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WARKS  作者: RAMネコ
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ブラザー・クローン

柊木には兄弟がいる。一応は、柊木と一卵性の双生児、ということになるだろう。柊木真斗の“妹”、夜子は真斗のクローンなのだ。


真斗は産まれてからずっと意識混濁のまま、何年も生かされた。両親は大いに嘆いた。せめて動いてくれれば、せめて育てさせてくれれば、夜子はもう一人の真斗として、真斗の遺伝子から作られた真斗の代わりだった。


「だからまあ、ぶっちゃけ俺もお前とどう接すればいいかわからん」


真斗の意識が回復してしまったのが……ややこしくなってしまった原因だ。真斗は、真斗として育てられた夜子と出会うことになってしまったのだ。真斗の回復はもしかしたら、両親も望んでいなかった。真斗は、夜子としてもういたからだ。


学校の屋上で、真斗は夜子と話した。


「えっと、兄さん……」

「そうだな。俺の後で、クローンのお前が作られた筈だから、同じ年でも、俺は兄さんて呼ばれるんだろうな」


妹の夜子を見た。夜子も真斗を見上げていた。二人の顔つきは大きく違いすぎた。同じ骨格であり、同じ遺伝子なのだ。そもそも妹であることが何よりもおかしい。


「俺はつっこまんぞ、お前が妹でもな」

「まるで妹だったらつっこみたかったみたいな……卑猥だね。鬼の性欲」


真斗はゾッとした。本当に俺のクローンなのか……。夜子は男だが、妹ということになっている。真斗が上級女装したような雰囲気が夜子だ。


「まあ、あれだ。兄弟ということだ、普通にいこうぜ。夜子がクローンだとか関係ない。双子みたいなもんだ」

「だねぇ。これからもよろしく、お兄ちゃん!」

「……俺は不幸の始まりの気がしてきたよ」

「酷いね!?」


真斗は屋上の手すりに身を預けた。クローンの弟ーー妹?と対面して話しをするのは、中々勇気がいった。表にはださないが、「夜子は良い人なのだろう」とも思っていた。あくまでも雰囲気だが、真斗は自分のクローンに不快感はなかった。もしかしたら、あまりにも違いすぎるからかもしれない。


「現実の経験だと、お前のほうが兄になるのか」


夜子は十と数年を生きてきた。真斗も同じだが、真斗は生命維持装置に繋がれていたままで、せいぜい数歳児以下の人生経験だけだ。言葉が喋れているだけで奇跡だ。野人として言葉も知らず生かされる可能性もあった。


「クローンとかの話しはひとまず置いといてさ」

「うん」

「なんで女装してるの?」

「女の子だから?」

「いやいや、お前は俺のクローンだから男だろ」

「兄さん……性別ってね、自分で決めるものなんだよ」

「産まれた時から決まってるよ」

「でも、ついてないよ」

「マジか」

「嘘だよ」


真斗は考えないことにした。


「はぁ……」

「何の溜息?」

「妹に対してだよ」

「やった」

「何がだよ」

「妹て認められたから」

「やっぱ弟」

「兄さんには芯が必要だからコロコロ意見は駄目ー」


完全じゃない。夜子は、もし真斗と同じものを求めて複製されたなら、不完全すぎる。あまりにも違う可能性に寄りすぎだ。とはいえ、真斗はぼんやりと弟とも妹ともとれてしまう兄弟を考えた。


(俺もこうなるべきだったのか)


望まれた成長は、夜子の方ではないか。ふと、思ってしまった。ならば失敗作は、直斗のほうだ。


「俺の方が失敗作だな」


直斗は夜子が、同じ遺伝子を使ったクローンとはとても思えないでいた。勉強ができて、運動もできて全国区クラスの猛者だ。人当たりも良く、クラスの中心的な存在だ。


直斗とは真逆だった。柊木家の駄目なほうである。


「馬鹿ですねぇ」

「んだよ」

「失敗作なんて言わないでよ。私なんて女装までして、これ父さんにも母さんにも、今だに理解されないんだ」

「だろうな」

「でも兄さんは認めてくれた。すっごい感謝してる」


クローンの夜子に感謝された。真斗は苦笑した。そんなことは、そんな人間ではないんだ、とだ。女装する男は普通じゃない、夜子は異常だ、異常のままでいさせようとの考えがあったから辞めさせなかっただけなのだ。異常なら、いつか必ず捨てられるto考えたからだ。普通か異常なら、普通が一番の筈だからだ。


真斗は、夜子があまり好きではなかった。嫌っていた。いつのまにかできた、もう一人に自分だからだ。自分の代わりで、自分よりも優れていて、自分にあっただろう時間を全て代わりに受けている。


「……」

「……?」


夜子と始めて正面から話し合った。弟か妹ができていたら、同じように親を盗られたと感じる程度の嫉妬なのかもしれない。クローンだからではないだろう。真斗は何となく、そんなことを考えられるようになった。クローンでもーー同じ血の兄弟なんだ。


「お袋は今日帰ってこないんだと。何が食べたい、妹」

「寿司!」

「おれと意見があったな」


唐突な話題のすり替え。だが夜子は、そんなことよりも寿司を食べられることにこそ目を輝かせた。


似た者兄弟というわけではないが、少しでも同じことを感じられているんだとわかったら、親近感が湧いた。


「いよぉし、今晩は寿司だ!」

「寿司!ホタテが食べたいね!」

「ただし割り勘だ」

「えぇ……」

「冗談だ。奢り、たらふく食わせてやる」


夜子の目が輝いた。食い気が何より優先。クローンだから似てるわけではないだろう。普通の、兄弟くらいの似たもの同士だ。




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