狼~
106/154

『貴方の名を叫ぶ』


今早苗は戦闘のあったレヌガンダの谷の近くの町で騎士団と一緒に周辺警備を行っていた


ガルトニール軍は撤退したが、油断するのはまだ速い


早苗もそれに賛同したため、戦闘が終了してからおよそ2週間ほどの間この町で国境を警戒する事となっていたのである


仮設テントの中でボンヤリと自らの手を眺める少女は静かにため息を落とす


死んだ


生きた


殺した


守った


殺さなければ殺されていた


守るために殺した


殺したから守れた


分からない


言い訳か?


言い訳だろう


正しかった事なのだろうか


守らなければ、と思った


結果、多くの命が失われた


なら守らなければと思えば良かったのか?


いや、思わなければ死んでいた


生きているからこそそんなことに悩める。これは贅沢な事なのか?


でも、私がこの世界に来てしまったから、運命が変わったのかもしれない


私がこの世界に現れなければ、フェーミリアスとガルトニールとの戦いはもっと違う終わりがあったのかもしれない


それはもしかしたら私が定めてしまった未来とは違う、死者無き終わりだったのかもしれない・・・と


悩んだところで、そんなことに結論は出ない


結局は私が介入して、この国の人たちは死なず、あっちの国の人たちが死んだという結果に変わりは無いのだ


もしかしたらそれが逆だったのかも知れない


どっちが良かったのかなんて、私なんかには分からない


でも、自分が下した結論よりも、もっと良い未来があったのかもしれないと思うと後悔が無い訳ではない


いま小田原早苗の中に渦巻いているのは介入して多くの命が失われた事による後悔だ


それは自分でも分かっているつもりなのに、それでも後悔は消えない


戦争が此方の勝利で終わり、私は結果として生きている。だから、辛い


辛いのだ


思い出すたびに彼女は涙を目に浮かべた


ごしっと目元に浮かんだ水を拭う


彼が・・・彼が居たらな・・・と


居ない存在に心を預けたくなる衝動に、早苗は堪えきれなくなりそうだった


支えとなるべき存在や頼るべき存在も背中には無く、彼女はたった一人で異世界で生き抜かなければならないのだ


それは孤独だった


そんな孤独に、この人の命を奪ったという重圧がのしかかる


苦しかった


押しつぶされそうだった



「せ・・・ん・・・・」



そんな誰にも届くことの無い弱音を吐いていた頃だった


彼女へ知らせが届いた



 「えと・・・理由は?」



早苗が知らせを届けた兵に聞く


まったく何のために自分が王都へ呼び出されるのか、意味が分からなかった



「今回の戦闘におけるその指揮官としての立ち回りを評価して貴方を正式に我がフェーミリアス王国の騎士団に加えたいとの声があがりまして」


「ちょ、ちょっとまって、騎士団!?私を!?」



それを聞いて早苗は正気かと耳を疑った


ある程度の事はこの世界に来てから学んでいた


礼儀や文化、そして簡単な歴史も聞いていた


その中でアグレシオンという単語が自分に直接ではないにしろ、少なからず関わってくると早苗は直感で感じ取った


以前現れた異世界人、つまり自分のような人間が突然大陸を侵略しようとして大きな戦争が起こっている


自分がもしこの世界の人間ならば、アグレシオンと小田原早苗はどこが違うのだと言うだろう


現に小田原早苗はガルトニール帝国の人間を殺すためにこの国の兵士を使って立ち回った


そんな事を許された理由は、私が今のこの周辺国家の関係が歪だと感じたから


結局私はガルトニールの人から見ればアグレシオンと何も変わらない


逆に、そんな人間が地位を手に入れ、もし裏切った場合の事を考えているのかと早苗は思ったのである



「はい。ですので至急お戻りいただき、その事について会議を開きたいとの事です」


「えっと・・・」



どう言葉を返すべきかと悩んでいたところでその兵士がもう一つの伝達事項を早苗に伝えた



「それともう一つ別件で貴殿に招集がかけられております」


「今度は何?」


「精霊台保持国会議に出席して頂きたいとの知らせです」


「・・・何それ?何の会議?」



精霊台、というのは早苗も耳にしたことがある単語だった


早苗が最初にこの国へ現れた時に現れた台座の名称がたしか精霊台だったはずである


しかし、その会議の内容が分からない



「大雑把にしか聞いておりませんが、精霊台を保持する国であなたのような異世界から来たという人間について話し合うとの事です。その最重要参考人としての出席命令が出ております」


「えっ・・・それって・・・」



早苗の心に期待という一つの光が浮かんだ


その小さな期待は彼女の重荷を、一つ、また一つと取り除いていく



「他にも・・・私みたいな異世界から来た人がいるの・・・?」


「どうやらあなたと同時にこの世界へと飛ばされた人たちのようです」



言葉にならない感情が、目から涙となって、口から嗚咽となって、体中からあふれ出すかのような気分になった


会える。そう思った


彼に、逢えると








 「――――ると・・・思ったんだけどなぁ」



結局私はまた戦場にいる


なんでこうなってしまったんだろうか


私はまた人の命を奪う命令をしなければいけないというのか


結局はいいように扱われているだけだと、自分でもわかっているのに


それでも、私は断ることが出来なかった


独りだったから



「畜生・・・」



つくづく自分が嫌になる



「サナエ殿。そろそろ時間ですぞ」


「あぁ、うん。そうだね。それじゃぁ最初の部隊をさっきの指示通りに動かして。後は私の判断で奇襲の指示を出すから」


「了解した」



そう言って軍師は馬に乗って丘の向こう側へと消えていってしまった


物見の丘にて私は今、フェーミリアス軍とエステルタ軍を率いてガルトニールのロルワート侵攻を止めるべく動いている


少しずつ兵を隠してクロロトという国に集め、そしてガルトニールが出兵すると同時にそこに集まった3000の軍が物見の丘周辺に集い始める



「全く、なんで私が総指揮官なのよ・・・」



エステルタとフェーミリアスの軍師が一度集まり作戦会議のようなものを開いた


その時に各自案や策を出し合ったのだが、その中で早苗の考え方に多くの軍師が賛同しての抜擢だった



「ゲームじゃ無いってのに・・・どうにも都合良すぎるような展開じゃないのこれ?」



とまぁそんなことを考えても何も始まらない


結局は全力でこの戦争に勝ってフェーミリアスに帰るしか無いのだ


そうで無ければ、彼に会うための会議に参加させて貰う事が出来ないと脅されている


その事を条件に早苗はこの戦争に関わることを決意したのである


と、物見の丘の向こう側で大きなホラ貝のような音が鳴り響いた


パンパンッと自らの頬を叩く


全滅したら負け。勝率は100パーセントじゃないとだめなゲーム


でも勝ち目があるなら、私はその勝負を落とさない


軍略師の二つ名は誇りだ


今だけは私は軍略師『サーナ』となる


髪が長ければ、結って決意を表したいような気分になった


一度も染めたことのない短な黒髪が、風に揺れる


カラッと晴れた晴天の下、サーナは指示をだす


何時までも怖じ気づいてくよくよしている訳にはいかない


やるしかない。勝つしかないのだ


選択肢なんて、一つしか無いというのに、私はいったい何に怯え、苦しみ、嘆かなければならないのだ


どうせこの手が血に染まるというのなら、死なない道を私は選ぶ


彼に・・・あいたいから・・・


それでも―――


それでも彼に再会出来たとき、彼は胸を張ってこの血で染まった手を掴んでくれるだろうか?


早苗はその瞬間二つの道がある事が、その道の先がどうなっているのかを簡単に想像できてしまった


片方の道は私が彼に謝り、許しを請う道


片方の道は、私が壊れる道


でも、もうこの選択から逃げる事は出来ない


逃げる事は簡単だ。しかしここにいるすべての人たちの命を捨てる事になる


他の人に押しつける事は簡単でも、そんな私にこれ以上罪悪感を増やしたくないのだ


後でこうしておけばよかった。そういった事を思わないような選択をして、私は彼の前に立ちたい


弱くない、強い私で私は彼の前で在りたいのだ



「第一班、先ほどの指示通りに!第二班、一班の補佐に!行動開始っ!」



そう指示を出して早苗は丘の上へと登り、戦場を見下ろす


そこには300の兵が丘の上に、7000の兵が丘の下から睨み合っていた


絶対的な戦力差


それをひっくり返すのは策とそのタイミング


私はそれを扱える


途中下車なんて出来ない


自信を持たないと、兵士達に申し訳がない


彼女の小さな体には大きな責任がのし掛かっていた





 「司令官ッ!!」


「ぐ・・・っ、あ、り得ん・・・あり・・・得ない!」



次から次へと報告がガルトニール遠征軍総司令官のもとへと届いてくる


どれもこれも耳を塞ぎたくなるような内容であった



「総司令官!矢が多すぎてこれ以上は前線が持ちません!」


「レイグウッド総司令官!後方連絡線が完全にフェーミリアス軍、エステルタ軍による混合軍によって分断されました!」


「右翼、未だに初撃の魔術攻撃による混乱から立ち直れません!後方の予備兵を投入しますがよろしいでしょうか!?」


「敵兵約500が新たに右の物見の丘の向こうから出現!竜騎兵数人が新たに物見の丘前方に撃墜されました!」


「後方より敵増兵です!数およそ100で魔術師を中心とした兵のようですっ!」


「敵兵による戦場のマナの消耗が多く、枯渇が速すぎます!速くせねば魔術を放てません!」



次から次へと入ってくる情報


対応が追いつかない


敵兵が四方八方から現れ、何故かエステルタとフェーミリアスの軍まで一緒とは一体だれが予想つくだろうか


現在ガルトニールとその二国は対立しているため、ガルトニールとの戦争で共闘するとは予想していたが、まさかそれがロルワートの方まで出てくるとは思わなかった


それでも両軍が加わったとはいえ、戦力の差はまだ此方の方に大きく分があったはずだ


それなのに


それなのに


それなのに




「どうなっている・・・くそっ!?」



もはやこの司令官には戦場の状況が把握できていないのは誰の目にも明白だった


多くの兵を動かすため、ただでさえ小回りがきかなかくなっているというのに相手は次々に作戦を仕掛けてくる


まず、開幕の一撃に物見の丘の向こう側から巨大な水の塊が飛んできた


トン以上の水量を球がガルトニール軍の頭上からその右翼へと直撃した


そこへ間髪入れずエステルタとフェーミリアスから雷魔術が放たれる


どちらも集団で術式を組んでいる大型の魔術である


本来なら戦場で一発か二発放てれば良い方であるマナを殆ど消費する奇襲による魔術でガルトニール軍の右翼へ展開していた兵が全滅に近い損害を受けて戦争は始まった


とはいえ、それ以上相手は魔術を使うことが出来なくなるというハンデを負うことになる


マナを使えば、それは次に魔術を使うために必要なマナが無くなるという事だ


戦力差は大きすぎる程の差がある


それなのに、全く軍が前へと進んでいない


一体この戦場で何が起こっているというのだ



「蹴散らせ!数は此方が上なのだっ!攻めろっ!進めっ!殺せっ!中央は何をしている!?」



苛立ちは頂点へと達しそうになっている事に多くの者が気がついていた


それでも司令官は怒鳴ることを止めず、冷静になるという事を放棄しているその無様な姿に部下達は不安感を募らせた



「無理です司令官!丘の前は最初の奇襲兵による土魔法で大地が大きく崩れています!進むことは可能ですがスピードが落ちて相手の弓兵に討ち取られてしまいます!それと相手の魔術にて土のマナが不足しています!」


「えぇい!ならば部隊を分けて両翼から回り込め!」


「それも厳しいですね。現在右の部隊は丘から開戦の一撃を受けて被害が大きくでています。兵力差が出る上に右側の丘に陣取っているエステルタ軍と中央に陣取るフェーミリアス軍とロルワート軍によっての挟撃を受けてしまいます!」


「ならば全軍左から回り込めばよいでは無いか!!」


「突撃させるというのなら、機動力の問題で多くの右翼の兵を見捨てる事になります。それにもしこの状況を相手が狙って作り出しているというのならば、がら空きになっている左の丘にも何かあると見るべきです」


「ではどうしろというのだっ!補給路は放たれた炎で塞がれ、前に進めば速度を落として矢でうたれる!右を行けば丘の上から挟撃が、左には何があるか分からないから行きたくないだと!?ふざけるなっ!それに相手の魔術の使いすぎで我が軍周辺のマナまで枯渇しているだと!?」



現在ガルトニール軍の後方は油と火によって退路が塞がれてしまっている


ここが丘でありながら草本が広がっている土地であることもあってか火の勢いはどうも衰えそうもない


かといって水の魔術を使うほどの魔術はこの戦場には残っていない


残っているのは僅かな土のマナと今こうしてガルトニール軍の後方を塞いで燃えている火のマナぐらいだ




「敵兵は分散していますが、それでも突破が難しい状況です!」


「大盾を持たせた兵を右翼へ集中させたのが仇となりましたな」



舌打ちをした総指揮官は突如隣へつけていたトトルへと乗ると剣を抜いた



「それを俺の責任にするなよ糞がッ!もういい!右翼の兵は捨てるっ!残った軍は左翼へと展開して前方の土砂を迂回して丘の防衛を落とせ!前方にトトル騎兵を並べて壁にしてでもなんとしてでもペースを引き戻せ!」


「しかしまだ生きている兵も・・・っ!それに軍を動かすとなれば補給部隊や治癒部隊はどうするのですか!?」


「金や食料なんか、ロルワートを占領すればいくらでも手に入るっ!ここで軍を全滅させてたまるかっ!!数は圧倒的に上だ!数で崩せ!!」



彼は焦っていた


初めて軍の総指揮官として今回の遠征に臨んでいる彼は何が何でも成功させて手柄をあげないといけないという焦りに駆り立てられていた


それ故に、的確な判断が出来なかった


それ故に、指揮官を信じられない者が先行して大隊は崩れてゆく








 「左翼が伸びてきましたね」


「でしょうね。左の丘は手薄になっていますし、そうなるように右翼を潰したんですから。それにどうも統率がバラバラですね」


「そうですか?」



と軍師の男は首を傾げる


特に変わった様子は無いように思うが早苗は確実に微妙な違和感を感じ取っていた



「うん。本隊が左翼前方にせり出してるよね。でも右翼がそれについて行けてない。まぁ最初に魔法を打ち込んだからっていうのもあるだろうけども、それにしては右翼は右翼でばらつきが出てるし本隊からの伝達が行ってないのかな?指揮系統がしっかりしてないからああやって見苦しい形になってる」



静かに丘から見下ろす彼女は次に右方向、つまりロルワート方面の丘へと視線を向ける


物見の丘には、いくつものなだらかで大きな丘が点在している場所である


右にはロルワートの兵が僅かばかりに見えている


とはいえ正式なロルワートの兵ではなく、一般的な農民のような人たちの集まりというようにも見える


数は少ない。丘の向こう側にいるとも考えにくいだろう


そろそろ総指揮官としてロルワートの方に挨拶に行くべきだろうか


いくらなんでも作戦を教えないまま共闘に入る訳にはいかないからだ


ここからはロルワートにも頑張って貰わなければならない



「じゃぁ油の管理は任せるね。ガルトニールの本隊が右翼を置いていくようなら十分距離をとってから右翼の負傷兵を治癒しに行って。第6班!治癒班の護衛にまわって!フォルン!トトルの操作できるっ?」


「はいっ!問題ありません!」



と、一人の調教師の女性が前に出た


それと同時に軍師も一歩早苗に詰め寄った



「サナエ総指揮官はどちらへ!?」


「開戦した以上、作戦を隠す必要が無いからね。一度ロルワートの陣営に行って挨拶してこようと思う。私が居ない場所での指揮権はアッドレスに任せるから」



そう言ってフォルンと呼ばれたトトルの調教師の一人と共に早苗はその背中に跨った


ブルンと嘶きのような鳴き声を上げてトトルは鼻息を荒げた



「じゃぁ、行って!」


「はいっ!」



トトルの手綱を握りしめたフォルンはその手綱を力一杯引っ張る


するとトトルは早苗とフォルンを乗せて大地を蹴ると軍師の目の前から走り去ってしまった



「ずいぶんと・・・左翼に流れて居ますね。止められるでしょうか?」


「分からない。けど一応の作戦は伝えてきてあるし、あとは私が頑張らないと・・・」



そう言って早苗はフォルンにしがみつきながら左に見えるガルトニール軍の進軍を眺める


早苗はこれを追い返す役目を背負っている


それを自覚しないと行けない。失敗は、許されない


そしてすぐに二人を乗せたトトルはロルワート革命軍のそばまで駆け寄った


丘の上には慌ただしく動く人影がいくつも見える


しかし、あのガルトニールの大軍を見た後では心許ない人数だ


早苗はそんな事を思い、必然か偶然か、前方のとある人影に気がついた


そう、あれは―――あれは―――ッ!!



「せええええぇぇぇぇぇぇん!!!」



私は彼の名前を叫ばずにはいられなかった


彼の手には刀が握られていた


そして彼は丘の向こう側へと走り去っていこうとする


待ってと叫びたかった


ようやく見つけたのに


仙は私に気がつかず、行ってしまうのかと


また一人に・・・独りになってしまうのかと


手を伸ばしたかった


あと一分か二分、トトルで駆け寄ればたどり着けそうなその位置に居る彼が、遠くて遠くて仕方がなかった


戦場の喧噪に私の声は飲まれた


そして彼は丘の向こうへと消え、そして・・・




声が――聞こえた――




大きくえぐられた地面を迂回してくる大きな黒い点は大きな音をたてて近づいてくる


とてつもなく恐ろしい気分にさせられたが、今は我慢しなければならない


自分がこの戦争に市民を巻き込んだ張本人なのだから、その責任があるのだ



「よし、矢の勢いを止めるな!後方は油袋の準備はできたか?よし、投げろ!」



大軍に向かって放たれる矢はかつて神原がどこかで聞いたことがあった作戦を実行していた


日本では銃で行われていたらしいが、神原はそれを弓矢で実践していたのである


まず前方の人間が弓矢を放ち、後続が次弾の準備をする


撃ち終えれば後ろへ下がり次弾の準備をする為に矢をつがえる


その間に後続が前にでて弓を放つ


その絶え間ない弓矢による牽制に加え、お返しの弓の防御には大きな木の板を用意して防御の役割の兵士に持たせて弓兵の防御に当たらせている


相手軍の大盾を持った兵士はエステルタとフェーミリアスの開戦の一撃によって壊滅しているからか此方の矢は多くの兵を地面へとひれ伏させた


しかし矢の数や威力には限りもあり、最初は上手くいったと思ったその作戦も鎧を外した前衛の突撃部隊にしか効果は無く、追って増え始めた鎧を着た兵への有効打とはならなくなっていった


そこで弓兵を下がらせ、神原はここで次に土地を利用した攻撃に移ることを決断した


丘という戦場で此方が上、あちらが下


ということで神原はこの丘の上へ切り倒して運んだ丸太20本ほどを用意した


丸太はすべて横にされて根と枝や葉を切り落とされた状態で横に並んでいる



「よし、あまり引きつけても威力が無くなるかもしれないな。第五射の後、一気に落とすぞ!第五射、放てっ!」


「よし、全員丸太を落とせー!」



そのルーティのかけ声で一斉に弓兵は弓を放って丸太を押し転がした


ゆっくりと、しかし次第に加速する丸太は横一列になってガルトニール軍の先頭を走る兵士達を押し流した



「油断するな!直ぐに弓を持って第6射!!そしてもう一度油袋を投げろ!火矢準備ー!よし、放てっ!」



油袋は小さな手の平大の革袋のようなもので中には油が詰まっている


それをガルトニール軍に向けて投げた後、そこに向かって火矢が放たれた



「あんまり調子にのらないで貰いたいね」


「そうそう。調子にのらないでね」



しかし、その矢がまるで見えない壁にぶつかったかのようにして突如火が消えて跳ね返されてしまった


何があったのかと仙が頭上を見上げると、その矢の影から二つの人影が現れる


片方は若い男、もう片方は若い女


両者刀を持っており、よくみれば止められた矢はすべて真っ二つに切れている



「小物の分際でよく刃向かうものだな」


「そうそう。よく刃向かうものだなー!」



びしっと俺に向けて刀を向ける女性に向けて仙は一歩後ずさる


手には護身用の刀を持っているとはいえ、剣道などやったことの無い仙にとっては振り回す以外の使い方が分からない


出来れば使いたくないのだが、ここは戦場。日本では無いのだ


自分の身は自分で守らなければならない


俺の前には何人かの革命軍の兵が居るが、どうにもあの男との戦力差は大きそうだ


何せ、3メートル越えの跳躍力に加えて横幅10メートルから20メートルの火矢をすべてはじき返した相手だからな


そんな猛者は此方にはひとりもいない


戦力、そしてその練度の違いをまざまざと見せつけられた俺は眼鏡を押し上げて相手を睨みつける



「大事に守られているところを見ると、お前が総指揮官か?指示とかも飛ばしていたように見えるが」


「そうそう。総指揮官なのか?」


「だったらなんだ」


「いや、総指揮官様がこんな前衛にまで出てくるなんて、よっぽどロルワートには兵が足りないんだな。もしかしてこれで全部か?」


「そうそう、これで全部なのか?」



男は辺りをきょろきょろと見回し、女は首をくたっと横に傾げた


その仕草に俺は歯ぎしりをたてた


確かにロルワートの兵はこの丘にいるメンバーで全員だ


二つの国の兵を合わせればもう少し数は増えるだろうが、この丘にいるのは300名ほどのロルワートの革命軍だけだ


援軍を期待するには辛すぎる


今、エステルタとフェーミリアスの兵は後方とガルトニールの横からの奇襲を行って退路を断って一度は相手軍の混乱を誘った


結果として右翼が魔術で壊滅的な被害を受け、そこを切り捨てる形で現在ガルトニール本隊がこの丘を目指している


その前衛として出てきたこの二人の騎士の実力は恐らく、魔法があるこの世界の戦場でもトップレベルの実力を持っているはずだ


あんな人間がそうほいほいと沢山居るわけがない。たぶん・・・


あまり時間をとられればガルトニール本隊がこの300足らずの兵を飲み込んでしまう





「後ろががら空きぞっ!!」


「あはっ!」



ギィンと音を立てて二つの銀色が押し合い拮抗する


ルーティが男の背後に回り、そして斬りかかったのだ


しかしその一太刀を女の方が剣を振り上げて防いだ



「ルーティ!」


「カンバラっ!矢数が少ない!一端撤退してあちらの軍と合流するぞ!」


「かるーいかるーいよー!!」


「おや、もしかしてこっちが総指揮官だったかな?」



軽いと言って男のルーティの剣を余裕の表情で受け止める女はケタケタと笑いながらルーティを押さえる


首をぐいっと後ろに傾けて振り向いた男は剣を鞘から抜いた


此方の方が強そうだと呟いて



「畜生っ!」



ルーティ一人にあの二人の相手は無理だ


そう判断した俺は咄嗟に剣を振りかぶって男に向かって斬りかかった


周りにいた革命軍の兵士数人が止める事すら躊躇う勢いで剣を振りかぶった



「おおおおおっ!!」



しかし、人に向けて振るうには些か殺気が足りなかった


心の何処かでたたらを踏んでしまったのだ


気づく気づかぬではなく、無意識に、俺は躊躇っていたのだった



「最初に言わなかったっけ?」


「言わなかったっけー?」



どちらにせよ、そんな事は関係なかった


そこにあるのはただの実力差だけ



「小物のッ、分際でッ―――」


「んなっ・・・!?」


「調子にのってんじゃあぁ―――」



死んだ


そうなると理解出来た


気がつけば相手の刀が俺に向けて振り下ろされていた


俺の剣が相手を斬るよりもはやく、俺が斬られると理解できたのだった


その瞬間、走馬燈が駆けめぐった


従兄弟の結婚式や高校の修学旅行、友人の笑い声、母の作ってくれたみそ汁の味と、父の大きな背中と、そして彼女の笑顔が、一気に駆けめぐって、そして


目の前の光景に繋がった


銀色の刃に映る自分の顔が見えた


呆気にとられている、そんな自分の顔


そんな銀色の刃が一瞬にしてオレンジ色に輝き、俺の顔を掻き消した





声が――届いた――



原発含めて、地震や津波の被害が大変な事になってますね。自分に直接関係は無くても、それでも毎日心が苦しいです。ニュースを見て精神力がごりごり削り取られていくのが分かります。自分は蚊帳の外のくせに、被災者の方がもっともっと苦しくて辛いのにというのももちろん分かってます。でもそれでも自分が悲しまなくてもいいという理由にはなりません。自分は悲しみます。悲しまない方がどうかしている。自分に出来ることは募金ぐらいしかありませんが、一人でも多くの方が無事でいることを願います。同情や哀れみじゃありません。人として持ってるあたりまえの感情があるから私は辛いんです。なんか自分が何書いているのか分からなくなってきたので、このへんで締めます。小説に関係のない後書きで失礼しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ