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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
間章 ~鳥と狼~
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『開戦の音』

神原は意外に思っていた


まさかロルワートへ向けるべき刃が真っ先にガルトニールへ向けられる事になろうとは、この革命軍を作り上げた者達の何人が予想できただろうか


神原やルーティ達が少しずつ国内から集めた改革派の人間は、気がつけば革命軍などと呼ばれるようになった


統率者は神原と騎士を辞職したルーティ、それに数名の見所のある青年達だ


今のロルワートはガルトニールや他国に対してしっかりとした警備体制を作らないと、今の国家には任せられないという不安が青年層を中心に溢れていた


それは兵の練度であったり、国民の生活レベルであったりと、これまで歪だった所を元に戻さないといけないのだと誰もが気づいていた


しかし、これまでは切っ掛けが無かった


大勢で集まっての集会は取り締まりの対象にあうためろくに話し合いもできず、またこれまでの生活苦からか民に立ち上がる元気が無かったのである


しかし、そうした苦しみによる怒りや憎しみのエネルギーは消えては居なかった


それが青年層の人間達であった


力無き女子供や老人は諦めを、中年層からは税や労働の負担に疲れ切っていた


しかし、青年層だけは若さ故のエネルギーを体内に溜め込んでいた


まだまだ若く、力もある人間達の意思は静かに心の奥底で国の転換期を待ち望んでいたのだった


そこへ神原達が広めた革命というビックウェーブを感じ取った彼らはその波に乗ることにしたのだった


彼らの下に多くの民衆がこっそりと、情報だけを共有させて水から飛び出す時を今か今かと待っていた


神原は冷静だった


今、これだけの人間を集め、国を相手取って戦うには些か不利だと感じていた


ロルワートという国は他国に比べれば戦力は低い


しかし、それ以上に民の疲弊や練度の低さが大きく、正規兵との差は埋めることの出来ない溝となっていた


戦闘になれば王都での市街戦や王城での籠城戦という事になるだろう


そうなった場合、此方に勝ち目があるのかと問われれば、無いとは言い切れないが限りなく難しい事だと神原は考えた


それに長期戦ともなってしまえばますます状況は両者にとって劣勢になってしまう


神原が調べた限り、国内での食糧自給率は低い低いと言われていた日本よりも遙かに低い数値であっただけでなく、質も良くない事は初めて農場を見た神原でも分かるレベルだった


では貴族達はそういった食料をどうやって手に入れているか


それはもちろん輸入という事だろう


ロルワートは食料を他国、この場合北方小国軍から買っている


もちろん北方小国軍は嫌われ者のロルワートへの輸入を止める権利がある


しかしガルトニールと北方小国群との間に、北方小国群の最西端であるロルワートがあるのだ


ルーティは以前会議に置いて、我が国には何もないと言う発言をしたが、ただ一つだけロルワートが北方小国群に対して持っているものがあった


それが北方小国群の安全という手綱である


北方小国群の安全を保証する代わりに食料との交換が成り立っている、そういった現状が出来上がってしまっているのだ


もちろんガルトニールが攻めてくれば加勢するだのといった話は出てくるであろうが、隣の国としては下手に出てロルワートとガルトニールに手を組まれてしまっては困るのだ


この革命軍とロルワート王国との小競り合いでそういった長期決戦を望むのであれば、それに準ずる資金、食料、戦力、そして時間が必要となる


革命軍には今、それがいずれも無い


時間をかければガルトニールに兵を向けられたときに革命軍と現ロルワートの正規軍のどちらもが疲弊しているようでは本末転倒である


故に、やるならば一気にロルワート上層部を落とし、ガルトニールに付けいる隙を与える間もなく体制を整える必要がある


神原はまず農業に手を加える事にした


腹が減っては戦は出来ぬという言葉が日本にはある事から真っ先に神原はそこへ着手した


剣を振る事だけが戦いのすべてという事ではない


戦いに勝って、故郷へ帰って飯が食えて、それで初めて勝ったと言えるのだ


何故民が飢えて餓えて苦しんでいるのか


それは輸入される食料の殆どが貴族達へと回っているからであり、国内で生産される食料が少ないからでもある


今はとにかく、食料を最優先させるべき事柄であると神原は考えていた


戦争をするにも何をするにも、生きていてこそ出来ることだ


ロルワートでは周囲の国に比べて飢餓の割合が多いというのは神原も自らの目で見ていた


それ故に、神原はまず命を助ける事から始めることを決めたのだ


それと同時に他国への援助を求めた


ウーリィンという獣人と出会い、国外へ出た神原はそうして準備を整えてロルワートへと戻ってきた


ガルトニール軍が王都を出兵したという知らせを持って神原は再びロルワートへと戻ってきたのだった


神原が持ち帰ったその情報は国内で最も早い知らせであった


故にまずはその事を王城へと知らせたのである


確かに今の国家は酷いものだが、これはそれよりもさらに緊急事態である


今ここで手を取ってでも戦わなければ、領地そのものが消えて無くなってしまう可能性が出てきたのである


革命軍の方は説得をし、こちらは何とか納得して貰いついでに自分たちの国を守ろうという士気が高まった


傾向としては悪くは無い。事態はとてつもなく悪いが


だが国王の方が問題であった


返答は、そのような未確認の情報を鵜呑みにするわけにはいかないので、出兵の確認がとれしだい対策をとるとの事であった


ルーティも神原もその返答についに限界を感じた


王都から国境まで行き、そこから進軍を確認して戻るまでに最低でも3日


それも馬を使った偵察の兵だけの話であり、軍を国境につけるまでにはおよそ片道でその3日を使う事になる


その間にガルトニール軍は国境を越えるであろうし、そんな無駄な時間を待っていられないと神原とルーティは至急革命軍を収集して国境へと向かった


直接ロルワートへ開戦の知らせが届いていないという事は奇襲という事になるのだろう


まぁ直接ぶつかり合ったところで今のままでは負けることは確定しているようなものだが


最も、革命軍は対人戦の訓練すらろくに始めぬうちに起こったこの事態である


神原は勝算はゼロに近いと予想しながらも、とりあえずは国境へ向かう事を選んだ


そこで再度向かわせた偵察によってその規模が知らされた時にはルーティも神原の顔にも絶望という二文字が浮かんでいた


その規模はロルワートという国を飲み込むには余裕過ぎる程の数である


このロルワートの正規の兵の数はおよそ1000


革命軍を足しても1300。そのどれもが練度の低い者である


これではいくらなんでも無理だとルーティは頭を抱えた


だが、そこへ一つの知らせが入った


突如エステルタ、そしてフェーミリアスから密書が届いたのである


なんとすでにエステルタ軍2000、フェーミリアス軍1000がロルワートの隣国クロロトに伏せてあるというのである


そして内容としてはガルトニールの東進を止めるために派遣された軍だというではないか


そんな報告は入っていなかったとルーティは言うが、こうして現に正式な書簡が届いているのだ


もし本当ならそれほど嬉しい事は無い


300、1000と2000。あわせて3300。


7000にはほど遠いが、少なくとも少しはまともになるはずだ


しかし・・・



「本当に信用していいんだな・・・」



軍議と呼んで良いものかは判断しかねるが、まぁ仮に作戦会議と言い直したところでとくに大差は無い


まぁそこで俺やルーティなどは顔をしかめていた



「確かに、信用するしか道は無いとはいえ・・・」



そうなのである。この申し出を受けなければロルワートがたどる道はただ一つとなってしまう


そのためにはこのフェーミリアスとエステルタの申し出を受ける必要がある


一度も両国とは話し合いをする機会が無かったため一度軍の指揮官と話をしておきたかった所だがそんな暇は無かった


知らせを伝えに来たフェーミリアスとエステルタの兵士に一度顔合わせをしようと申し出をするも、それは出来ない事になっているとその申し出を突っぱねられた


全く持って意味が分からないこの対応にルーティは怒ったが、神原は違った


静かに、その言葉に頷いただけであった


結論から言うと300の兵でガルトニールとの戦闘に望まなければならないという事だ


その集まった3000の兵は今どこに居るのだと聞きたくもなるが、それすらも伝えられなかった



「まったくどうなっているんだ!?」



ルーティはバンと机を叩き立ち上がる


こうして着実に近づきつつあるガルトニール軍の侵攻を目の前にして未だ両国の考えが読めず方針が定まらないのだ


意見は今二つに分かれている


このままガルトニール軍に突っ込むか、それとも防衛に徹底するかだ


どちらにせよ300の兵では無理に近い事なのだが、そのどちらかを選択しなくてはならない



「・・・この丘を死守するか」



最終的に神原がその決断を下した。つまり防衛に徹するという事だ


もっともある程度策は考えてはいるが、それが大局を傾けるほどのものではない


せめて引っかき回せるかどうかのレベルである


時間稼ぎになれば良い方だ


魔法があるこの世界でこんな思いつきの案が通用するかどうかは分からないが、そんな淡い期待に縋るしかもはや頼るものが無いのである


小高い丘ではあるが進軍スピードが緩む程の急斜面というわけでもない


この物見の丘は二つの大きな丘がありゆるやかな谷のようになっている


その間を抜けるようにして道が続き、ガルトニールとロルワートを繋いでいる


地の利は此方にあるが、この戦力の差がその利を完全に無視している感じがある


それに加え、一体参戦を表明した二つの大国が一体何を考えているのかが分からない


これは東の北方小国軍をめぐる戦争だ


今後に全く関係が無いというわけでは無いが、あえてロルワート側について参戦する意味が分からないのである


それも正式な書簡が届いたのが国家の方では無く、革命軍へ届けられたことにも意味が分からない


現状政権は国王の下にある為に、こんな反乱軍へ国としての正式な文が届けられることは神原も予想していなかったのである


だが、もうそんな事に頭がまわるほど余裕があるわけでもない


時間が無かった



「こうしてみると・・・さすがに多いな。騎士であり統率する者として言ってはいけないのだろうが・・・勝利は絶望以下と言っても過言では無いな」


「あぁ。それは間違いない。多少の策ではどうにか出来る戦力差ではない。だが・・・可能性はゼロじゃない。不確定要素が多いうえに機動力だけで言えば此方が上だ。地の利も少ないが此方にある」


「そういうと希望がないでもない気がしてくるから不思議だな」



フフと、笑える場面でも無いというのにルーティはつい笑ってしまった


何に笑ったのかと問われれば、それは神原の前向きな姿勢にだろう


誰しもが諦めてしまうような場面だというのに、この男だけは前を向いている。下を向かず、振り返らず、ただただずっと先を眺めているような気がした


そんな彼に魅せられて、自分や、獣人の少女や、そして300もの兵が集まったのだ


諦めきれない。そんな思いがこの物見の丘に集まっている



「諦めたらそこで終わりだ」



ルーティは顔を上げた


神原の顔には諦めの文字は浮かんでおらず、それを見てルーティは頷いた


その通りだ


始まってもいない


戦場で何が起こるか分からない


もしかしたら――――


戦女神にこの剣を捧げよう


命を落としたとしても、それは本望だ


自らの信じるそれを追い続けて死ねるなら、本望だ


この剣に、二十数年の命と曲げられられぬ信念を込めて戦おう


ルーティはそう決心した


二人は仮設テントを出た


物見の丘から、まるで地を埋め尽くす絨毯のように展開した7000の兵を見下ろす



「あちらが奇襲するならば、こちらがどういう対応をしたところで文句は言えぬだろう」



本来戦争は互いに場所と時間を決めて行うものだ


出なければこの広大な土地で両軍がぶつかり合うことは難しくなる


それ故に兵にかかる負担は大きくなる。食料にも限りがある


出来るだけ効率的に戦争をするならばそうやって互いに場所と時間を定めるものである


それをしないということは騎士にとって卑怯に見える行為ではあるが、戦力に差があったり相手の守りが強固で打ち崩せない可能性がある場合にとられる事がある


長期戦になれば兵の多い軍は大量の食料を必要とする


僅か300の兵で長期戦を行うのは無理に等しい


しかしそれでもなおガルトニール軍が進軍の知らせを出さずに侵攻してくるということは、一気につぶす気だという気迫が伺える


確かにぶつかり合えばガルトニールが圧勝するであろうが、確実に落としに来たな、とルーティや国民は思う訳である


今ガルトニールは国境、物見の丘の手前で待機をして動きを止めていた


此方に気がつき様子を窺っているのか、それともただの休憩なのか


ただ此方からすれば攻めずらい位置に軍を止めているものであるから手の出しようが無い


下から見れば小さいとはいえその丘の向こう側を見ることは出来ないために、革命軍はそこに小さな拠点を築いている


気がついていないのなら好都合、そのまま緩やかな丘の間を抜ければいい。一つ小さな策がある


此方に気がついているのならば好都合、そのまま丘を駆け上ればいい。そこにも一つ小さな策がある


とれる行動は少ないが、せめてあがくだけあがいてやる


ルーティは弓を取った


騎士としてでは無く、国に刃向かう反乱分子として、また国を守るための国民として、当たり前の行動を取ろうと


ルーティは革命軍総騎士隊長、神原は革命軍総指揮官としての配置につき、戦闘開始もいよいよ間近となった頃合いだった


大きなホラ貝のような音がこちらから見てガルトニール軍の左側の丘から鳴り響いた


と同時に、突如ガルトニール軍の右側に巨大な水の塊がおとされた


そこで仙はその上空に浮かんだ巨大な魔法陣を見つける


次第にその水色の魔法陣は黄色へと変わっていき―――


轟音が響き渡る


そこへ、一匹のトトルが丘の向こう側から駆け寄ってきていた


とある人間を乗せて・・・



なんだろうなぁ、山場をきちんと目立たせる書き方をしたいなぁと

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