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WARKS  作者: RAMネコ
5/10

神が見捨てようと人は見捨てない

愛おしさ、というものだった。


柏木エルザが関わっている計画は、全てが『愛』から始まったと言っても過言は何もなかった。


地球を科学の力で改造してしまう……それは、神への冒涜と考えるものがあまりにも多く、エルザたち『この計画』に参加、賛同した人間を悪魔の手先であるとするものが、信心深い同じ科学者の中からも多数でていた。


悪魔の力なのかもしれない。地球を激変させるのだ。それも人為的に、思いのままに、しかしその程度だとエルザに迷いは微塵もなかった。


温暖化、寒冷化、海水面の上昇、塩分濃度バランスの崩れによる海流の乱れ。もはや、環境保全だの配慮だのの段階は超えていたのだ。国家も組織も誰も、本気で止めようと考えてはこなかったか、あるいは考えても経済だのと言い訳してきたツケがきたのだ。


ジオテロリストという輩が増殖していた。地球環境のバランスを取り戻すために、自分たち以外の人類を口減らししようとする連中だ。生物兵器、化学兵器が投入されて、人類種の頭数を減らすことだけを活動目的にしている。もう手遅れであるのに。


それよりは、エルザのやることはささやかな優しさと慈愛に満ちていた。


全天球での耕作を目標に、太陽光の指向と保温環境を作る、それだけのことだ。南極でのジャガイモの大規模栽培は成功している。ミラー衛星から太陽光を反射して、地上の一部を温めるのだ。


水の最適循環システムの構築は、大陸中央の枯れ果てた土地に豊かな恵みを与え続けている。地球は人類の科学によってかつてない環境に改造されているのだ。


環境に負荷を与え易い重工業関連は宇宙に持ち出して、地上には森と一体化した生体主導工場が導入されている。森が、機械を作る生体工場になったのだ。遺伝子改造された樹木だ。


「大丈夫。私は、あなたたちを決して見捨てないから」


エルザは意思を固めた。今、エルザが主導しているのはもう少しだけ規模の大きなものだ。積極的環境コントロールシステムと言えた。エルザはこれを、数少なくなった星の力の再分配と考えている。地球は、自力での治癒が不可能なまでに弱らせてしまった。施術までの繋ぎ、延命治療だ。


端末を開くと、数多くの抗議のメールが送り込まれていた。わざわざハッキングまでして、エルザの行為がいかに冒涜的であるかを講釈しているメールだ。


エルザにとってそれらは読むに値しなかった。


(必要なときに誰も動かなかった癖に、誰かを貶める為になら努力を惜しまないんだね)


冷たい目が、数多くのメールを纏めて消去した。その中にはジオテロリストの犯行予告のようなものも含まれていた。ジオテロリストは天敵だ。お互いに、だが。


ただ、そんなメールの中には、ジオテロリストとその予備軍以外のメールが珍しくも混じっていたようだ。険しかったエルザの顔が、丸くなった目を見せた。


〈デミロイドの成長は順調です。でも最近はちょっと生意気で、イタズラばかりしてきます。困ります。でもそんなところが、ちょっと猫ぽくて可愛いです〉


送り主の名前を見るまでもなく、そのメールはエルザの娘の友人からだ。エルザは最近、娘には嫌われていた。メガコープで働いているからだ。学校での教育でどうあつかわれているか、エルザは知っていた。ただ娘の友人にまでは嫌われてはいない。思わぬ拾いものだ、とエルザは出会いをちょっとは喜んでいたりする。


あらゆるものの進捗は、孤独では成り立たないというのがエルザの鉄の掟だ。孤独には愛がない。逆に愛があればというわけではないが、愛なくして進捗もない場合が極めて多い。愛には理解者がいるとなお良いものだ。


感情的に、冷徹に、矛盾した心だ。だがエルザはそんな不完全さを楽しみながら、娘の友人にメールを打った。


ーー同時に、ジオテロリスト本拠地殲滅に向けた作戦を送信していた。愛とは苦しみをともなうものだ。

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