聖剣に選ばれましたー、はっはっはー、はぁ。
正直、なんでこんなの書いたのか自分でも分からない。
「おお! 聖剣に選ばれし勇敢なる若者よ! 今こそ我等に光をもたらしたまえー!」
と、神官さんありがたーいお言葉を頂戴しながら、俺はしらーっとした目を向けた。勿論片膝を付きながら。
今現在、教会のステンドグラスに彩られた光を浴びている。思いっきり光がもたらされていた。俺、要らないと思います。
「神官さん、神官さん。こうして顔を合わせるのも何度目でしょうかねー」
「何を言うのですかな? 我々は初対面ではありませんか」
そう言った彼の目はぐるぐる泳いでいた。
こうして腰に聖剣を帯びるのも何度目になるのかなー。
神聖な儀式である筈なのに、見学者どころか参加者も疎らである。同じ人名と顔の人間が何度も何度も選ばれていれば自然とこうもなろう。俺もうんざりです。
聖剣に選ばれた人間は、勇者と呼ばれ、魔王退治の旅へ出る義務が生じる。仲間を伴い、世界を巡る旅は過酷で、途中で命を落とす事も多い。俺が知っているだけでも99人は代替わりしている。だってこの儀式100回目なんだもん。どんだけ浮気性なのよこの聖剣。この尻軽女め!
ごいん、と鞘に納められた聖剣をぶん殴る。すると、抗議するように光輝いた。眩しいので布をかける。
神官さんは明後日の方向を見ていて吹けもしない口笛を吹いていた。
儀式を終え、ため息を吐きながら教会を出る。
教会前には今回で100度目になる仲間達が居た。
「よっ。記録更新したんじゃね?」
「……皮肉にすら思えないとは、わたしも存外うんざりしているようですね」
騎士然とした麗人。疲れたように髪をかき上げるとみつ編みにされたブロンドの髪が揺れた。
実際、彼女は騎士だ。国の騎士団で副団長をしている実力派騎士である。なめた態度を取るとばっさりと切られた。痛かった。
適当に挨拶を済ませ、支度金(100度目)で装備と消費アイテムを補充し、いざ出発、といった段階で気付いた。
鞘から聖剣が消えていた。
「…………」
真面目で知られる彼女が頭を抱えて涙を流した。かなり精神的に参っているらしい。
聖剣は念じるだけで手元に顕現する。何度も来いやー、と念じても顕れないという事は、新たに誰か選んだのだろう。
「じゃ、そういう事で」
買い揃えた装備諸々を渡して、俺は元の村へ帰還するべく王都から出発した。
その数日後、俺の手元には聖剣があった。
記念すべき101回である。
俺は聖剣を叩き折った。