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俺はピンチのときにこそ輝く 前

「おお、また召喚なされたぞ!」


 なんだか興奮冷めやまぬ声を聞いて、目を開くと、ヒゲ面のおっさんがいた。


「……知らないヒゲヅラだ」


「はい? 勇者様、今なんと?」


「いえ、なんでもないっすよ。ただ俺も、ドイツ帰りのツン・デレ子ちゃんに転ばされて上から「あんたバカァ?」なんて言われたいって思っただけっすよ」


 かわいいよねツン・デレ子。

 でも俺、いっつもクー・デレ子推しの幼なじみとケンカになるんだよなぁ。

 向こうから突っかかってくるの。なんでだろ。


「はぁ。ま、まぁそれはそれとして……ようこそいらっしゃいました!

  我々ミライベル王国は、あなた様を歓迎いたします!」


 おっさんがにっこり笑って両手を広げると、たちまち、そこかしこからワアーっと大歓声が上がった。

 それがバカでかいのなんのって。

 体が割れちゃうかと思った。

 よくよく見ると、俺が立っているのはパリコレのステージみたいな場所だった。

 頭上は暗く、足元は白く輝いている。

 周りには、数百はいるだろう人々がこっちを見上げてくる。

 フードを被った魔法使いみたいな奴だったり、鎧を着た兵士だったり、白いハイソックスのおっさんだったり。

 ……野郎ばっかり。

 女性は、ステージの端っこに、メイドさんが二人だけ。

 無表情で立っている。

 なんの感情もなさそうに。

 なのに、男はみんな俺を見て、にっこにこ笑って拍手してくる。

 ねーちゃん! この差ってなにさ!

 ……あれ、なんだろう。すごく、涙が出ちゃう。


「私は宰相のボルナッシュと申します。勇者様、あなたのお名前は?」


「あ、はい、マイケルっす。黄村マイケル。好きなものは横乳です」


「……おおっそうですか。ヨコチチは私も好きです。では勇者様。お手数ですが、あのオーブに触れて頂けませんか? もう一度、あなたの素敵なお名前をおっしゃいながら」


 なんか同意されちゃったよ。横乳。

 20パーセント冗談だったのに。

 あ、いちおう素直で良い子な読者のために説明しておくと、横乳ってのは横から見えるおっぱいのことだ。

 そのまんまだね。

 オシャレでナイスなシティボーイの男(たとえば、カフェで優雅にコーヒーを(たしな)むマイケルみたいなパーフェクツな男)の5割は、みんな横乳が大好きなんだ。

 違うぞと否定するやつは、恥ずかシャイボーイだ。


 やがて、俺の前に、兵士が台車を転がして水晶玉みたいなものを運んできた。

 おっさんはオーブって呼んでた。

 台車を置くと、兵士はにこにこと去っていく。


「名前ね。あ、横乳ってもう一回言った方がいいっすか?」


「い、いえ。ヨコチチの話はまた後日。今はお名前だけで……」


「はーい」


 なんでだろう。後日おっさんと横乳談義をする約束をしてしまった。

 どうしてこうなった。

 とにかく俺はサッカーボールくらいのオーブに触れて、名前を言った。

 すると、透明だったオーブはだんだん黄色に、内側はパチパチと火花を起こしながら、ハイスピードで水が氷に変わるように固まっていった。

 それを見た周囲の奴らは、おぉ、とか、さすが、とか、感嘆をあげている。


 ヒゲヅラはうなずいて言った。


「はい結構です。勇者様はどうやら土属性と火属性がお得意のようですな。ご覧下さい。オーブの内に結晶が見えるでしょう。それに先ほど弾けた火花。オーブの色の変化は、使用者が保有する“魔力の色”を表し、内側の変化が”得意な属性“を教えてくれるのです」


「ほう」なんのこっちゃ。


「素晴らしいのは“黄色の魔力”と“土属性”の2つを勇者様がお持ちになっていることですな。大変珍しいのです。保有色とその得意属性がそろうのは。これだけであなた様は“神に愛されている”と言えます。2つの親和性は非常に高く、お互いがお互いに、その力を大きく何倍にも高めていくのです。一流の魔法師にはまず必須の素養ですな」


「ほほう」よく分からないけど……もっとホメてぇ!


「ええ、ええ、色の純度と光度、変化の割合も小さく、その速度も遅く、大きさも平均以下なのがどうしようもなく残念で、特A級戦闘での魔法の使用はむしろ控えた方がよろしいやもしれませんが、とても希少なことには変わりなく、今代の勇者様方の中にも、お一人しかいらっしゃいません」


「ほうほう……ほ?」あれ? マイケルこれ今ディスられてるの?


「ですがなんといっても、勇者様には《黄の女神・プププリムス》様から授かった“チート”がありますからな。問題はないでしょう。期待しておりますよ」


「そうすっね」やばたにえん。問題あるわこれあるわ。


「この世界での一般常識ーー生活様式や情勢や歴史やステータスシステムや魔人のことなどは、女神様から聞き及んでいることと存じますが、この後(もよお)される夕食会にて改めて、私の方から説明させていただきます」


「いいっすね」……あれなんだろう。なんか急に眠くなってきた。


「あの、勇者様、ところでですね。夕食会のことなのですが、これからまた召喚なされる勇者様方をお迎えするための準備等で、その、少々お待ちいただくことになってしまいますが……」


「いいっすよ」あやべ、今テキトーに返事しちゃった。なんて言ったの?


「ありがとうございます。さすが勇者様。懐がお広い。それではあちらのメイドたちに客間へと案内させますので。何か御用がありましたら、そのままメイドになんでも(、、、、)仰っていただければ。では後ほど。ほんの6時間後に」


 そういってヒゲヅラは、汚いウィンクを飛ばしてくるのであった。


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