『そして北へと風は吹く』
「やぁ、彩輝君。元気そうで何よりだよ」
カイさんが食事の食器を持って部屋から出て行ってしばらくすると、ドアをノックすることなく千尋ちゃんが入ってきた
いや、千尋と呼んでいいものかどうか、急に戸惑った俺は口を止めてしまう
綺麗な黒髪はいつものポニーテールではなく、解いて広がっていた
今はかわいいという表現が正しいのだろうが、大きくなれば美人と呼ばれるんだろうなと思った
「どうした?」
首をかしげながら彼女はどさっと俺の横たわると同じベッドに座った
「いや、なんて呼べば良いのかな・・・って」
俺の記憶が正しければ、彼女は湊千尋という存在ではないらしい
この肉体は俺と同じ、元の世界からやってきた少女、湊夕日のものらしいのだが人格の方はまた別人ということらしい
まったく、その辺の事も説明して貰わないとな
「なんだ、いつものように呼べばいいではないか」
「いや、だって――」
君にも名前があるだろう。そう続けようとして、遮られた
「何年たったか。もう、親から貰った本当の名は忘れたよ。うん。だからいいんだ。今の私はただの千尋だ。湊、では無いが、千尋だ。だからいつものように呼べ」
「あぁ、うん。で、そのちーちゃんは・・・ちゃんつけるのって可笑しいか?」
湖での短い対話や話の流れ的に推察するに、どうも彼女は俺より年上のようだ。それもかなり
別の時代、と彼女が言っていたのを思い出す
なら彼女にちゃんをつけるのはどうなのだろうかという疑問が出てきたのである
「あぁ、そのままでかまわぬよ。確かに精神的には私はお主より年上ということになるのだろうが、一応これでも妹だった事があるのでな。特に違和感は感じぬ。むしろ心地よいくらいだ」
そう彼女は微笑んで俺を見てくる
よくよくじっとその笑顔を見ると、どうしてこう、彼女には不相応で、でも違和感のない笑顔なのだろう
やはり本人で無いからなのだろうか、そう見えてしまったのだ
「それにしても、まる一日寝ておったな。ずいぶんと疲れておったと見える」
「あー、まぁ、体が痛くて動かせないんですもん。おかげで男にあーんってされました。死にたくなった」
先ほどカイさんが俺に昼食を食べさせてくれたのだが、出来ればそれは女の人にやってもらいたかったというかなんというか
「はっはっは!お主も男の子じゃの!私が先に来ておれば良かったかの?」
そう笑いながら笑顔を俺に向けてくる彼女を見ていて恥ずかしくなった俺は目を背けた
「べ、別にいいじゃないですかっ。ま、まぁ、その方が嬉しかったですけどね」
「ふむ、では後でこの者に助言しておくとしようかの」
そう言って彼女は一条さんの黒い髪を一撫でした
黒い髪が艶やかに彼女の白い手のひらから落ちる
「な、なんでそこで一条さんがでてくるんですか!?」
「なぁに、ただの気まぐれだよ。時にこの一条唯もよく寝ておるの。やはり心象世界で神子化したせいかの」
そういえば、これだけ騒いでも起きない一条さんになんで俺は違和感を抱かなかったのか
しっかりと握られた手のぬくもりの先には、瞳を閉じた一条さんの顔がある
静かな寝息を立てているが、今回は前のような酷い寝相で暴れて貰っては困る
何せ逃げられないのだ
ま、それをする気配が無い程に疲れているのかもしれない
今はとりあえず静かにしておくのが一番だろう
「・・・そろそろ一体なんで貴方が夕日ちゃんの体の中に居たのか、教えてくれませんかね?」
「おぉ、そうだったそうだった。ま、それも含めていろいろと説明しておかなければならないな」
やっと本題に入れるようだ
「まずは、私がこの体に居る理由を話そう。私は元の肉体の死後、縁あってこれまで精霊のような存在として虹魚に使役していた。ある日湊夕日や君が無へと放り出されたとき、そのまま無に留まれば存在そのものが無となって消えていただろう。そうならないようにそれぞれ手短にいた精霊が君たちを各自の出入り口である精霊台へと送った」
ということは俺を助けてくれたのは以前であった水の精霊ということになるのだろう
これまではそんなこと知らなかったが、今度あったらお礼を言っておこう。何せ命の恩人だ
「しかし精霊以外の存在があっさりと精霊台を通れる訳ではない。まぁ詳しいことは分からないから省くが、簡単に言えば精霊台に張られた魔力の壁は精霊以外の物を弾いてしまうかららしい。神獣が張ったその魔力の壁を越える方法はたった一つ、その魔力を自らの物とすること」
「?つまり、どういう事なんだ?」
「つまり、君の体の中には不死龍の血流れているということだ」
そういえば、前にもそんなことを誰かに言われたことがあるようなないような・・・
「とはいえ君たちが自由自在にあの精霊台をくぐれるかというとそういう訳でもない。基本、入る者は拒まぬが出ることは許されないのだ」
「つまり、俺が龍の血が混ざって、あの精霊台を通れるようにはなったけどそれははこの世界に入るときだけって意味であってますか?」
「うむ。精霊だけは特別だがな。あぁ、勘違いしてもらっては困るが、あの精霊台が特別な訳ではなくて精霊が特別という意味だ。そもそも呼び出しさえされれば精霊台でなくても出ることができるからな」
なるほど
つまり、精霊台は精霊の意思で出入りできる場所であるが、そこは精霊だけが通れるという仕組みではなく、精霊の力で通れるようになっているだけであるということなのだろう
「さて、少し話がそれてしまったな」
「いえいえ、帰るためのヒントになるかも知れませんから。それで、理由の続きを」
「あぁ。私は身近にいた湊夕日をつれて精霊台を通ろうとした。だが、それをすれば彼女に負担になると思った」
「負担?」
「彼女はまだ幼い。だが、それに見合わぬ膨大な魔力を体内に秘めていた。意識せずとも、それは彼女の負担になっていた。それに精神的にも弱いと感じたものでな」
確かに、親と離ればなれで小学一年生が全く見知らぬ土地で生活するには多少負担が大きいだろう
だが、彼女が夕日ちゃんの体に入る理由はそれだけなのだろうか?
「それだけですか?」
「・・・そうだな。強いて挙げるなら私が不安だったというのもある。彼女はまだ幼い。幼すぎ、自らの意思で動くことが出来ないと私は判断した」
「あぁ、それはあったかもしれないな。ただでさえ何も分からないんだ。誰を信じるか、それもまた自己責任だし・・・」
「私は彼女の精神を一度安全だと思った場所に隔離し、そして彼女になりきって精霊台を通った」
「それを、俺たちに伝えなかった理由は?」
間髪入れずに俺はそこでどうしても聞きたいことを聞いた
それはつまり、何故その事を話してくれなかったかということだ
もし話してくれていれば何かが変わっていたかもしれないのに
「単純明快。もし私が正体を伝えていたら、君も一条も、本当の千尋ちゃんの事を探していただろう?それじゃ意味がないんだ。だれも知らないから安全で、今彼女をこの体に戻したところで意味は無いと思ったから話さなかった」
「・・・そうじゃないとは言い切れない。けど、だからって―――」
「言い方を変えて別の視点で見てみようか。もし少女の魂がこの体に戻ったとき、君たちはそのお守りを出来るのかい?」
俺はそれ以上言い返せなかった
確かに、俺も一条さんも普通の人間とは違う力を手にしてしまっている
自分の身は自分で守れる最低限の力は持っている
いや、最低限なんてのはとうに超えているか
とはいえ、それでも普通に過ごす分には全く要らない力である
今、俺たちが旅に出ているからその力が必要になっているのであり、本来何が起こるか分からない旅に小学生の女の子を連れ回せる余裕なんてないのだ
それだけ俺は自分の力を過信していて、守れると思いこんでいて・・・
「ま、いじめるのはこれくらいにして」
「おい」
「それよりも深刻なのが吸鬼に三つの大切なものを奪われた事だ」
千尋ちゃんはまじめな顔で俺を見つめてきた
雰囲気に飲まれた俺も自然と表情が硬くなり、彼女を見返す
「まずは水玉。そして生流水。そして湊夕日の魂」
「!!」
忘れていた訳じゃないけど、やっぱり改めて思い出してみるとその事実は俺に重くのしかかってくる
「私としたことが、まさかこんな事態になるとは思っていなかった。あそこを隠し場所にした私にも責任はある。それについては本当にすまないと思っている」
「そ、それよりもっ!目的とかは分からない・・・んですよね」
「あぁ。さすがに私も吸鬼では無いからな。何を考えているのか・・・あんな魂だけを奪っていってやる事なんて想像つかん」
「そう、ですか・・・」
千尋はため息を一つついて顔を伏せる
目は活力を失っているようにも見え、だらりと垂れる黒髪にその表情は隠れている
彼女もまた、夕日ちゃんの魂が奪われたことにショックのようなものやその責任を感じているのだろう
別に、彼女を責めようという気は起きなかった
それほどまでに、これまで見てきた彼女とは思えないほどの落ち込みようだったのだ
「とりあえず、彼女の魂を取り戻す為にはまず吸鬼を追わなければならい。が、彼らがどこにいるのか私は分からない」
「それなら、僕が教えようか?」
「「!!」」
突如、開いた窓から顔を覗かせてきた存在に俺と千尋ちゃんは驚いた
ぽかんと口を開けたまま固まる千尋ちゃん
予想外過ぎる登場に俺は最初に何を言えば良いのか分からなかった
一角天馬
純白の毛に覆われ、また同じく純白の鬣が光を弾き、純白の翼が陽光を遮り影を生み出す
神獣の一角がそこにいた
「この展開は予想内であり、また予想外だった。面白い結果だ。僕でも完全な予知が出来ないとはね。運命とは難しいものだよ全く」
「どういうことだ!?」
俺は半分ほど怒りを込めた声で言い返した
あまり強く喋ると腹が痛いので途中から声のトーンを低くした
あまりにも登場するのが遅すぎだろうという気持ちがまず一番にきた
少なからず、仲間に近い意識を持っていたのに
俺は裏切りを感じていた
何故来なかったのだと
「いやなに、君たちがイレギュラーだったってだけさ。たぶん。となると、恐らく今度の事も恐らくは完全には読めないかも・・・だね」
「何を訳の分からないことを」
「訳が分からなくていいんだよ。だって関係ないからね」
「な・・・」
なんだこいつ
一体何を考えているんだ?
俺たちがこの湖を訪れる前とは何か様子が違う気がする
「さて、今回の件に関してはご苦労様と言っておくよ。一応彼女も僕の古い友人だからね。助けてくれたことには感謝するよ」
一角天馬はそう蹄をならして礼を言う
「それと、聞きたいのは吸鬼の居場所だったね。残念だけどそれは分からない。けど、向かう先なら知っているよ」
つまり、そこでなら夕日ちゃんの魂を奪った奴とまた出会えるかもしれないという可能性があるということだ
どうして知っているのかなんて今の俺にはどうでも良かった
「本当は教えるべきじゃ無いんだろうけど、この件に関しては僕たち神獣の存在そのものがかかってるからね。一応一番平等な立場にいるべきはずの僕がこんな事しちゃいけないんだけど、でも出来れば止めて欲しいっていうのが僕個人としての意見だからね」
「一体、あいつらどこで何をしようとしてるんだ?」
「ふむ。簡単に言えば太古の魔獣の復活。君たちに以前話しただろう?あれを復活させるつもりなのさ。それにあの少女の魂を使うらしい」
!
「運命の流れは今、そこに向かっている。シーグリシアの森に―――」
「あの・・・シェリアさん?一体どこに向かってるんっすか?」
リク・ヒノトとシェリア・ノートラックは今、小さな森を進んでいた
シェリアが前を歩き、その後ろをリクがついていく形である
とはいえ、ついてこいと命令されてリクはシェリアについてきた訳だが、その理由や目的をまだ聞いていない
一体自分はどこに連れて行かれるのだと先ほどから何度も聞いているというのに彼女は答える気が無いらしい
あくびをしながら昨日の戦いでボロボロになったパラソルをくるくると回す彼女を見ているとあまりにも油断しすぎではないかと思うほどだ
割と近くに村があったはずだが、それでも森には魔獣が沢山いるはずである
故に樵でも森の奥には入らないし、入ることがあるならば多少なりとも人数を集める事が当たり前である
リクも頻繁に森に出入りしていたからこそ、その危険さは分かっているつもりだ
だからこそシェリアの行動にも不安がぬぐえない
何の説明もなしに、四天王とはいえ一人でやる事じゃないっすよ・・・
「そろそろいいかしら」
すると、突然森の真ん中で立ち止まるシェリア
木以外に何もない、そんな場所だった
「あら?」
シェリアは意外そうな顔をして周囲を見渡す
その様子にリクは嫌な予感がした
リクには分かった。この痛いほど鋭い視線が自分たちに向けられている事に
ズズゥンと足音をたててそれは近づく
バキリと鈍い音を立てて巨木が倒れた
「ヴェルガルムかしら・・・」
「え、Sランク魔獣じゃ無いですか!?」
ぽつりと呟いたシェリアの言葉にリクは冗談じゃないと声を張り上げた
記憶が正しければウェルガルムは森に住む雷を操る魔獣だったはずだ
本来は森や山奥の静かな場所に住んでいると聞く
だが実際にはその縄張りに入るものを何キロも先から感じ取ると言われ、そのせいで周囲が静かになっているという説もあるくらいだ
その凶暴性からもいまだ研究があまり進まない生物のひとつである
Sランク=化け物という式が成り立つのはなにも自分だけの考えじゃないはずだ
グリフォンやワイバーンなんかと比べるのもあれだが、こんな高ランクのモンスターとの遭遇率機会なんてほぼ無いに等しい
故に今はその不運を悔やんだ
「まだ病み上がっても無いのに、きついわね」
ため息をついて包帯を巻いた足をさすったシェリアだったが、焦る様子は微塵もない
そんな姿を見て、頼りになるのかならないのか分からなくなるリクであった
本来ヴェルガルムは確認された固体から縄張りの位置を天平評議会へと報告し、この周囲は危険区域として扱われていてもおかしくはない
が、リクはそんな話をこれまで聞いた覚えがない
ならばこれがもしかして人と初遭遇の固体かもしれない
まず真っ先にする行動は逃げる行動だ
一番やっては行けない事は人の肉を食わせること。つまり自分が食われる事だ
もし人肉が美味しいと思われたりなんてしたら周囲の村々へと人食いに現れるなんてこともあり得るのだ
人が群れをつくって過ごしているとはいえ、力無き者だからこそ群れをつくって力や知恵を共有する
個々が弱くても、もし対策さえ取れれば共存だって出来ないことは無いはずであるとリクは考えている
以前、森の開拓を進めていた村がウェルガルムの縄張りまで開拓してしまったとき、怒り狂ったウェルガルムによって周囲にあった大小4の村が壊滅したという話しも残っているくらいだ
かなり凶暴な性格だと予想できる
と、どんどんと地揺れが大きくなってきた
恐らく四つ足の大型獣であろう足音に、さらにウェルガルムの可能性が高まった
すると右側の奥の雑木が倒れるのが見えた
大きな四肢を持った影がぱちりぱちりと電気を纏って現れる
「き、来たっすー!?」
逃げようと振り返って走り出そうとするリクだったが、襟首をシェリアに掴まれる
「な、何するんっすかー!?早く逃げないとっ!!」
「これぐらいなら大丈夫よ。今日の夕飯にしましょう」
「!?」
腕まくりをしたシェリアの白い腕が露わになる
何で戦う気満々なんだこの人は!?
正気じゃないとリクは頭を抱えた
なぜリクはこの人についてきてしまったのかもう一度考えてみるが、やはりよく分からない
Sランクの凶暴な魔獣と戦うと分かっていたらまずついてこなかった。うん
先の戦いも凄かったが、今回の方がより恐怖を感じる
単体で町をいくつも滅ぼすことが出来る魔獣をどうやったら夕食にしようという発想が出てくるのか理解が出来ない
第一そんな大きな魔獣を二人で食べるとか余って余ってもったいないどころか・・・
「あれ、ところでウェルガルムって食べられるんですか?」
「さぁ?毒は無いと思うけど?」
再度頭を抱えてリクはしゃがみこんだ
駄目だこの人
以前から思っていたけど、やっぱり理解出来ない!!
いやまぁ、あれだけ強そうな体で電気を操っているから毒で身を守ったり獲物を捕ったり必要は無いわけだし、たぶん毒は無いんだろうけどさ
それでもなんで夕食にしようと思うわけ!?
あれ?今自分二回も同じ事を言ったような・・・
すると目の前の木がバキリと折れた
森に新たな獣道がつくられていくかのようだ
倒れた木がまるで道のように倒れ、ウェルガルムによって踏みつけられたそれらはもはや原型を留めていない
現れた巨大な魔獣が二人を見下ろす
鋭い眼光に黒と白の毛の隙間から電気が漏れている
「ぎゃ、ぎゃあぁっっすー!?」
「出たわね夕食!」
二人の目の前に現れたのはSランク+の魔獣、ウェルガルムに間違いは無かった
そして
「よぉ!」
「ぎゃっぁぁぁ!!」
何故か叫ぶリクを尻目にシェリアは面倒くさそうにため息をついた
何故かSランクの凶悪モンスターの上から人が飛び降りてきた
その姿を見て落胆のため息をつく
ジャリッと音を立てて着地したの男はニッと笑ってあごひげをさすった
服装は赤を基盤にしており、髪の色も紅いためか全体的に赤い印象を受ける
年齢は20代後半か30代前半か、そのへんだと思われる
腰に二本の刀を差しており、飛び降りる際にフワリと舞い上がったマントが再び彼の服装を隠してしまい、纏うマントの下から覗くブーツだけが覗いている状態だ
「相変わらず湿気た面してんなシェリー!」
「死ねば良いのに・・・」
バンバンとなれなれしくシェリアの背中を叩いて男は後ろにいたリクに視線を向けた
「お?お前さんが旧神子のリクさんかい?」
その声に我を失っていたリクはハッと我に返る
あれ?おかしいな。今魔獣の上から人が降りてこなかったか?
ゴシゴシと目をこするとリクの目の前にはやっぱり真っ赤な男が立っていた
「あ、えっと、すいません。貴方は?」
「あー、俺はシェルヴァウツ・アルファナレンツだ。好きに読んでくれて構わないぜ」
・・・・え!?
実際に見たことはないが、その名前はリクも耳にしたことがある
その双刀は炎を纏い、振るわれたが最後すべてが灰燼と化すほどの剣技だとか
打ち立てられた武勇伝は数知れず
北が誇る剣士にして四天王最大の戦力、北の双刀、別名赤の剣士。シェルヴァウツ・アルファナレンツ
その人物が今リクの目の前に立ってリクを見下ろしていた
しかし何故そんな人物が今こんな所にいるのだろうか?
「あ、えっと、初めまして。リク・ヒノトです」
「おう。さて、これで残るはホーカーとハートウィッチだけだな」
シェルヴァウツはそう言ってドサリと地面に座る
それに併せて一緒に現れたウェルガルムもドサリと鎮座した
「ホーカーは来ないよ。お仕事が忙しいみたいでね」
リクは咄嗟に頭上を見上げた
まだ若干幼さの残る若い女性の声だった
シェリアとシェルヴァウツもリクと同じように頭上を見上げた
「!?」
咄嗟にリクは視線を反らした
非常に言いづらい事ではあるが―――スカートの中が丸見えだった
リクのその反応に一瞬遅れてその原因に気がついた彼女はあららと笑うだけで照れる様子も恥ずかしがる様子もなく
「おっと、これは失礼」
そう言って宙に浮いていた少女はフワリと一回転して三人の間に着地した
「相変わらず恥じらいがねぇなぁハートウィッチよぉ!」
「どういたしまして」
「褒めて無いわよ」
何故かお礼を言ったハートウィッチにシェリアがぼそりと突っ込みを入れた
大きなつばつきの黒帽子をかぶった少女はあははははーと笑いながら杖をゴンゴンと自分の頭にぶつけている。見るからに痛そうな音が響く
「それで、ホーカーが来ないってどういう事?」
シェリアが聞く
何かしらの目的を持ってこの場に四天王が集まったようにリクは感じたがこの場に一人そろっていない人物がいた
唯一四天王の中で一般公開がされていない人物であり、リクもその人物を知ってはいなかった
ただやはり同僚とでも言うべき他の四天王とは面会があるらしい
「あぁ、仕事が忙しいらしくて抜け出せないらしいわ。あ、でも管轄内の旧神子達にはちゃんと収集を呼びかけたらしいってさ。・・・ところでシェル?旧神子達は?」
「んぁ?あぁ、それならほれ、そこに・・・」
シェルヴァウツが何故か鎮座するウェルガルムの方を指さした
ハートウィッチがおそるおそる近づいていく
その隙にシェリアがシェルヴァウツに聞く
「ところでなんで貴方ウェルガルムなんかと一緒に現れた訳?」
「おう。途中で良さそうな乗り物を見つけてな。ちょいとわがままだから手名付けたらちょっと懐かれすぎてな」
「・・・さぞかし目立った事でしょうね」
「おー、よく分かったな。途中の村で補給してるときにはもう凄い騒ぎだったぞ」
「想像したくないわね」
シェリアは腕を組んでシェルヴァウツに背を向ける
そりゃまぁ、その辺の村に突然Sランク魔獣が現れなんてしたら誰だって驚くし騒ぎにもなるだろう
そのうちその村の周辺に調査団が派遣されるのでは無いだろうかとリクは思う
ところで、一体これは何の集まりなのだろうか?
旧神子とかなんとか単語が聞こえた気がするが・・・
「うぁ、ちょっとシェル!?」
「いや、なんだ。その、これの方が移動に便利だったんでな・・・その点については反省している。そのうち目が覚めると思う」
リクもおそるおそる此方を見ている魔獣に近づいた
突然立ち上がって食べられないか不安だったが、自分よりも少し幼いであろう少女が1メートルほどまで接近しているのを見てリクも勇気を持って近づいた
と、視界に飛び込んできたのは数人の男女だった。それもウェルガルムの体にロープで縛り付けられていた
つまり、彼が言うにはウェルガルムでの移動の際に振り落とされないように縛り付けたらしいのだが、なんで横向きに縛り付けられているのだろうか?
恐らく気絶しているのだろうが、こんな状態でウェルガルムが走ったりしたのだろうか?
あぁ、きっとものすごい恐怖だっただろうに・・・
「そういうハートウィッチの連れてきた神子はどこにいるんだよ?」
「んー?そろそろ来ると思うけど?」
そう言ってハートウィッチは空に向けて杖を振り上げた
『―――ぁ――ぁ―ぁぁ―ぁぁぁああああああああああ!?』
次第に大きくなる悲鳴にリクは何故か嫌な予感がした
幾つか声が混ざっているようで、何人かが叫びながら近づいてくるようである
『ぎゃああああああああ!!?』
飛んできた黒点がいくつも林の切れ目から覗き見え、それらはすべて斜めに林に突っ込んだ
「生きてるわよね?」
ぴたりと止んだ悲鳴にシェリアは腕を組んだまま冷や汗を流しハートウィッチに聞いた
一体何がどうすれば人がこんな風に飛んでくるというのか
いや、飛ぶというより正確には飛ばされてきたという表現が正しいのか
「大丈夫よ。地面が近づいたら吸収符を使えって言ってあるから」
「・・・無責任ね」
「元神子だよ?」
「どういう理屈よ」
本当である
迎えに来たのがシェリアさんで本当に良かったとこのときリクは心の底から思ったのであった
ところで本当に、一体これは何の集まりなのだろうか?
虹色の波紋は止み、次の風は西から北へと吹き始める
運命の流れは少年を大陸の北へと誘う
そしてその流れとは別の流れに乗って動く者達もいた
とある者達はその世界を目指し
とある者達は戦を誘い
とある者達は平和を願う
そして次の物語の中心となるそれは今はただ静かに過去を想い蘇りの時を待つ
語られない物語もまた歯車の一つである
今は離れていても、いずれ歯車は互いに噛み合い回り始める
そして次の物語の歯車が回り始める
物語の波紋はまだまだ揺れるよ
さぁさ行ってみようかお次の話
ほらほら、風は北へと吹いてるよ欠片達
第3章 虹の波紋 これにて閉幕
謝ってばかりの後書き
第三章虹の波紋。これにて終了です。いかがでしたかね?誤字脱字だらけじゃー!って感じでいつのまにやら三章計100話まで来てしまったorzと後悔しつついつ見直そうかと考えつつもそんな気が起きない海乃はもう駄目ですね。小説家として終わってますorzはいすいません。今度こそささっと終わらせて四章行きたかったのにー!と思いながら書いてました。えぇ。未来しか見てません。だから駄文なのだとorz
大学も無事合格できて、ゆっくり見直しして執筆して、なんて考えてた私が馬鹿でした。そんな暇無かったですよー♪工業高校故に卒業制作が・・・卒業制作がぁぁぁぁ・・・・。そんなどーでもいい後書きじゃなくてちゃんと小説の方の後書き書けってね。はいすいませんすいません。アホで誤字にも気がつかなくてすませんすいません。
本来は無かったはずの三章でした。が、その割には結構楽しめて書けた気がします。気がするだけです。三章は四章への土台として書いた訳なんですが土台というより伏線置き場じゃねーかという突っ込みは無しです。うん。やめて。突っ込まないで。えー、キリよく100話で三章が終わった訳なんですが、もしかしたら気がついている人もいるかと思いますが、三章から出たある三人組+グリフォンの事が最後書かれていないじゃないかと、あぁ、突っ込まないで・・・。えー、本来なら書くべきなんでしょうけどね。その事については今後ちょっと考えている事もあるのでちょっと保留です。たぶん。永久放置にならないといいなぁ、と思いながらの放置です。
今後の予定としてはちょっと迷っています。四章進むか、間章入れるかで少々苦悩しております。
物語は進めたいけど、出来れば間章で本編外の事も書きたいなと。あぁ番外編というよりは本編の補足という意味での間章です。とりあえず、四章『古今の異邦者』あるいは間章『題未定』をしばしの間お待ちください。あぁ・・・こんなんで最後までいけるのか俺?そしてこんな未熟自己満足的な作品と長い後書きまで読んでくださった読者様に感謝感激雨霰。烈風のアヤキは皆様の力によって作者の気力が保たれています。これからもよろしくお願いします~