『獣か人か』
この大地には人以外の生物も住んでいる
鳥も、獣も、魚も、植物も、微生物も、どれも人と同じ生きている存在である
神原仙が生まれ育った世界でもそうだった
しかし、これは予想外だ
「獣?人と呼んで良いのか?いやしかし・・・」
「っく!!驚けよお!!」
声が半分ほど裏返っている
言葉は喋れている。少なくとも意思の疎通は出来そうだ
柄にもなく俺は焦っているたがそう判断する事は出来たが未だに頭が混乱している
眼鏡も半分ずれているが、それを直す程の余裕が無い。というより頭の中は想定外の展開で真っ白になっていた
「・・・・獣耳・・・だと・・・」
そう、目の前の存在は確かに人型をしている
しかし人では無いのかも知れない
元の世界にはそう言うものが空想上あるというのは何となく知っていた
半分ほどオタクと化している彼女を持つ彼氏としては、出来る限り彼女の趣味に合わせるつもりでいたからそういう知識がかじった程度にはあった
というより最近はあまりに毒されすぎて少々自分でもおかしくなってきている事に気がついている
しかしなんだあの萌えやオタクというジャンルの中毒性は
煙草や飲酒を止められない人間というのはこういう気持ちを味わっているのかと思った。いや、まぁ正確には違うんだろうけども・・・
そりゃ確かに俺もこれまでは偏見がなかったとは言い切れないジャンルではあった。そこは認めよう
昔の俺は少々世間の目というものを気にしすぎていたのかもしれない
だが実は彼女がオタクだと知ったとき、そんなことはどうでもいいと思えたのだ
そんな些細な事で自分はオタクという存在を見下し、差別していたのかと思うと今では吐き気がする
だってそうだろう?彼女が、小田原早苗がアニメやゲームのオタクだったからといって、何故嫌いにならなければならないのだと思ったのだ
所詮は趣味でそれは誰にでも持ってるものなのだ
釣り、映画、読書、ボート、ゴルフ、それらが好きという事と何が違うのだと思ったのだ
いや、何も違わないのだ
ただ偶然彼女が萌えというものやゲームとかアニメが好きだったというだけで、それは彼女の人間性を決めるものでは決してないのだ
まぁ人にもよるかも知れないが、少なくとも彼女はまともである。・・・・と信じたい
普通に大学生で、普通に勉強もできて、普通に友達もいて、普通に社会の常識を分かっていて、それで何故他人に迷惑をかけるわけでもない趣味を持っているだけで嫌われなければならないのだ
俺はオタクの人間を彼女にしたかったのではない
それを言える者は、人の本質というものを見ていない人間の言うことだと俺は思う
その人の本質を趣味で決めている人間は、所詮自分の理想通りの人間を捜しているだけだ
理想の顔で、理想の性格で、自分の理想を守ってくれる人間を
好きになるという事はそう簡単な事ではないと俺は思っている
簡単であって簡単ではない事だし、よく俺がわかっていないジャンルでもある
俺なんかが語れる事では無いが、俺はそう考えている。考えの一つだと思ってくれればいい
良いところもあれば悪いところもあって、それが人間である
しかし彼女の趣味が悪いものかどうかと聞かれて、なぜそれが悪いものと言えるのだろうか
それならば、登山が趣味の人間が山にゴミを捨てることは悪くないとでもいうのか?
音楽が趣味の人間が音楽を聞きながら電車の優先席で寝たふりをするのは悪くないとでもいうのか?
否、そちらの方が、誰にも迷惑をかけていないオタクの人間よりも悪い人間であるはずだと俺は思う
俺も彼女も大学生で所詮は学生間の付き合いだと言う者もいるかも知れないが、今を生きる俺たちにとってはそんな事どうでもいいのである
将来結婚するとか、同棲するだとか、そういうのはどうでもいいのだ
俺と彼女はただ今、一緒にいたいから一緒にいるだけだ。だから付き合っている。俺は彼女が好きで、彼女は俺が好きだから
だから今俺は彼女を愛し、彼女もまた俺を愛している
そうしてオタクである事を打ち明けられた俺は彼女の趣味のことを少しでも理解すべきだとオタクという道の世界へと足を踏み入れてしまった
彼女の趣味を俺は受け入れた。だって彼女が、小田原早苗が好きだから、彼女が見ている物を一緒に理解したかった
そこに後悔は無い。無いが・・・
結果、過去の俺から今の俺を見てみれば俺は過ちを犯し堕落したという事になるのだろう
あぁ、これは自分もなってしまえば確かに分からなくはない
確かに以前は理解不能だと思えていたものが突然変異を起こしたように俺の中では萌えという新しい感情へと変わっていった。不思議なものである
どうしてこれまでこの楽しさに気がつかなかったのだという程に俺の心は汚染されていった。完全に末期症状だ
一応好きになった相手の趣味ぐらい少しは理解してあげようと足を踏み入れたつもりが、どうやらその世界は底なし沼のように俺を引きずり込んでいった
そう。一言で堕落なのだ。落ちて堕ちて、もう這い上がれない
まぁ一応趣味の範囲は出ていない・・・はずだし、自分で自分が堕落したと思えている時点ではまだマシなのだろうと思う
彼女とも共通の話題が増え、今ではすっかり彼女のために、もとい自分の為にゲームの深夜販売に並ぶ始末
あぁ、話が少しそれてしまった
話を戻すと、俺はそれまでそう言った二次元という空想の世界の産物に対してどっぷりと飲み込まれてしまった訳だが、そこで見たものが今目の前にあるのである
もちろんその属性に関しては自分の萌の範疇外である。強いてあげるならば自分はボクっ娘が・・・っと、なんでも無い
まぁ彼女のハートはがっしりと掴めるであろうその衝撃の光景を目の前に、俺は我が目を疑ったのである
しかしこうして現にそれを目の前にすると、何を口にしていいか分からなくなってくる
こういうのをなんと言ったか?ネコミミ属性?いや違うな。ネコじゃないから獣か。獣耳属性?なんか聞いたことあるような無いような・・・
つまり今目の前に、獣の耳をぴこぴこと動かしている人型の生き物が居るのである
眼鏡を外してゴシゴシと目を擦ってみるが、そこにはやはり獣の耳を動かす少女が居るという現実は変わらなかった
ついでに言うなら足は完全に獣のものだ
膝辺りから獣のようにびっしりと毛が生え始めており、足先までいくとちゃんと立派なかぎ爪まである獣の足だ
対して腕や顔の肌は完全に人と同じものである
強いて言うなら至る所に傷跡があり、元いた世界の同年代の少女とは比較にならないような切り傷だらけの腕だ
そして人には絶対無いフサフサの尻尾がピンと立っている
強いて言うなら逆立っているのだから警戒されているのかもしれない
目の前の少女は俺に対して威嚇しているのか、それとも警戒しているのか、それとも戸惑いか恐怖か、イメージ的に犬や猫と同じように解釈して良いのだろうか?
喜んだときなどは尻尾をぶんぶん振ったりするのだろうか?それはそれで見てみたい気もするがこの状況だと見れそうもないな
とりあえず俺は電源を切ってバッテリーを温存させている携帯電話を開いて電源をつけると、彼女をパシャリと写真に撮って再び電源を切ってポケットに戻す
しかし以前開いた口がふさがらない
「て、てめぇ!!何とか言いやがれっ黒髪野郎!!」
「あ・・・あ・・・それは・・・生えているのか?」
「あ!?な、何いってんだてめー!?」
びくりと彼女は後ずさりする割にはとても威勢がいい
以前尻尾はピンと逆立っている
「あ・・・いや、これは・・・失敬。すまない、少々驚いて動揺してしまった。柄にもない。すまなかった」
眼鏡をくいっと中指で押し上げて謝罪する
「え、あ、あぁ?」
対する彼女はいまだ困惑気味の様子である
「俺は神原仙。訳あってこの森に迷い込んだただの人間だ。君は?」
「あ、私はウーリィン・ティリッシュ。見てのとおり獣人族だ・・・ってそうじゃねーっ!!」
「おお、ノリ突っ込み・・・って突っ込む所かここ?」
「驚けてめーっ!!」
「いや、意味が分からんのだが」
一蹴した
「っ!驚けってんだろー!!」
鋭く尖った犬歯をむき出しにしてグルグルシューッと喉を鳴らす
意味が分からないことだらけだった。いや、理解出来る人間がいたら凄いぞこれ
本気で意味が分からない
都市から逃げてきて目についた森に飛び込んだは良いものの、木の実でも無いかと彷徨っているうちに突然何かを叫びながら彼女が飛び出してきたのである
それも彼女が飛び出した瞬間、その飛び出した本人が木の根に躓き顔面を地面に強打しての登場である
一応驚いたと言えば驚いた。うん、驚いた。そして安心しろ。君の目的はすでに達成されているんだぞ
俺は大いに君の種族という存在に驚いている。主に耳とか尻尾とかで
「はぁ、とりあえず言葉が通じるんだ。何故俺がお前に驚かなければならないのか、それにその耳と、足と、あと尻尾か。それと獣人っていうのも少し詳しく聞きたいな」
ピンと尻尾をたてて此方を睨みつける彼女にそう言う
「く、くっそぉ・・・調子狂う・・・久々の人間だってのに・・・はぁぁ・・・」
なにやらとても落ち込んだ彼女はため息をついて肩をがっくりと落とした
どうやら俺は彼女の期待に添えなかったらしい
まぁそんなことは俺の知ったことでは無いのだけれどもね
とりあえずはいろいろと情報を聞き出さなければならない
なにせここは勝手知らない異世界である
「ウ、ウーリィン!?」
「な、何であんた生きてる人間連れてきてんだよ!!」
「何よっ!!誰も何も知らないくせにっ!!」
四方八方の同じ獣人という種族の同年代の女性から彼女は罵詈雑言を浴びせられていた、というのが今目の前で起こっている光景である
一通り俺は彼女から村へ寄る道中、獣人の暮らしというものを知った
普段は森の奥でひっそりと暮らしている種族で人のように100名前後の群れをつくっているらしい
昔は今ほど森の奥に潜んで暮らす事も無かったのだが、今のご時世では獣人は奴隷としての扱いを受けているらしい
見つかればすぐさま町へと連れて行かれ奴隷商に売られてしまうのだという
確かに獣人一人一人の身体能力は武器を持たない人間を上回っている
しかし、ひとたび獣人の村が見つかってしまえばそこは数で押し切られてしまう
100人ほどの集団で行動するとはいえ、全員が人と戦闘できるかと言えば出来るわけがない。半分も居れば多い方だ
そもそも獣人自体狩りをすることは出来るが人との戦闘を想定して訓練などをしている事はほとんど無い
そんな獣人達が周りを村人以上の人数の槍や剣を持って構えている戦闘慣れした人間にどうやって勝てというのか
反抗すれば人を10や20は殺せるかも知れないが、その程度で運命が変わるとは思えない程の実力差が今の人間と獣人との差がある
経験と数が獣人には足りなかったのである
自分と違うというだけでこうして迫害を受けている獣人の現状を知った神原は思いきって自分の事を打ち明けた
つまり異世界から来た人間であると
迫害がほとんど無いような国から来たこと。その証拠に獣人達の現状を知らなかった事や大陸には存在しない黒眼黒髪であること、同じように大陸には存在しない携帯電話という文明品やあり得ないような服の作りなどを証拠としてあげた
半信半疑ではあったが、もしそうならば俺の事を放っておけないというのもまた彼女の思うところである
獣人族は非常に温厚で他種族にも友好的な種族だと自負していたし誇りを持っていた
とりわけこのウーリィンという獣人の少女は以前人間に優しくしてもらった記憶があるため人一倍人間に友好的な獣人だと言えよう
が、時代と神原の種族が人間だというのがやはりまずかった
村へ寄ると俺と彼女は周囲の獣人の少女から様々な罵詈雑言を投げつけられ、やがて言葉は暴力へと変わった
神原とウーリィンに石が投げつけられた
「人間は帰れっ!!」
「そうだっ、帰れっ!!」
同じように神原にも石を投げつけてくる何人もの獣人の少女が居た
神原にはそんな石飛礫でさえ避けたり払う事が出来ない、ただの弱い人間である
「や、やめろよっお前らっ!!」
そんな俺の境遇――まぁ異世界から来たという事をこのウーリィンという少女があえて信じているとするならばだが――を知っているからだろうか彼女はただ一人の味方という事になるのだろう
ウーリィンは同種族の彼女たちにそんなことをして欲しくはなかった
きっと暖かく迎え入れてくれると思っていた
そうでないと彼があまりにかわいそうであるし、また獣人族であるという誇りがあり彼を迎え入れてくれるという自信があったからこそこの村に彼を招いた
だが現実はそうでは無かった
人間という種族は今の獣人族には敵としか映っていなかったのだ
当たり前である。この人間が後に自分たちを奴隷として捕まえに来るかも知れないのだから
「そこまでだ」
石礫が止んだ
神原は右腕で顔を覆い隠すようにして地面に膝をついていた
服は汚れに汚れ、額からはツーと鮮やかな紅色が流れ落ちていた
「村長!」
どうやらその言葉からしてこの村の長が現れたらしい
嗄れた声からどうやら老人のようだと推測したが、そこで神原は完全に地面に倒れてしまう
腕で顔を庇ったおかげでどうやら眼鏡だけは壊れずに残っていたらしいが体中ボロボロである
獣人という事もあってだろう、とうてい少女が投げたとは思えない威力の石礫を体中に打ち付けられた神原の体は逃亡と彷徨いの疲れに耐えきれず倒れてしまった
そして彼はそのまま意識を失った
「う・・・っ、村長・・・」
ウーリィンも獣人族ということもあり最初は石礫を素手ではじき返していたが、一人でどうにかできる量では無かった
彼女の腕は痣と血でボロボロになっていた
「この青年を儂の家へと運び込むのだ。話はそこで聞こう」
「村長!」
そこで一人の獣人の少女が声を荒げた
「人間ですよっ!!」
「それもおぞましい・・・闇のような色をした髪と目っ!!」
「ウーリィンとてお主等と同じ獣人族の一人。彼女が何の考えもなく人間をわざわざ村へと連れてくると思うかね?」
「しかしっ!!」
納得できないとその獣人族の少女は声のトーンを落とさず叫んだ
「だってっ!こいつはっ!人間!なんですよっ!!」
「落ち着くのだフレティカ。人が我等を傷つけ、それで我等が人を傷つければその先にあるのは血と死体と争いと後悔のみの世ぞ」
「・・・っ!!殺すべきですっ!!」
そう言ってフレティカと呼ばれた獣人は振り返ると何処かへと歩き去ってしまった
その光景を見ていたウーリィンはハッとなって倒れたカンバラを思い出して振り返る
「誰かシャーカを儂の小屋へ呼べ。この青年とウーリィンには聞きたいことがあるからの」
「ふぅむ、異世界か。確かにその髪と目の色の人種は見たことが無いのぉ」
村長は白い髭をさわりながら隣のベッドで寝ている青年を見た
70年近く生きてきたが、一度も村長はあのような漆黒の髪と瞳をもつ人間を見たことが無かった
ウーリィンもそれだけでは証拠にならないと、勝手ながら彼が持っていた謎の物体や服の作りから現代ではあり得ないような文明品を村長に見せた
これもまた、ウーリィン同様村長も納得できる十分な判断材料になりそうだと感じた
絶対という確証は無いが、彼が異世界から迷い込んだ人間だと判断するには決定的では無いものの、その可能性が高いと結論づけた
「青年の様子はどうじゃシャーカ」
「気を失っては居ますが、鼓動は乱れてはいないので大丈夫かと。ただずいぶんと疲労が溜まっているようですね」
そう獣人族の少女、シャーカが診察した
この村で唯一人の医療術を学んでいる彼女が大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう
獣人族と人族では医療技術の差はかなり開いている
「しばらくは安静にして栄養をとれば直に良くなるでしょう。一応目が覚めても安静にしているようにと伝えてください。それと、何か変なことがあれば呼んでください。いつもの診療所に居ますので」
「うむ、助かったシャーカよ」
「いえいえ。種族が違い、またこの人が我等をどう見ていようが医者である私には関係の無い事なので。人も獣人も命の重みは同じであり、そこに私情は挟みません。ただ私は助けるだけです。仕事ですから。では」
そう言ってシャーカは村長の家から出て行く
大丈夫だ、と言われてもやはりまだ目が覚めないのでそんな実感は湧かないウーリィンは目を閉じたままの彼を見下ろす
シャーカは彼を助けてくれたが、味方になってくれたというわけではない
仕事柄彼女は敵であろうが味方であろうが傷ついている人間がいれば助けるような人間であり、そこに彼女の私情は無い
「さて、どうするかの」
「・・・すいません。私が人間を連れてきたばっかりにこうして揉め事になってしまって」
肩を落とす彼女に、村長はぽんぽんと手を置いた
「なに、気にすることは無い。出会ってしまったのなら放っておけばいいという訳でも無いからな。むしろこうして連れてきたお陰で人里には未だ知られてはおらぬであろうしな。だが彼女たちの言い分も分かってはおるのだろう?」
ウーリィンの脳内には未だにあの言葉がこだましている
――殺すべきですっ!!――
確かにこれは人だ
いずれ意識を取り戻せば彼は森を出て町へと帰るだろう
そして彼が獣人が居たという情報を売れば・・・森に沢山の人が武器を手にやってくる
それがあり得ない未来ではないからこそ、その未来が恐ろしいからこそ、彼女たちは恐怖と怒りを自分とこの青年にぶつけたのだ
「はい・・・」
「だが彼女たちは事情を知らない。もしこの青年が嘘をついておらず、本当に異世界から来た人間だというなら害は無いのかもしれない。だがそれは我等の甘い考え方かもしれぬ。かも知れないというだけでそうとは決まっていないが、やはり我等全員でこの青年の処遇を決めねばなるまい」
「やはり、そうなりますか・・・」
獣人族はもめ事があると村民全員でその判断をする
そのための会議を開くと村長は言っているのだ
そう言うと村長は立ち上がり、静かに部屋を出て行った
「・・・」
何も言えず、ただただ目を瞑り続ける青年をウーリィンは見下ろした
見たこともないような黒い髪に奇抜な服装と帽子
本当に本人が言うとおりこの青年は異世界から来たのだろうか?
その黒い髪をもっと間近で見てみようと彼に顔を近づける
この艶のある髪は一体どんな触り心地なのだろうか?
獣人族のように硬くごわごわとしているのだろうか?
ウーリィンはそっと、彼の黒髪に手を伸ばし―――
「話しは聞いていた」
「~~~~~!?」
彼は突如パチリと目を開けた
言葉にならない叫びでウーリィンは後ろにのけぞり、椅子に躓いて後頭部を強く地面に打ち付けてひっくり返った
ガタンガタンと椅子ごと後ろに倒れた獣人族の少女を見て神原は首を傾げる
「・・・何してるんだ?」
「な、なんでもないわよぉっ!!ばぁかっ!!」
恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた彼女を見て神原は思った
うん、やっぱり何も変わらない、獣人族も人なんだということに
カンカンカンカン
警鐘が鳴り響く
俺は閉じたまぶたを開いて簡易ベッドから起きあがる
眠りは鐘の音によって徐々に覚めていき、周囲は慌ただしくなっている
懐かしい、と俺は少し前の出来事を思い出していた
だがそんな事をしている場合ではないと、俺は外していた眼鏡をかけた
慌ただしく小さな仮設テントから出た俺は丘の上からその向こう側を眺める
「ついに来たか」
神原のいる丘の向こうには、国境線を越えようとしている黒く小さな群れがあった
ガルトニールの侵攻がついに目の前にまで迫っているのだ
神原はその光景をしばし眺め、そして後ろを振り向く
物見の丘と呼ばれるガルとニールとロルワートの国境に位置するこの丘に、ロルワート革命軍およそ300名が、迫り来るおよそ7000ものガルトニール軍を撃退するために集ったのである
戦争が、始まろうとしていた
本編進めたい衝動が凄く強いです。なのに書いているのは修正と間章で本編にいつになったら戻れるのやらと思うほどの低速更新速度。あまりの進行速度の遅さに本編終わらせる前に失踪しなければ良いなと思う今日この頃。やるなら完結まで行きたいのに、なんでこんな壮大なプロットなんだ俺orz